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①「どうして、御門くんにはあそこまで欠けているんですか?」

その問いに、ふと周防さんの顔が翳る。

「あいつはなぁ。いろいろあるんだ」
「いろいろ?」
「普通じゃない……っていえばいいのかな」
「どう普通じゃないんですか?」
「うーん。身体的にも精神的にも特異かもしれない」
周防さんにしては言葉の歯切れが悪い。
(もしかして、言いづらいのかな……)

「御門君は御門君でいい所がたくさんありますもんねっ」
私はあえて話を打ち切るように明るく振舞う。

(聞くなら、本人が居るときに直接聞いた方がいいかもしれない)

「そうだ。あいつはボーっとしていて何を考えているか分からないし、
無表情のくせに意外と毒舌家だがいいヤツだ」

「す、周防さん。それは褒めてませんよ」
私は苦笑しながら突っ込む。

あと聞きたい事は……
①「厄介事はもういいんですか?」
②「ところで、周防さんの契約の証が消えちゃったんですけど……」
③「そういえば、私たちみんな約束を守れませんでしたね」

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①「厄介事はもういいんですか?」

私は気を取り直して尋ねた。

「残念だが、被害がでてしまっただろう。俺が至らなかったからな」
周防さんは視線を落として答えた。
その声はひどく沈んでいる。

「被害って……どれくらいでしょう」
「正確には分からない。だが、混み合うショッピングモールで派手にやろうとしていたからな」
周防さんにしては珍しく怒りを露わにした。

「一体、何が起こったんですか?」
「上手く説明するのは難しいが……テロみたいなものだ」
「無差別だったって事ですか?」
「あの連中は普通の人達を下等な生き物くらいにしか思っていないよ」
周防さんは吐き捨てるように言い放った。

(テロって……ひどい暴力的手段で、対立するものに威嚇することよね)

①「やっぱり、例の組織の人達ですか?」
②「被害の規模が心配です……」
③「ところで、周防さんの契約の証が消えちゃったんですけど……」

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③「ところで、周防さんの契約の証が消えちゃったんですけど……」

私はそう言いながら、周防さんに左手の甲を見せる。

「ああ、これか……」
周防さんは私の手の甲を取ってまじまじと見る。
「多分……俺の力が契約を保てなくなるほどの状態に陥ったんだろ。
それで強制解除された、と」
「そう、なんですか?」
「そ。でも、俺の推測だから詳しいことは調べてみないと分からないけどな?」
周防さんはゆっくりと私から手を離した。

周防さんの言葉に、なんだか私は不安になる。
契約がどのくらい周防さんの負担になっていたのかは分からない。
でも、それが保てなくなるほどの戦いだったなんて。

(目の前の周防さんは、いつもどおりに見えるけど……)
果たして現実の周防さんは大丈夫なんだろうか。

「……まあ、結果的に……皮肉なことにそれが俺を救ってくれたんだろうけどな」
周防さんは自嘲の笑みを浮かべて呟く。
「……ごめんな。結局愛菜ちゃんを一日守り通すことができなかった」
それから、悲しそうに……悔やむようにそう言葉を続けた。

①「いいんです。周防さんは頑張ってくれたじゃないですか」
②「周防さんは本当に大丈夫なんですか?」
③「そういえば、私たちみんな約束を守れませんでしたね」

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②「周防さんは本当に大丈夫なんですか?」

なんだか周防さんの様子が気になった。
出会ってそう日も経っていないけれど、目の前にいる周防さんはいつもよりどことなく元気がなさそうに見える。

(俺を救ってくれた、って言ってたから無事は無事なんだろうけど……)

「あー……。お前さんも、なかなか鋭い所をついてくるな」

私の視線を避けるように、周防さんは視線を明後日の方向に彷徨わせた。

何か、まずいことでもあるのだろうか。

「周防さん?」
「うん。まあ、隠しててもしょうがないしな」

詰め寄った私に、周防さんは意を決したようにそう言ってこちらに向き直った。

「いずれわかってしまう事だから。正直今の俺はあんまり無事じゃ、ない」

「えっ?!」

よっぽど深刻な顔をしていたのか、周防さんは私の様子にちょっと困った顔をして笑った。

「いやいや、身体は無事だよ。お前さん達と同じようにピンピンしてる。ただな」

「ただ?」

「今の俺に愛菜ちゃんの身を護ってやるだけの力はないんだ。それこそ、今だってお前さんが呼んでくれなければ夢にだってお邪魔できないくらいに、な」

周防さんの言葉になんて答えよう?

①「体が無事なら良かったです。本当に、心配したんですよ?」
②「それって、もし何かあっても助けてもらえないって事ですか?」
③「私が、呼んだ?夢の中に、ですか?」

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③「私が、呼んだ?夢の中に、ですか?」

「そのリアクション……そうかぁ、自覚無しか」
周防さんはガックリと肩を落としている。

(私……何か気落ちさせる事を言ったのかな)
「す、周防さん?」

「あぁ~~愛菜ちゃんの呼びかけで踏みとどまれたのになぁ……。
これって、片思いみたいな心境だなぁ」
周防さんは頭を抱えて言う。

「片思いって……」
自分の顔がみるみる熱くなっていくのが分かる。
「お姫様の為にキセキの大復活を遂げたのに……いいさ、いいさっ」

(周防さんがいじけてる……)

「と、とりあえず周防さんの身体が無事で本当によかったです」

「正直、愛菜ちゃんの力無しでは俺はあの世行き――だった訳だしな。
お前さんのお陰だよ、ありがとな」
周防さんは子供のように真っ直ぐな瞳を私に向けた。

あと、聞きたいことは…

①「力が弱くなって大丈夫なんですか?」
②「もう夢でも会えないんですか?」
③「そういえば、私たちみんな約束を守れませんでしたね」

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②「もう夢でも会えないんですか?」

私はそのまっすぐなまなざしに耐えられなくて、うつむきながら呟くように問いかけた。

だって、周防さんが今の状態になったのは私を守ろうとしたせいで。
私のお陰だなんてそんなこと言ってもらえる資格すらなくて。

「……っ」
こみ上げてくる悲しさや悔しさを堪えるように、私は強く手を握った。

「ふー……」
やがて周防さんから聞こえてきた、わずかな苦笑交じりのため息。

「だーいじょうぶだよ、そんな暗い顔しなさんな。
……『今の俺は』って言っただろ?」
そして、元気付けるように私の頭をぽんぽんと叩くようにしながら撫でてくれた。

「え?」
私はゆっくりと周防さんを見上げる。
周防さんは、少し困ったような……けれど優しい笑みを浮かべていた。

「まだ、俺の力の源はきちんと残ってる。
いくらでも……どうとでもなるさ」
優しい笑みを浮かべたまま、周防さんは力強い言葉をくれた。

「ほ、本当……ですか?」
信じられない思いで聞き返す。
……私の視界はわずかにぼやけていた。

「おう、ホントホント。
源が完全に絶たれたり、消滅しない限りは自然に力は戻ってくる。
能力者が生きてさえいれば……な」

そこでわずかに表情を翳らせる周防さん。
でもその表情はすぐに、いつもの子供っぽい笑みに変わる。

「だからさ、そんな泣きそうな顔するなよ。なっ?」
「は、はい……っ」
私は泣きそうになるのをぐっと堪えて、周防さんに向かって微笑んだ。
「おう、それでいい」
周防さんも私に向かって笑いながら、頭をくしゃくしゃと撫でた。

「でも、そっかー。
愛菜ちゃんがそこまで心配してくれるなら……」
そう呟いてから、苦笑いのような……はたまた複雑そうななんともいえない表情を浮かべる。

「お兄さん、ちょっとがんばってみっかな?」
そして、何かを決意したかのように一つ頷く。

①「がんばる?って何をです?」
②「嬉しいですけど、無茶なことはしないでほしいです……」
③「何か方法とか考えがあるんですか?」

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①「がんばる?って何をです?」

「ここ、ここから抜け出す方法だな」

周防さんは霧に包まれた地面を指差す。

「ここって……夢の中じゃないんですか?」
私はぼんやりと薄暗い世界を見渡す。

「ここは生と死の狭間。世間一般でいう三途の川ってやつさ」
周防さんはまるで近所のコンビ二を教えてくれるような気軽さで答える。

「さ、三途の川って……。やっぱり私は死んじゃったんだ……」
絶望的な状況に膝がガクリと折れる。
(お父さん、お母さん、春樹……先立つ不孝を許してっ)

「まぁ、落ち着けって。実際は愛菜ちゃんが想像した生死の境だよ。
俺やお前さんのような能力者は、魂が身体から剥がれやすいんだ。
夢……ぶっちゃけると精神の中に閉じ込められた訳だな」

周防さんは「この辺でいいかな?」と言いながらしゃがみ込む。
そして、地面を慎重に叩きだした。

①「何を始めたんですか?」
②「このままだったら私たちどうなるんでしょう?」
③「私に何かできる事は無いですか?」

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②「このままだったら私たちどうなるんでしょう?」

「ん?」

意識していなかったけれど、私の言葉は周防さんの耳には心細そうに聞こえたのか。
周防さんは少し顔を上げてなんでもなさそうにさらりと言った。

「そりゃあ仲良くお陀仏だなあ。なんたって三途の川だ」
「……」

なんとなく想像はしていたものの、やはりはっきりそう言われると絶句してしまう。
黙り込んだ私に噴出すと、周防さんはまた地面に視線を戻して言った。

「ま、そう心配しなさんな。だいたいお前さんは本来ここにいるはずじゃない。
冬馬はそんなヘマはしなかっただろう?」

楽しげな周防さんに何か釈然としないものの、言っている事に異論はないので大人しく頷く。

「かいつまんで言えば、俺の心配をするあまりお前さんはこっち側に迷い込んじまったって訳だ」

「迷い込んだ……」

「そう。で、勝手の解らない場所で俺を探し当てた。どうも無意識の内にやってのけたみたい
だが、そう誰にでもできるものじゃないんだぜ」

「はあ。そう、なんですか……」

どうやら私の使ったらしい力について、周防さんは賛辞を送ってくれているみたいだけれど。

(自分でも全然実感ないのに褒めてもらってもピンとこないかも…)

「まるで他人事だな……まあ良いさ。とにかくお前さんは俺が無事に帰すから、心配しない!OK、愛菜ちゃん?」
「はい。よろしくお願いします」
「ん、良い返事。おにーさんに任せとけ」

そんなやりとりをする間、周防さんは地面の様子を確かめるように手をおいたままじっと虚空をみつめていた。

どうしよう?

①何をしているのか尋ねる
②何か手伝える事がないか尋ねる
③邪魔をしてはいけないので黙って見守る

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②何か手伝える事がないか尋ねる

「あの……私に何か手伝えることはないですか?」

周防さんは私を見つめると、待ってましたと言わんばかりにニコっと笑った。

「じゃあ……、応援してくれ。『周防さんガンバレー』ってな」
周防さんは微妙な裏声を出いながら、身をくねらせ言った。

(今のを私が……)

「……ホントにしなきゃだめですか?」

「うん、だめ。応援がないとお兄さんもーっと頑張れないし」

(そんなハッキリ言われたら、するしかないじゃない)
「す、周防さん…がんばれぇ~」
私は赤面しながらどうにか声を出す。

「声が小さいぞ! もっと大きな声を出す」
体育祭の応援団のような張り切りようだ。
「はい……すみません」
「言いづらいなら『周防さん大好きぃ』でもいいからさ」
周防さんがやけに楽しそうなのがくやしい。

「周防さん……もしかして私で遊んでませんか?」

私は疑いの眼差しを周防さんに向ける。
すると、少しだけ真面目な顔つきになった。

「ここはお前さんの精神世界だ。愛菜ちゃんの言霊が反映されやすい。
愛菜ちゃんが声に出して願えば、それだけ俺の力になるんだよ」

①納得して応援に徹する
②「だったら、ここから出してって言えば早いんじゃ……」
③「その話だと『周防さん大好き』は関係ないんじゃ……」

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③「その話だと『周防さん大好き』は関係ないんじゃ……」

軽くにらむと、周防さんはニヤリち笑った。
どうみても、遊ばれてるとしか思えない。

「……まあ、いいです。言霊が反映しやすいように大きな声で言えば良いんですね」
「うん、お願い」
にっこりと笑って周防さんは作業に戻った。

(恥ずかしいけど…)
私は、一度大きく息をすって吐き出す。

「周防さんがんばって!」
力いっぱい応援すると、一瞬驚いた顔の周防さんが私を見た。

「…え?」
「その調子その調子、おにーさんすごく力がわいてくるよ」
にこにこといって、周防さんは再度集中しだす。
その言葉に、力を得て、何度も何度も周防さんを応援する。

「…くそっ」
どれくらいたったか、周防さんが小さく舌打ちした。
どうやら無意識みたいで、だんだん額に汗が浮いてきている。

(どうしよう、無理そうなのかな…応援もっとがんばらないと…)
このままだと、二人とも死んでしまう。
そう思って、ふと、周防さんの言葉を思い出す。

『ここはお前さんの精神世界だ。愛菜ちゃんの言霊が反映されやすい。
愛菜ちゃんが声に出して願えば、それだけ俺の力になるんだよ」』

(言霊って言葉のことよね…言葉が反映されやすいって事は…)

こういえば…?

1.周防さん大好き!
2.私たちをここから出しなさい!
3.私たちは生きるの!

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最終更新:2007年05月18日 22:13