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①テディベアを部屋から持ってくる

「わかったわよ、まってて持ってくるから!」
私は立ち上がり部屋に戻る。
チェストの上においてあったテディベアを持って、リビングにもどる。

「ほらっ」
両手でテディベアの脇を持ち隆の前に突き出す。
写真のなかよりは、少し色あせているが間違いなく同じものだ。

「マジかよ…」
隆は驚いたようにテディベアと写真を見比べる。

「ほんっっっっとに、失礼なヤツねっ」
私はテディベアを引き寄せると、そっと頭をなでる。

「これだけは、特別なんだから…」
「………」
隆にもこの言葉でわかったようだ。
私のお母さんが居なくなる直前の誕生日。
もしかしたら、この時にはすでにお母さんは私たちから離れることを決めていたのかもしれない。
甘えん坊で、まだ時々お母さんの布団にもぐりこんでいた私に『これから、この子がいるから独りで寝られるわね』といって微笑んだ。
そして、私はそのとき頷いて…。

「ま、大事にされてるんだから、こいつも本望だろ」
しんみりした雰囲気を飛ばすように隆がアルバムをめくっていく。

「あ…」
隆が手を止めた所を見て思わず声が漏れる。
その写真は…

1.春樹と隆が喧嘩した後の写真
2.春樹と隆が初めて会ったときの写真
3.中学の入学式の時の写真

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2.春樹と隆が初めて会ったときの写真

「これ……。隆と春樹が初めて会ったときのだよ」

新しい弟ができる事を隆に紹介した日の写真だった。
「あの時、俺に対して春樹のヤツ……凄い敵意剥き出しだったんだよな」
「私に対しても一緒だったよ」
「ずっと睨みつけられて何だコイツ? って思ったな」

『お前らなんか必要ない!』って、春樹に言われたのはあの日の夜だった。
そして、私はショックで泣いてしまって……

「あの頃に比べると、春樹は優しくなったよな」
「うん。あの後に誤解が解けて『ずっと守る』って約束してくれたんだ」
「そっか……」
隆は諦めたように目を伏せ、再び顔を上げる。
その顔には、もう諦めの色は無かった。

「しゃーねけど。まぁ、春樹になら任せられよなぁ」
冗談を言うような軽い口調で隆は言った。
私は隆に掛ける言葉を失って、思わず俯いてしまう。

「しんみりすんなって。よっし! 気分転換に俺のとっておきの手品みせてやるよ」
隆はそう言うと、ひょいと私の手元にあるテディベアを奪い取る。
「ちょっと、何する気?」
「いいから、いいから……」

隆はテディベアを握り、もう片方の手を添えると深呼吸をする。
すると、隆の手の中でテディベアがピクリと動いた。
「もういいかな。そら、歩け」
机の上でテディベアがふらふらと歩き出す。

私は……

①「かわいい!」
②「やめて!」
③「ミストの力?」

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③「ミストの力?」

隆の周りのミストに特に何の変化も見えなくて、不思議に思ってたずねる。

「いや、違うよ」
隆はあっさりと否定する。

「言ってなかったっけ……?あー、言ってなかったかも」
隆は記憶を探るように首をかしげ、にへらっと笑う。

「俺のもう一つの力さ」
「もう一つの?」
武の言葉がよみがえる。

「なんていうかな~、ほら昔から言うだろ?すべての物には神様がついてるってさ」
「…そう、なの?」
「八百万の神ですね。精霊とか、妖精とかそんな類の…」
「あ、春樹…」
春樹がお盆にスパゲッティを3つ載せて戻ってきた。

「お、うまそうだな。じゃ、遠慮なく」
「はい、どうぞ」
「ありがとう、で…その神様がどうしたの?」
「その物に宿ってる神様にさ、ちょっとお願いしする力さ」
「ミストと違うの…?」
「ちがうなぁ。ミストは生き物に対して使う。こっちはそうだな、物に対しての力か?ミストは生気をすって強くなる。けど、当然物に生気なんてないからな」
「まぁ…そうよね」
「もちろんミストを使って動かすこともできるけど、ミストを操るよりはもともと入ってる神様にお願いして動いてもらったほうが断然楽なんだ」
話しているうちにテディベアは私の目の前までやってきてポンと私の膝に飛び乗った。

「おまえそいつのこと本当に大事にしてたんだな。好かれてやがる」
「お願いということは、特に何か力を必要とするとか、ないんですか?」
「う~ん?どうだろう…こっちの力は事故の前からあったしな。まぁ、使えない力だからほとんど使うこともなかったが…」
「え…?」
「こっちの力は、その物に宿ってる神様の気分、機嫌しだいだからな。自由に何でもできるわけじゃない」
「そうなんだ…」
隆のもう一つの力が意外な形で明らかになって驚くほかない。

「こういう風に、大事にしている物の中に居る神様はさ、その持ち主を好きだからこうやって少しお願いすれば動いてくれる。こいつみたいに」
テディベアは、私の膝の上に来ると、ちょこんとそこに座った。

1「この子、ずっと動けるの?」
2「いつその力が使えるってわかったの?」
3「ちなみに、今はなんてお願いしたの?」

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3「ちなみに、今はなんてお願いしたの?」

「い、今?」
私の質問に、隆が急に慌てだす。
……どうしたんだろう?
「なに、何なの?教えてよ」
問い詰めようと隆に近づく。
同じ分だけ後ろに下がられた。
「ねえ、隆ってば」

「そ、そ…………そんなこと言えるかバカっ」
追求から逃れるように、スパゲティを勢いよく食べ始める隆。

「何それ………しかもバカって」
私はちょっとムッとしながら、同じくスパゲティを食べ始めた。
「じゃあ、もういいもん。隆のけーち」
「ケチで結構だっ」
食事をしながらも子供のような言い争いは続く。
「…二人とも、もうちょっと行儀よく食べてよ」
言い争う私たちをよそに、春樹が大きなため息をついた。

そんな感じで私たちは終始和やか(?)な食事の時間をすごしたのだった。

夕食後。
隆を出入り口まで見送って、そのまま部屋まで帰ってきた。
ベッドに腰掛けて、窓の外を見てみる。
…今夜も月が綺麗だった。

「明日は、休日かぁ」
夕方の周防さんの言葉を思い出す。
彼の言葉をそのまま信じるなら、明日は特に何かを気にせずに出かけられると言うことだ。

「ふふふ」
なんだか嬉しくなる。
少し前までは当たり前だったことなのに、今は何故かとても懐かしくて尊いものに感じる。

(でも、何しようか?)
あれこれと考えては見るものの、改めてみると『これ!』といったものがない。
だからと言って部屋でのんびりしていると、また一人で考え込んでしまいそうだ。

(それをしないための休日だもんね。
なら…せっかくだから、誰か誘ってみようかな?)
不意にそんなことを思いつく。
(うん、いいかも。一人でいると、どこにいても考えちゃいそうだし。
……………でも、問題は誰を誘うかだよね)
一人悩む。

(一番妥当なのは香織かな?
あ、でも、今日の電話で無理しないように言われちゃったしなぁ……)
香織は事情を知らないから、逆に余計な心配をかけてしまうかもしれない。

(だとすると……うーん)
次に考え付いた可能性。

それは、
①隆か春樹かな?
②一郎君か修二君はどうだろう?
③御門君か周防さん?なーんて。

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②一郎君か修二君はどうだろう?

つんつんとテディベアをつつきながら考える。
テディベアはまだ動いていて、つつく私の指を捕まえようと手をパタパタと動かしている。
(かわいいなぁ)

思わず微笑んで、思考を元に戻す。
今日の昼の様子を見ると、春樹も隆も疲れているみたいだからつき合わせるのは悪い。
かといって、御門くんか周防さんはどうやって連絡を取ればいいのかわからない。
夢でならあえるかもしれないけれどそのためにわざわざ夢に呼ぶのも悪い気がする。

となると、ある程度事情を知っている、一郎君か修二君…。
誘って了承してもらえるかはわからないけれど。

一郎君となら落ち着いた感じでゆったり、のんびりすごせるだろう。
修二君なら一日明るく楽しく暗いことなんか吹き飛ばせるだろう。

携帯電話を手に悩む。

さて、どうしよう?

1一郎君を誘う
2修二君を誘う
3二人とも誘う

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1一郎君を誘う

修二君は二人揃うと見えすぎる、というようなことを言っていた。
なにかが見えるということは何かしらの力を使っている訳で、
それはつまり大なり小なり疲労が伴うのではないだろうか。

ふと夕べの隆の様子を思い出す。
(顔色すごく悪かったし、辛そうだったよね…)

一郎君も修二君も色々と気にかけてくれてありがたいとは思っている。
だからこそ私の息抜きに二人を引っ張り出して、故意ではないにしろ
負担を強いるというのはあまりに申し訳なさすぎる。

そうなるとどちらか一人を選ぶのが無難なのだろうが。
(修二君、予定あるんじゃないのかな。
それに二人でいるところを他の女の子に見られたら大変なことになるんじゃ…)

華のある修二君はただ立っているだけでも人目をひくひとだ。
思いを寄せるたくさんの女の子達のうちの誰かの目に止まったとしても不思議はない。

そこまで思いついて身震いが出た。

「やっぱりここは一郎君にお願いしてみようかな」
自らを奮い立たせるように声に出して、電話をかける。

プルルル、プルルル…

無機質なコール音が延々と続く。
(一郎君、いないのかな…)

1、もうしばらくそのまま待つ
2、しばらくしてからかけ直す
3、別の人にかける

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3、別の人にかける

しばらくそのまま待ってみたけれど、一郎君が電話に出ることは無かった。
(はぁ…)
なんだかがっかりした気分で電話を切る。

(でも、出ないんじゃ仕方ないよね。誘いようもないし)
だけど、このままだと一人で過ごしてしまうことになる。
それはあまりよろしくないかもしれない。
…何と言うか、いろいろな意味で。精神的に。

(一郎君には悪いけど、他の誰かを誘ったほうがいいかな。…ごめんね、一郎君)

とはいえ、むやみやたらと誘うのも問題だ。
そろそろ決めたほうがいいのかもしれない。

(次でダメならあきらめよう。そうしたら一人でお出かけすればいいんだし…)

さて、どうしよう?

1.ダメもとで修二君にかけてみる
2.春樹か隆にお願いしてみるって言うのは…
3.御門君とか事情を知ってる周防さんのほうがいいかな?

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3.御門君とか事情を知ってる周防さんのほうがいいかな?

なんだかんだで御門くんには結構助けられているし、
周防さんは今回の休日の提供者でもあるわけだし……。
この辺りでお礼とか……何かできればいいんだけど。

それに、この二人のどちらかなら話が通じやすい可能性が高い。
周防さんはお休みのことを知っているし、御門くんは周防さんの知り合いみたいだった。
……なら周防さんの名前を出して説明すれば納得してくれるかもしれない。

二人のことを考える。

かたや、休日の姿がまったくと言っていいほどつかない年下。
かたや、現実では一度も顔を合わせたことのない所在地不明の年上。

(改めて考えると、本当に謎だな……)
そんなことを考えているうちに、徐々に意識が深くに落ちていくのを感じる。

彼らに一番会える確率が高い方法……夢の中で会うためだ。

(お願いだから、夢の中に出てきて!)
意識が途切れる直前、私が心に思い浮かべたのは―――

①御門君
②周防さん
③二人とも

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③二人とも

よく知らない人と二人きりででかけるのはちょっと不安だ。
3人だと安心というわけでもないけれど…。

気がつくといつものとおり学校の前。
目の前に御門君が立っていた。

(あれ…周防さんは?)
おもったとたん目の前が真っ暗になる

「だーれだっ」
「……周防さん」
「あったりー」
「もう、なにしてるんですか」
振り返ると楽しそうに笑った周防さん。

「目隠し」
悪びれることなく答えた周防さんに思わず笑ってしまう。

「ところで、今回はどうしたの?」
笑う私の顔を覗き込むように身をかがめて、周防さんが言う。

「あ、そうだ!明日…もしかしたら、もう今日?暇ですか?」
「うん?……まぁ、特に予定はないよ」
「御門くんは?」
振り返るとかすかに御門君が頷く。

「それじゃあ、明日一緒にでかけませんか?」
「それって、デートのお誘い?」
「えっ、デート…?」
深く考えなかったけれど、これってやっぱりデートなのかな?

「あ、えーっと、ほら明日、一人で居ると色々かんがえちゃって、せっかくの休みなのに休めなさそうだし…」
「照れちゃってかわいーなー」
周防さんが私の頭をくしゃくしゃとなでる。

「まあ、そういうことならお付き合いしますよお姫様。冬馬もいいよな」
御門君の言葉に、少しの間をおいて御門くんが頷いた。

「よっし、決まり。で、どこ行くの?」

あ、そういえばどこ行くかとか、決めてなかった…。

1ショッピングモール
2遊園地
3二人に行きたいところを聞く

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1ショッピングモール

「ショッピングモール…とか?」
とっさに思いついて口に出す。

「うんうん、ショッピングモールね。たしかに色々あるし、一日中いても飽きないかな?」
周防さんはちょっと首をかしげてショッピングモールを思い出しているようだ。

「たしかあそこは色々施設も充実してるし…」
たしかにショッピングモール内には、映画館があり、隣接して小さな公園、そしてイベントホールではいつでもなにかしらやっている。

「デートには最適だな!」
「だから、デートじゃ…」
「照れない照れない。それじゃ、10時に駅前でまってるからさ」
くしゃくしゃと頭をなでられる。

「冬馬、お前も遅れるなよー」
同じように御門くんに手を伸ばし、くしゃくしゃと頭をなでる。

「………」
されるがままになって、御門君は頷いた。

「それじゃ、楽しみにしてるよ。そろそろ朝だ。それじゃ、お兄さん張り切って準備しちゃうよ」
周防さんの言葉と同時に、夢の輪郭が崩れていく。



ふわふわと顔に何かが当たる感触に目が覚めた。
うっすらと明るい室内。
目を開けると目の前にテディベアがいて、ふわふわとした手で私の顔をつついている。

(まだ動けるんだ…)
「おはよう」
布団から手を出してその頭をなでる。
時計を見るとまだ7時になったばかりだ。

「早く起きすぎちゃったかな?」
大きく伸びをして、部屋の扉を開けると、ふわりといいにおいがキッチンからする。

「あれ?春樹もうおきてるのかな?」
そういえば、春樹に今日出かけることを伝えないといけない。

1、今すぐに伝える
2、後にする
3、こっそりいく

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最終更新:2007年05月18日 10:17