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2.春樹と一緒に帰る

一瞬追いかけるように足が動いたが、追いかけてどうするつもりなのかと冷静な自分が問いかけてきてすぐに止まった。
「…春樹、帰ろう」
全身を覆う脱力感。
「うん」
春樹が私を支える。足も相変わらず痛かったが、それ以上に胸が痛い。

階段を下りながら、もしも、のことを考えてしまう。
もしも、私の力のことが予知夢だったとして、きちんと内容を覚えていたらこんなことにはならなかった?

(分からない)

もし夢を覚えていたら、今日のような事態になることを避けるために私は隆に音楽室で会うことをしなかっただろう。
でも、そうすると予知夢は予知夢ではなくなる。
実現しないただの夢だ。
それなら、覚えていないほうがいいのだろうか?
でもそうなると、やはり意味のない力になる。

でも予知夢を見ることがなければ、今日のように夢で見たのに防ぐことが出来なかった、とやりきれない気持ちになることはなかっただろう。
「……こんな力いらなかった」
思わずつぶやく。

「姉さん?」
つぶやきに私を支える春樹の驚いたような顔。
無性に春樹にすべてを話してみたくなる…

①「春樹、たぶん私の力は…」
②「春樹は未来を知りたいと思う?」
③「なんでもないよ」

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③「なんでもないよ」

私はできるだけ笑顔を作ってそう言った。

(全部話しちゃおうなんて……自分が楽になりたいだけだ)
そんな私の衝動的で勝手な思いを、春樹にぶつけるわけには行かない。

「姉さん……?」
春樹が気遣うようにこちらを見る。
「どうしたの?帰ろう?春樹」
私も春樹を見つめ返し、言った。
……そして、私たちは歩き出す。

(ダメだな……私)
隣にいる春樹をちらりと伺いながら、ふと思う。

今までだって、「お姉ちゃんなんだからしっかりしなきゃ」なんて思いながら頼りにしてばかりだった。
春樹は優しくて……いつだって私の味方でいてくれて。
それが嬉しくて、ズルズル甘えてた。

一瞬とはいえ、私の荷物をさらに春樹に背負わせようとしてしまった。

でも、これ以上はダメだ。
これ以上、春樹を巻き込みたくない。
(私だって、春樹を守らなきゃ……)

家までの道のり、私は密かにそう決意していた。



「ふぅ……」
ベッドの中。
天井を見上げながら、小さくため息をつく。

あれから、春樹とはほとんどいつもどおりだった。
夕食を食べて、テレビを見て、話をして。
本当にいつもどおりだった。

……でも、本当は気づいていた。
いつもどおりになるように振舞っていただけだ。
(そうしなきゃ、何かが壊れちゃう気がしたから……)
私も、おそらく……春樹も。


(それにしても、夢か……)
なんとなく眠れなくて、次から次へといろいろ考える。
ううん……なんだか、眠るのが怖かった。

もし本当に、この夢を見ることが一郎君の言う『力』だとしたら―――
そして、また今夜も悲しい夢を見てしまったら―――

そんな思いが私の中をぐるぐる回って、眠れない。

①気分転換に散歩にでも行こうかな……。
②春樹、まだ起きてるかな……?
③今までのこと、自分なりに整理しておいたほうがいいのかな……。

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②春樹、まだ起きてるかな……?

ふと春樹のことが気になって、戸を開け春樹の部屋のほうを見てみる。
まだ電気はついている。
(……だめだめ、春樹は巻き込まないって決めたんだから)

また、春樹に頼りたくなってしまう自分を叱咤する。
けれどこのまま部屋にいるといつか眠ってしまう。
(眠りたくない…)

私はため息をついて、部屋を出た。
キッチンへ向かい、水を飲む。
一階にはすでに人はいない。静まり返っている。
キッチンを出て、薄暗いリビングへ移動した。
電気はつけず、リビングから庭を眺めた。
「きれい……」
雲のない夜空。半分くらい膨らんだ月が静かにあたりを照らしている。

ふと、その月明かりの下何かが動いた。
(何……)
目を凝らしてみると、そこには人が…
それは…

1.御門くん
2.修二くん
3.隆

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1.御門くん

御門くんがいた。

「……」
もう夜も遅いのに制服姿のまま。
その横顔には何の表情も映さずに、ぼんやりと月を見上げている。

(一人ぼっちで、どうしてそこに立っているの……?)

こんな時間だからなのか、人通りなんて全然ない。
ただ一人、御門くんだけがそこに存在していた。

……私は一瞬、自分が何かの芝居を見ている観客であるかのような錯覚に陥る。

月はスポットライト。
道路は舞台。
役者は御門くん。

(なんだか、不思議な感じ……)

最近の出来事や今の状況から考えれば、人を呼ぶべきなんだと思う。
だけど、この静かで不思議な雰囲気のせいか……私は判断に迷った。

私はどうするべきなんだろう?

この雰囲気を壊してでも、彼に近づいて話を聞くべきか。
見なかったことにして、部屋に戻るべきか。
それとも、念のため誰か人を呼ぶべきか。

私の選択は、

①声をかける
②部屋に戻る
③人を呼ぶ

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①声をかける

どうしようか一瞬迷う。
部屋に戻ると眠ってしまう。
人を呼ぶといっても、春樹には迷惑をかけたくない。

「こんばんは御門君、何をしているの?」
結果私はリビングの戸を開けて御門君に声をかけている。

「月を見ています」
そんなに話したことがあるわけではないが、珍しくすぐに答えが返って来た。
視線は月から離れない。

「今日の月は綺麗ね」
私も月を見上げる。

「今日の月は泣いています」
月を見上げたまま相変わらず感情の伺えない顔と声。

「……月の気持ちがわかるのは御門君の力なの?」
月を見上げながら不思議なことを言う御門君に、私は視線を御門君に移す。
「いいえ」
御門君はあっさりと否定して、月から私へ顔を向けた。
月明かりの下、すべてが幻のように現実感がない。

(御門君はきっと何かを知っている…)
それは確信。
じっと見つめられる。いつもこうして見つめられる。
答えが返ってくるとは限らない。
むしろはぐらかされる確立のほうが高い。
私は…

①「御門君の力は何?」
②「御門君も私を狙っているの?」
③「どうしていつもそんな目で私を見るの?」

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③「どうしていつもそんな目で私を見るの?」

「……」
私が問うと、御門君は私を見つめたまま黙り込んだ。
そして、そっと自分の胸元に手を差し入れる。
そこから取り出した金属片。

近くで見て、初めてそれが何であるのかを認識した。
―――それは小さなロケット。
私も御門君も、それをじっと見つめていた。

「確かめているからです」
やがて、ロケットを包み込むようにして握り締めながら御門君は言う。
「何……を?」
「あなたをです」
「私?」
私が自分を指差すと、御門君は頷く。

(私を確かめる?どういうこと?)
言葉の意味がよくわからなくて、首をかしげる。

私の様子を特に気にした風もなく、御門君はさらに言葉を続ける。
「あなたは変わらない人なのですね。
……記憶に刻まれたままの、そのままの人のようです」
(記憶のまま?)
そこで、また疑問が増える。

私と御門君は、昨日以前にどこかであったことがあるのだろうか?
……それにしては、言い回しがおかしい気がする。
自分のことを話しているわけではなく、誰かから聞いたことを話しているような…・・・そんな感じ。

御門君は、まだ立ち去る様子は無い。
私は質問を続けることにした。

1、「御門君は誰かから私のことを聞いていたの?」
2、「御門君は私を確かめてどうするつもりなの?」
3、「御門君がなにかと私の傍にいるのは偶然じゃないよね?」

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2、「御門君は私を確かめてどうするつもりなの?」

「…………」
御門君は沈黙する。
すいっと私から月へと視線を移す。
しばらく月を眺めてまた私に視線を戻した。

「わかりません」
御門君の言葉はある意味予想通りであり、まったく違ってもいた。
明確な答えが返ってこないことは予想通り。
「わからない」と言われたことが予想外だ。
御門君にはわからないことなど存在しないとなぜか思ってしまう。

しばらく無言で見つめあう。
そうして何を確かめようとしているのだろう。
(何を確かめようとしているの?)
そう口に出そうとしたとき、カタンと小さな音がする。
普段なら、聞き逃すような小さな音。
けれど静かな夜、それは思いのほか大きく聞こえた。

音のした方を見上げると部屋の窓から春樹がこちらを見下ろしていた。
「姉さん?声が聞こえると思ったら…なにしてるんだよ?」

私はあわてて御門君を見る。
(……!居ない………)
さっきまでそこに居た御門君は居なかった。
春樹にはなんて言おう…

①「…………」
②「月を見ていたんだ」
③「さっきまで今朝話した御門君がいたの」

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②「月を見ていたんだ」

こんな夜更けに人と会っていたなんて言えば、春樹が心配してしまう。
私はとっさに嘘をついた。

春樹は私の言葉につられる様に、夜空を仰ぎ見る。
そして、また私に向き直った。
「姉さん。月を見るのもいいけど、ほどほどにして寝ないと明日が辛いよ」
「うん、わかってる」
「怪我もしているんだし、早く寝なよ」
「うん。おやすみ、春樹」

ようやく納得したのか、春樹の姿が消えると、窓の閉まる音がした。
それにしても……さっきまでいた御門君はどこへ行ったんだろう。
まるで、月明かりの中で幻でもみているようだったな。

春樹が言っていたように、もうそろそろ寝ないと明日が辛そうだ。
私は部屋に戻ってベッドに入る。
眠らなきゃいけない。でも眠れるかなのかな。

私は……
①今日のことを振り返る
②無理をしてでも寝る
③もう一度外を見る

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③もう一度外を見る

私は視線だけを窓の外にやる。
カーテンが開いたままの窓からは空しか見えなかった。

おそらく御門君はもう庭にはいないのだろう。

空を見れば、月がまだ浮かんでいた。
「今日の月は泣いています……か」
御門君が言った言葉を思い出す。
私にはいつもと変わらない綺麗な月に見える。
(どうして御門君はそんなことを思ったんだろう?)

それからいろいろと考えているうちに、だんだんと意識が薄れていく。
不思議と夢に対する恐怖はあまりなくなっていた。

その日、私はまた夢を見る。

1、春樹の夢
2、一郎君の夢
3、御門君の夢

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3、御門君の夢

御門君の姿があった。
相変わらずの無表情のまま、私をじっと見つめている。

「……あなたが逃げずに、立ち向かうというなら」
言葉とともに、ゆっくりと御門君が私の前に跪く。

「あの人との約束だけではなく、僕自身の意思で……
僕があなたを守ります」
私をまっすぐ見上げて、静かに……だけど力強く宣言する。

(あの人……?あの人って、誰?)
私が疑問に思っている間にも、夢の中の出来事は続いていく。

「愛菜……僕の主」
微かに……本当に微かにだけど、御門君が微笑んだ気がした。

(え?)
私が思わず見入っていると、御門君はそのまま私の手を取る。

「あなたの望みのままに」
そして、私の手の甲に唇を寄せた―――


そこで、目が覚めた。
窓から差し込む陽光が眩しい。
ぼんやりしたままの頭で辺りを見回す。
見慣れた私のベッド。枕。部屋。
「夢……また、夢だ……」
大きくため息をついて呟く。

(あれ……?)
そこで、ふと気がついた。
今日の夢、いつもに比べて…

1.内容が鮮明だった気がする
2.悲しくない夢だった気がする
3.感覚がリアルだった気がする

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