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③春樹

修二くんに問われて、頭の中に浮かんだ顔。
それは弟の春樹だった。

(春樹だけは……駄目なのに)

私は思い切り首を振って、その気持ちを打ち消そうとした。
春樹は家族として大切だ。 けど、修二くんが尋ねているのは違う意味のはず。
どれだけ振り払おうとしてもその想いを打ち消すことは出来なかった。

「愛菜ちゃん。今、誰を思い浮かべたの?」

修二くんの声で我に返った。
大きな影のような修二くんは静かに問いかけた。

「それは……」
「はっきり答えなよ」

修二くんの声にいつもの軽さは無くなっていた。
一郎くんの声に限りなく近い修二くんの声が届く。

(ちゃんと答えなくちゃいけない)

「どうして黙っているのかな」
「……………」
「愛菜ちゃん?」
「………るき」
「なんだって?」
「……春樹」
「俺の聞き違いかな。もう一度言って」
「弟の……春樹だと思う」
「愛菜ちゃん。俺は恋愛対象として特別な奴の名前を聞いているんだけど」

修二くんの声色が低くなった。
言葉の真意を理解できていないと思っているのかもしれない。

「特別って意味は……わかってるよ」
「それでも弟くんなの?」
「多分、春樹だと思う」
「と思うって、どういう事?」
「私自身、はっきりしないんだ」
「ずいぶん曖昧だね」
「私もよくわからない。でも一番に春樹の顔が思い浮かんだから」
「今まで自覚は無かったの?」
「……前から自覚はあったと思う。けど今まで深く考えない様にしてきたの」
「考えないようにって?」
「考えると混乱するし怖くなるから」
「だから深く考えないようにしてきたって事?」
「うん。自分の気持ちなのに、自信が無い。正しい考え方だとは思えない。だから……」
「どういう事? 愛菜ちゃんはどうして怯えているの?」
「分からない。けど、怖くてたまらない。胸がすごく苦しい」

私はパジャマの胸元を強く掴む。
喉の奥が痛くて、思わず泣きたくなった。

私は……
①考える
②修二君を見る
③修二君に話しかける

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②修二君を見る

(こんな答えじゃ、きっと修二くんはわかってくれない)

そう思いながら、修二くんの様子を伺う。
修二くんは髪を掻き揚げる仕草をするとゆっくりベッドから降りた。
そして一つ大きなため息を吐くと窓際に立った。

「本当に苦しそうだよね」
「うん。なぜだか分からないけど」
「……それはきっと――」
「今、何か言いかけた?」
「まぁね。愛菜ちゃん、少し聞くけど」
「何?」
「弟くんは誰にも置き換えられないほど、愛菜ちゃんにとって一番大切な存在なんだよね」
「そう……だね」
「それは全部、愛菜ちゃんの本心で間違いない?」
「……間違いないよ」
「そっか」

それなりに納得してくれたような言い方だった。急にあっさり引き下がられて逆に不安になってしまう。

「あの……修二くん。本当に今の答えでいいの?」
「何が?」
「だって……」

さっきまで修二くんはとても強引だった。
手段を選ばないような態度だったのに、突然手のひらを返したような態度だ。
私は上半身を起こしてベッドに座り、窓際の修二くんを見る。

「だって……私自身がこんなに曖昧なのに」
「ふーん? でも答えは出てるんだよね」
「それは……」
「出てるんでしょ?」
「うん」
「じゃあこれ以上詮索しても無駄じゃん」
「そ、そうなんだけど……」
「それに俺の入る隙なんて無いほど、弟君が大好きなんだって分かっちゃったからね」

窓際の修二くんは暗くなった外を見ていた。
ガラス越しに映っている修二くんに向って、思わず問いかける。

「修二くんが言うように……私、やっぱり春樹の事を好き……なのかな」
「それを俺に聞く?」
「ご、ごめん……」

修二くんは仕方なさそうに肩をすくめ、壁にある電気のスイッチを入れる。
するといつもと変わりない修二くんが目の前に居た。

「一つだけ言わさせてもらうとさ、俺も愛菜ちゃんを見ているだけで、すごく苦しかった。
だけどこの苦しみは、他の女の子じゃ埋めることは出来ないんだ。
嫌になるほど分かっていたはずなのにさ」

(修二くん……)

「なんてね~。俺はなにやってんだろ。ったく」
いつもの軽口のように言うと、修二くんは困ったように笑った。

私は……
①考える
②修二君を見る
③修二くんに話しかける

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