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③「じゃあ冬馬先輩の先天的な力は具体的に何ですか?」

「僕は『水』を操る力を持っています」
「水。そういえばさっき……」
「僕は剣。ですから蛇の眷属である水龍の力を得ています」

さっき春樹の居場所を突き止めたといった時、水の力を使ったと言っていた。
という事は、水を操る力が冬馬先輩の先天的な能力で間違いないだろう。
でもスイリュウって何のことだろう。
まさか架空の生き物の龍のことを言っているのだろうか。
まだ剣とか鏡とか、一体何を指しているのかも曖昧でよく分らない。
さっき冬馬先輩は『神の力』と言っていたけど。
確かに先輩の力を見ていると神がかり的と言えなくもない。
とはいっても、あれだけの説明ではやっぱり根本的な所が理解できないままだ。

「……愛菜」
「……は、はい!!」

考え込んでいたのに突然話しかけられ、私は大声で返事をしてしまった。

「これ以上立ち話をしていては遅刻してしまいます」
「そ、そうだね。ところで先輩、体の方は平気ですか?」
「もう大丈夫です」
「よかった……」
「心配をおかけしました」
「ううん。春樹のために力を使ってくれたんだよね。ありがとう先輩」
「いいえ」
「……あっ、もうこんな時間だ!」
「急げば、まだ間に合うかもしれません」
「うん。走ればギリギリ間に合うかも」
「では、行きましょう愛菜」

冬馬先輩の綺麗な長い指をゆっくり私の前に差し出される。

「あの、先輩。この手……」

突然の出来事にどうしていいのか判らず、先輩の無表情な顔と差し出された手を交互に見つめる。

「万一、あなたが小石にでもつまづくといけませんので」
「で、でも……」
「本来ならば、主を走らせるのは心苦しいのですが」

(どうしよう……)

私は……
①「その主って言い方、止めて欲しいな」
②手を取って走る
③「子供じゃないのに、恥ずかしいよ」

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③「子供じゃないのに、恥ずかしいよ」

妙に気恥ずかしくて、目の前の手を取ることができない。

「…………」

冬馬先輩は無表情のまま、自分の手をジッと見ていた。

「の、のんびりしていると遅れてしまうよ。冬馬先輩、早く行こう!」

熱くなった顔を見られたくなくて、私は一足先に走り出す。
冬馬先輩は私と距離を置きながら、少し後ろを走り始めた。

(先輩に対して、少し失礼だったかな……)

急いで学校に向かいながら、少しずつ後悔し始めていた。
冬馬先輩は気を使って手を差し伸べてくれたのに、邪険にしてしまった気がする。
主なんて言われてもやっぱりピンとこないし、慣れそうに無い。
どうしても戸惑いが先に来てしまう。

それぞれの学年の下駄箱前まで着くと、なんとなくお互いが顔を見合わせる。
私からは話しかけづらかったけど、冬馬先輩はいつものように黙ったままだ。
仕方なく、先輩に向かって声を掛ける。

「な、なんとか遅刻せずに済んだみたいだね」
「……はい」
「えっと、今日の放課後は教室で待っていればいいんだよね」
「ええ。僕が迎えに行く約束ですから」
「じゃあ放課後、お願いします」
「……はい」
「あと、春樹の件も先輩に頼ってしまうと思いますけど、よろしくお願いします」
「……構いません」
「あ、あの先輩」

背を向けて校舎に入ろうとしている冬馬先輩を、思わず呼び止めた。

「……なんでしょうか」
「いつも助けてくれて、本当にありがとうございます」

何度も先輩が助けてくれているから、私が無事でいられたのは間違いない。
改めて、ちゃんとお礼が言いたくなった。

「あなたを守ること。……それがあなたのお母様から託された僕の役目ですから」
「役目……」
「では、また放課後に」

機械的な会釈して、先輩はすぐに校舎の中に入っていった。
そんな冬馬先輩の背中を私は黙って見送る。

(託された役目……か)

①教室に急ぐ
②先輩の落し物に気づく
③なんとなくもやもやする

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③なんとなくもやもやする

幼い頃に私の前から突然居なくなったお母さん。
何年も私を置き去りにしていた間、代わりに冬馬先輩を育てたらしい。
そんなお母さんに恩があるから、冬馬先輩は狙われている私を助けてくれる。

昨日の夜、冬馬先輩は自分の意思で私を守ると言ってくれた。
けれどそれは、私がお母さんの娘だからだろう。

会った当初、冬馬先輩はロケットの中の写真をいつも見ていた。
きっと私の中にお母さんの姿を探していたんだと思う。
恩人のお母さんの頼みだから、私と契約を交わしてくれた。
私を守る事は、お母さんから託された冬馬先輩の役目。これは疑いようもない事実だ。

(わかってる。理解してる……けど)

もやもやとした気持ちが広がっていく。
契約上の決まり事だからと、後輩の私に敬語を使ったり主と言ったりする。
いつも相手を突き放すような、無表情で淡々とした振る舞いをほとんど崩すことはない。
少し常識が欠落しているせいだけど、それだけでは説明しきれない気がする。

反面、名前で呼んで欲しいと頼んできたり……
私が居るから学校に来ているだけだと断言したり……
強い親しみを私に対して持ってくれているのも感じることができた。

(結局、冬馬先輩にとって私はお母さんの身代わりなのかな?)

お母さんは今、どこで何をしているのだろう。
冬馬先輩はお母さんの行方について、まだ語ってはくれようとはしない。
なんとなく、語らない理由がおぼろげながら見えてきている。
冬馬先輩はお母さんの事を現在進行形ではなく、すべて過去形で話している。
それはつまり――。
(止めよう、こんな考え方)

「……愛菜!ねぇ愛菜ってば!」

顔を上げると、香織ちゃんが覗き込んでいた。

「どうしたの、香織ちゃん」
「どうしたのはアンタでしょ。一日中ボーっとして」
「……そうかな」
「いつも気が抜けた炭酸みたいだけど、今日は特に酷かったもの」
「ひ、ひどいよ香織ちゃん」
「まぁいいじゃない本当の事でしょ」

私は苦笑しながら、今の状況を確認する。
教室を見渡して、もう放課後になっていたのを思い出した。

「そういえば隆が居ないね。もう帰っちゃった?」
「ううん、まだよ。文化祭で買い足す物があったし暇そうだったから、パシらせたわ」
「……さすが容赦ないね」
「そうだ、愛菜にお客さんよ」
「え?」
「ほら、あそこ」
香織ちゃんは教室のドアに視線を移す。

つられるまま視線を向けるとそこに居たのは……
①冬馬先輩
②一郎くん
③修二くん

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②一郎くん

教室のドアに立っていたのは約束した冬馬先輩ではなく、一郎くんだった。

「委員長ったら、愛菜のためにわざわざ迎えに来てくれたんじゃないの~?」
「おかしいな。今日の委員会は無いはずだけど……」
「でも、愛菜をご指名みたいよ?」
「何の用だろう」

私は不思議に思いながら、椅子を引く。
ドアを出てすぐの廊下に、一郎くんが居心地悪そうに立っていた。
同じクラスの男子がチラチラと横目で見ながら、私たちの脇を通り過ぎていく。

「一郎くん、今日って委員会だっけ?」
「いや、違う」
「なら、どうしたの?」
「君の気配が少し変わったから、心配になって来てみたんだ」
「私の、気配?」
「それともう一つ、君の弟のことだ」
「……春樹の事、一郎くんも知っているんだね」
「君に伝えられるような有益な情報は得ていないがな」

私と一郎くんが話していると、バタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。
背後から聞こえてくる騒がしい足音が止まると同時に、明るい声がする。

「愛菜ちゃーん!! お待たせぇ!」
「しゅ、修二くん!?」
「修二、遅いぞ」
「いつも口うるさいんだよ、兄貴は。それより愛菜ちゃん、遅れてごめんね」
「何も約束した覚えはないけど……」
「大堂に説明している時間すら惜しい。よし、すぐに始めるぞ」
「へいへい。ホント人使いが荒いんだからさ」

どうやら一郎くんは修二くんの到着を待っていたらしい。
一郎くんと修二くんは同じ顔を並べ、私を囲むようにして立った。
そして頭の天辺からから足元まで、穴でも開くくらいの勢いで私を観察し始めた。
(な、何なのよ……)

「確かに兄貴の言うとおりだねぇ」
「お前もそう見えるか」
「うん。愛菜ちゃんに新しいものが取り付いているみたいだ」
「……それは少し俺の見方とは違うな」
「違うの?」
「ああ。これは新しいものではないだろう」
「なら何だよ。少しだけど今までとは違うじゃん」
「恐らく、大堂の中に完全に隠れていたものだろうな」
「じゃあ……!」
「そうだ。強固な封印の隙間から微量だが這い出てきているようにも見える」
「なんで!? だって封印は一つ目の契約じゃ解けないって」
「どうして大堂がこうなったってしまったのか、だが……」
「兄貴にも分らないの?」
「ああ」
「俺と違って記憶があるんだろ。そんな無責任なこと言うなよ!」
「お前は黙っていろ。今考えている」

(なんだか揉めてるみたいだけど……)

①一郎くんに話しかける
②修二くんに話しかける
③誰かが来ていることに気づく

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②修二くんに話しかける

考え込んでいる一郎くんには話しかけづらかった。
仕方なく、機嫌が悪そうな修二くんに声を掛ける。

「ねぇ修二くん。一体何を話しているの?」
「あんまり良くない陰の気が見えていてさ」
「陰の気?」
「兄貴は愛菜ちゃんの中にあったものだって言ってるけどねぇ。本当かどうか」
「さっき言っていた『封印』と関係あるのかな」
「さぁ知らない」
「修二くんは知らないの?」
「まぁね」
「けど修二くん、封印と契約は関係があるみたいな話していたよね」
「そんな話、言ったっけ」
「うん。私、ちゃんと聞いたよ」
「…………」
「修二くん?」
「…………」
「な、何」
「………い」
「よ、よく聞こえない」
「ウザい」
「……えっ?」
「そういう詮索、いい加減ウザいって気づきなよ」

唐突な厳しい言い方に、私は困惑する。
友好的な態度でずっと接していてくれた修二くんの豹変に言葉が出ない。
(けど、冬馬先輩に対してだけはこんな風に怖かったっけ……)

「大堂、少し尋ねてもいいだろうか」

さっきまで黙って考え込んでいた一郎くんが私に声を掛けてきた。
私は動揺を悟られないように、なるべく平静を装いながら頷く。

「ど、とうしたの?」
「昨日の夜から今朝にかけて、体に不調はなかったか?」
「不調って……」
「倦怠感や頭痛、吐き気や眩暈などだ」
「ううん、別に何もないけど」
「ごく微量のために問題は無いということか……?」

一郎くんはどこか納得いかないような顔でまた考え込む。
恐る恐る修二くんを見ると、感情の乏しい冷めた視線とぶつかってしまう。
その視線は私から逃げるようにフッと外されてしまった。

「もういいだろ、兄貴。俺帰るから」
「あと少し待て」
「用は済んだんだ。もう俺が居なくても何の問題ないでしょ」
「しかし俺だけでは……」
「これ以上見ても何も変わらないよ。もうこの場に居たくないんだ」
「…………おい!」

一郎くんが大声で呼び止めても、修二くんは不機嫌な様子のまま去ってしまった。
長い廊下の先、修二くんの背中が遠くに消えていく。

①修二くんを追いかける
②一郎くんに話しかける
③冬馬先輩を見つける

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②一郎くんに話しかける

明るくて人気者で、天真爛漫な修二くんとは思えない態度だった。
いつものわがままや面倒くさいからという理由では無い気がする。

「一郎くん……。今の修二くん、少し変だったよね」
「勝手なのはいつもの事だろう」
「でも、いつもとは違う感じだったよ」
「どういう事だ?」
「私が怒らせるような事を言ってしまったからかな……」
「大堂?」
「さっき二人が話していた封印や契約について尋ねたんだ。そうしたら修二くん、知らないって」
「そうか……」
「だけど私、どうしても気になってしまって」
「ああ」
「しつこく食い下がって聞いたら、突然、怒ってしまったんだ」
「なるほどな」
「きっと私がいけなかったんだよ」

無理やり聞き出そうとしたのが良くなかった。
修二くんは本当に知らなかったかもしれないのに。

一郎くんは考え事をしていて、修二君の変化に気づいていなかったのだろう。
改めて、修二くんが去っていった廊下に視線を向けている。
そして私に向き直ると、静かに口を開いた。

「……大堂」
「何?」
「修二の事について、君が気に病む必要は無い」
「だけど……」
「あいつが本当に腹を立てているのは、多分、俺だ」
「一郎くんに対して怒ってたってこと?」
「ああ」
「どうして? 私が悪かったんだよ」
「詳しくは言えないが、あいつは……俺と自分自身、両方に嫌悪している」
「一郎くんと修二くん自身に?」
「それと、御門冬馬もだろうな」

(修二くんの冬馬先輩に対しては怖いくらいだけど……)

「冬馬先輩も……」
「きっと彼を見ていると、自分自身の姿と重なってしまうのだろう」
「双子だから一郎くんと似てるのは分るけど、冬馬先輩も似ているって事?」
「そうだ。同属嫌悪というものだな」
「全然、似ていないと思うけど……」
「おそらく大堂と同じように無自覚だろう。だが、あいつも俺と同じ能力だからな。
もうすでに、見たくないものも見えているのかも知れない」

私は……
①考える
②鏡について尋ねる
③封印について尋ねる

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②鏡について尋ねる

(そうだ。鏡について聞かなくちゃいけなかった)

冬馬先輩は一郎くんの力を鏡と呼んでいたのだ。
一郎くんの力が鏡なら、修二くんも鏡だという事になる。
きっと鏡のことが分れば、封印についても追及できるかもしれない。

「あのね、一郎くん」
「なんだ、大堂」
「……一郎くんは、鏡と呼ばれているの?」

一郎くんの目が一瞬だけ、大きく見開かれる。
だけどそれは一瞬の出来事で、すぐにいつも通りの一郎くんに戻っていた。

「誰からその事を聞いた?」
「冬馬先輩だよ」
「そうか。やはり彼は――」
「一郎くん?」
「いや、なんでもない。それより大堂」
「何かな」
「鏡といえば……君は鏡に映った自分の姿を見たことはあるか?」

突然の一郎くんの問いに戸惑いながら、私は答える。

「えっ、もちろんいつも見ているけど……」
「その鏡の中に映る世界、それは実際とは逆な事に気づいているか?」
「うん、知ってるよ。時計は右回りのはずなのに、鏡の中では左回りだよね」
「ああ」
「あと、右手を動かしているのに、鏡の中の自分は左手を動かしていたり」
「そうだな」
「映っているものは一緒なのに、全部左右が逆さまなんだよね」

(そういえば一郎くんと修二くんも……)

「なんだか一郎くんと修二くんみたいだね」
「どういう意味だ?」
「二人は本当によく似ているのに、利き手も性格も正反対だから」
「確かによく言われるな」
「やっぱり……」
「大堂の言う通り鏡は左右逆に映す。だが、それは認識の錯覚なんだ」
「……どういう事?」
「正確には、鏡は前後を逆に映している」
「前後が逆?」
「ああ。鏡を見ている大堂はなぜ自分の顔を見ることが出来るのか。それは鏡の中の君も君を見ているからだ」
「うん。それは分るよ。でも、それでなぜ前後が逆なの?」
「鏡面を境にして世界が対称になっているという事だ。いわゆるシンメトリーだな。
だから君は自分の顔を見ることが出来る」
「うん。そうだね」
「実際は左右逆ではなく、鏡面を軸に前後が反転しているんだ」
「……なんとなくわかるような」
「結果、左右が逆に見えると認識してしまう訳だな」
「う~~ん」

一郎くんが言っている意味が理解できるような、できないような。
頭がこんがらがってくる。

①理解できた
②理解できない
③論点がずれている事に気づく

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②理解できない

(よく分らない……)

左右が逆なのに、前後が対称?
そもそも前後って何なのだろう?

「えっと……まず前後ってどういう意味?」
「前後の意味? 俺の言い回しが分らないという事か?」
「まぁ、うん」

曖昧に頷く私に、一郎くんは眉をひそめる。
それでも一郎くんは少しでも分りよすいように説明の仕方を考えてくれているようだった。

「前後という言い方が理解し辛いなら……奥行きとでも言い換えれば分り易いか」
「奥行き?」
「ああ。鏡面を境に手前と奥、言い換えれば奥行きに対称なんだ」
「なんとなくは分るけど……」
「まだなんとなく、か。あまり理解できていないようだな」
「……うぅ」
「では鏡を地面に置いてみるといい。それは左右逆ではなく、足元から上下逆に映るはずだ」
「置く場所によって逆になるのは分るよ。でもな……鏡は平面なのに……」
「鏡は平面なのに奥行きに対称というのが納得できないのか?」
「……そうだね」
「そうか。では君は、合わせ鏡は持っているか?」
「えっ、三面鏡のこと?」
「ああ。それに映る自分の姿が際限なく、幾重にも奥へ奥へと広がっているのを見たことはあるはずだ」

(そういえば)

「それなら、何度も見たことあるよ」
「それが鏡が映し出す奥行きだ」
「……うん」
「どうした、大堂」
「小さい頃はそれが怖かったな、と思い出してね」

幼い自分の姿を映している鏡にもう一つの鏡をかざしてみると、自分の姿がどこまでも奥に広がっていた。
鏡を見る自分を鏡の中の自分が覗き込んで、そのまた奥の自分が鏡の中の自分を見つめていた。
ずっとずっと奥にまで広がる永遠の姿に、子供心に言葉にならない恐れを抱いていた。

「恐怖か。確かに、合わせ鏡は都市伝説にもなっているほどだ」
「えっ、例えばどんな?」
「夜中、十三番目に映る自分の顔が死に顔だとか。丑三つ時に見ると鏡の中に閉じ込められるだとか」
「や、止めて!」
「大堂?」
「わ、私……その手の話が苦手だから」
「済まない。少し配慮が足りなかったようだ」

一郎くんは困ったように言うと、口をつぐんだ。

①「どうしてそんな話をするの?」
②「やっと理解できたよ」
③「やっぱり分らないな」

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①「どうしてそんな話をするの?」

一郎くんの事だ。
私を怖がらせようとか、困らせようとした訳ではないだろう。

「どうして、か。正直に言うと、俺はまだ迷っているんだろうな」
「何を迷っているの?」
「君に……真実を話す事をだ」

(真実……)

「それで鏡の話を?」
「ああ。真実を話さなくてはと思いながらも迷っている。
だからつい遠回しに話してしまうのかもしれない」
「じゃあ、さっきの合わせ鏡の話も関係あるんだね」
「もちろんだ」

以前の一郎くんは真実に触れないようにするのが私にとって一番良い方法だと言っていた。
どうして今、話そうとしてくれているのだろう。

「前に、一郎くんは真実を話す事を拒んでいたよね」
「そうだったな」
「やっと私に教えてもいいと思ってくれたんだね。ありがとう」
「礼は無用だ。俺が至らなかっただけだからな」
「ううん、違うよ。一郎くんには一郎くんの考えがあって、一生懸命してくれたんだよね」
「大堂、君は……」
「やっぱり、お礼でいいんだよ。ありがとう、一郎くん」

私は一郎くんに向かって精一杯の笑顔でお礼を言った。
なのに一郎くんは咳払いをしながら、顔を隠すように視線をそらしてしまった。

「……と、とにかく、状況は切迫しつつある」
「もしかして……春樹が居なくなったことも関係しているの?」
「ああ。その通りだ」
「一郎くん。私、ね」
「どうした大堂?」
「私、どうしても春樹に帰ってきて欲しいんだ。そのためなら、何でもするつもりだよ」
「大堂……」
「説明してくれないまま出て行った春樹に、文句言わなくちゃ気が済まない。
姉として、ちゃんと弟を連れ戻したいの」
「そうか」
「だから、教えて。一郎くん」

一郎くんは私を見て、静かに頷く。

「わかった。だがもう一人、君に用があるようだな」
「もう一人?」
「ああ」

一郎くんはオレンジ色の光が差し込む長い廊下に視線を移した。
遠くに見つけた人物に、私は見覚えがあった。

その人とは……
①冬馬先輩
②隆
③香織ちゃん

620
①冬馬先輩

長い廊下をゆっくりと歩いて来たのは、冬馬先輩だった。
約束どおり、私を迎えに来てくれたのだろう。
冬馬先輩は私と隣に居る一郎くんを交互に見て、無表情のまま口を開く。

「……先客のようですね」
「あっ、うん」

私は二人に挟まれて、困ってしまう。
冬馬先輩に春樹の居場所について詳しく尋ねたいけれど、一郎くんの話も聞きたい。

あたふたする私を他所に、一郎くんは冬馬先輩を硬い表情で見ていた。
修二くんのように露骨ではないけれど、冬馬先輩に対して壁を作っている。
そんな一郎くんは緊張を崩すことなく息を吐いた。

「久しぶりというべきですか。お互い随分と様変わりしたものです」
「……………」
「大堂に契約をしたのは、先輩、あなただったんですね」
「…………」
「あなたの目的、いや、反主流の目的はやはり大堂の力ですか」
「違う。僕は約束を果たすだけだ」
「確か大堂の母親と交わした約束、と聞きましたが」
「…………」
「だんまりですか。やはりあなたは何も変わっていないようだ」
「………………」
「たとえ恩人との約束とはいえ、なぜ契約をしたんです。大堂と契約する意味……それを知らないはず無いでしょう」
「……契約する前、僕は愛菜に確認した。立ち向かう力が欲しいかと」
「望んだから契約した、あなたはそう言いたいのか」
「……そうだ」
「何も知らない大堂に契約を持ちかけるなど、騙したのと何の変わりも無いでしょう」
「騙したのではない。僕は愛菜の要求に応えたまでだ」
「ざれ言を。結果、主流派の活性化を招いたのに」
「……だが君たちを牽制するのには成功している」
「それは、どういう意味ですか」
「では逆に問おう、鏡。主流と組んで愛菜をどうするつもりだったのだ」
「何もしない。ただ俺達は大堂に普通の生活を送ってほしいと願っているだけだ」
「では……なぜ№711は愛菜に力の話をした。能力の事を知った時点で、普通の生活は望めないだろう」
「……それはあいつも承知の上だったはずだ」
「複製の単独行動だという事か」
「答える義務は無い。それより、剣よ。あいつをそのような言い方で呼ぶのは止めてもらおう」
「複製という呼び名か」
「ああ」
「…………」
「もしもその言い方を続けるつもりなら、俺は全力であなたを倒すつもりだ」

(えっ、一郎くん?)

私は驚いて一郎くんに振り向く。
一郎くんにしては珍しく、攻撃的な言い方だった。
一郎くんの表情は、さっきよりもより一層硬いものになっていた。
冬馬先輩も表情こそ変わらないけれど、その目は射るように鋭い。

「……倒すべき敵は別に居る。ここで鏡とやりあうつもりは無い」
「それはこちらも同じだ。だが、どの時代にも大量虐殺を繰り返す剣とは、もはや協力出来無い」

私は……
二人を止める
②何もいえない
③怒る

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