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②どうして大切なのか聞く

「どうして大切なの? お姉さんは春樹が苦しむ所は見たくないとおもうよ?」
「そうだね……でも、俺は『姉さん』を覚えていたいんだ。一生懸命俺を守ってくれようとした『姉さん』をさ」
「あなたは、お姉さんが好きなんですね」
いままで黙って聞いていた大和先輩が言う。
春樹は少しだけ迷うように視線をさまよわせて、けれどしっかり頷いた。

「一番大切な人だったよ。何に変えても護りたいと思った人。
結局は最後までちゃんと護れなくて……最後まで守ってもらってたけど」
「なんか、それって大和先輩の夢に似てますね」
「そうですね」
「大和先輩の夢ってどんな夢なんですか?」
そういえば大和先輩の夢に関しては詳しく話していなかった。
説明すると、春樹は納得したように頷く。

「やっぱり俺はこの記憶があったままのほうが良い。
『姉さん』を消してしまいたくないから…他の誰もが忘れてしまっても、俺が覚えている限り『姉さん』は俺の中で生きているんだ」
春樹はすっきりしたような顔で笑った。

「今は記憶が混乱してしまうこともあるけれど、これから先はそんなことも無くなると思うし、愛菜は愛菜で変わらないし」
そう言って春樹は微笑んで、大和先輩に視線を移す。

「どうやらあなたは完全ではないにしろ気付いているみたいですね。
さすがというかなんというか……でも、俺は負けませんから」
挑むように言う春樹に、大和先輩は少し驚いたような顔をして真面目な顔になる。

「宣戦布告ですか? 受けてたちますよ」
「どうやら俺とあなたは昔からの因縁もあるみたいですし」
「ちょ、ちょっと二人ともどうしたの?」
突然、微妙に険悪な雰囲気になった二人に慌てる。

「気にしないで下さい、愛菜さん」
「愛菜は気にしなくて良いよ」
「ライバルは他にもいるのでしょう?」
「やっぱり侮れないですね先輩」
「ライバル? 春樹の記憶では先輩とライバルだったの?」
「そうだね。まぁ、他にもたくさんいたけれど……」
頷く春樹に首をかしげる。

①なんのライバルだったか聞く
②勝負も程ほどにしてと言う
③仲良くしなくちゃ駄目だという

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③仲良くしなくちゃ駄目だという

「仲良くしなくちゃ駄目だよ。はい、飴でもなめて二人とも落ち着いて」

私はポケットの中から、べっこうあめを取り出す。
そして、春樹と大和先輩に渡した。

「これ、近藤先生からもらったものだね」
「そうよ」

二人は渡した飴をしばらく眺めてから、口の中にポンと入れる。

「とても甘いです」
「ちょっと焦げてるみたいだ。少し苦いね」

口の中で飴を転がしながら、それぞれ感想を呟いている。

「これで二人とも仲良しだね」
「こんな簡単に仲良しって……」
「簡単じゃないよ。甘いものって不思議な癒しの力があるんだから」
「……癒しの力?」
「そうよ。ちょっとへこむことがあっても、イラッとしていても、たちどころに治っちゃう。
これは絶対に癒しの力なんだから」

私は大いに力説する。
そんな私を春樹は苦笑いで見ていた。

「うー。その顔は信じてないでしょ」
「そんな事ないよ。まぁ、少しは癒されるよね」
「その顔は信じてないんだね。本当にすごい癒しの力があるのに……」

私と春樹の会話を大人しく聞いていた大和先輩が、突然、大真面目な顔をして口を開いた。

「僕も愛菜さんの考え方に賛同します」
「でしょ。ほら、大和先輩も言ってるじゃない」
「だけどさ……」
「大阪の年配の女性達は『あめちゃん袋』なるものをいつも鞄に忍ばしては周りの人々を懐柔していると聞きます。
そういう裏づけからも、愛菜さんの考え方は理にかなっている事になります」

大和先輩は自分の導き出した答えに満足したのか、また黙って飴を舐め始めた。

私は……
①さっき言っていたライバルはどんな人が居たのかきく
②先輩は天然だと思う
③帰ろうと言う

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①さっき言っていたライバルはどんな人が居たのかきく

「そういえばライバルっていっぱいいたって言うけど、他には誰が居たの?私の知ってる人?」
なんのライバルかはわからないけれど、男の子なのだし居て当然なのかもしれない。
競い合って磨かれていくものがある事は、私にだって分かる。

(日常は仲良くしてほしいけどね……)
ライバルで競い合っているからといって、いがみ合う必要はない。

「聞いてどうするのさ?まあいいけど……どうせ、なんのライバルかはわかってないんだろうし」
春樹は肩を竦めると答えてくれる。

「まず一郎先輩」
「え?一郎くん?」
頭の良い一郎くんもライバルに上がってくると言う事は、勉強関係のライバルだろうか?

「それから、修二……修さん」
「修くん!?」
テニスをやっていると言っていたから、テニスのライバルなのか?
でも、あっさり編入してくるとか言うあたり頭も良いのかもしれない。

「隆さん」
「隆……?」
隆だって頭は悪くはないけれど、名門学校の春樹とライバルになれるほど頭がいいとは言えない。

「脱落したけど周防さんとチハルもかな?」
「周防さんに千春???」
ますます分からなくなる。周防さんは医者だから頭がいいのは分かる。
けれど千春も?しかも脱落って??

「もしかしたら兄さんも」
「兄さんって……秋人さん?」
そういえば秋人さんは何をやっている人だろう?でも春樹のお兄さんだし頭が悪いという事はないだろう。

「今、一番強敵なのは長谷川先輩かも」
「か、香織ちゃん!?」
香織ちゃんの名前まででてくるなんて、いったいなんのライバルだったのか。

「一体なんのライバル何だかさっぱりだよ……」
「そこは愛菜ががんばって気付いてほしいかな」
「そうですね」
春樹と大和先輩は教えてくれる気はないようだ。

①意地でも教えてもらう
②ヒントをもらう
③考えるのを止める
④もっと考える

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②ヒントをもらう

「私だけノケモノなんてズルイ」

二人だけ納得して、私だけ分らないのは理不尽だ。
抗議する私を見て、二人とも困ったように笑っている。

「どうしますか、大和先輩」
「愛菜さんに答えを教えてしまっては、僕達が頑張る意味がなくなってしまいます」
「ですね。俺もそう思います」

私を置いてきぼりにして、二人の意見は一致しているようだ。
仲が良いのか悪いのか、さっぱり分らない。

「じゃあ、せめてヒントだけでも教えてよ」
「ヒントか……。それくらいだったら、教えてもいいのかな?」

春樹は大和先輩に確認するように目配せをしていた。
大和先輩はその春樹の視線を受けて、うなずく。

「そうですね……。このままでは愛菜さんが可哀想ですから」
「やった! ねぇねぇ、ヒントは何?」
「ヒントは……これかな」

春樹は私が手に持っていた飴の袋を指差す。

「この……飴?」
「うん。愛菜の手の中にあるその飴だよ」

私の手の中には、のこり一つになったべっこうあめが残っている。

「俺も大和先輩も、愛菜から飴を貰っているから、その美味しさは知っているよね」
「うん。今も舐めてるしね」
「まぁ、さっきの愛菜の言葉を借りるなら、一度はその味に俺も大和先輩も癒されたんだ」
「そうだね。甘いの癒し力は半端無いもの」
「で、俺と大和先輩だけじゃなく、さっき言った全員がこの残り一つの飴を欲しがっていたとする。
この飴を巡って争奪戦が始まってしまったら……それはライバルって事だよね」

(なるほどね。あれ、ちょっと待って……)

「みんなはこの飴を巡って争っているの? え? えぇ??」

うなずく大和先輩を見ても、このヒントがまったく要点外れで無い事はわかる。
だけど私にとっては、余計分らなくなってしまっただけだ。
困っている私を見て、春樹は楽しそうに口を開く。

「じゃあ、ヒントを教えた俺達から逆に質問させてもらうけど。
もし、この飴を俺達全員欲しがっていたとして……もし愛菜ならこの一つだけ残った飴をどうすると思う?」

うーん。私ならどうするだろう……
①特定の誰かにあげる
②自分で食べる
③ずっと残しておく
④砕いてみんなで分ける

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①特定の誰かにあげる

「うーん、一番欲しがってる人にあげる、かな?」
「それって誰?」
「え? それは分からないよ、みんなに聞いてみないと」
「まあ、そうだけど……」
私の答えに春樹はなんともいえない微妙な顔をする。
見ると大和先輩もすこし苦笑しているようだ。

「でもまあ誰かにあげる気はある、ってことが分かっただけでもよしとしておこうか」
「そうですね。みんなで分けるなんて言われたらどうしようかと思いましたよ」
「あ、皆で分けてもいいなら……」
「却下。絶対その一つを誰かにあげる事」
大和先輩の言葉に光明を見出した気がして口に出すと、あっさりと春樹にダメだしをくらう。

「最終的に、誰にあげるかは愛菜が決める事だけど。もらえるようにがんばらないとね」
「ええ」
頷きあう春樹と大和先輩にふと気になって訪ねる。

「もし私がだれかにこれを誰かにあげたら、他の人は怒るのかな? みんな欲しいんでしょう?」
「怒りはしないよ。少なくとも俺は」
「僕も怒りませんよ。愛菜さんが決めた事ですから」
「そっか……」
それに少しだけホッとする。

「よかった、みんなと気まずくなるくらいならあげないほうがいいもん」
「……そうはならないように言っておくよ」
なぜか嫌そうに春樹が言う。

「っていうか修くんとか香織ちゃんあたりは強引に取って行きそうなきもするけどなぁ」
「……愛菜よく分かってるじゃないか、なんでコレで分からないかな?」
幾分疲れたように春樹がぼやいている。

「強引に奪われたのなら、僕たちが怒りますからね。ちゃんと自分の意思であげるように死守してくださいね」
大和先輩がやけに真面目な顔で言うので、慌てて頷く。

頷いてからふと思う。
①(これってたとえ話しだよね?)
②(みんなが欲しいものって私が関係してるの?)
③(一個しかないものを奪い合うライバルってことよね)

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③(一個しかないものを奪い合うライバルってことよね)

「そうだ、だったら皆で私から奪えばいいよ。。」
「えっ」
2人が私の答えに驚いたのか面をくらったような顔を見せる。

「私があげるのを皆が待つんじゃなくて、私が皆がこの一つの物を奪いに来るのを待つの。
一つの飴を皆に奪うチャンスをあげればそれが一番の平等になるし、きっと毎日が楽しいよ。」
この飴を巡って色んな人が私に会いに来る、それはきっと騒がしい毎日で飽きることの無い一日になる。
私はこの宝の飴をもって逃げる、それを追いかける皆を想像するだけで気持ちが浮き立つようだ。
「だれがこの飴を一番初めに奪いに来るか、楽しみだよ!。」

「姉さんって結構、小悪魔だったんだな。姉さんの知らない一面をみたよ。」
驚きを隠せないのか春樹は私のことを姉さんってまた呼んでる。
「元々が天然小悪魔です。」
ポツリと大和先輩がつぶやく。でも合ってるかもしれないと自分でも思った。
幸せの飴を持って逃げる私は、きっと皆からしたら悪魔なんだろう。
だから小悪魔って言われてさらに気分が高揚する。

「はやく、私を捕まえて、じゃないとこの飴なくなっちゃうぞ。」
イタズラ悪魔になったつもりで飴を掲げクルリとまわる。

「じゃあ、宣戦布告。俺が捕まえるよ。」
「えっ。」
右耳を通る小さなリップ音。いきなりのことでわからなかったけれど一瞬頬に何か感触があったような。
「だって俺はもう我慢しなくていいんだよ。
だって姉弟じゃないし、今まで我慢していた分を含めて本気で奪うから覚悟してて。」
「えぇっ。」
ま、まさかいまのは……頭が追いつかない。春樹の今の顔は私よりよっぽど悪魔かもしれない。

「じゃあ、僕も。」
大和先輩は跪くと左の手の甲に唇を寄せ囁く。
「貴方が望むならば、僕は剣となり盾となり……翼にさえなってみせる。」
とても恥ずかしいけれど懐かしい台詞。
「あなたと共にその飴を守ってみせます。」
暖かい唇を指先に感じる。大和先輩が私に……き、キス!
というか、は、春樹も。

「おまえら……校内で何をやっている。」
「2人ともまだまだ青いね~、そういうときはやっぱり唇でしょ。」
一郎君と、修君!!見られてたの。
「俺も飴争奪参加するからね、奪うのは俺。待ってて、愛奈ちゃん。」
私は頭が全然回らなかったのか気がつかないうちに修君が凄く近い。
止めようとしているのか右から一郎君がすぐ傍まで駆け寄ってくる。

私はとっさに
①右の手のひらで唇をガード
②一郎君の方へ避ける

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②一郎君の方へ避ける

とっさに一郎くんの方へ避ける。
一郎くんを盾にするようにその背中に逃げると、私をかばうように一郎くんが立ちふさがり修くんを追い払っていた。

「修! ふざけるのも大概にしろ! ……大丈夫か大堂?」
「あ、う、うん」
火照る頬を覚ます為に両手で頬をおおう。

「一体なんなんだ? その飴はただの飴だろう?」
不思議そうに一郎くんが言う。

「もしかして一郎、気付いてないの? 飴争奪戦の裏の意味」
「裏……?」
一郎くんは私と飴を見比べて、急にすぅっと目を細めた。

「なるほど……、では俺も参加する事にしよう」
「え、え!?」
唐突に右手を取られて引っ張られる。

「うわ、抜け駆け禁止!……ちっ、余計な事言っちゃったか」
修くんが慌てたように私と一郎くんを引き離す。

「抜け駆けも何も、捕まえたもの勝ちなのだろう?」
「そりゃぁ……」
「あんたたち、なにやってるの?」
「香織ちゃん!」
何時の間にやってきたのか、騒いでいる私たちを呆れたように見ている香織ちゃんを見つけて私は走りよる。

「よしよし愛菜、どうしたの? 男共によってたかっていじめられたか?」
「そんな事するはずがないでしょう」
「そうそう、ただの飴争奪戦だよ」
春樹が言い修くんが私が持っている飴を指差す。

「飴?」
香織ちゃんは私が持っている飴を見る。

「一番最初に私を捕まえた人にあげるの」
「………愛菜」
きょとんとした後に、はぁーっと香織ちゃんは額に手を当てて、盛大なため息を突く。

「な、なに?」
「ううん、いいの、いいのよ愛菜は変わらなくて。
さて、と。 もちろんアンタたちはこの香織様とやりあう気があるってことよね?」
「必要ならね」
「ふん、私はそう簡単に越えられないわよ! 覚悟なさい」
「やっぱり、一番の強敵は長谷川先輩かな」
「今の所一番信頼をえているようですね」

(みんなそんなにこの飴がほしいのかな?)
不思議に思っていると、下校のチャイムがなる。
本格的な片付けは明日なので、今日はもうこれで帰って良い事になっている。

「さあ、帰りましょう」
香織ちゃんの言葉に……

①「うん、行こう」
②「せめて校門まで皆でいこう」
③「ごめん、先に帰ってて」

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②「せめて校門まで皆でいこう」

私の提案に、みんな快く賛成してくれた。
もしかしたら手の中の飴が目当てかもしれないけど、理由はどうあれ賛成してもらうのは嬉しい。
私は香織ちゃんと、集団の中の一番後ろを歩く。

すぐ前には一郎くんと修くんが歩いていた。
二人の会話が自然と耳に入ってくる。

「修、その紙袋はなんだ。うちの校章が印刷されているようだが」
「ん? これ? これは編入手続きの願書」
「編入手続き……?」
「ここの学校すごく面白そうだし、近いうちに転校しようと思ってね」
「お前!? 今通っている学校はどうするつもりだ!」
「もちろん転校に決まってるじゃん。ここの生徒になるんだからさー」
「……正気か? おじさんやおばさんには相談したのか!?」
「うちの両親、俺に甘いの知ってるでしょ」
「確かに甘いが……テニス部はどうするつもりだ。あの強豪校から出て行くつもりなのか!」
「当たり前でしょ。ここにテニス部があるのは確認済みだし、どこだって出来るじゃん」
「………………」

(やっぱり、本気だったんだ)
修くんの強引さには、一郎くんも言葉が出ないようだった。

さらに前には、さっきは妙に意気投合していた春樹と大和先輩が歩いている。

「劇の中に出てくる帝はすごく記憶力がいいんです」
「……確かにそれは僕と似ていますね」
「主役の壱与という女の子も聡明なんですが、その子でも小さい頃からコツコツと文字を覚えていたんです。
それを帝はたった一年ほどでマスターしてしまったんですよ」
「……なるほど、それはすごいです」
「幼馴染の守屋だって壱与と一緒に長い時間をかけて文字を覚えていったんです。さすがに理不尽だと思いませんか」
「……僕も理不尽だと思います」
「当時の日本にはちゃんとした文字が無かったんです。文字は正確にそしてより多くの人が見ることの出来る重要なツールですよね。
その重要性を一番最初に見抜いていたのは帝ではなく、出雲国王なんですよ」
「……それは立派です」
「本当に分ってくれていますか? 俺は真剣に話しているんですよ」

なんだか、春樹が大和先輩に絡んでいるように見えなくも無かった。

①香織ちゃんに話しかける
②今日の文化祭について考える
③みんなを見る

999
③みんなを見る

(なんか不思議……)
よく考えてみれば一郎君と香織ちゃん以外は知り合って間もない人たちばかり。
それがたった一日でこうやって肩を並べて一緒に帰るほどに親しくなっている。
まるでこうして出会うことが決まっていたかのように。

「決して偶然なんかじゃないよ。こうやってみんなが集まって笑い合えるのは……愛菜が居たからなんだ」

ふいに春樹の言った言葉がよみがえる。

「偶然じゃないのかな?」
「愛菜?」
思った事が口から出ていたらしい、香織ちゃんが不思議そうに私を見る。

「必然っていうものがあるのかもって、なんとなく思ったの」
「俺と愛菜ちゃんの出会いは間違いなく必然だとおもうよ」
私の言葉を聴きとめたのか、振り返って修君が笑う。

「修……お前はまた……」
頭がいたい、という感じで額を押さえた一郎君に、修君は幾分真面目な顔で答える。

「俺はいたって真面目だよ。愛菜ちゃんとは出会うべくして出会ったっておもう」
その言葉に春樹が振り返って言う。

「それをいうなら、愛菜にかかわるみんながそうですよ。俺達はみんな出会うべくして出合ったんです」
「俺は愛菜ちゃんだけでいいけどなぁ……」
嫌そうに修君が言う。

「無理でしょう。愛菜にかかわるなら絶対に俺達にも会う事になる」
確信を持って言う春樹に私は首をかしげる。

「なんで私なの? 香織ちゃんとか春樹かもしれないじゃない」
「違うよ、だって俺達は、ライバルなんだから」
「ライバルって……この飴の?」
「そう。誰が愛菜を捕まえられるか競うライバル。だから中心は愛菜なんだ」
春樹はそう言って、ふと思い出したように付け加える。

「まあ、一名ここにはいないけど、彼は小さい頃から一緒だったんだから少しはハンデもらわないとね」
「それって隆の事?」
そういえば、屋上での会話でも隆の名前が上がっていた。
私の疑問に、春樹は微笑むだけだ。
みんなを見ると、同じように微笑んでいる。
まるで私以外、すべてを解っている共犯者のようだ。

「なによ、もしかして……

①みんなで私をからかってるの?」
②みんな私になにか隠していない?」
③私だけ気づいて無いって言うの?」

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③私だけ気づいて無いって言うの?」

「そうだよ」
「そうです」
「そうだな」
「そうよ」

さすがに同時に言われると、少しばかり悔しくなる。
(だけど、きっと誰も教えてくれないんだろうな……)

ふくれる私を覗き込み、修くんがにっこり笑いながら囁く。

「でもいいじゃん。今日は楽しかったんだしさ」
「……うん、まぁすごく楽しかったけどね」

修くんの言うとおり、今日は一日中楽しかった。
午前中は放送委員の仕事をしたり、みんなとご飯を食べた。
午後からのクラスの劇は大成功だったし、色々見て回れて本当に充実していた。

校舎を抜けて校庭まで出て行くと、空はすっかり暗くなっていた。
秋特有の乾いた風が吹き抜けて、少し肌寒いくらいだ。
晴れ渡った夜空は雲一つ無く、綺麗な星がたくさん瞬いている。

(あれ? ……一体何?)

今一瞬、ほんの一瞬だけ空に消えていく人影を見た気がする。
夜空に吸い込まれていく天女のように、キラキラ光る薄い羽衣を身にまとっている女の子のだった。
一番不思議だったのは、私達と同じ制服を着ているという事だ。
目をこすりながらもう一度見てみると、その人影は跡形も無く消えていた。

(きっと……気のせいだよね)

「愛菜ーー! 早く来ないと置いてっちゃうわよーー!!」

香織ちゃんの声で我に返ると、さっきまでいたみんなが居なくなっている。
前を向くと、手を振る集団があった。
私がぼんやりと空を見ている間に、みんな校門まで着いてしまっていたようだ。

待ってくれている人たちに向かって、私は迷わず駆け出す。
さっきまでふざけ合う様に奪い合っていた不恰好な飴は、まだ私のポケットの中に入っている。
その甘くて少しだけ苦い味はいつまでも私の中に残っていく、そんな気がした。


トゥルールート完

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最終更新:2009年04月18日 17:03