951
①「それってどういう意味ですか?」

変わり者だと言われているみたいで、私は頬を膨らませる。
そんな私の顔を見て、春樹くんが穏やかな顔をしながら微笑んだ。

「違うよ。俺も兄さんも愛菜のことを褒めているんだから」

そう言うと、春樹くんは席にいる全員の顔をぐるりと見渡した。
その視線につられる様に、私も偶然に居合わせた人達を見る。
みんな和気藹々と、楽しそうに食事をしていた。

「きっと愛菜には人を惹きつける不思議な力があるんだよ。ここに集まったみんなも姉さ……ううん、愛菜が居たから集まれたんだ」
「私が……居たから…?」
「そうだよ」
「そ、そんな……ただの偶然だよ」

今日は文化祭で一般の人達も集まっているから、偶然居合わせただけの事だ。
それぞれの人達が少しずつ繋がりあって、こうやって同席できたに過ぎない。
知り合いが増えたのは嬉しいけど、まるで私が引き起こした必然のように言う春樹くんが分らなかった。

「決して偶然なんかじゃないよ。こうやってみんなが集まって笑い合えるのは……愛菜が居たからなんだ」

春樹くんは自信を込めた言葉で断言する。
そんな春樹くんに対して、何も言えなくなってしまう。
真っ直ぐな瞳は逸らされることなく、私だけをしっかりと捕らえていた。

「俺は知っているんだ。愛菜がどれだけひたむきに頑張ってきたか。
たくさん苦しんでいたのも、悩みながら決断してきたことも……全部覚えているんだ」

昨日会ったばかりの春樹くんが、まるで私をずっと見守っていたように話している。
まだ記憶違いが治っていないのだろうか。
困惑している私に気づいたのか、お兄さんの秋人さんが春樹くんをたしなめた。

「春樹、愛菜さんが困っている」

その言葉で、春樹くんは我に返ったようだった。
そんな春樹くんを見て、秋人さんはため息を吐きながら私に頭を下げた。

「済みません、愛菜さん。最近の春樹は少し記憶が混乱しているようなんです。あまり気になさらないでください」
「いいえ……」

春樹くんに視線を向けると、顔を伏せながら小さな声で「ごめん」と謝っていた。

私は……
①「いいよ。気にしてないから」
②「春樹くんの言うとおりだったら、嬉しいな」
③「春樹くん。怖い……」

952
①「いいよ。気にしてないから」

記憶の混乱の事は知っているから、笑って首を振る。
春樹くんの記憶の中にいる「姉さん」はそういう風に一生懸命がんばる人で、そしてそんな「姉さん」を春樹くんは好きなのだ。

(私とはぜんぜん違うとおもうんだけどな)
そんな事を思いながらたまごサンドを食べていると、大宮先生と隆の声が耳に入った。

「隆くんたちはこの後どうするんですか?」
「俺たちは……すこし時間潰して、午後一番に愛菜のクラスの出し物を見に行く予定です」
「彼女のクラスの出し物ですか、何をやるんですか?」
「演劇だそうです」
「へぇ、演劇?」
「演劇か、面白そうだな。何をやるんだ?シンデレラか?白雪姫か?」
二人の会話に周防さんが加わる。

「そういうのじゃないですよ。愛菜が書いた脚本なんです」
「え、愛菜ちゃんが?」
「愛菜が良く見る夢をそのまま脚本にしたんだよな」
「う、うん」
皆の視線が私に集まって、ちょっと居心地が悪い。

「愛菜ちゃんが書いた脚本か、それは是非見にいかないとね。で、愛菜ちゃんはなんの役なの?」
修くんがにっこり笑って聞いてくる。

「私は直接舞台には上がらないよ。音響担当だし」
「えー、なんだ、残念。でも見に行くよ」
「うん、楽しみにしてて。……よければ皆さんも見に来てください」
「そうだね……春樹も行くんだろう?」
「うん」
「じゃあ、一緒に行こうかな」
「私も行きたいわ」
「俺は綾についていくから」
「周防は来なくても良いですよ?」
わいわいとまたそれぞれの会話に戻っていく。
私はそれを見ながら、なぜかとても嬉しくなった。
そのまま和やかに食事を終え、教室を出る。
時計を見ると結構な時間が経っていて、もう演劇の準備のために体育館へ行かなければいけなかった。

「ごめん、私演劇の準備でもう行かなくちゃ」
「そうか、俺たちは後からゆっくり行くよ」
「うん、分かった、また後でね」
隆の言葉に皆が頷いたので、私は手を振って体育館へ向かう。
体育館ではまだ前のプログラムの最中だったが、舞台袖へ行くとクラスの皆も徐々に集まってきていた。

とりあえず……
①香織ちゃんの所へ行く
②音響設備のチェックに行く
③台本を再確認する

953
①香織ちゃんの所へ行く

舞台袖の中で香織ちゃんの姿を探す。
私は香織ちゃんの姿を見つけると、思わず息を飲んだ。

「香織ちゃん……すごく綺麗……」
「あ、愛菜~~!!」

化粧をして、舞台用の古代巫女の衣装に身を包んだ香織ちゃんが胸に飛び込んできた。
頭には冠をして、白を基調とした着物に赤の帯を締めている。
下半身はヒラヒラのスカートに似た袴、首には勾玉を提げていた。
うしろの長い髪は下ろして、横の髪はフワッと結ってある。

(本当に夢の中の巫女みたいだ……)

「愛菜~どうしようー! 緊張してきたー」

香織ちゃんにしては珍しく動揺している。
いつもは私が香織ちゃんには励まされてばかりだけど、さすがに今回は逆のようだ。
泣きつく香織ちゃんに、私は声を掛ける。

「練習どおりにしていればいいんだよ。いつもの香織ちゃんらしく、ね」
「うー。いつもの私って一体、どんな風なのよー!」
「えっと、面倒見が良くて自信満々でお調子者でたまにドジして……ノリがいい?」
「何よ。それじゃ駄目じゃない!」
「駄目じゃないよ」
「このままじゃ、頭に叩き込んだ台詞全部忘れそうだわ。そうだ、愛菜」

夢のように綺麗な香織ちゃんが、私の前に仁王立ちになる。
そして、くるっとうしろ向きになった。

「喝入れて!」
「カツ?」
「そうよ。こう、背中でもお尻でもなんでもいいから、平手でバシッといっちゃって」

しゃべるといつもの香織ちゃんなのが、らしいと言えばらしい。
練習では良い演技をしていたし、きっと香織ちゃんなら上手く出来るに違いない。
腕時計を確認すると時間が迫っている。
私もそろそろ音響の方に行かなくてはいけない。

私は……
①背中を叩く
②お尻を叩く
③抱きつく

954
③抱きつく

私はぎゅっと香織ちゃんに抱きついた。
緊張のためか、香織ちゃんは少し震えている。

「大丈夫だよ。香織ちゃんなら絶対失敗しないから」
「……どうして、そう思うのよ」
「だって、香織ちゃんだもん!」
「ふふ、なにそれ?」
こわばっていた背中から、ふっと力が抜ける。

「香織ちゃんがいっぱい練習してたの知ってるし」
香織ちゃんから離れて、言うと振り向いた香織ちゃんに笑ってみせる。

「そうよね、何回も練習したもんね。いざとなったらアドリブでもなんでもやればいいのよね!」
「そうそう」
力強く言った香織ちゃんに、頷いて私は再度時計を見た。

「あ、私ももう音響の方に行かなくちゃ。ちゃんと見守ってるから、がんばって!」
「うん、愛菜の書いたシナリオだもん、絶対成功させなくちゃね!」
ぐっとこぶしを握って自分に言い聞かせるようにした後、香織ちゃんが私に手を振った。

「お互いがんばりましょう!」
「うん!」
(香織ちゃんはもう大丈夫かな……)
音響設備の所に移動すると、丁度前のプログラムが終わる。
私たちの劇まで15分の休憩を挟むが、その間に舞台の準備を終わらせないといけない。
何とか幕が上がるまでにセットの準備が終わり、香織ちゃんが舞台の中央に立ち、幕が上がるのを待つ。
その間にこっそり客席を見ると、隆達はほぼ中央に座っていた。

(時間どおり来たみたいだね)
私が皆の姿を見つけるのと同時に、幕が上がり始める。
私は慌てて劇に集中する。
幕が上がると、まず香織ちゃんの姿に体育館中にほぅというため息が響いた。

(そうだよね、香織ちゃんきれいだもん)
私は台本を確認する。
最初は……。

①壱与と少年の出会いのシーン
②神器で自分の国が滅びたのを知るシーン
③壱与が何も食べず部屋にこもっているシーン
④神器の力が無くなり勤めを果たせず嘆くシーン

955
①壱与と少年の出会いのシーン

私は深呼吸をして、ナレーションを読み始める。

「――ずっとずっと昔、人々がまだ八百万の神々だけを信じ、祈りを捧げていた時代。
日本がようやく一つの国として成り立ち始めたものの、 内乱は収まらず、その存在もまだ強固なものではありませんでした。

先代の巫女から選ばれ、帝の元で託宣の巫女として生きていくことになった壱与。
豪族の娘だった彼女は故郷を離れ、神殿に幽閉されるまま日々を泣いて過ごしていました。
まだまだ壱与は幼く、巫女としても未熟だったために、味方になってくれる者がだれも居ませんでした。
そんな時、一人の少年と出会ったのです」

私は音声をオフにして、虫の音のBGMを再生する。
舞台上は夜の設定のためにほの暗く、香織ちゃんのすすり泣く声が響く。

私の横に居る子がSEで物音を再生する。
場内には『ガタッ』という音が響き、香織ちゃんはビクッと肩を震わせた。

「こんな遅くに……だれ?」

香織ちゃんは脅えた目を凝らして、舞台横を見る。
するとスポットライトが照らされ、男の子が立っているのに気づく。

「君こそだれ? ここはだれも入っちゃいけないはずだよ」

古代の衣装を身に着けた、同じクラスの九条武志くんが現れた。
私と同じで少しあがり症なところのある、気の優しい男子だ。
女子に免疫が無いのか、香織ちゃんと演技していてもすぐに赤くなるから練習は大変だった。
今はそれも克服して、香織ちゃんに負けない存在感が出るようになっている。

私がぼんやりしている内に舞台上では、香織ちゃんが故郷の出雲の話をしている場面になっていた。

「その幼馴染の弓削ったら、泣き虫なくせにお嫁さんになって欲しいって言ってきたの。
だから私、言ってやったわ。大きくて、強くなったらお嫁さんになってあげてもいいわよって。
でもね、何をやっても鈍くさいのに手習いだけは私よりも良かったのよ。
弓削は楽しそうだったけど、私は一日の中で手習いの先生が就く時間が一番キライだったんだ」

故郷の話を聞いてもらうのが嬉しい壱与を、香織ちゃんはのびのびと演じている。

「僕も手習いは嫌いだな。やっぱり僕たちって、似てるね」

武志くんが香織ちゃんに向かって微笑み、香織ちゃんも笑い返していた。

この一幕は二人の出会いから始まり、一年後また再会するまでで終わる。
その再会で、壱与は男の子から勾玉を贈られるのだ。
壱与が正式な巫女になってからが、二幕のスタートになっていた。

①一幕の続きから
②二幕目から
③客席を見る

956
②二幕目から

一旦幕が下り、舞台に神器のセットが置かれるのを確認して、私はナレーションを読む。

「ある日、いつものように神託を受けるため儀式を行った壱与。
 しかし八咫鏡に映し出されたのは、故郷の出雲に大和の兵が攻め込み、村々を焼き払っている姿でした。
 鏡の中で人々は戦火に逃げ惑い、無残に殺されていきます。
 壱与は悟りました。これはすでに起こってしまった過去の出来事だと」

ナレーションと同時に幕が上がり始め、終わると同時に香織ちゃんのセリフが始まる。

「な、なんで……こんな事に……出雲が」
泣く香織ちゃんの背後から、武志君が冷たい表情で近づく。

「壱与、とうとう視てしまったんだね」
その言葉に反応して香織ちゃんがパッと振り向くと、武志くんに掴みかかる。

「帝……あなたがやったの!」
少年は観念したように肩をすくめる。
香織ちゃんと武志くんの問答が続き、香織ちゃんを抱き締めようとした武志くんを突き飛ばして、香織ちゃんは鏡を割る。
その後草薙剣を手に取った香織ちゃんは結局帝を傷つける事が出来ず、放心して座りこむ。

「壱与、僕とおいで。君だけは僕が守るから」
武志くんが差し出した手を香織ちゃんはただぼんやりと見つめる。
そのまま動こうとしない香織ちゃんを覗きこむように、武志くんも屈んだ。

「壱与、さっきも言ったけれど僕には大和の民を守る義務がある。これは必要なことだったんだ」
答えない香織ちゃんに、武志くんが話し続ける。

「出来る事なら、僕だって君の一族を滅ぼしたくは無かったよ。でも、僕は帝なんだ。
民を守る為に非情な決断をしなければならない時だってある」
なんの反応も示さない香織ちゃんを、武志くんは軽く揺さぶる。

「……壱与? ……壱与!」

舞台が暗転するタイミングでマイクのスイッチを入れて、私は話しだす。
私のナレーションの内に、神器のセットは片付けられているはずだ。

「壱与が八咫鏡を割ってしまったため、バランスが崩れ神器に宿る力が開放されてしまいました。
けれど壱与と契約を交わした神器の力はまだ壱与の近くにとどまり続けて居ます。
心優しい壱与は帝を憎みきれず、神器の力を使って世界を壊してしまうことを恐れ、心を閉ざしてしまいました。
今の壱与には立ち直る時間かきっかけが必要だったのです」

二幕は壱与が自分の国が滅ぼされたのを知った所から始まる。
そして、心を閉ざした壱与に尽くそうとする帝と、語りかけてくる父のシーン。
帝を許した壱与と帝の穏やかな日々、そして弱まっていく力までが二幕で演じられる。
三幕目は反乱が起こった場面から始まる。

①二幕の続きから
②三幕目から
③客席を見る

957
②三幕目から

三幕に入り、私はまたナレーションを読み上げる。

「国家統一をほぼ成し遂げた帝。しかしその強引ともいえるやり方に異を唱える者達が現れるのは世の常です。
それぞれの国の王だった豪族達の中に、帝の地位脅かすほどの権力を手に入れつつある男が居ました。
その名は守屋。若くして大連(おおむらじ)という臣下の中で最高の地位を手にした人物でした」

舞台は帝に謁見する守屋という設定から始まる。
守屋の役は教室で私の隣の席に座っている藻部くんだ。
藻部くんは文化祭の実行委員をしながらこの役に挑んでいる、頑張り屋の男子だ。

「守屋、私に話とは何だ」

帝役の武志くんは一段高い場所から、藻部くんを見下ろすように言った。
守屋役の藻部くんは深々と下げた頭をゆっくり上げて、口を開く。

「僭越ながら、寺院建立の件で申し上げたき事がございます」
「守屋、お主は国家統一に尽力した功労者だ。私に構わず申してみよ」
「はい。この国は八百万の神々によって、支え守られてきた土地にございます。
しかし、帝は大陸の神に心を奪われているように思えてなりません。
国神を蔑ろにするは、神の血統である自身を蔑ろにすると同義ではございませんか」

臣下に過ぎない守屋にとっては出過ぎた発言だっただろう。
帝役の武志くんは、守屋役の藻部くんを冷たく一瞥して言う。

「お主が苦言を呈しても私の意向に変わりは無い。大陸の知識を得ずして、この国に未来は無いのだ。
文化が花開いている大陸の人々にとってわが国など蛮族に過ぎぬのだぞ」
「お言葉を返すようですが帝、あまり大陸に執着なされますな。
わが国にも守らねば成らぬものがあります。すべてが大陸の教えに取って代わっては侵略されたのと同じ事です」

帝の考えと、守屋さんの考えは真っ二つに割れている。
どれだけ話し合っても堂々巡りだと言わんばかりのため息を帝は漏らした。
そして、居住まいを少し崩すと、守屋に対して口を開いた。

「この話は終わりだ守屋。ところで話は変わるが最近良くない噂を耳にしたのだが、お主は知っているか」

守屋役の藻部くんは、絡むような視線を投げかけてくる帝に深々と頭を下げる。
帝は態度を崩しても、臣下の守屋が態度を軟化させることは無かった。

「いえ、何も存じ上げておりませんが」
「ある男が復讐を企てていると……。私を亡き者にしようという噂だ」
「そ、それはどういう輩でしょう」
「名を弓削と言うらしい。幼少の頃は出雲に暮らし、その出雲国王に大変心酔をしていたとか。
私の元で巫女になった出雲の姫君にも執着を持っていると聞く。お主はその人物を知らぬか?」
「いいえ。私は何も存じ上げておりません」
「そうか。お主なら何か知っておると思ったんだかな。残念だ」

舞台が暗転して、次の場面に移っている。
二幕の終わりは反乱の終結で幕を閉じる。
勝者は帝で敗者は守屋だ。

①三幕の続きから
②四幕目から
③客席を見る

958
①三幕の続きから

舞台が暗転したところで、ナレーションを続ける。

「帝が探りを入れた通り、守屋は幼名を弓削と言いました。守屋は出雲に居る頃からずっと壱与に恋をしていたのです。
 守屋は壱与の父から、出雲の宝の一つを譲り受けていました。
 三種の神器と対になる宝、十種の神宝がそれです。神宝の一つ八握剣を持ち、守屋はついに反乱を起こします。
 壱与が帝に寄せる想いを知らない守屋は、壱与が不本意ながら帝の巫女として神託や儀式をしていると思っていたのです」

パッと舞台に電気が付き、神器を置いた台に向かう香織ちゃんと、その後に立つ武志くんの姿が見える。

「反乱の首謀者守屋が、弓削だと言うのですか?」
香織ちゃんが驚いて、帝を見る。

「そうだ。彼に大和の兵は大勢殺された。壱与の幼馴染ということだが、私に刃向かうのなら……」
「……」
言葉を途中で切って武志くんは静かに目を閉じた。香織ちゃんも何も言わずに俯く。
武志くんはそのまま何も言わずに舞台袖へと歩いて行き、客席の死角に隠れる。
香織ちゃんは舞台にある、三種の神器を置いている台の前に立ち、割れてしまった鏡に触れる。

「弓削、どうしてそんなことをするの? 私たちのように悲しい思いをする人を増やしてどうするというの?」
香織ちゃんは俯き、しばらく動かない。そして、不意に顔を上げると台の脇に置いてある鈴を手に取った。

「私に出来る事は無いに等しい……。でも願うことはできる。この地に平和を」
シャンと鈴がなる。

この先はこの舞台の目玉、香織ちゃんの舞だ。大和の平和を願って舞う壱与のシーン。。
客席のあちこちから感歎のため息が聞こえる。
(香織ちゃんさすがだよ)
香織ちゃんの舞と同時に、香織ちゃんの後に置かれている台から神器が中に浮かび上がる。
舞を舞っている香織ちゃんは気付かない。
神器は天に消え、香織ちゃんが一心に舞う姿だけが舞台にあった。
しばらくして何かに気付いたように舞が不自然に止まり、香織ちゃんが神器の置かれていた台を振り返る。
その途端天から三つの光が差し、上から神器が降りてくる。割れてしまったはずの鏡も元に戻った姿で。

「神器が……なぜ?」
台に落ち着いた神器に香織ちゃんはしばらく放心していたが、我に返ると鏡を手に取った。

「神々が私の願いに答えて機会を与えてくれるというのなら……」
鏡の力を使い、香織ちゃんは藻部くんに話しかける。

「弓削、聞こえますか?もうこんな事は止めてください。これ以上血を流してどうするというのです?」
「この声は……姫様? 一体これは……?」
壱与が立つ場所とは反対側にスポットライトがあたり、藻部くんがどこからともなく聞こえてくる声に驚き当りを見回す。
壱与は戦を止めるよう守屋を説得する。守屋は思いのほかあっさりと頷いた。
戦で傷を負った守屋を救った同郷の女性が、壱与と同じ事を望んだというのだ。
守屋は負けを認め、投降する。
壱与は帝に守屋を殺さないよう願い出て、帝は守屋を大和の地から追放すると言う条件でしぶしぶそれを了承した。

守屋の投降で反乱が終結し、三幕が終わった。

①四幕目へ
②客席を見る

959
①四幕目へ

この四幕が最終幕になる。私は残り少なくなった台本をめくった。

「反乱が終結し再び穏やかな日々が訪れようとした矢先、帝が病に倒れてしまいます。
この国を強固なものにと、丈夫とは言い難い身体で無理を押し通してきた事が原因でした。
日に日に弱っていく帝。帝をなんとか救いたい壱与。
しかしどれだけ祈祷をしても、その天命を変える事など出来るはずもありませんでした」

舞台の中央では、床に伏す帝の姿がある。
壱与の香織ちゃんが、帝役の武志くんに薬湯を持ってくる場面から始まる。

「帝、薬湯をお持ちしました」
「壱与か……」
「はい。失礼したします」

お盆に薬湯を乗せて、香織ちゃんが舞台の中央に座った。
ただ座るという仕草一つとっても、姫らしい優雅な振舞いに見えた。

「お加減はいかがでしょうか」
「あぁ。今日は昨日より暖かいから、気分がいいんだ」

そう言って、帝役の武志くんがゆっくりと上半身を起こす。
それを支えるように、壱与の香織ちゃんが手を貸していた。

「秋も深くなって、寒い日も増えてまいりましたから。そういえば今年は例年無い豊作だそうですね」
「あぁ。これで少しは民が潤えばいいが……」
「本当に。ここ数年は不作続きでしたから、皆がお腹一杯食べられるといいですね」
「確かにな。腹が空いていては働く元気も出ないものだ」

二人は顔を見合わせて笑う。
壱与は持ってきた薬湯を、そっと帝に差し出す。
すると帝は少し嫌そうな顔をしながら、薬湯を覗き込んだ。

「この薬湯も苦そうだ」
「当たり前です。少しでもお加減が良くなって頂く様に壱与が作ったとっておきですから」
「壱与の特製か。それは苦くても飲まねばならんな」
「良薬なんですから、味わって飲んでくださいな」
「それは少しばかり手厳しい。せめて一気に飲ませてくれないか」
「どうぞご自由に。でも残してはいけませんからね」
「まるで母上……いや、母上よりも怖いな。壱与は」

壱与の薬湯を一気に飲み干して、帝は渋い顔をする。
薬湯の入っていた茶碗を受け取り、壱与はお盆の上に載せていた。

「なぁ、壱与」

その様子を見ながら、不意に帝が声を掛ける。

「はい。何でしょうか」
「前から考えていたことがあるんだが、聞いてくれないか」
「??……なんですか、改まって」

いつもと少し違う帝の様子に、壱与は首をかしげる。

この後、どんな物語の内容にしたんだっけ……
①監禁同然の壱与を自由にさせると言う内容
②壱与に求婚する内容
③今までのことを謝罪する内容
④体を差し出す昔の約束について話す内容

960
②壱与に求婚する内容

「壱与」
「はい」
「その……君の父上を手にかけた僕が言うことではないかもしれないけれど……」
「そのことでしたら……」
「いや、そうではない……そうではなくて」
「?」
「壱与」
「はい?」
「僕の……后になってくれ」
「え?」
「壱与が必要なんだ」
「…あ、わ……私は巫女です」
「もちろん今すぐとは言わない。次の巫女と交代してからでかまわない」
「ですが、私の力はまだ衰えていませんし、次の巫女を選ぶのはずっと先に……」
「力が衰えないうちは巫女を降りてはいけないという決まりは無い。それとも、次の巫女の候補がいないのか?」
「いえ、それは……たしかにおりますけれど」
壱与が困ったように口ごもる。

「壱与は僕の后になるのは嫌なのか?」
「そんな事は!……ございません」
「これは壱与との約束を守るためでもある。約束しただろう? ずっと壱与のそばにいると」
「! あの約束を覚えておられたのですか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます。ですが、今はお身体を回復させるのが先です。お元気になられましたら、そのときにお返事をいたします」
「……そうか、そうだな。まずこの病を治すことが先だな」
「ええ、そうです。今日はもうお休みになってください」
「そうするよ」
眠る帝を見つめ続ける壱与。
けれどその晩、帝の容態が急変する。

「帝、帝、大丈夫ですか?」
「その声は……壱与か?」
「はい、そうです」
「そうか、変だな良く見えない。声も少し遠い気がする」
壱与を探してさまよう手を、壱与が握る。

「……すまない、壱与。どうやら約束は果たせそうに無い」
「そんなことおっしゃらないでください」
「壱与、泣いているのか?」
「いいえ、泣いてなど……っ」
「そうか……、壱与」
「はい」
「もし大陸の教えにあった、輪廻転生が本当にあるのなら……来世でもまた出会おう」
「……帝?」
「今度はただの人として出会い、壱与を守り生きていくのだ」
「……ええ、私もただの人として」
「大和は争いの無い国になっているかな」
「はい、きっと」
「壱与」
「はい」
「……ありがとう」
「帝?……帝!……ああ……」

泣き崩れる壱与、この後は……
①壱与が弱っていく内容
②帝の死を知り守屋が神宝の力を使い語りかけてくる内容
③神器の力を使い、来世で必ず出会えるようにする内容
④このまま巫女として一生を終える内容

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