171 名前:792[sage] 投稿日:2008/03/29(土) 12:15:17 ID:???
①人間と偽って、って……

人間と偽って、鬼の守屋さんは何をしていたというか。
姫がもし壱与なら、やっぱり出雲の人なのだろう。
壱与の記憶には居ない人だけど、人間と偽って壱与を助けようとしていたのかもしれない。

(でも、出雲国王の側近だったら、わかるはずなんだけどな)

目の前の守屋さんは出雲国の王族でもなければ、側近だという覚えもない。
仮に出雲以外の鬼、例えば石見国出身である高村の血筋だとすると助ける動機がわからなくなる。
動機も素性も謎は深まるばかりだ。

ずっと抱きしめ続けていると、守屋さんの足元にある硬い物体に気づいた。
金属のような冷たさがある。

(何だろ……重い……)

引っ張り出してみると、守屋さんが下げていた剣だった。
きっと守屋さんが扱っている剣なのだろう。

(あれ……この剣に見覚えがある……)

青銅の剣に、赤いメノウがはめ込まれていた。
握り拳八個分の長さをもった――。

(これ……八握剣だ!!)

赤い光こそなかったけれど、これは間違いなく八握剣だった。
大きさも形も、春樹の手にあったものと全く同じだ。
十種の神宝を持っているということは、この人は……。

「命を救ってくれた事に感謝する。だが、その剣には触れないで頂きたい……」

私が顔を上げると、目覚めた守屋さんが私を見ている。
まだ顔色は青白く、唇の色も悪い。

「ごめんなさい。すごく立派な剣だったから」

私は急いで、守屋さんに剣を返した。

(混乱する。何がどうなっているの?)

①守屋さんに素性を尋ねる
②守屋さんに寝ているように言う
③考えを整理する

172 名前:793[sage] 投稿日:2008/03/29(土) 14:11:42 ID:???
②守屋さんに寝ているように言う

「まだ無理をしないで寝ていてください」
「いや、私は行かなくては……」
「だめです」
起き上がろうとする守屋さんを、私は抱きつくことで阻止する。

「離していただけませんか」
「嫌です。このまま行かせたら駄目って気がします」
私は守屋さんに返した八握剣を見る。
この剣は確かに八握剣だった。そう、過去形だ。
この剣はすでに抜け殻。力のない、ただの剣だ。
神器が開放されたときに、神宝の力も解放されているのを私は知っている。
八握剣に力が残っているなら、守屋さんに出会ったときに私が気付いていただろう。

「この剣がなにか?」
私の視線が剣に向いていることに気付いた守屋さんが、剣を私の視界から消すように隠す。

「守屋さんはその剣が何か知っていて持っているんですか?」
「なぜそんなことを聞く……」
守屋さんの声が一段低くなる。

「私はその剣を知っています」
「……まさか」
守屋さんはいま始めて気付いたというように、私を見る。

「はい、私も鬼です」
私はとりあえず頷き、止めていた鬼の力を守屋さんへ送る。
基本的に鬼と人を外見で見分ける方法はない。
力を隠し生活していれば、鬼と気付かれることもほとんどない。
鬼はその性質上人間よりも容姿が優れていることが多い。
だが、それだって王族以外の鬼は人より少し整っているという程度だ。
人間に紛れ込むのもそう難しいことではない。

「一族以外にまだ生き残りがいたとは……剣を知っていると言う事は出雲の出身だろうか?」
私はそれにあいまいに頷く。
壱与の生まれ変わりなのだから、出雲の出身の鬼というのは嘘にはならないだろう。

「そうか、ならば私が剣を持っているのを不思議に思うのも道理だ」
守屋さんは置きあがろうとするのをとりあえず止めてくれた。
身体の力を抜いて、私を見る。

(守屋さんは、王以外神宝のことを良く知らないって、知らないんだ……)
「だが、出雲の鬼は姫以外……ああ、すまない」
「いえ……」
「だが、姫以外にも生き残りがいたことは喜ぶべきこと」
守屋さんは素直に喜んでいるようだ。

えっと……
①「あの、どうして剣を持っているんですか?」
②「守屋さんはどこの一族なんですか?」
③「帝と何があったんですか?」

173 名前:794[sage] 投稿日:2008/03/30(日) 09:28:07 ID:???
①「あの、どうして剣を持っているんですか?」

「託されたのだ。だから私は……。
しかし、あの方の墓前で勝利を誓ったにもかかわらず、敗走を強いられている。
すべて私が至らなかった結果だ」

守屋さんは私の質問に答えると、辛そうに息を吐く。
その様子から、戦況がかなり不利に動いているのだろうと想像できた。

(あの方って……)

「あの方というのは、出雲国王のことですか?」
「君は出雲の生き残りだったな。そうだ。私は亡き出雲国王に神宝を託された。
いや、託されたというより返還されたと言うべきかもしれない」

(返還ってことはやっぱり……)

「あなたは石見国の出身ですね」
「……君は一体、何者だ」

守屋さんの顔が険しくなった。
私は何も言えず黙っていると、ふと額に手が置かれた。

「済まない。君は命の恩人だったな。無礼を許して欲しい」
「いいえ……」

(そうだ。なぜ守屋さんは戦っているのだろう)

「守屋さんはなぜ戦をしているんですか?」
「表向きは大和における国家祭祀の対立による戦ということになっている」
「表向き?」

私は意味が分からないまま、おうむ返しで尋ねる。

「私のような鬼が人間と偽り、大連にまで上りつめ、謀反を起こそうとしていたのだ。
それが他国に知られては、統一国家への妨げになるだろうからな」

(よく分からないけど、守屋さんは大和の偉い人なのかな)
私が考えていると、守屋さんは言葉を続ける。

「私は……この八握剣で大和に抗うことが、
無念のまま亡くなっていった同属達への弔いとなる考えているのだよ」

守屋さんは剣に触れ、一瞬、苦渋に耐えるような顔をしていた。

(守屋さん……)

私は……
①考えをまとめる
②守屋さんを見る
③声が聞こえた

174 名前:795[sage] 投稿日:2008/03/31(月) 11:45:13 ID:???
③声が聞こえた

「……!」
名前を呼ばれた気がして、耳を澄ます。
すると、とんとんと軽い音が下の方からだんだんとこちらに近づいて来る。

(まさか、光輝?)
怒ってどこかへ行ってしまったと思っていたが、戻ってきたらしい。
そうおもって私は我にかえる。
私はあわてて枯れ草の上にかけてあったブラウスを取ると、急いで身に付ける。
最後のボタンをあわてて止めたところに、光輝がひょっこりと顔をのぞかせた。

「おい、愛菜!」
ぶっきらぼうに、名前を呼ばれる。
そういえば、光輝に名前を呼ばれるのはこれが初めてかもしれないと思いつつ私は平静を装って、返事をする。
緊急事態だったとはいえ、男の人と寝ていたことを知られるのは恥ずかしい。

「な、なに?」
「………」
光輝は無言でずかずかと近づいてきた。
その手には、藁のような物を抱えている。

「この声は助けて…………だが……精霊……?」
「あ、あの………」
「なんだ、鬼、目が覚めたのか」
光輝は守屋さん見て、その上に乗せられた枯れ草に一瞬眉をひょいと上げる。
それからふんっと、鼻をならすと無造作に守屋さんの上に持ってきた藁をかけた。
守屋さんはというと、信じられないと言うように光輝を見ている。

「光輝……、わざわざ探してきてくれたの?」
「……なんだよ」
「ありがとう!」
私はうれしくなってお礼を言う。光輝は心持赤くなりながら、少しだけ視線を逸らし言う。

「礼を言われる筋合いは無いな! これは交換条件だ」
「交換条件?」
「そうだ。 今日一日お前は俺の言う事をきけよ」
「え?」
言うや否や私の後にどさりとすわると、背後から私をひょいと抱き上げ、自分の膝の上に座らせた。
そして後から抱き締める様に手を回すと、仕上げとばかりに私の肩にアゴをのせる。

「え? ちょっ?」
「やっぱりお前は気持ち良いな、今日一日はこうしてるからな」
「精霊が……鬼を……?」
光輝が満足そうに息をつく。光輝の息が顔に当ってくすぐったい。
守屋さんは、半ば起き掛けの姿勢で信じられないものを見たと言う顔で、私たちを見ている。

①「ちょっと光輝!?」
②「守屋さん、どうかしましたか?」
③あきらめてため息をつく

175 名前:796[sage] 投稿日:2008/03/31(月) 14:38:05 ID:???
①「ちょっと光輝!?」

私は光輝の腕から逃れようともがく。
だけど、光輝はがっちりと私に手を回しているのか体が動かない。

「逃げんな」
「で、でも……」
「交換条件だろ。大人しくしてろって」
「交換条件って……そんな約束した憶えはないよ」
「これでも妥協してんだぞ。お前がずっと一緒にはいられないっていうから、
今日一日だけで我慢してやったんだからな」
「ちょっと、光輝……離して」

(チハルだと平気なのに……)

やっぱり、隆に似すぎているというのがいけない。
チハルというより、やっぱり隆に思えてしまう。

「精霊よ。命を助けてくれたことには感謝する。
だが、嫌がっている女性を無理やりというのは良くない。
離してあげるべきだろう」

守屋さんは光輝に向って、はっきりと言った。

「邪魔すんな。死にかけの鬼は黙ってろ」

光輝は私の体を抱いたまま、凄む。
私にまわされた腕の力が、より強くなった。

「怪我をしていても、鬼の私が精霊ごときに討たれはしない。
その娘は我が身を捧げるように私を温めてくれたのだ……」

腕で体を支えながらなんとか中腰になると、守屋さんはただの剣になった八握剣を持つ。
そして、言葉を続けた。

「その可憐に咲く撫子の花を無理に手折るのであれば、黙って見過ごすわけにはいかない」

ちょ、ちょっと……
①守屋さんを止める
②光輝を説得する
③ナデシコの花って……まさか私のこと?

176 名前:797[sage] 投稿日:2008/03/31(月) 17:13:50 ID:???
③ナデシコの花って……まさか私のこと?

あまりの言葉に思考が停止する。
自分はごくごく平凡で、花にたとえられるほど美人でも可愛くもない自覚がある。

「なに言ってるんだ、おまえバカだろう? コイツは花なんかじゃない」
心底バカにしたような光輝の言葉に、私は内心一緒に頷づく。

(そ、そうだよ、私がナデシコだなんて……)
「コイツは俺にとっては太陽に等しい」
「え!?」
光輝の爆弾発言に、思わず顔を光輝に向ける。
光輝は驚いて振り向いた私にうれしそうに頬ずりしてくる。

(な、な、なにいってるの? 光輝っ!?)
「本当は誰にも渡したくないけど、こいつは太陽だからな。
 俺だけの物に出来ないんだ。だから今日一日だけで我慢する」
少し前に俺の女になれと言った事を棚に上げて、光輝は言う。

「一日も何も、嫌がっているのだから放せと言っている」
「断る。それに鬼、アンタじゃ俺を倒せないぜ? 俺との力の差を見切れないようじゃまだまだ甘いな」
光輝は、余裕たっぷりに言うと。気持ちよさそうに目を細める。

(光輝って本当に強い精霊なんだ……)
とりあえず、守屋さんや光輝の問題発言は意図的に頭から追い出す。
そうでもしないと恥ずかしすぎていたたまれない。

「それに鬼、お前よりも断然こっちの女の方が力が強いんだぜ? お前分かってないみたいだけどな」
楽しそうに光輝が言うと、守屋さんはまじまじと私を見てそれから悔しそうに顔を顰めた。
私はだんだん守屋さんが可愛そうになってきた。
守屋さんは、石見国では力の強い鬼なのかもしれないが、それでも出雲の鬼の子供よりも弱い力しか持ち合わせていないのが分かる。

(石見国の鬼の力は本当に弱くなっていってるんだ……それにしても)
「光輝、あまりひどいこと言わないで。 怪我人なんだからもっと優しく……」
「あのなあ、お前ほんっっっっっっとうに、変わった奴だな」
「な、何よ、そんなに力いっぱい言わなくても……」
「鬼は精霊の天敵なんだぜ? 鬼は精霊を喰うもんなんだ」
「え?」
私は思わず、守屋さんを見る。 守屋さんは私の視線にその通りだと言うように頷いた。

「だから、精霊が鬼に優しくしてやるなんてありえねーんだよ。 お前の願いだから叶えてやったんじゃないか」
ありがたく思え、と光輝はえらそうに言う。

①「でも、壱与は精霊なんて食べたこと無いよ」
②「私は精霊なんて食べたこと無いよ」
③「……私が光輝を食べるとはおもわないの?」

177 名前:798[sage] 投稿日:2008/03/31(月) 19:33:58 ID:???
③「……私が光輝を食べるとはおもわないの?」

「どうだろ。考えて無かったな」
「でも、私は天敵なんでしょ?」
「そうだなー。もしも、愛菜に喰われそうになったら……とりあえず逃げてみるかな。捕まったら、殴るけど」
「私を?」
「そうだ。お前は太陽みたいだけど、俺もまだ死にたくないからな」
「考えただけで痛そうだね……」
「だから、俺を喰おうなんて思うなよ」

鬼の私は天敵のはずなのに、光輝は相変わらずぴったりとくっついてくる。
自分の強さに自信があるのだろうか。

「じゃあ、守屋さんは精霊を食べちゃうんですか?」
「もちろんだ」
「そ、そうなんですか」

(あっさり肯定されちゃった……)

光輝も守屋さんも、ワイルドというか野性的な人達だ。
自分が飼いならされた現代人だと痛感させられる。
よく考えてみたら、電気も通っていないし、水も汲んでこなければ飲めないのだ。

守屋さんは荒く息を吐き、剣を下ろしていた。
少し無理をしたのか、また顔色が悪くなっている。

「守屋さん。すごく顔色が悪いですよ」
「だが、この精霊が君に悪さをしようとしている。放っては置けない」
「そんなに俺は低俗な精霊じゃないぞ」
「信じられん。撫子の君を離せ」
「ヤダ。コイツは今日一日俺のものなんだ」

(よく聞くとおもちゃを取り合う子供の喧嘩みたい……)

私は……
①面倒なので夢から覚める
②光輝の味方をする
③守屋さんの味方をする

178 名前:799[sage] 投稿日:2008/04/01(火) 11:50:07 ID:???
①面倒なので夢から覚める

「なんか面倒になってきちゃった……戻ろうかな……?」
ぽつりと呟くと、私にべったりくっついていた光輝が反応した。

「おいダメだぞ、今日一日はお前は俺のもんだからな」
「でも、もう帰らないと、みんな心配してるかも……」
現実に一体どれくらいの時間が過ぎているのか分からないけれど、いつもより夢を見ている時間が長い気がする。

「皆? 皆とは、まさかまだ鬼の生き残りが!?」
光輝に続き、守屋さんも私の言葉に反応して必死の形相で私を見る。

「いいえ……、私以外に鬼の生き残りはいません」
高村の一族も鬼としての力は無く、能力者と呼ばれる人たちもすべて人間だ。

「では、貴女はどちらへ戻られると言うのですか?」
「……私を待ってる人の所へ」
未来といっても、さっきの光輝のように信じてくれないような気がした。

「おまえ……!」
不意に光輝の驚く声が聞こえた。

(あ……)
光輝を振り向こうとして、身体が自由になっていることに気付く。
私の身体は確かにそこに存在しているのに、光輝の腕は私を捉えることが出来ない。
私は立ち上がる。

(そういえば、最初に光輝にあった時も……)
あのときも、光輝は私に触れることが出来なかった。

「撫子の君!」
守屋さんも顔を顰めながら私に手を伸ばすが、やはりその手は私を捕まえることが出来なかった。

「まてよ!」
「お待ちくださいっ!」
二人の声が耳に届く。けれど私の身体は目が覚めるときと同じように何かに引っ張られるように、上昇する。
二人の驚く顔を見ながら、私はふと浮かんだ心配事を口にする。

「あ、そうだ。守屋さん、光輝を食べないでくださいね。
 光輝も、守屋さんの傷が治るまでここに置いてあげて」
引っ張られるごとに視界は靄のようなものに阻まれて、周りが全く見えなくなる。

「愛菜!」
最後に光輝の叫びだけが耳に届き、ふっと身体に感覚が戻ってくる。

(あ、私の布団かな)
相変わらず身体は動かず、目を開けることも出来ないけれど自分を包むこの感触は間違いなく自分のベッドだ。
誰かいるかと気配を探ってみるけれど、近くには誰もいないようだ。
チハルの気配もない。

どうしよう?
①チハルを呼ぶ
②さっきのことを思い返す
③目を開ける努力をしてみる

179 名前:800[sage] 投稿日:2008/04/01(火) 16:42:43 ID:???
②さっきのことを思い返す

(いつも夢には何か意味があったよね……)

まずは壱与と帝の会話だった。
なんだか大陸だとか宗教だとかの話をしていた。
疫病とか天災とか言っていたし、壱与と帝はとても疲れていたみたいだった。

その後、光輝に出会った。
光輝は精霊で、あの森を守護する者だって言ってた。
あんまり隆に似すぎていて、びっくりしたな。
その後、すぐに怪我をした守屋さんを見つけたんだ。

十種の神宝の所有者で、石見国の鬼の守屋さん。
ということは、やっぱり高村の祖先ってことになるのだと思う。

そういえば守屋さんのうわ言で「人間と偽り姫を……お助け……と………鬼の国を………お慕い……」
と言っていた。

大和の人質になった壱与のために、守屋さんは人間と偽って助けようとしていたのだろうか。
お慕いというのが壱与に向けられたものだったら、余計に救いたかったに違いない。
けど、鬼は滅び、出雲国も無くなってしまった。

「大連にまで上りつめ、謀反を起こそうとしていた」とも教えてくれたっけ。

結局、守屋さんは大和の偉い人になったんだろう。
そして、謀反。帝を亡きものにしようという目的が知られて今は追われる身になったという感じだろうか。

十種の神宝はすでに抜け殻だし、壱与の心は帝のものだ。
壱与を救い出す必要はなくなっているし、鬼の国も無い。
けれど守屋さんは八握剣を持って、大和に抗うと言っていた。

(そういえば……)

最初に会った時、「おやめください…帝…」とも呟いていた。
殺したいほど憎い帝に対して、夢の中であんな言い方をするのだろうか。

(守屋さんの考えが全然分からない)

他には……光輝には太陽、守屋さんにはナデシコとか、むず痒いことを言われたな。
慣れていないし、考えてみるとかなり寒い。
(やめて欲しいな……思い出すだけで背筋が……)

すべてが憶測だし、断片的過ぎてはっきりしない。
とりとめなく考え込んでいると、誰かが部屋に入ってくる気配がした。

その人は……
①春樹
②隆
③周防

180 名前:801[sage] 投稿日:2008/04/01(火) 17:30:23 ID:???
②隆

「愛菜、起きてるか? ……って、わかんねーなこれじゃ」
近づいてくる気配がして、隆の手が頬に触れた。
つんつんとつつく指がむずがゆいが身体は動かない。

「でも、起きてる気はするんだよな」
隆は言いながら頬をつつくのを止めない。

(なにしてんのよ隆?)
「……夢を見たんだ」
ふと、隆が低く呟く。ぎりぎり聞き取れるかどうかの呟きだ。

「お前が消える夢だ。 ただの夢だって分かってるけど……」
言葉と共に頬をつつく指が止まり、しばらくして手が額に当てられる。

「……ふと思ったんだけどさ、お前っていま人形と同じような状況じゃないか?」
(なにいってるの?)
「だから、試しに力をつかって見ることにする。人相手になんて使ったことないけどさ」
(ちょっと、それって危なくないの!?)
「ま、ダメ元ってやつだよな」
そう言って隆が沈黙する。

(隆!?)
額に当てられた隆の手がだんだんと熱くなっていく気がする。

(愛菜、お願いだから、元に戻ってくれよ!)
その熱に比例するように、隆の想いが流れ込んでくる。

(このままなんて許さないからな! 目を覚ませ!)
(隆……)
(お願いだ! 目を、開けてくれっ!)
隆の絶叫が頭に響く。

(愛菜っ!)
ふっと、視界が明るくなる。
私は驚いて瞬きした。

(あれ? 目開いてる?)
確かに自分の部屋の天井が見える。そして隆の腕。
けれど瞼は動くが、眼球を動かすことが出来ない。身体もやはり動かなかった。

「愛菜?」
隆の声が聞こえてそちらを見ようとするが、やはり動かせるのは瞼だけだった。
そんな私に気付いたのか、隆が覗きこんでくる。

「見えてるか?」
(うん)
私は返事をするように瞬きする。

「目だけ……ってか瞼だけかよ……まあ、起きてるのか寝てるのか分からない状況よりはましか?」
隆が苦笑する。
確かに瞼が動くだけで、全く動けないよりはマシだ。意思表示も多少はできるだろう。

①(でも、これじゃチハルを通すのとかわらないよ……)
②(ちょっと、もっと動けるようにならないの!?)
③(隆には感謝しないとね)

181 名前:802[sage] 投稿日:2008/04/01(火) 19:20:07 ID:???
③(隆には感謝しないとね)

私は隆にお礼を言うように、瞬きをした。

「喜んでんのかな。まぁ、いいか。
そういえば、喉渇いてないか? 水でも持ってきてやろうか?」

(うん。お願い)

「ちょっと待ってろよ」

そう言って、隆は私の部屋から出て行った。
時計を見ると、七時を少し過ぎていた。
眩しい朝日に、小鳥のさえずりも聞こえる。

(ということは、朝か……)

しばらくして、隆がコップに水を汲んで戻ってきた。
手にはタオルも持っている。

「春樹のやつ、朝飯つくってたぞ。お前も食えるといいのにな」

隆はベッドに座ると、背後から私をひょいと抱き上げ、自分の膝の上に座らせた。
私は力なく、隆に身を預ける形になった。

「なんだか、さっきの夢の続きみたいだな。
お前の身体が動かないから、暴れる心配はないけどさ」

(隆は……私と同じ夢をみていたの?)

「ほら、飲めるか?」

私は顎をつかまれ、くっと顔を持ち上げられる。
タオルで顔を支えられたまま、口許にグラスが近づく。

「口をあけ……るわけないか。突然、噛んだりするなよ」

顎を支えていた隆の指が、私の歯列をこじ開けた。
そして、口の端から、少しずつ水が注ぎ込まれる。

私は……
①水を飲むことができた
②水を飲むことが出来ない
③隆を睨む

182 名前:803[sage] 投稿日:2008/04/02(水) 11:19:58 ID:???
②水を飲むことが出来ない

水は口に入ってくるが、それを飲み込む動作が出来ない。
結局水は口の端から流れ落ちてしまう。

「ダメか……」
隆はタオルで口元をふいてくれる。。
私はだんだん情けなくなってきた。自分では身体一つ動かせず、意思を伝えることもほとんど出来ない。
皆に迷惑をかけてばかりいる……そう思ったら、視界が歪んだ。

(あ、泣くことは出来るんだ……)
「うわ、泣くなよ……」
あわてた隆が、とっさにタオルで涙をぬぐってくれる。
けれど涙はなかなか止まらない。

(ごめん隆、すぐ止めるから)
私はこれ以上涙が流れないように目を瞑る。
ふっとタオルの感触が消えたと思ったら、今度は隆の手が涙をぬぐう。
もう片方の手が、私を支えながらあやすようにぽんぽんとリズムを刻んでいる。

「そうだよな、不安だよな。声も出せなくて自分の意思じゃ身体が動かないんだもんな」
隆の言葉に、私はものすごく不安だったのを自覚する。
そう思ったら余計に涙が止まらなくなった。
修二くんと契約を終えれば、元に戻る。
けれど、その修二くんと契約できるかどうかは分からない。
昨日あんな別れ方をしてしまったから、不安は大きくなるばかりだ。

「大丈夫、元に戻るさ。何があっても宗像弟をつれてくる」
さすが幼馴染といったところか。私と修二くんの間に何があったのか知らないだろうけれど、何かを感じ取ったのかもしれない。

(結構鈍感なのに、変な所で鋭いよね隆って)
そう思うと可笑しくなった。そのおかげか、涙がひいていく。
目を開けると、少し心配そうな隆の顔があった。
私が目を開けたのを見ると、隆は少し真面目な顔になる。

「もしお前がずっとこのままでも……」
隆はまだ少し濡れている私の頬を撫でる。
そして、隆が口を開こうとしたその時、ノックの音と共に部屋の戸が開く音がした。

「っ!」
驚いたように、隆が顔をそちらへ向ける。
その顔がかすかに赤い。

入ってきたのは……
①春樹
②チハル
③周防
④香織

183 名前:804[sage] 投稿日:2008/04/02(水) 13:38:27 ID:???
①春樹

「姉さん……入るよ……」

そう言いながら入ってきた春樹が一瞬、私たちを見て固まった。
ドアを閉めると目を見開いて、口を開く。

「何を……やってるんです…か…」

呆然と立ち尽くす春樹に、隆は何も答えなかった。
ただ、入ってきた春樹をジッと見つめている。

「動くことのできない姉さんに……一体、何を…して…」

春樹は信じられないという顔で、ゆっくり私たちに近づく。

(ちょっと待って、春樹。隆はお水を飲ませてくれていたんだよ)

春樹は何か勘違いをしているみたいだ。
ベッドの上で密着している今の状況を見たら、驚くのも無理はないだろう。
ましてや私が動くことが出来ないのなら、なお更だ。

(お願い、隆。春樹は勘違いをしているんだよ! ちゃんと説明してあげて)
けれど、隆は黙ったまま春樹を見据えているだけだった。

「……教えてください。姉さんに何をしようとしていたんですか…」

春樹は低い声で尋ねながら、隆を睨みつけている。
今にも掴みかかりそうな、張り詰めた緊張感が漂っていた。

「なんでお前に一々説明しなくちゃいけないんだ。出て行けよ…」

隆は私のベッドに座ったまま、春樹を見上げる。
まるで宣戦布告するようも聞こえた。

「まさか姉さんを……」
「春樹。愛菜に対するその執着は何だ。……弟なら、わきまえろよ」
「……なっ」
「愛菜、聞こえているか。俺は決めたぞ。お前がずっとこのままでも一緒に居てやる。
色々あったけど、お前を諦めることなんて出来そうにない。
特に、家族だと言いながら姉貴に依存するような奴だけには……絶対に渡したくないってな」

私は……
①隆を見る
②春樹を見る
③考える

184 名前:805[sage] 投稿日:2008/04/02(水) 15:19:12 ID:???
①隆を見る

(え?)
隆を見ると何かをたくらむような顔をしていた。付き合いの長い私にしか分からないような変化だ。
隆との付き合いが5年の春樹は、頭に血が上っている事もあって気付いていない。

「隆さん……それが本心ですか?」
春樹の声が一段低くなる。

「姉さんを泣かせて、傷つけて、悩ませて……それなのに……」
「その怒りは弟としてか?」
(当たり前じゃない、何言ってるの隆……?)
「…………」
当然肯定すると思っていた春樹は、沈黙する。

「確かに俺は愛菜を泣かせたさ、これからも絶対に泣かさないって約束は出来ないな」
「なっ!」
(隆……?)
「当たり前だろ? 俺たちは違う人間なんだ。知らず知らずの内に傷つけてる事だってある。だから、絶対に泣かさないって約束は出来ない」
きっぱりと隆は言って、それから私を見た。

「だけどずっと一緒にいてやる。きっとこの先、泣かせたり怒らせたりいろいろあるだろうけど、俺はおまえと一緒に進みたい」
「なにを、勝手な、ことを……」
途切れ途切れの春樹の声が震えている。

「勝手? そうかもな。だけど俺はちゃんと愛菜に自分の気持ちを伝えたぞ。お前はどうなんだ?」
「なにを……」
「お前は何も言っていないだろう。そのお前が何かを言う権利なんて無いんだよ」
「……!」
(!?)
隆はそう言い切るとそっと私に顔を近づけて来た。そして春樹に見えないようにそっと目配せする。

(なに……一体?)
「隆さん!」
春樹の怒声が聞こえ、ぐいっと身体が引っ張られたと思うと、私は春樹の腕の中にいた。

「俺の姉さんに触らないでください!」
「『お前の』愛菜じゃないだろう?」
「……っ!俺は……っ」
「いい加減素直に言っちまえ。じゃないとこいつは一生気付かない」
「なにを……」
「まだとぼけるつもりか? お前はコイツを信じてないんだな」
「そんなことは……」
「じゃあ、何でそんなにかたくなに隠すんだ? 俺はお前の挑戦も受けて立つぜ?」
なぜ二人がこんな喧嘩を始めるのか分からない。
春樹の腕が震えているのが伝わってくる。

①チハルに助けを求める
②このまま見守る
③怒る

185 名前:806[sage] 投稿日:2008/04/02(水) 18:24:12 ID:???
②このまま見守る

「だけど……俺は……っ」

春樹は次の言葉が出てこないのか、唇をかみ締めている。

「だけど何だよ? このままじゃ、本当に俺が奪っちまうぞ。コイツと俺はずっと一緒に居たんだからな」

隆は不敵に笑うと、春樹を見据える。
ごくたまに見せる、隆の本気の目だ。

「そんな簡単な問題じゃないんだ……。もしも……俺が……」
「怖気づいたか。お前はやっぱりその程度ってことだな」
「認められない……俺だけ満足……周りが……きっと不幸にさせる……」

春樹の言葉は途切れ途切れで、よく聞き取れない。
ただ、私を包む腕が痛いくらいに強くなっていく。

「そうやって一生悩んでればいいさ。姉弟ってつながりに、すがって怯えてろ。
何かを壊さなきゃ、得られないものもあるんだ」
「そんなこと……言われなくても…分かってる」
「壊す勇気も無いんだろ。それなら、分かっていないのと一緒のことだ」

隆が完全に春樹を言い負かしていた。
春樹は隆の言葉に、胸を貫かれ、打ちのめされている。

「春樹。俺はそんなにお人よしでもなければ、善人でもない。
だが、お前が居ない時にコイツに告白するのは公平じゃないと思っただけだ」
「隆、さん……」
「俺の気持ちに嘘は無い。俺は愛菜が好きだ」

(隆……)

「さあ、はっきりさせろ。お前はどうなんだ、春樹」

私の頬に、一つまた一つと雫が落ちる。
春樹は身体を震わせて、涙を流していた。

「やっと手に入れたんだ……。穏やかで……満ち足りた……。
あの日から守ってみせると誓ったんだ……家族を……。
だけど……なんで……こんな気持ち……間違ってる……押し殺すしか無いんです……」

「言いたいことはそれだけか」

隆の言葉に、春樹はようやく顔を上げる。
その目には、涙は消えていた。

「後ろ指を刺されるような幸せは、本当の幸せなんかじゃない。
人格を否定されるほど虐げられた事の無い隆さんには、分からない感情かもしれない。
たとえお互いの気持ちが通じ合ったとしても……きっと周りがそれを許さないと思います。
周りから認められない苦しみで、一番大切な人を壊すわけにはいかないんです。
だから、どれだけ苦しくても……俺は……家族として見守ることを選びます」

私は……
①チハルに助けを求める
②このまま見守る
③怒る

186 名前:807[sage] 投稿日:2008/04/02(水) 19:52:11 ID:???
②このまま見守る

隆は春樹の言葉に一つため息を付いた。

「まったく、お前も強情だな。まあ、一つ教えておいてやるよ。今のお前を見たら確信した。
決定的な打撃を喰らわないためにちゃんと調べられなかったんだろうが……」
隆は、一歩春樹に近づく。

「お前達は本当の姉弟じゃない。戸籍上どうなっていようと、血のつながりが無いのは確かだ。だから…」
そういって、隆は春樹の耳元に何かをささやく。
私には何を言っているか聞こえなかったが、隆のささやきに春樹が大きく動揺したのが分かった。

「ってことでな、後ろ指刺されるようなことにはならないんだよ。
 だいたい、周りってなんだ? お前の両親か? そんなわけ無いよな。 
 なら友達か? お前が知り合った奴らってのは、そんなに信用できない奴らばっかりだったのか?」
隆は春樹をまっすぐに見つめて問う。
けれど、すぐに苦笑した。

「まったく、俺はなにやってるんだろうなぁ? 敵に塩をおくりまくりだぜ」
「隆、さん……」
「さあ、これを聞いてもお前はさっきと同じ言葉を言うのか?」
春樹の腕が一瞬大きく揺れた。

「俺は……」
「ねぇ、春樹、ご飯まだ?」
と、そのとき扉が開く音とともにのんきなチハルの声が乱入してきた。
張り詰めた空気が、一瞬にして瓦解する。

私は……
①春樹の言葉の続きを知りたい
②春樹の言葉の続きを知りたくない
③自分の考えを伝えたい

187 名前:808[sage] 投稿日:2008/04/02(水) 23:03:22 ID:???
②春樹の言葉の続きを知りたくない

(春樹は『いい弟』でいたいって言ってたよね)
(本当は、ずっと私の事を異性として見ていたの?)

春樹に対して、私は恋にも近い感情や、恋人に持つような嫉妬も抱いていた。
異性として意識することも多かった。
けど……

けど、それで春樹の恋人になれるのかと問われれば分からなくなる。
頭がすごく混乱する。

ケーキ屋で香織ちゃんも言っていたけど、姉弟だからと言って後ろ指をさされる関係では無いと言っていた。
戸籍上の血縁関係が無いから大丈夫というけれど、実際は単純でもないような気がする。

姉弟である私たちを知っている人は沢山の居る。仮に、どちらかが戸籍から抜けたとしてもそれは付き纏う。
隆や香織ちゃんみたいな考えの人ばかりではない。倫理的に構える人もいるはずだ。

(弟と姉……春樹と私……)

「俺は……」

春樹の声がする。
この答えを聞いてしまった瞬間、私たちが築き上げてきた関係が崩れてしまう気がする。

(怖い……。聞きたくない……)

「俺は、姉さんのことが――」
「こわい。ききたくないって愛菜ちゃんがお話ししてるよ」

気持ちを読んだのか、チハルが私の心を代弁する。

「愛菜。お前まで怖がるのか?」

隆は困ったように、私を見つめる。

(すごく怖いよ。もうこの話は二度としないで……)

「姉さん……」

春樹の腕の中にいるのも怖い。
安心だったはずの場所なのに、今はそんな風に思えない。

(チハル。二人に出て行くように言って)

私たちの関係を見かねて、隆は白黒はっきりつけさせてやりたいと思ったのだろう。
隆なりの優しさだというのも、理解できる。
けど、春樹に対して抱く感情はもっとずっと複雑なのだ。

チハルと二人だけになった部屋で、私はベッドに寝かされる。

どうしよう……
①春樹のことを考える
②隆のことを考える
③チハルに話しかける

188 名前:809[sage] 投稿日:2008/04/03(木) 09:31:18 ID:???
③チハルに話しかける

(ごめんねチハル)
「なんで謝るの?」
私を運ぶために大きな姿のチハルが、私を覗きこんでくる。
何も疑うことを知らないような綺麗な目が私を見返す。

(……うん、なんとなく、ね)
本当に謝りたい相手はチハルではないと自分でも分かっているけれど、誰かに謝りたかったのだ。

「変な愛菜ちゃん」
チハルは不思議そうな顔をして、それからにっこり笑う。

「あ、そうだ。愛菜ちゃんおなかすいてない?」
(え……まぁ、すいてるけど……)
結局昨日の夜も何も食べていないが、食べることが出来ないのだから仕方がない。

「それじゃあ……」
チハルは私を座らせると、私を支えたまま私の正面に座った。

(チハル?)
「んとね、神様に聞いたんだ」
(なにを?)
「今愛菜ちゃんは、人の食事が出来なくてだんだん弱って来てるって。このままじゃ、ダメなんだって」
確かに、このままだと餓死してしまうかもしれない。
病院へいけば、生命維持に必要な処置は取れるだろうけれど……。

「それでね愛菜ちゃんが弱っちゃうのはイヤだって言ったら、ボクだったら愛菜ちゃんが弱らないように出来るって教えてくれたの」
(え……?)
「んとね、愛菜ちゃんはオニになったから、精霊を食べられるんだよ?」
にっこりとチハルが爆弾発言をする。
そう言えば夢のなかで、守屋さんと光輝がそんなことを言っていた。

(ちょ、ちょっとまって! 食べるって、私がチハルを食べるわけ無いじゃない!)
「でもね、ボクを食べないと愛菜ちゃんが弱っちゃうんだ」
(だからって、食べるなんて出来ないよ。チハルはどうなっちゃうの?)
「ボク? ボクは大丈夫だよ。だって愛菜ちゃんが側にいるもん」
チハルは、そう言って私の顔を不器用に撫でる。
すると、自分の意思では動かすことの出来なかった口がわずかに開く。

(!)
驚く私に、チハルは私を抱き締めるように身を寄せてきた。私の口は丁度チハルの首筋に当る。

(……あ)
一瞬何が起こったのか分からなかった。
口はチハルの首筋に当ったまま、動いてはいない。
けれど確実にチハルから何かを吸い取っていた。それが身体の中を巡っていくと、空腹が満たされるのを感じる。
そしてそれを感じた瞬間、私は思った以上に空腹だったのだと自覚した。
鬼の本能がもっとそれをほしがり、人間としての理性が止めてと叫ぶ。

①(もっとほしいな)
②(チハル離れて!)

189 名前:810[sage] 投稿日:2008/04/03(木) 12:07:43 ID:???
②(チハル離れて!)

チハルに向って叫ぶ。けれど、心とは裏腹に空腹が満たされていくのを感じた。
心を読んでいるはずなのに、チハルは更に身を寄せてくる。

(駄目よ! 私から離れて!)

「愛菜ちゃん。ボクね、すごーくうれしかったんだよ。
みんなといっしょにご飯をたべたり、おはなしするのってたのしいんだもん」

無邪気に微笑む様子は、大きな身体でも小さい時と全く変わり無い。
ものまねの上手なチハルは、私と同じ仕草でゆっくり前髪を撫でてくれる。

(早く離れて……)

「隆はボクを起こしてくれたから、おとうさんみたいにおもってたよ。
春樹は愛菜ちゃんとすごく仲良しできらいだったけど、ご飯くれるからすきになったよ。
パパさんもママさんもみんなだいすき……」

チハルの身体が徐々に薄くなっている。
私を撫でる大きな手が、透けて見えた。
これ以上はいけないと心は叫んでいるのに、チハルから離れることが出来ない。

(私……どうすれば……いいの……)

「いつも泣いていた小さな愛菜ちゃんは、もうこんなに大きいよ。だから、大丈夫」

(大丈夫じゃないよ。チハルが支えてくれたから、お母さんが居なくなっても頑張れたのに……)

「ボクはまた「くまちゃん」に戻るだけだもん。
大きな愛菜ちゃんは、もうぬいぐるみのボクに頼らなくても平気だよね」

(だめ……行かないで……)

①自力で離れる
②チハルを見る
③誰かが入ってきた

190 名前:811[sage] 投稿日:2008/04/03(木) 14:39:54 ID:???
③誰かが入ってきた

「愛菜、さっきはわるかったな……チハル?」
入ってきたのは隆だった。
隆は薄くなったチハルを見ると、怒った顔になり私とチハルを引き剥がす。

「チハル、何をしてる?」
「愛菜ちゃんがね、おなかがすいて弱っちゃうから、ボクを食べてもらうの」
どこまでも無邪気に、チハルが笑う。
けれど、その身体が小さな子供の姿に変わってしまった。最初に会ったときより更に幼い、5歳くらいの男の子。

「愛菜がお前を食べるって、食べたいって言ったのか?」
「ちがうよ?」
「お前が勝手にやったんだな?」
「うん」
「ばかやろう!」
隆の怒号が響いた。家全体を震わせるくらいに大きな声だった。

「お前が愛菜を悲しませてどうする! 俺はコイツを悲しませるためにお前を動けるようにしたわけじゃないんだぞ!!」
「隆さん、一体……チハル?」
隆の怒声に、春樹がやってくる。そして小さなチハルをみて目を丸くした。
先ほどまでの雰囲気は全く無く、弟としての春樹だ。

「でもボクを食べないと愛菜ちゃんが弱っちゃうよ?」
「あのな精霊は確かに鬼に喰われるさ。鬼にとって精霊は極上の食事だからな。でも、コイツは鬼を喰わないって言ったんだ!」
(隆……?)
怒りにまかせて怒鳴る隆の言葉に、私は違和感を感じる。

「コイツがお前を喰いたくないって泣いてるのに気付かなかったのか? お前はそれでも精霊なのか?
 やるにしてもやり方ってもんがあるだろうが! 全部喰わせてどうする、自分の身を危険に晒さない程度に分け与えろよ。
 俺ほどでないにしても、お前だってそれなりに力のある精霊だろうが!」
(隆、何を言ってるの……?)
「隆、何をいってるの?って愛菜ちゃんが言ってるよ」
隆がなぜ怒っているか分からないらしいチハルは、私の思いを口にする。

(なんで、鬼が精霊を食べるって知ってるの?)
「何で鬼が精霊を食べるって知ってるの、って」
「え? なんでって……あれ? なんでだ?」
(それに、隆は人間でしょ? なんで『俺ほどでもない』っていうの?)
チハルが言葉を伝えると、隆はふっと、不思議そうな顔をする。
あの会話をしたのは、光輝とのはずだった。 そして、力が強い精霊も光輝だったはずだ。隆にそっくりな光輝の……。

①(隆は、光輝の生まれ変わりなの?)
②(やっぱりあの夢を隆も見たの?)
③(隆が光輝なら、守屋さんはまさか……)

191 名前:812[sage] 投稿日:2008/04/04(金) 09:18:11 ID:???
②(やっぱりあの夢を隆も見たの?)

そう問おうとしたところで、隆が壁に掛かった時計を見てるのに気づいた。
急がないと遅刻してしまう時間になっている。

「やべっ。もうこんな時間かよ」
「隆さん……修二先輩のことよろしくお願いします」
「わかってるって。あと、チハル」

隆は自分の髪をガリガリと掻いて、しゃがみ込む。
きちんと同じ目線になってから、チハルに話し出した。

「怒鳴って悪かった。だけどな、お前のやろうとしていたのはいけない事なんだ」
「どうして?」
「お前が居なくなっちまったら、愛菜が悲しむだろ?」
「だって、ボクはサキミタマだから……」
「幸御霊だろうと関係ない。チハルはチハルなんだからな」
「ボクが居なくなったら、みんな悲しいの?」
「そうだ。だから、しちゃいけないことなんだ。わかるな?」
「ウン……。わかった」
「よし。約束だからな」

隆はまたチラリと時計を見て、私の横へやってくる。

「さっきは……その…悪かったな。別に困らせようとか、そういうのじゃないから」
(わかってるよ)
「そっか」

隆は安心したように笑うと、ドアの前に立った。

「力づくでも、宗像弟は連れてくるからな」
(ちゃんとお願いして、普通に来てもらってよ)
「努力はするさ」

そう言って、隆は私の部屋から出て行ってしまった。
部屋に残ったのは、私と春樹とチハル。
どこか息苦しいような、重い空気が部屋を覆っている。

私は……
①春樹を見る
②チハルを見る
③隆について考える

192 名前:813[sage] 投稿日:2008/04/04(金) 11:02:47 ID:???
①春樹を見る

(春樹は学校に行かないの?)
「姉さんを一人にするわけにはいかないからね」
(わたしなら大丈夫だよ)
「そう思ってるのは姉さんだけだよ」
(確かに、うごけないけどさ……)
微妙な空気を振り払うように、春樹は以前と全く変わらない調子で話す。

「それに、今日は午前中に、高村の……周防さんがくるだろう? チハルだけじゃ心もとないしね」
(そう言えば、周防さんがきてくれるんだっけ)
夢の中で周防さんと秋人さんが話していた「闇」について詳しく聞きたかったのだ。

「それに姉さんに協力してくれた人だって聞いたから、お礼も言いたい」
春樹はそう言って、少し微笑んだ。

「あと、俺の従兄らしいからね。 もしかしたら子供の頃に会ってるかも知れないけど、俺は覚えていないし……会って見たいって言うのも理由かな」
(そっか、春樹は周防さんに会うの初めてかもしれないんだ)
そう言われると、春樹と周防さんをあわせてあげたくなる。
春樹は微笑んだまま、時計を見てそれからチハルに視線を移した。
チハルはちょこんと首を傾げる。

「チハルおいで、俺にくっついてれば早く力がもどるかもしれない」
「うん!」
小さなチハルはうれしそうに頷くと、春樹に駆け寄ってその足にぎゅっとしがみついた。
そして、ふと不思議そうな顔をして春樹を見上げる。

「春樹……?」
「ん?」
春樹は返事をしながらチハルを抱き上げる。
チハルは春樹の首に手を回してしがみつきながら、首を捻る。

「……なんか………うーん、なんでもない」
「どうしたんだ?」
「たぶん、きのせい」
「? そうか……? じゃあ姉さん、俺、下に居るからなんかあったらチハルに知らせて」
(わかったよ)
春樹はチハルを抱き上げたまま、部屋を出て行く。
途端静まり返った部屋に、私は内心ため息をついた。

(朝からいろいろありすぎだよね……)
私は目を閉じて……

①夢を見た
②これからのことを考えた
③これまでのことを考えた

193 名前:814[sage] 投稿日:2008/04/09(水) 00:19:46 ID:???
③これまでのことを考えた

動かない身体と、大きくなる不安。
みんなに迷惑と心配をかけるだけでなく、チハルさえも犠牲にするところだった。

改めて、隆が私のことを好きと言ってくれた。
春樹が私に対して、家族以上の感情を抱いているかもしれない事を知った。
修二くんも私を想ってくれていた。

(応えることが出来ないから、せめて強くなりたいのに……)

力を得て、迷ってばかりの私のままじゃ駄目だと悟った。
だけど私は私だから、簡単に生き方なんて変えられない。
不器用な性格だから、私でも出来る事をと探し続けてきた。
多少の無茶も承知で、正しいと思ったことをしてきたはずだったのに。

壱与や冬馬先輩や一郎くんに対して、意見したこともあった。
口で言うのは簡単だけど、実行するのはとても難しい。
けど、みんな少しずつ変わっている。
私だけ迷うこと止められない。いつまでも怖がりな弱虫のままだ。

(今は眠ろう……)

出来ることなら、楽しい夢が見たい。
力とか、鬼とか関係ない笑ってみられる素敵な夢がいいな。

そう思いながら夢の中へ落ちていく。

「いくら大連だったあなたでも、現人神に逆えば天罰が下ろうぞ」
「その帝が大陸の教えを信奉し、国神である自らの存在を否定していることに……矛盾を感じないのか」
「現人神の意思ならば従うまで」
「それが最期の言葉か」

目の前には手足に傷を負った大和の兵士と、血に塗れて立つ守屋さんの姿だった。
守屋さんも兵士も会話をしていて、私の存在に気づいていない。
そして、守屋さんの八握剣がゆっくり振り上げられる。

「見るな! 女のお前が見るものじゃない」

視界が閉ざされ、隆そっくりの声が降り注ぐ。

(光輝……)

「離して。あの大和の兵士さんが酷い怪我を……早く行ってあげなくちゃ」
「……駄目だ」
「けど間に合わなくなるよ!」
「行くな。もう遅い」
「どういうこと……?」
「あの鬼は戦いに魅入られちまってるのさ」

光輝は私の目を塞いだまま、吐き捨てるように言った。

①光輝に話しかける
②光輝から逃げる
③守屋さんに話しかける

194 名前:815[sage] 投稿日:2008/04/09(水) 18:07:16 ID:???
①光輝に話しかける

「は、離してよ。光輝!」
「もう遅いって。あの兵士は守屋が殺しちまったからな」
「そんな……」
「殺しあうのは当たり前だろ。あいつら、戦してんだから」
「あの兵士さんは負傷していたんだよ。もう戦えなかったのに……」
「確かに死にかけてたな。だからこそアイツは、楽に死なせてやったんだろ」

光輝はまるで守屋さんを庇うような発言をした。

「楽に死なせるって何? 守屋さんは酷いことをしたのに……」
「酷いのは守屋の軍も大和の軍もみんな一緒だ。感じないか、この空気」
「空気?」
「そうだよ。すっげー生臭い死の匂いさ」

目が塞がれていて、何も見えない。
すぐ傍で感じる光輝の呼吸を真似るように、深く息を吸い込んでみた。

(何も見えないけど……わかる)

鬼になってしまって、嗅覚が敏感になったのか沢山の生臭い匂いを感じる。
辺りに充満していたのは、死臭だ。
この場所だけでも、何十という死の匂いがしていた。

(気持ち、悪い……)

「……酷い匂い」
「だろ? 守屋だけじゃない。みんな戦に魅入られてんのさ」

光輝は目を塞いだまま、私を抱き上げると「守屋」と名前を叫んだ。
足音がして、守屋さんが近づいているのがわかる。

「あなたは……撫子の君」
「陽も沈むし、俺は愛菜を連れてねぐらへ戻るぜ」
「待て。私が陣を構える稲城へ連れて行こう。お前も来るか光輝」
「イナギ?」

聞きなれない言葉に、おうむ返しで私は尋ねる。

「稲城っていったら、稲を積み上げて作った城とか、敵の矢や石を防ぐ防壁とかだろ。
お前、本当に未来から来たみたいに何にも知らないんだな」

光輝はそう言って、楽しそうに笑った。
こんな酷い場所でも、光輝も守屋さんも平然と話しをしている。

どうしよう……
①稲城に行く
②ねぐらに行く
③考える

195 名前:816[sage] 投稿日:2008/04/10(木) 09:40:24 ID:???
③考える

私は当りに漂う死の匂いに眉を顰めながら迷う。

(それにしても……光輝と守屋さんが一緒に居る理由って何……?)
光輝はあの森を守護する立場に居ると言っていたのに……。
こちらへ来た途端に戦で、周りの風景をきちんと確認していないけれど、ここは森ではない。
守護する場を離れてなぜここに居るのか?
それにこんなに負の感情があふれる場所に居ることは、精霊である光輝にはつらい事のはずだ。

「大丈夫か、愛菜? おい、とりあえずここから離れるぞ。ここは死の匂いがきつすぎる」
「……わかった」
考え込んで返事をしない私を具合が悪くなったと勘違いしたのか、光輝が私を抱えたまま歩き出すのを感じる。
その後を守屋さんの足音がついてくる。
しばらくすると、空気が変わったのを感じた。
耳に入ってくるのは木々の葉が風に揺れる音だけだ。

「ここまで来ればだいぶいいだろ」
その声とともに、視界が明るくなる。夕焼けの赤い光がまぶしくて何度も瞬きして、視界が戻るのを待った。
視界が回復して、私は辺りを見回す。
どうやら、さっきの場所は森のすぐ側だったらしい。
木々がまばらになっていてここが森の外に近い場所なのだと分かる。
そのとき、ふうっと、光輝がため息をついた。
どこかホッとしたようなそのため息は、やはりあの場所は光輝にとってつらい場所だったのだと知るのに充分の重さをもっていた。
そして私はふとまだ光輝に抱き上げられたままなのに気付いてあわてる。

「こ、光輝もう降ろしてくれる?」
「いやだ。少しこうさせろ」
そう言う光輝の顔色は、ものすごく悪い。
思わず光輝の顔に手を当てる。

「大丈夫? すごい具合が悪そう……光輝、精霊なんだからあんな場所に居たらつらいのに……」
「しかたないさ、このバカ共が戦を止めない限りこの森も危険なんだ」
光輝は憎憎しげに守屋さんをにらむ。
守屋さんはその視線をただ受け止める。
光輝は再度ため息をつくと、私の顔をのぞきこんできた。

「とりあえず俺はつかれた。ねぐらにもどる。お前も一緒に行くよな?」

わたしは……
①光輝と行く
②守屋さんと行く
③壱与の元へ行く

196 名前:817[sage] 投稿日:2008/04/11(金) 01:23:19 ID:???
②守屋さんと行く

「私、守屋さんと行くよ。戦をする理由を詳しく聞いてみたいんだ」
「一緒に来ないのか。じゃあ勝手にしろ」
「あ……」
「ん? なんだよ」
「な、なんでもないよ」

隆そっくりの光輝は、ぶっきら棒だけど頼れる存在だった。
出来れば一緒に行動して欲しいけど、顔色を見たら無理は言えない。

(仕方ないか……)

「そんな顔するなって。やっぱり、俺についてきて欲しいんだろ?」
「無理くていいよ。ねぐらでゆっくり休んでね」
「お前がどうしてもって言うなら考えてやってもいいぞ」
「辛そうだし、本当にいいよ」
「だからさ。お前がどうしても付いて来て欲しいってんなら、行ってやるって」
「別に無理しなくてもいいって言ってるのに」
「一緒に来て欲しいんだろ。ハッキリ言えよ。可愛くないな」

私と光輝の会話を黙って聞いていた守屋さんが、痺れを切らしたように話し出す。

「では……私の陣まで案内しようか。光輝はどうする?」
「ちぇっ、仕方ない。コイツのために俺も行ってやるかな」
「本当にいいの?」
「平気だ。さっきの所よりはマシだろうからな」

(光輝、ありがと)

「陣まで少し歩いてもらうが構わないだろうか」
「はい、大丈夫です」
「早くいこうぜ」

太陽はほぼ沈んで、薄暗い中を私たちは歩いていた。
時期が夏だというせいもあるのか、ひぐらしが鳴いている。
森を沿うように進むと丘陵があり、稲を高く積んだ防壁の中に陣があった。

「あの樫の木の奥だ」

守屋さんに案内されたのは、思ったよりも立派な陣屋だった。
土間のような室内に入り、藁の座布団に私たちは腰を下ろした。

どうしよう……
①守屋さんに話しかける
②光輝に話しかける
③辺りを見る

197 名前:818[sage] 投稿日:2008/04/13(日) 12:27:23 ID:???
②光輝に話しかける

「ところで、光輝。身体は平気?」
「ん……ああ」

私にぺったりとくっつくと、光輝は小さく頷く。
話すことすら億劫なのか、私に抱きついたまま目を閉じてしまった。
未だに抱きつかれるのは慣れないけれど、光輝の体力が少しでも回復するのなら仕方がないと諦める。

「あの……守屋さん」
「わかっている。戦について知りたいからここまで来たのだろう?」
「はい」

守屋さんは黙ったまま、あぐらをかき直して私を見る。
上から下まで、私をじっくり観察でもしているようだった。

「な、なんですか。そんなに見られると恥ずかしいんですけど」
「改めて見ると……君は変わった格好をしているな」
「これは制服っていうんです」
「セイフクか。出雲の生き残りにしても、やはり得体が知れないな。
鬼の力がいくら強くても、音も無く消えたり、深手の傷を一瞬で癒すなんて聞いた事が無い。
命の恩人を悪くいうつもりは無いが、まず君の素性を教えてくれないか」

(どうしよう。未来から来たなんて信じてくれないよね)

私は何も言えなくなってしまった。
未来から来たなんて言ったら、光輝みたいに怒ってしまうかもしれない。

「素性は言えないのか。不躾で申し訳ないが、君は遊行女婦なのか?」
「ウカレメ?」
「旅をしながら歌や舞で宴席に興を添える女だ。不可思議な芸といい、おかしな格好といい……遊行女婦ならば合点がいく」

(よくわからないけど、舞は出来るよね……)

「はぁ……」
私はあいまいに返事をして、守屋さんの様子を伺う。
やっと納得したのか、表情の硬さが和らいだ。

「そうか。では今宵は宴を催そう。君の芸を皆の前でみせてもらうぞ」
「えぇ!?」
「士気も上がるというものだ」
「ちょ、ちょっと……」
「では、楽しみにしているぞ」

そう言って、守屋さんは建物から出て行ってしまった。
いつの間にか、私の背中にくっついる光輝は寝息を立てている。

私は……
①守屋さんを追いかける
②光輝を起こす
③考える

198 名前:819[sage] 投稿日:2008/04/13(日) 14:35:47 ID:???
③考える

(なんだか、変なことになっちゃった)

多分、ウカレメっていうのは旅をする芸人みたいなものだろう。
突然現れる私を旅の芸人だと勘違いしたのかもしれない。

(でも……)

光輝に無理をさせてまでここまできたのに、逃げ出すわけにはいかない。
私は眠った光輝を見つめる。

(光輝、しんどそうだったもんね)

今夜の宴は自分でなんとかしないといけない。
確か、守屋さんは舞とか歌とか言っていた。

(歌っていわれても……困った)

ポップスとか、ロックとか、童謡とか歌えばいいんだろうか。
昔だし、和歌とか難しいのを言えっていわれてもわからない。

外からは、兵士が噂する言葉まで聞こえてくる。

「守屋様が遊行女婦を連れてきた。今宵は宴があるらしい」
「ところで、遊行女婦は美人なのか?」
「見たところ、そうでもなかったぞ」
「なんだつまらんな」
「お前では無理だろう。守屋様のお手つきだろうさ」
「しかし、女気のない守屋様が……遊行女婦とは意外なことだな」
「明日は弓が降るかもしれん」
「……それは、冗談にならんぞ」

(なんだか噂されてるし。くじけそうだよ……)

その時、私を呼ぶ声が聞こえた。

①守屋さん
②春樹
③隆

199 名前:820[sage] 投稿日:2008/04/13(日) 16:49:40 ID:???
①守屋さん

「済まないな。少しいいだろうか」

守屋さんは私を手まねきして呼び寄せる。

「なんですか?」
「今宵の宴には参加できない怪我人を診てくれないか。勝手な願いとは思ったのだが、やはり君の手を借りたい」
「怪我をした人を祈祷すればいいですか?」
「ああ。協力してもらえるだろうか」
「わかりました」

(今の私の出来ることって、これくらいだしね)

案内された場所は、怪我人ばかりが集まる簡素な藁ぶきの建物だった。
その中に、数十人という傷ついた兵士が横たわっている。

(これは……)

治る見込みのある人は半分といったところだった。
もう半分の人は衛生的とは言いがたいところに居るせいで、私ではどうしようもないほどになっている。
この場所にも、死の匂いが満ちていた。

「あの……」
「言わなくてもいい。治る見込みのある者だけでいいんだ」
「わかりました」
「……ちょっと待ってくれないか」
「何ですか?」
「治らない者も真似だけでいい。せめて安らぎを与えてやって欲しい」
「痛みを取ることは出来ませんけど、どうしますか?」
「では、眠りを……。一時の安らかな眠りを与えることは出来るか」
「……やってみます」

私は守屋さんに言われるまま、一人ずつに力を使っていく。
たった六、七人を治したところで、私もフラフラになってしまった。

「無理をさせて済まなかった」
「……いいえ。もう少し頑張れるかなと思ったんですけど」
「いや、本当にありがとう。宴までの間、少し休んでくれ」
「やっぱり宴に出なきゃ駄目ですか?」
「宴の後、戦をする理由について語ることを約束しよう。
君が……素性の言えない様な遊行女婦だろうと、撫子の花ように美しく可憐な女人に変わりは無いからな」

そう言って、守屋さんは優しく私の手を取る。
(真顔でまた恥ずかしい言葉を……すごく痒いよ……)

守屋さんと一緒に建物に戻る時、今晩の宴の準備の様子を目にした。
この陣も戦場なんだけど、思ったよりも雰囲気は明るくて、少しだけ安心する。

①戻って休む
②陣の様子を見たいという
③守屋さんと話をする

200 名前:821[sage] 投稿日:2008/04/14(月) 02:14:42 ID:???
③守屋さんと話をする

宴の準備を黙って見ていた守屋さんの横顔を、そっと覗き込む。
血を浴び、戦場で敵の命を絶っていた人と同一人物とは思えなかった。

「私、守屋さんってもっと怖い人かと思ってました」
「そうなのか?」
「この陣の雰囲気と一緒で、見た目に騙されてたのかもしれません」
「君には、この陣はどう映ったのかな」
「気のせいかもしれませんけど、守屋さんも兵士の人も……少しだけ楽しそうに見えちゃうんですよね」

守屋さんがすごく怖い人なら、この陣の中がもっと殺伐としているはずだ。
顔をあわせる兵士はみんなは守屋さんに敬意を払っている。
怪我人を診ている時にも、強い絆みたいなものを感じていた事だった。

「楽しそうか。確かに、ここの者達は私についてくる変人ばかりだからな」
「変人ですか?」
「ああ。過酷だった東国への征討の時も、この負け戦にも文句ひとつ漏らさない変わり者ばかりだ。何を考えているのか、さっぱり分からない」
「……守屋さんでも分からないんですか?」
「私を含めて全員、戦場でしか己の居場所を見つけられない無頼漢の集団だからな。常識は通じないのさ」

(戦はよくない事のはずなのに……なんだろう)

文化祭と一緒にするのも変だけど、連帯感みたいなのは似ている気がする。
命を懸けるほどの重い戦いだけど、この陣の雰囲気は辛いものだけじゃないのは分かった。

(こんな考え方、きっと光輝に怒られちゃう。あっ、そういえば……)

「あの、守屋さん」
「何だろうか」
「さっき光輝と一緒いた時、兵の人達の噂を聞いてしまったんですけど……私って守屋さんのお手つきらしいんです」
「なっ……なんだ、それは!」
「あの、お手つきってどういう意味ですか?」

(カルタにしては話の前後が合わないし……)

「君は本当に遊行女婦で間違いないのだろう?」
「まぁ……」

(なんで確認するのかな……)

「君も相当変わった女人だな」
「嬉しくないけど、よく言われます」
「私も若くないのだし……実らぬ想いに整理をつける時期なのかもしれないな」
「守屋さんが言っている人って、出雲の姫様のことですね」
「撫子の君は、心まで見透かす力があるのかな?」
「いいえ。守屋さんの隣で寝言を聞いてしまったので」
「これは……参ったな」

真剣に顔を赤くしている守屋さんを見ていると、少し可笑しくて笑ってしまった。

①光輝を見に行く
②もう少し話をする
③考える

201 名前:822[sage] 投稿日:2008/04/15(火) 10:48:39 ID:???
③考える

けれどのんきに笑っている場合でもない。
まだ宴で何をやるか決めていない。

(うーん、守屋さんは歌や舞って言ってたよね……)
となると、その二つのどちらかをやればいいのだと思うけれど、生憎舞は舞えても、この時代の歌がどういうものか分からないので、歌は歌えない。
そうなると、もう舞を舞うしかないのだけれど……。

(壱与の舞って、宴席で舞っていいような舞なのかな……?)
私が舞える舞は、主に儀式に使うもので宴席で舞うようなものではない。
絶対に舞ってはいけないというものでも無いだろうが、宴席に水を差すことになるのは嫌だ。

(あ……そういえば……)
儀式の舞といえば儀式の舞なのだが、どちらかと言うと祈願する意味合いが強い舞もあった。
平和を願う舞、勝利を祈願する舞などがそれだ。
そういう舞ならば、宴席でも問題ないだろう。

「では、私はすこし片付けなければ行けない仕事があるので失礼する」
「あ、はい」
守屋さんは私を光輝が寝ている部屋の前まで送るとそう言ってまたどこかへ行ってしまった。
室内に入ると、光輝はまだ眠っていた。
相変わらず顔色が悪い。

(やっぱり、この場所も光輝にはつらいのかな……)
光輝のすぐ横に座って、青白い顔に手を伸ばす。
すると、気配に気付いたのか光輝がうっすらと目を開いた。

「光輝、大丈夫?」
「……あぁ」
半分寝ぼけたような声で、光輝は返事をするともそもそと動く。

「こ、光輝?」
光輝は座っている私の膝に頭を乗せて、片方の腕を私の腰にまわすと再度寝入ってしまった。
その様子は怪我をした守屋さんと同じような仕草だ。

(こ、これもきっと無意識だよね……)
きっと身体が辛いのだろう。
しばらくそのままで居ると、明らかに光輝の顔色がよくなっていく。
足が痺れてそろそろ辛くなってきた頃、大分顔色のよくなった光輝が目を開けた。

「……ん?」
「おはよう、光輝」
一瞬ここがどこだか分からなかったのか、ぱちぱちと瞬きをした光輝は私の声に顔を上げる。

「あー、おはよう」
小さくあくびをした光輝はのっそりと起き上がる。
けれど、私からはなれる気は無いのか私の背後に回ると、以前のようにべったりと抱きついてくる。
まだ、完全に回復はしていないのだろう。
私の肩にあごを乗せると、光輝が聞いてくる。

「そういや、守屋に頼まれて芸を披露するんだろ? なにやるんだ?」
具合が悪そうにぐったりしていたけれど、話はきちんと聞いていたらしい。

えーっと……
①平和を願う舞
②勝利を祈る舞
③それ以外の舞

202 名前:823[sage] 投稿日:2008/04/15(火) 22:40:11 ID:???
③それ以外の舞

(兵のみんなが喜ぶのがいいけど……平和の舞、勝利の舞か。他の舞は無いのかな)

私は困り果てて、うーんと唸った。
その様子を、光輝が不思議そうに見ていた。

「愛菜。もしかして、困ってるのか?」
「みんなが喜ぶような舞を披露したいけど、よくわからなくって。実は私、すごく人前が苦手なんだよね」
「遊行女婦なのに人前が苦手なのかよ。でもさ、たしか以前の説明では巫女だって言ってなかったか?」

肩にあごを載せたまま、光輝は視線を向けてきた。
私は仕方なく、怒られない程度に本当の事を話す事にした。

「本当はね……私は高校生なんだ」
「コウコウセイ? 聞いたことない言葉だな」
「だからね、私はウカレメって旅芸人じゃないから、喜ばれる芸なんて分からないんだよ。
けど、せっかくの宴会に水を差すような真似はしたくないから困ってるんだよね」

小学校の学年演劇や文化祭では、私はいつも裏方の仕事に逃げてしまっていた。
今にして思えば、少しでも舞台慣れしておけばよかったと思う。

そういえば、春樹は五年生の時にも白雪姫の王子様役をしていたっけ。
演技も他の子より堂に入っていて、あの後に春樹はラブレターとか結構もらっていた。
何をしても地味な私には、舞台の上での春樹が本当に眩しく見えた。
そんな立派な弟を持てた事が誇らしかったと同時に、少しだけ寂しい気持ちになったのを思い出す。

(舞の話から、春樹のことに考えが変わってるし……)

春樹から逃げるようにして眠ったのに、私は何をやっているのだろう。
家族になった五年前から、春樹について考えている事が多かった。
それなのに、春樹が私を異性として好きかもしれないと、そう考えるだけですごく怖くなってしまう。
どこまでも逃げ出したくなる。

(私って、わがままなのかな……)

自分がズルイような、情けない人間に思えて、大きなため息が漏れた。
大体、精霊とはいえ光輝に抱きしめられている今の状態で、春樹のことを考えるなんてどうかしている。
溜息の意味を勘違いしたのか、光輝は私を覗き込んできた。

「お前、守屋より鬼の力が強いんだから、あいつの言うことなんて聞く必要ないだろ。
困ってるのなら、いっそ宴会に出る必要ないんじゃないのか?」

さっきよりも私を抱きしめる力を強くして、甘えの混じった口調で言葉を続けた。

「ここは負の気が多くて気分が悪いしさ。俺と一緒に森へ戻ろうぜ」

どうしよう……
①ここに居る
②森へ行く
③夢から醒める

203 名前:824[sage] 投稿日:2008/04/17(木) 00:17:16 ID:???
①ここに居る

「駄目。守屋さんと約束したんだから」

私は光輝の手を振り解いて言った。
だけど、光輝は相変わらず腑に落ちないという顔をしていた。

「宴会のことにしたって、守屋が一方的に決めた事じゃないか」
「たしかにそうなんだけど……」
「俺も守屋のことはそんなに嫌いじゃないが、やっている事は許せないんだ。
それなのに、お前がほいほい言いなりになってるのが余計に腹立つんだよ」
「言いなりになんて……なってないもん」
「さっき言いなりになって、死にそうな兵士の治癒をしていただろうが」

(光輝、寝てると思ってたのに気づいてたんだ)

「この戦で、俺の森は穢されたんだ。そんな奴らの味方なんて止めちまえって」
「でも……怪我をした人を放っておけないよ」

たしかに、光輝にとってここの兵士は森を穢す悪い人達だろう。
けれど私は、苦しんでいる人がいるなら、少しでも何かしてあげたいと思っている。
仲間を一人でも多く助けたいと思って、守屋さんも私を頼ったはずだ。
その結果で、光輝の森がもっと穢されてしまうかもしれない。

(わからない。どうすればいいんだろう……)

「悩むなよ」

光輝はまた私をギュッと抱きしめてきた。

「悩むよ。だって、わからないから……」
「大体、どんな理由があろうと戦なんてくだらない事だろ。お前の鬼の力でこの陣を壊しちまおうぜ」
「本気で言ってるの?」
「もちろんだ。俺は分かってるんだからな。お前は誰よりも強い。本気を出せば、この陣だって壊せるはずだ」
「壊す力は……使わないようにしてきたからよく分からないよ」

『程度を超えた力は災いしか生みません』
『その力をどうか、破壊する力ではなく、生かす力として使ってください』
(以前、冬馬先輩が言っていたこと……)

黙った私を覗き込むと、光輝は真面目な顔をする。
そして、ポツリと告白するように話し出した。

「正直に言うとさ。守屋と一緒にいれば、またお前に会える気がしていたんだ。俺は……お前を待っていたんだよ」
「光輝……」
「今の俺じゃどうする事も出来ない。けど、お前には変える力があるんだ」
「でも……」
「胸に手を当ててよく考えてみろよ。お前自身はどうしたいんだ? 戦なんて終わらせて、俺と森に帰ろうぜ」

(私は……どうしたいのかな)

私は……
①考える
②壊す
③壊さない

204 名前:825[sage] 投稿日:2008/04/17(木) 16:37:44 ID:???
③壊さない

「壊さない。」
私の言葉は決まっている。
「なぜだ……。」
光輝に聞き返されようがこれはできない。
未来にいるはずの私が過去の世界を変えるわけにはいかない。
今思えば、ここの人たちを回復させることですら未来が変わっているのかもしれない。
きっとここを潰してしまえば未来は大きく変わる、そんな気がした。
「何を言われてもできないわ……。」

歯がゆそうに光輝の顔が強張る。
「偽善だと思ってる?それは違うよ、光輝に大切な物があるように私にも大切な物があるの。」
「……大切な物。」
「私の世界。ここを潰したら私の世界がなくなっちゃう。
光輝の世界が森であるように私の世界もあるの。」
「俺にはわからない、お前は俺と一緒にいて、俺の世界の住人になればいいじゃないか。」
「ごめんね、それはできない。私は自己中だよね、私の為に光輝の世界を犠牲にしてる。」
私の大事な帰る場所、春樹やお父さん、お義母さんの待つ家、香織ちゃん達と学ぶ学校。

きっと私はあの場所を守る為ならどんな力でも使う。

「私が壊す力を使うとしたら、あの場所を壊そうとするモノ。
きっと私はその為なら躊躇いなく自分の力使えると思う。ほんと、私って自分の為ばっかり……。」
「……。」
光輝の悲しそうな顔を見て私はもう一度ゴメンと頭を下げた。

私はここに関わりすぎてるのかもしれない、
もしかしてこのままだと本当に未来が変わるかも。
でも……彼らの行く末も気になる。

①これまで通り彼らと付き合っていく
②守屋さんとの約束が終わったらもう会わない
③守屋さんとの約束が終わったら遠くから見守る

205 名前:826[sage] 投稿日:2008/04/17(木) 22:57:32 ID:???
②守屋さんとの約束が終わったらもう会わない

(未来に影響を及ぼしてしまう可能性……)

私の夢でタイムパラドックスが起きるのか、全くわからない。
まず、ここが本当に過去なのかも曖昧なのままだ。
夢ということ以外、わからないことだらけの過去かもしれない世界。

(でも可能性があるなら、やっぱり出来ない)

私は現実から逃げ出してきた。
それは、春樹や隆、決別したままの修二くんのことから目を背けてきた結果だ。
すべて解決しなければいけないことばかりだ。
そのためにも、早く自分の居場所に帰らなくてはいけない。

「お前の世界か。……たしか未来から来たって言っていたな」
「光輝、私の言うことをやっと信じてくれたんだ?」
「いや、全然信じてない」

(あらら……)

光輝は、頭をカリカリと掻きながら口を開いた。

「陣は壊さないのか。まぁ、お前が嫌なら仕方がないよな」
「ごめん」

私は光輝を覗き込むと、視線がぶつかった。
その視線は、いろんな感情が入り混じっているようだった。

「愛菜の出した答えなら、謝る必要は無いさ。たとえ森が滅びても、天命だったってことだ」
「光輝……」
「守屋も自陣が陥落するのは分かってるんだ。ずっと凌いできたみたいだったけど、大和が新たな軍を送り込んできたらしいしさ」
「どうして光輝がそんなことを知っているの?」
「守屋自身が言っていた事だし、みんな知ってるよ。ただ、簡単にやられてくれりゃいいのに、踏ん張るから森がよけいに穢されてんだ。
兵力の違いは明らかだし、この戦はじきに終わるだろう。お前が手を下してたら、すぐに早く終わっただろうけどな」
「投降は? そうすれば森もこれ以上穢されず、守屋さん達が生き残る可能性だって……」
「それは無いだろうな」

私からゆっくり身体を離すと、光輝はよろけながら立ち上がった。

「俺は森に帰るぜ。これ以上、空気の悪いところに居られない」

私は……
①光輝を送る
②守屋さんに会いに行く
③夢から覚める

206 名前:827[sage] 投稿日:2008/04/22(火) 14:10:33 ID:???
①光輝を送る

私は出て行く光輝を陣の入口まで見送ることにする。

「じゃあ、そこまで送るよ」
「……好きにすればいいさ」
光輝は私をチラリと見ると先に立って歩き出した。

(もう光輝には会えない気がする……)
ここで分かれたらきっとこの予感は当る。
光輝は立ち上りこそふらついたものの、思ったよりもしっかりした足取りで陣を横切っていく。

「……じゃあ、な」
「うん……」
光輝は『またな』とは言わない。きっと光輝も何か感じているのかもしれない。
光輝は二、三歩進んで、ふと思い出したように振り返った。

「なぁお前、何の舞を舞うか悩んでるって言ってたよな」
「え……、うん」
「じゃあさ、再生の舞を舞ってくれないか?」
「再生の、舞?」
私は壱与の記憶をたどる。確かにそんな舞はあった。

「ダメ、か?」
「ダメじゃないけど……」
「安心しろ、再生の舞はめでたい舞だ。宴席で舞って嫌がられることはないぞ」
「そうなんだ?」
「ああ、頼んだぜ?」
光輝は私の返事も聞かずにさっさと歩いて行ってしまった。

(再生の舞、か……)
穢れてしまったと言う光輝の森の再生を願ってほしいと言うことが一番なのだろう。

「撫子の君?」
「あ、守屋さん……」
ぼんやりしているといつの間にか守屋さんが背後に立っていた。

「光輝が出て行ったようだな」
「はい、ここは空気が良くないから森に戻るって……」
「……光輝についていかなくて良かったのか?」
「舞を舞う約束をしたから……」
「そうだったな……」
守屋さんは、少し笑うと私を促して歩き出す。

「宴の用意ができたので、呼びに来たのだった。
 皆、あなたの芸を楽しみにしている。ところで何の芸をみせてくれるのだ?」

私は……
①平和の舞
②勝利の舞
③再生の舞

207 名前:828[sage] 投稿日:2008/04/25(金) 01:30:57 ID:???
③再生の舞

(光輝のお願いでもあるし、これしかないよね)

「再生の舞にしようかと思います」
「そうか。今から楽しみだ」
「期待しないでください。出来ないかもしれませんし」
「そうなのか?」
「私、まったく舞台慣れしていないんです」
「確認の為にもう一度問いたいが、撫子の君はほんとうに遊行女婦なのか?」
「それは……」

守屋さんはまたしても私に尋ねるように言った。
何度も尋ねられると、嘘が余計に心苦しくなってくる。

「大和の密偵などでは無いと信じたいんだ。君は……私の命の恩人たからね」
「密偵? ち、違いますよ」

私は慌てて否定する。
守屋さんは私を密偵かもしれないと疑っていたようだ。

「では、ただの遊行女婦で間違いないのだな」
「あの……」

(光輝は信じてくれなかったけど……)

「あの、私が出雲の姫様の生まれ変わった姿だと言ったら、信じてくれますか?」
「どういうことだい?」
「壱与が転生して私になったんです。私は未来から来ました」
「生まれ変わり? 輪廻転生のことか……大陸の教えだな」

篝火で明るく照らされた陣の広場に着き、私は守屋さんの隣に腰を下ろす。
もう宴会は始まってていて、酒も入りみんな上機嫌だった。
私は目の前にある葡萄のジュースを一口二口飲む。
横顔の守屋さんを伺い見ると、少し浮かない顔をしていた。

「浮かない顔ですけど、どうかしたんですか?」
「誰から吹き込まれたのかは知らないが、大陸の教えを信じるのは止めなさい」
「大陸の教え?」
「輪廻転生のことだ。人は死ぬと、敵、味方と関係なく黄泉へ行く。そして、祭祀で穢れを浄化しながら、祖霊となる。
別の人間に生まれ変わりはしないのだよ」
「でも……私は不思議な夢を何度もみてきました」

私は今までの予知夢を守屋さんに聞いてもらった。
最初は盃を持ったまま考え込んでいたけれど、ようやく口を開いた。

「黄泉は夜見(ヨミ)、すなわち夢を指すこともある。
夢を見ることは霊魂の放浪と言われているから……黄泉と縁の深い鬼の力をもってすれば過去や未来を覗き見ることも可能かもしれない」

そう言って、守屋さんは濁ったお酒の入った盃を一気に飲み干していた。

(……予知夢も鬼の力だったって事?)

私は……
①もっと尋ねる
②話題を変える
③考える

208 名前:829[sage] 投稿日:2008/04/25(金) 14:52:48 ID:???
①もっと尋ねる

「黄泉と縁の深い鬼の力ってどういうことですか?」
「鬼なのに、君は何も知らないのだな」

守屋さんは少しだけ笑うと、話を続けた。

「元々、鬼は地下の世界である黄泉に住んでいる者達だったのだ。
太古に黄泉から逃げ出した神を追ってそのまま中津国、いわゆる人間の住む地上世界に居ついた。
それが我らの祖先だと言われているのだよ」
「じゃあ、私の予知夢は鬼の力の影響かもしれないということですか?」
「出雲の鬼道師には予知に秀でた者もいたという話だからな」

(使えない予知夢は鬼の力だったんだね)

「あの……話を戻しますけど、守屋さんは生まれ変わりを信じていないんですよね?」
「無論だ」
「即答ですか……」
「ここに集う者達が信じるのは国神だけだ。国神に背いて大陸の他神を敬うなど、たとえ帝であっても許せるものではない」
「帝、ですか?」
「そうだ。帝は大陸の政や文化、宗教をこの国に取り入れようとしている」
「それが許せないんですか?」
「もちろんだ。この国そのものが失われてしまうかもしれない大変な事態だ」
「でも未来では、そうでもないですよ?」
「……一体、どういうことかな」
「私たちの世界では、一年の終わりにお寺に行って、一年の始まりに神社に行ったりします」
「な、なんだそれは……」

守屋さんは信じられないという顔で、私を見る。
お酒を飲んでいるせいか、どことなく頬が赤い。

「何かヘンですか?」
「それで神々はお怒りにならないのか」
「多分……」

守屋さんは黙り込むと、焼いた川魚に齧り付いて、またお酒を飲んでいた。
私は空になった盃に、お酒を注いだ。
そして、酒が入って上機嫌の兵士の人達を見ながら小さく呟くように言った。

「君の話が本当だったとしても……。今更、これだけの人々を巻き込んだ戦を止める訳にはいかないだろうな」
「それは、大和と戦い続けるということですか?」
「鬼の血族を根絶やしにし、愚弄した帝は……やはり倒すべき相手なのだ。
たとえ私を慕い、ついてきてくれるこの者達を利用しても果たさなければならない」

決意の言葉とは裏腹に、守屋さんの横顔は暗く沈んでいる。
私はその顔を覗き見ながら、葡萄のジュースをまた一口、二口飲む。
なんだか身体が少し熱くなってきたような気がする。

①話の続きをする
②飲み物について尋ねる
③舞の話を振る

209 名前:830[sage] 投稿日:2008/04/26(土) 11:19:11 ID:???
①話の続きをする

(もしかして、守屋さんは……)

「私の勘違いかもしれないんですけど、守屋さんは後悔してませんか?」
「後悔か……」

そう言いながら、守屋さんは私の空になった器にジュースを入れてくれた。
癖のある飲み物だけど、意外と美味しい。
私はお礼を言って、また飲みはじめる。

「撫子の君の言うように、私は後悔しているのかもな」
「やっぱり……戦をしてしまったことですか?」
「私怨を廃仏という大義名分にすり替え、大和国に内乱を起こしたが……そのことに後悔はない。
森を荒らして、光輝には随分嫌われてしまったがな」
「じゃあ、何に後悔しているんですか?」
「何も知らずに付いて来てくれる者達を、騙して利用してしまったことに後悔しているのだろう。
ここに集う人間も含め、大和の民はすべて、同属を滅ぼした悪しき民族のはずなのにな」

(詳しくはわからないけど……)

「鬼を滅ぼした民族でも……守屋さんは後悔しているんですよね。
それって……ここにいる人達が守屋さんにとって大切な仲間だからじゃないですか?」

守屋さんは相変わらず、宴会の様子を眺めている。
広場の中央では誰かが楽しそうに踊っていた。
そして、宴会の喧騒にも聞き入っているようだった。

「ここに集う者達は私の仲間か……」
「そうだと思います」
「尾張、駿河、甲斐、信濃……。確かに東征の時も、長い時間を一緒に戦ってきたな。
共に戦場を駆けている時が、生きている実感を一番得られた気もする。
だが、私は鬼で彼らは人間。相容れない存在だ」
「ずっと一緒だった仲間なのに?」
「ああ。人間はみな鬼を恐れてきたし、鬼は人間を蔑んでいた。
出雲国王も和平を望んだのに、大和がそれを裏切った。やはり相容れなかった証拠だよ」
「でも……」
「鬼だと知ったら、ここに集う者達もきっと私の元から離れてしまうさ。
今は何も知らずに共に戦ってくれているがな」

私は……
①「もう鬼にこだわる必要なんてない気がします」
②「でも、帝と壱与はわかりあっていましたよ」
③「じゃあ、守屋さんも人間になってみますか?」

210 名前:831[sage] 投稿日:2008/04/26(土) 22:59:57 ID:???
①「もう鬼にこだわる必要なんてない気がします」

「私はこだわっているのだろうか」
「とてもこだわっている様に見えます」

時々、心がひとつのことに囚われすぎて、周りが見えなくなってしまうことがある。
たとえば、家の中だけで何日も過ごしていると、その箱庭がすべてのように感じてしまう。
けれど私の家も、遠くから見渡せば街明かりの一つに過ぎない。

守屋さんも復讐に囚われすぎていて、光輝のことなんてまるで気にも留めていない。
兵士の人達にだって家族や恋人や友達だっているはずなのに。
複雑な事情がありそうだし同情はするけれど、それ以上に段々腹が立ってきた。

(身勝手ですごくムカツク……)
喉がカラカラに渇いて、私はまた葡萄のジュースを飲み干した。
今日は熱帯夜なのか、身体がすごく熱い。
空になった器を手で弄びながら、守屋さんに視線を向ける。

「守屋さん」
「何かな。撫子の君」
「私を……抱きしめてくれませんか?」
「えっ。今、ここでか?」
「はい」

私を見つめる守屋さんの目は潤んで、顔も赤い。きっと、かなり酔っている。
さっきから饒舌に自分の考え方を語ってくれるのも、お酒の力だろう。

「本気なのか?」
「もちろんです」
「やはりここではまずい。私の衾でいいだろうか」

(フスマ……?)

「どこでもいいです。舞いを披露しなければいけませんし、早くしてください」
「わかった」

足が痺れたのか、ふらついて思わず倒れそうになる。
守屋さんは私の腰に手をまわし、ゆっくり立たせてくれた。

「飲みすぎじゃないのか?」
「ジュースなんて、少々飲みすぎても大丈夫です」
「じゅうす? まぁいい。歩けるのか?」
「平気です。ちゃんと歩けますから」
「そうか。では行こう」

そう言って、守屋さんは私の手を引いて歩き出した。

私は……
①後を付いていく
②手を振りほどいて一人で歩く
③やっぱりやめる

211 名前:832[sage] 投稿日:2008/04/27(日) 17:32:58 ID:???
①後を付いていく

手を引かれるまま、私は黙って後をついていく。
案内されたのは、陣で一番大きなかやぶき屋根の陣屋だった。

「さぁ、入ってくれ」

私は言われるまま、黙ってその中に足を踏み入れる。
そして、たどり着いた場所には麻の布団だけが敷かれていた。

「……これって……」
「衾だが? ここは私の寝所だよ」
「フスマって……布団……?」
「まさか君から、まぐわいに誘ってくるとは思わなかったな」
「なにを……」
「訳あって出雲で育った私には……君の鬼の気配すらも、懐かしく感じていたのだ」

そう言うと、守屋さんの大きな手が私の髪を顔から払うように撫で梳く。
髪から、耳、頬、唇へとその指先が移動していった。
火照った私の顔に、守屋さんの顔が近づいてくる。

「きゃっ、あの……」
「そんなに緊張しなくてもいい」
「ま、待って……」
「やはり君は撫子のように可憐な女人だな」
「ちょっ……えっと……」
「命を助けられた時から、ずっと君のことが忘れられなかった」

大きな守屋さんに組み敷かれ、私は布団に倒れ込んだ。
潤んだ目をした守屋さんと、間近で目が合う。
守屋さんは微笑みながら、私の額に口付けをした。

「うわぁ、待ってください。…守屋さん、少し落ち着いて……」
「怖くない。心配は無用だ」
「あっ、あの……お願いがあるんです」
「どうしたのだ」
「少しの間、私を抱きしめるようにして、目を閉じてくれませんか?」
「……それが君の望みなのか?」
「はい」
「わかった。それで君が落ち着くのなら、言うとおりにしよう」

守屋さんは私を優しく抱きしめると、目を閉じてくれた。
(力の封印、私にできるのかな)

幼い頃、私は力を捨て去るために自らの力を封印した。だから、きっと今回も出来るはずだ。
私は祈りを込めて、守屋さんにしがみ付く。

(お願い……)

どんな複雑な理由があっても、多くの犠牲を払う復讐なんてしちやいけない。
守屋さんが鬼だという事にとらわれているなら、その力を失くしてしまった方が冷静になれる気がする。
本人の了解も無しに勝手な封印することは、いけない事だろう。
けれど、私はどうしても守屋さんの考え方が許せなかったし、納得できなかった。

(成功して……!)

①封印に成功した
②封印に失敗した
③そのまま気を失った

212 名前:833[sage] 投稿日:2008/04/28(月) 00:14:52 ID:???
③そのまま気を失った

「……さん、……姉さん」

(春…樹の声……?)

「姉さん、姉さん……」
「愛菜ちゃん、はやくおきてよー」

(あれ……守屋さんは? 私戻ってきちゃったの?)

封印が成功したのかどうか分からないままなのに、戻ってきてしまったようだ。
それにしても、ただ私は封印したかっただけなのに、あの時の守屋さんは変だった。
酔っ払ってたのもあるけど、明らかな勘違いしているように見えた。

(私の言い方が悪くて、変な勘違いさせちゃったような)
(いざとなったら全力で抵抗したけど、けっこう守屋さん本気だったのかも……)
(っていうか……宴会で舞を見せてないのに戻ってきちゃったし)

光輝のためにも、再生の舞は宴会で披露しなくちゃいけない。
(一体どうなっちゃうんだろう。また眠れば戻れるのかな)

私は考えを巡らせながら目を開けてみると、やっぱり覗き込む春樹の顔があった。
その横には、ちゃんとチハルもいる。

「愛菜ちゃんがおきたー」
「やっと起きたね」
(おはよう……でもないか)
「そろそろ周防さんが来る時間だから起こそうと思って。と、その前に……」

春樹の手には、おしぼりとヘアブラシが握られている。

「来客なのに、寝起きのままじゃ……姉さんも嫌だろうからさ。一応、準備をしようと思ってね」
(さすが春樹。気が利くなぁ)
「愛菜ちゃんがさすが春樹だっていってるよ」
「チハルだって手伝ってくれただろ? 姉さんの着替えを準備してくれたじゃないか」
「えへへ……はい、愛菜ちゃんのきがえ! ボクがやってあげるからね」
(チハルはえらいね。いつもありがと)
「やったー。ほめられた、ほめられた」

チハルはくるくると楽しそうに回りだした。
春樹もいつも通りの弟の姿に戻っている。

「それじゃあ姉さん。少し体を起こすよ」

春樹の手が伸びて、私の両肩を掴んだ。
考えないようにしているのに、どうしても朝の出来事が頭をかすめてしまう。
その見慣れた世話焼きな手も、いつもとは違って映った。

私は春樹を……
①やっぱり弟としか思えないと再確認した
②今までより強く異性だと意識した
③逃げ出したいほど怖く感じた

213 名前:834[sage] 投稿日:2008/04/30(水) 00:30:22 ID:???
③逃げ出したいほど怖く感じた

『俺は、姉さんのことが――』
(その先を聞くのが……やっぱり怖い。いますぐ春樹から逃げ出したい……)

朝のことを思い出して、私はかたく目を閉じる。
今までの春樹だったら、少しは意識することはあっても、安心して体を預けることが出来た。
隆や冬馬先輩や他の人達に触れられても、ドキッとしたり恥ずかしくなったりするけれど、怖くなんてなかった。
修二くんが豹変してまった時だって、こんなに怖いとは思わなかった。
秋人さんに対して感じた恐怖とも違う。
自分の心なのに、なぜ春樹から逃げ出したくなるのか、考えても答えが出てこない。

(どうして怖く感じるの? どうして逃げたくなるの?)

春樹の腕が、私の両肩を支えている。
変に意識が働いて、全神経が肩に集中してしまったように緊張する。

「愛菜ちゃん、大丈夫?」
心を見透かしたのか、チハルが声をかけてきた。

(チハル頼みがあるの。私が怖がっていることを春樹に言わないで)
(どうしていっちゃいけないの?)
(春樹が傷つくと思う。だからお願い)
(ほんとにいいの?)
(心配してくれるのはすごく嬉しいけど、私の言う通りにして欲しいんだ)
(うん……わかった)
(わがまま言って、ごめんね)

「どこか痛かった? 強く掴みすぎたかな」

私の肩を抱いた春樹が、小首をかしげて心配そうに覗き込んできた。

(チハル。春樹に大丈夫って言って)
肩ではなく、胸が締め付けられるように痛いけど、心配させたくなくて嘘をつく。

「愛菜ちゃんがダイジョウブ、だって」
「それならいいけど……。痛かったら我慢しないで言うんだよ」

ベッドを軋ませながら私を抱き上げると、春樹が上半身を使って私を支える。
だらりと垂れる頭を肩で固定しながら、クシャクシャになった髪にそっと触れてきた。
ヘアブラシを上から下へ動かしながら、ゆっくり私の髪をとかしていく。
その手は壊れものでも扱うように、どこまでも丁寧で優しかった。

春樹とは対照的に、されるがままの私は子供のように動揺していた。
さっきまで戦をする守屋さんに対して、すごく腹を立てていた。
自分の事を棚に上げ、守屋さんを怒る資格なんて私には無い。
どれだけ巫女や鬼の能力を手に入れても、自分の気持ちすら理解できないままだ。

朝の事なんてなかったように、春樹はためらい無く手を動かしていく。
隆と言い合っていた出来事の方が夢だったと思えるくらい、いつも通りの様子を崩さない。

私は……
①春樹に話しかける
②チハルに話しかける
③涙が出てきた

214 名前:835[sage] 投稿日:2008/05/01(木) 00:42:56 ID:???
①春樹に話しかける

(だけど……普段とは少し違うかも……)

表面上の春樹は、ちゃんと今までの弟になっていた。
けれど、不自然なほど優しすぎる動作が、割り切れない気持ちを表しているようだった。
やっぱり私と同様に、春樹も途惑いを隠せないのかもしれない。

チハルを介して、私は髪を梳き続ける春樹に話しかけた。

(もう……いいよ。ありがとう)
「そう? じゃあ、ベッドに横になろうか」
(迷惑かけて、本当にごめん)
「……謝らなきゃならないのは俺なのに、何を言っているのさ」
(なんで春樹が謝る必要があるの?)
「姉さんの体が動かなくなったのは、俺にも責任があるから……」
(は、春樹のせいじゃないよ……!)
「……けど」
(昨日、隆も言ってたでしょ? 春樹は大堂春樹なんだから)
「そう…だね……」

掠れるような声でうなずくと、春樹は手を止めてヘアブラシをテーブルの上に置いた。
空いた片手で落ちた髪を払い、脇にあるごみ箱に捨てる。
ベッドに膝を立てると、腕で私を支えたまま、上半身をずらした。

背中と首に春樹の腕を感じながら、私は再びベッドに寝かされた。
鼓動が聞こえるほど間近に、春樹の胸が迫ってくる。
私は息をするのも忘れて、その一挙一動に緊張してしまった。

「苦しくなかった? 寝かせるのって意外と難しいものだね」
(春樹が丁寧にしてくれるから、苦しく無かったよ)
「よかった。疲れてない?」
(全然平気)
「今度は顔を拭くつもりだけど、少し休んでからにする?」
(ううん。続けて欲しいな)

当たり障りの無い会話を選ぶようにして、言葉を交わしていく。
もっと重要な話をしなければいけないのは、十分にわかっていた。
何も知らなかった頃には戻れない。
答えを先延ばしにして、ずっと逃げ続けるほどの器用さも持ち合わせていない。

姉弟という切れない絆を五年間かけて紡いできた。それは私にとってかけがえのないものだ。
だけど同時に、正体の分からない気持ちが次々と溢れてきて、胸を締め付けてくる。
まるで今まで無理やり閉じ込めていたみたいに、押さえが利かない。

(怖い……)

チャーラーラーチャラーラーラー

その時、突然私の携帯が鳴った。

誰からの連絡だろう?
①周防さん
②美波さん
③修二くん

215 名前:836[sage] 投稿日:2008/05/01(木) 20:35:21 ID:???
①周防さん

春樹はホルダーから携帯を抜くと、ディスプレイを確認して、私に顔を向ける。

「周防さんからだ。俺が出てもいいよね」
(うん。お願い)

私の言葉に黙って頷くと、春樹は携帯の通話ボタンを押した。
携帯で話している春樹の様子を、ベッドから眺める。

「もしもし……俺は…そうです、春樹です。……はい」
「姉さんは相変わらずです。俺ですか? 俺はなんともないですけど……」

しょんぼりした顔で、チハルが私の元まで近寄ってきた。
私を覗き込みながら、心の中に話しかけてくる。

(愛菜ちゃんは春樹がこわいんだよね。どうしてこわいの?)
(私にもよく分からない。ただ色々なことが整理できなくて、不安なの)
(ボクになにかできることない?)

小さなチハルにまで心配を掛けている。そう思うと、いたたまれない気持ちになった。
思わず泣きたくなったが、涙を見せると余計に心配させてしまいそうだ。

(おてつだい、なんでもがんばってするよ?)
(それじゃ……お願いしようかな)

チハルに何をしてもらうおうかと考えて目を動かしていると、青空が目に入ってきた。

(昨日はずっと雨だったのに、今日は晴れているんだね)
(うん。あさからおてんきだよ)

太陽は時々薄い雲に隠れながら、穏やかな秋の日差しを私の部屋に届けていた。
こんな日は外に出たくなるけど、今は諦めるしかない。

(窓……窓を開けて欲しいな)
(いいよ。まってて)

ぱたぱたと窓まで走っていくと、チハルは勢いよくガラス戸を開ける。
頬をくすぐるような、ひんやりとした風が部屋の中に入ってきた。

チハルはまた私のベッドまで戻ってくる。
そして、私の動かない手を握りながら心の中に直接話しかけてきた。

(愛菜ちゃん、げんきになった?)
(気持ちいい風……。うん、元気になってきたよ)
(えへへ。よかったぁ)
(チハル、ありがとう)

そよ風がレースのカーテンを静かに揺らしていた。
外に出ることは出来ないけれど、沈んでいた気持ちが楽になっていく。

「……わかりました。はい……失礼します」

周防さんとの電話を終えて、春樹は私の携帯を閉じる。

私は……
①春樹に話しかける
②チハルに話しかける
③考える

216 名前:837[sage] 投稿日:2008/05/02(金) 01:22:17 ID:???
①春樹に話しかける

(周防さん、何か言ってた?)
電話の内容が気になった私は、チハルを介して春樹に尋ねた。

「もうすぐ着くってさ」

春樹は携帯を机に置くと、私に向かって歩いてきた。

「着替えもしなきゃいけないか。チハル、大きくになってくれないかな。
姉さんを着替えさせるのに、子供のままじゃ出来ないだろう?」
「ボク、もうおおきくなれないよ」
(えっ……。もしかして、私が食べちゃったから?)
間髪いれず、私はチハルに問いかけた。更に幼い男の子になってしまった時から、嫌な予感はしていた。

「うん。もうヘンシンするだけのチカラがないみたい」
(回復しないの? ずっとこのまま?)
「ずっとこのままだとおもう」
(ごめんね。チハル……)
「ちがうよ。わるいのはボクだって、隆もいってたよ? だから愛菜ちゃんはわるくないよ」

チハルの言葉しか聞こえていないはずなのに、何かを察した春樹はチハルの頭を優しく撫でた。

「チハルは姉さんを救おうとしたんだし、決して悪い事をしたわけじゃないよ。
たぶん隆さんが怒った理由は、チハルが自分を粗末にしたからじゃないかな」
「ソマツって、もともとボクに命はないよ? サキミタマだもん」
納得できないのか、チハルは頬を膨らませた。

「全部差し出してしまったら、チハルの存在は無くなってしまうだろ? ぬいぐるみに戻ったとしても、それもうチハルじゃないんだ」
「だけど……ボクはくまちゃんでもあるんだよ?」
「ぬいぐるみは器だろ。精霊として姉さんにつけてもらった名前はチハルじゃないか。
チハルが居なくなるのは、すごく悲しいことなんだ。それを隆さんは怒ったんだよ」
「ボクが消えちゃうのが、みんなかなしいってこと?」
「そうだよ。みんなチハルの事が大好きだからね」
「そっか……。わかったよ。ごめんなさい」

ようやく理解できたのか、チハルは私と春樹にペコッと頭を下げた。
(私も食べちゃおうとしたんだから、おあいこにしよ?)
(うん。おあいこだね)

(それにしても……春樹って精霊とかに詳しかったっけ?)
私は不思議に思って、心の中で首をかしげた。
よく考えれば、私がチハルを食べようとしていた事実をすんなり受け入れているようだった。

「あのね、愛菜ちゃんがどうして春樹は精霊にくわしいのって聞いてるよ?」
「高村の伝承を手に入れたからね。伝承では、精霊って陽の気だけを持った精神体なんだってさ。
幸御魂だってチハルが言っていたのは、四魂っていう精霊の性質みたいなものだね。
わかりやすく人間に例えると心の部分……特に愛だけ抜き取った存在、みたいなものなんだよ」
(すごいんだね。高村の伝承って)
「全然。マニアックな知識と歪んだ高村の歴史が詰まってるだけさ」

ピンポーン

「周防さんが来たみたいだ。チハル、俺の代わりに姉さんの顔だけでも拭いといて」
それだけ言うと、春樹は階段を下りていく。

私は……
①高村の伝承について考える
②チハルに精霊についてきく
③大人しく周防さんを待つ

217 名前:838[sage] 投稿日:2008/05/03(土) 12:46:28 ID:???
①高村の伝承について考える

チハルにおしぼりで顔を拭かれながら、私は考える。
春樹が言うには伝承とは、「マニアックな知識」と「歪んだ高村の歴史」が詰まってるものらしいけど……。

(マニアックな知識って……?)

たった今、春樹から精霊についての説明を聞いた。
以前、周防さんからも『伝承どおりなら、愛菜ちゃんの力は太極の陰陽両儀だ』と聞いた。

少なくとも、力や精霊に関しての知識が記されている事だけはわかる。
前に放送室で、「力についての知識を得るために組織へ近づいた」と一郎くんが教えてくれた。
もしかしたら、伝承に記された知識が目的だったのかもしれない。

(もう一つ言っていたのは、高村の歴史か……)

昨日、チハルの体に神様が入ってきたことがあった。
あの時、神様がいっていた伝承についての言葉を思い返してみる。

『伝承を正しく伝えるのが一族の勤め』
『一族の先祖は出雲へは移らず石見国で伝承を伝え続けた』
『そなたらが行う事象そのものが伝承となる』

きっと過去の高村家の人々が後世に伝承を伝え、今に至るのだろう。

(ねぇチハル。チハルは高村の伝承って知ってる?)
(名前だけなら知ってるよ)
(名前だけ……そっか)
(デンショウがどうかしたの?)
(あっ! そういえば……)
(なあに?)
(ううん、なんでもない。少し思い出したことがあったんだよ)

昨日の夜、春樹の言葉にも伝承という単語があったのを思い出した。

『突然、神宝力が覚醒したと思ったら、高村の伝承が頭の中に入ってきて……』

伝承は高村家の中でも、神宝の力を手にした者だけが得られるものみたいだ。
祖先から培われてきた知識と系譜が伝承と呼ばれ、ずっと伝えら続けてきたのかもしれない。

(周防さんも伝承を知ってるって事は……神宝なのかな)

そんなことを考えていると、ノックの音が聞こえ、それから扉が開く音がした。

ます入ってきたのは……
①周防さん
②春樹
③別の誰か

218 名前:839[sage] 投稿日:2008/05/04(日) 00:26:37 ID:???
①周防さん

「よっ! 愛菜ちゃん」

片手を挙げながら入ってきたのは、周防さんだった。
基本がマイペースなのか、どこで会っても周防さんの様子は変わらない。
(あ……周防さん。こんにちは)

初めて見る周防さんに少し警戒しているのか、チハルは私から離れようとしなかった。
手を握って、心の中に語りかけてくる。

(この人が愛菜ちゃんがいってたスオウなの?)
(そうだよ。とってもいい人なんだ)
(悪いカンジはしないけど、モヤモヤの気がまじってるね)
(それは陰の気だよ。多分、神宝の影響じゃないかな)
(モヤモヤのカンジが春樹とよくにてる……)
(従兄だから似てるんだよ。それでね、チハル。また私の代わりに会話してもらってもいいかな?)
(愛菜ちゃんのお話を、ボクがスオウに伝えればいい?)
(うん。お願いね、チハル)

「おっ、この小さいのは精霊だな」

周防さんはチハルに近づくと、その頭をくしゃくしゃと撫で始めた。
チハルは逃げるように頭を押さえながら、周防さんを見上げている。

「ちいさいのじゃなくて、ボクはチハルだもん。おじさんはスオウだよね」
「お、おじさん……。せめてお兄さんにならないか?」
「ならないよ。スオウはおじさんだもん」
「なぁ、春樹。ちゃんとこの精霊に教育してるのか?」
「チハルは姉さんのぬいぐるみから出てきた精霊ですから。文句は俺じゃなく、姉さんに言ってください」

コーヒーを持って来た春樹が、苦笑いで答えてる。
周防さんはチハルの頭から手を離し、仕方なさそうに溜息を吐いた。

「そうかー、愛菜ちゃんの精霊ならおじさんでも許すしかないな」
「姉さんだったら許すって……今、すごい贔屓を感じたんですけど」
「そりゃ、従弟よりも女子高生に好かれたいからな」
「やっぱり、スオウはおじさんだ! おじさんだ!」

チハルは歌うように言って、クルクルと楽しそうに踊りだす。

「参ったな……。悔しいが、この小さいのに一本取られたみたいだな」

笑いながら頭を掻くと、周防さんは私のすぐ傍まで近づいてくる。
そして、少しだけ真面目な顔になって私の額にそっと触ってきた。

(愛菜ちゃん、色々大変だったな。大丈夫だったか?)

私の心に直接、周防さんの心配そうな声が聞こえてきた。

①(周防さん……?)
②(チハルが失礼なこと言ってしまって済みません)
③(闇について教えてください)

219 名前:840[sage] 投稿日:2008/05/04(日) 13:01:41 ID:???
①(周防さん……?)

なぜ周防さんの声が私の心に直接聞こえてくるのがわからない。
私は、途惑うばかりだ。

(こんな体にさせてしまったのは、神宝の影響だ。本当に済まない)
(周防さんの声が心に……でも……あれ……?)

まるで私の心が読めているように、周防さんは語りかけてくる。
昨日、誰かと交信できないか試して、全員だめだったのに。

(心配しなくていい。これが俺の能力だからさ)

やっぱり周防さんの声が心に直接届いてくる。
私の言葉も周防さんには分かっているみたいだ。

(周防さんの能力?)
(この能力の種明かしはあまり好きじゃないんだが……)

周防さんは私の額から手を離すと、その両手を私に見せる。
そして、また額に触れる。触れた瞬間、また私の心に声が聞こえだす。
また私から周防さんが手を離すと、声が途切れる。
今度は私の手を握ると、また声がした。

(わかったかい?)
(周防さんが私に触れたびに、声が直接聞こえてきます)
(だろうな。俺は触れたものの思念を読み、伝えることができる。神宝の辺津鏡(へつのかがみ)の力なんだ)
(思念を読む……)
(サイコメトリーとテレパシーのあわせ技だよ。俺のは少し変わっていて、精神攻撃も出来るんだ)
(精神攻撃ですか……?)
(テレパシーノックアウトっていうんだけどさ。大嫌いだから、一度しか使ったこと無いけどな)

よく考えてみたら、周防さんにはいつも頭やなんかを触られていた気がする。
そのとき必ず、私の心を見透かすような発言をしていた。
たしか修二くんと初めて会った時にも、周防さんから握手を求めていたのを思い出す。

(うわぁ……。じゃあ、私の心も全部読まれてたってことですか?)
(まあ、触っている時だけな)
(恥ずかしい……私、へんな事考えてませんでしたよね?)
(いいや。愛菜ちゃんの心はいつも優しくて純粋だよ)

それだけ言うと、周防さんはパッと私から手を離して微笑む。
「……さてと。俺に尋ねたいことがあるんだったっけ」
「そうだ、姉さん。周防さんに尋ねたいことがあったんだよね?」
「そこのちっさい精霊が通訳してくれるんだよな」
「うん。ボクが愛菜ちゃんの代わりに答えるよ」

じゃあ何からきこうかな……
①闇についてきく
②秋人さんについてきく
③伝承についてきく

220 名前:841[sage] 投稿日:2008/05/08(木) 19:24:27 ID:???
①闇についてきく

(ねぇ、チハル。周防さんに闇について教えてくださいって言ってくれないかな)
(スオウがね、ヤミのはなしはちょっとまってくれっていったよ)
(え……なんで?)
(春樹のココロにヤミがないかしらべるって)
(春樹に闇……? そう周防さんがチハルの心の中に直接言ったの?)
(うん。てれぱしーでおはなししたよ)
(そうなんだ。何かあるのかな……)

私は仕方なく、ベッドの上から二人の様子を見守ることにした。

「なぁ、そういえば……」
「なんでしょうか?」
「春樹は……従兄である俺のことは知ってるよな?」

いきなりの話題を振ってきた周防さんに対して、春樹は首をかしげた。
それでも律儀にちゃんと質問に答える。

「もちろんです。お葬儀に出た記憶がありますから」
「葬式……。一応、昔に会ってるんだけどさ」
「すみません。会った記憶は無いです」
「じゃあ、葬式に出た従兄が生きていたなんて思わなかっただろう?」
「はぁ……」

曖昧に言葉を濁すと、春樹はコーヒーカップを持ち周防さんを改めて見つめていた。
春樹にとって周防さんは、死んだはずの従兄だったのだから当然だろう。
周防さんはそんな春樹に対して、試すような視線を向ける。

「分家から拾われた俺は、十二、三歳の頃には奴らの手伝いもしていたんだ。それも知らないんだよな?」
「はい。組織の存在すらまったく知らされてませんでした」
「ふぅん。まぁお前さんは幼かったし、能力も無かったから知らなくても当然か……」

周防さんが発した言葉に、春樹は一瞬表情を曇らせていた。
きっと小さな頃の記憶が蘇ったのだろう。

「後から知ったんですけど、俺に能力が無いために……父から仕打ちで母は随分苦労したようでした」
「叔父上はそういう人だったしなぁ。じゃあ春樹は、今能力を手に入れた時どう思った?」
「嬉しかったのかな……。とにかくこの力で守れる、そう思いました」
「誰を守れると思ったんだい?」
「………ね、姉さんですよ」
「ふーん、愛菜ちゃんねぇ」

周防さんはチラリと私を見ると、「なるほどねぇ」と言っている。
春樹はコーヒーを急いで飲もうとして、こぼしそうになっていた。

私は……
①複雑な気持ちになる
②うれしかった
③恥ずかしくなった

221 名前:842[sage] 投稿日:2008/05/08(木) 20:25:56 ID:???
③恥ずかしくなった

(なるほどって……どういう意味ですか?!)
私は恥ずかしくなって周防さんに向って叫ぶけれど、まるで届いていないようだ。
今の私では、直接触れなければ周防さんと意思疎通ができないらしい。

それにしても、心の中を覗かれるのがこんなに恥ずかしいことだとは思わなかった。
次に会うときは、絶対に触れられないように気をつけなくちゃ。

そんな私の誓いをよそに、周防さんはニヤニヤと私と春樹を交互に見ては笑っている。
春樹は落ち着かないのか、ムキになって声をあげた。

「な、なにか文句がありますか?! 弟が姉を心配してなにが悪いんですか」
「別に。悪いなんて一言もいってないけど?」
「その口……そのにやついた口が嫌なんですよ」
「これは、生まれつきだからなぁ。俺はただ美しい姉弟愛に幸あれと思っただけさ」
「そ、そういうことならいいんですけどね……」

周防さんは「とまぁ……冗談はこのくらいにして」と言って姿勢を正した。
春樹も様子の変わった周防さんを見て、同じように居住まいを直す。

「ずっと能力が無いことに嘆いていたようだがな、春樹。そのお陰でお前は真っ当な生活を送れたんだぞ」
「どういうことでしょう?」
「直系の正統継承者だったお前が高村から抜け出せたのは、能力が無かったからだ。
もし、先天的に能力が覚醒していたら、秋人のようになっていたかもしれない」
「兄さんのよう、ですか?」
「結局、秋人も犠牲者なんだよ」
「………そう…ですよね」
「秋人のように強い力を望んだりするなよ。自分を見失うことになるぞ」
「兄さんと同じ……」

春樹は聞こえないような小声で呟くと、目を伏せた。
すると、周防さんの手が春樹の頭に伸びる。
ぽんぽんと頭を叩かれて、春樹は呆けたように従兄の周防さんを見た。

「なんて顔してんだよ。こっちまで暗くなるじゃないか」
「でも……」
「春樹はまだ十六歳の子供だろ。少しくらい間違えたっていいんだぞ」
「お、俺は……もう子供じゃありません!」
「ムキになって、まぁ。でも、それでいいんだ。それが青少年の正しい姿さ」
「青少年って……」
「とにかく全部背負い込もうとするなよ。本当に愛菜ちゃんを大切に思うなら、笑顔にさせる方法を考えるんだ」
「……はい」
「素直だなぁ。よしよし」

周防さんは大人の笑みを浮べて、春樹の髪をぐしゃぐしゃにした。
春樹はそれを不機嫌な顔だったけど、甘んじてその洗礼を受けているようだった。

私は……
①そのまま見守る
②春樹の心についてきく
③秋人さんのことを尋ねる

222 名前:843[sage] 投稿日:2008/05/09(金) 16:53:20 ID:???
①そのまま見守る

(春樹……)

いつも私を大切に思ってくれているのは、ずっと前から気づいていた。
それがどういう形の愛情なのか疑うことも無かった。

私は姉であることに十分満足しているし、今でもそれ以上を想像できない。
だけど、春樹の気持ちはどうなんだろう。そこまで考えて、また怖くなった。
自分自身の臆病さとズルさに胸が痛くなったところで、再び、周防さんの声が耳に入ってきた。

「実はな、春樹。お前と同じ歳の時に、俺は大切な人を失ってしまったんだ」
「……被験者を逃亡させようとした事件ですか?」

春樹の言葉で、周防さんは頭から手をゆっくり離すと息を吐いた。
その溜息には、自嘲とも取れるような笑いが含まれている。

「……そっか。組織で聞いたんだな。あの事件から八年間、俺は反主流派として活動をしてきたんだ。
大切な人を弔うために生きてきた、と言ってもいい」
「八年間も……」
「そうだ。なぜアイツは命を犠牲にしてまで、俺を生かしたのかってそればかり考えて生きてきた。
残された俺はどうすればいいんだって、憤っては何度も叫んだよ」
「……………」
春樹は上手く相槌がうてなくなったのか、うつむいて黙り込んでしまった。
その様子を見ても、周防さんは話を続ける。

「でもな。ようやく最近になって、アイツの本当に望んでいた事がわかってきたんだ」
「本当に望んでいたこと……?」
春樹はようやく顔を上げて、周防さんの顔を見る。

「アイツは、俺を苦しませるために犠牲になったわけじゃないんだ。ただ俺に笑って欲しくて、元気に生きてて欲しくて命を張ったんだよ」
「……その被験者の方も、周防さんが大切だったんですね」
「自惚れでも無く、俺もそう感じ始めたんだよ。そんな感じだから、当たり前の事に気づくのに八年も掛かっちまったんだけどな。
さっき俺が『笑顔にさせる方法を考えるんだ』ってお前さんに言っただろう?」
「はい」
「これが実は一番難しいことなんだって、俺は思うんだ。相手のことをしっかり理解していないと実現しないからな。
なにせこの俺自身、死んだアイツの望みがわかるのに八年も費やしたくらいだしさ」
「確かに、一番難しいですね」
「だろ? 当たり前のことが一番難しいし、一番気づきにくいんだ。正直、こよみのしたことは正しいとは言えない。俺にも多くの間違いがあった。
もう取り返しはつかないし、こよみは戻ってこないんだ。けど、従弟に教えることができるんだから、まぁ無駄ばかりでもなかったのかもな」

周防さんは耳の裏を掻いて、目を泳がせている。
春樹はその姿を黙ってみていた。

「とまぁ……色々言ったけど、お前さんが背伸びをし過ぎて出口を見失ってる、そんな心の内が見えたんだよ。
昔の俺とそっくりでさ。なんか放っておけなくて、柄にも無く説教くさい話をしちまったのさ」
「心の内……ですか?」
「その……なんだ。心を読んだともいうが……」
「まさか……! 神宝の……」
「……鏡の力だよ」

(周防さんバラしちゃったけど、いいのかな)

私は……
①そのまま見守る
②春樹の心についてきく
③秋人さんのことを尋ねる

223 名前:844[sage] 投稿日:2008/05/11(日) 00:34:29 ID:???
①そのまま見守る

周防さんに尋ねてみたいけれど、私から言うにはチハルを介さなくてはいけない。
私が会話の腰を折るよりも、今は周防さんと春樹の会話を聞いていた方が良さそうだ。
そう思っている間にも、二人の会話は更に進んでいる。

「神宝の鏡、辺津鏡が俺の力だ。お前さんは八握剣だったんだよな」
「そうですけど……よく分かりましたね」
「秋人から色々聞き出したからな」
「兄さんと話をしたんですか?」
「ああ、昨晩会ったんだ。その時、秋人が少しばかり意味深なことを言っていたんだよ」
「意味深、ですか?」
「珍しく俺に忠告してきた。心の闇に気をつけろってな」
「心の闇……」
「高村である俺たちも今は人間だか、鬼の血が混じっている。その伝承は知ってるよな?」
「はい……。高村家は元々石見国の鬼の一族だった。
そして、時代と共に薄まっていく力を鬼の化身と交わることで維持し続けてきた……ですよね」

春樹は言いにくそうに呟くと、私を見た。
私はその視線をどう受け止っていいのか分からず、目をそらす。
周防さんは冷めかけのコーヒーを一口だけ飲むと、話を続けた。

「その通りだ。鬼の陰の気があったから、一族は強い力を操り、伝承を受け継ぐことが出来た。
だけど鬼の力は諸刃の剣でもある。鬼の陰の気は人間には強すぎるんだ」
「強すぎるって……どういう事ですか?」
「鬼の強力な陰の気は、負の感情を増長させるんだよ」

周防さんはコーヒーカップをゆっくり置きながら言った。
春樹はその言葉の意味を考え込んでいたが、答えを見つけたように話し出した。

「あの……伝承が入ってきた時のすごく嫌な気配は……もしかして……」
「察しがいいな、春樹。伝承は知識と記憶の塊だ。当然、その中には祖先が蓄積してきた負の感情も含まれてるのさ」
「それが心の闇……」
「一度乗っ取られたら剥がすのは困難だ。伝承の中に巣食っている闇に、心まで狂わされることになる」
「俺は……どうすれば……」
「とりあえず、強い負の感情を抱かないのが一番だろうな」

(鬼の力が心を狂わせる……)

私は……
①考える
②周防さんに話しかける
③春樹に話しかける

224 名前:845[sage] 投稿日:2008/05/13(火) 23:44:41 ID:???
②周防さんに話しかける

(ちょっと待って……。周防さんが闇に心を奪われなかったのはなぜ?)
鬼の陰の力が人間に良くないのは説明でわかった。
けど、秋人さんは心を狂わされたのに、周防さんだけ無事だったという差を疑問に思う。
高村の血筋だったら、周防さんだって同じなはずなのに。
私はチハルに頼んで、さっそくその疑問を伝えた。

「なるほど。愛菜ちゃんはなぜ俺に闇が取り付かなかったのか知りたいんだよな」
(はい)
「俺の場合、自分の能力で回避できたからなんだ」
「周防さんの能力って……さっきチラッと言っていた覚りの力ですか?」
春樹は頭の中の記憶を探り出すように、口許を押さえながら周防さんに尋ねた。

(覚り?)
「姉さんは聞いた事ない言葉だろうけど、覚りって心を読む力の事なんだ。
伝承では、神器にしろ神宝にしろ鏡の力を持った者は、何かしらの見る力に特化している事が多いらしいんだよ」
「春樹の言うとおり、俺の能力は覚りだ。人の心を覗くだけじゃなく、制御したり、攻撃したりも出来る」
「………じゃあ、俺の心も全部見透かされてたってことですよね」
「悪い、お前の頭を触った時に見せてもらった。ほんの少しだけな」
「そうなんですか。あんまり気持ちのいいものではないですね」

春樹の正直な発言に、周防さんは苦笑いを浮べている。
「俺の能力は春樹にも不評かぁ。だが、覚りだったから俺は闇に取り込まれずに済んでいるんだけどな」
「どういうことですか?」
「俺は自分の精神を制御して、心が乗っ取られるのを防いでいたのさ」
「精神を制御するっててことは、もしかして……負の感情を力で抑えてたって事ですか?」
「どうにもならない時だけな。もし自分以外に誤って精神コントロールなんてやっちまったら、組織の奴らと一緒になるからな」
「組織の精神コントロールって……洗脳……」
「ああ。俺の精神コントロールも一種の洗脳だからな。
だから、すでに薬で洗脳を受けてる奴やファンムに取り付かれた奴の心は読めないし、精神コントロールも出来ないんだ」
「闇に染まってしまった人も、ですか?」
「叔父上にも、秋人にも、まったく効かなかったよ」

そう言って、周防さんはまたコーヒーを手に取ると一口飲んだ。
つられて春樹もカップを持ったけれど、空だったのか飲まずに元へ戻していた。

「コーヒー冷めてませんか? 俺、淹れなおしてきますよ」
「そうだな……じゃあ、お願いするか」

春樹は「少し待っててください」と言うと、コーヒーカップとソーサー、
あとチハルが飲んでいたジュースのコップをお盆に載せて、立ち上がった。

どうしようかな……
①春樹を呼び止める
②周防さんに話しかける
③話を整理してみる

225 名前:846[sage] 投稿日:2008/05/17(土) 20:01:25 ID:???
②周防さんに話しかける

春樹が扉を締めるのを確認して、チハルに呼びかけた。

(チハル。周防さんに私に触れるようお願いしてくれないかな)
(またスオウにココロのなかをみられちゃうかもしれないよ)
(構わないんだ。周防さんに頼みたいことがあるから、言うとおりにしてもらっていい?)
(うん。わかった)

チハルは私に向かって頷くと、周防さんの上着の裾をくいくいと引っ張った。
周防さんはチハルに振り向き、チハルに声をかける。

「ん? どうした、小さいの」
「あのね。愛菜ちゃんがさわってほしいんだって」
「俺に? ……愛菜ちゃんの考えていることが見えてしまうんだけどな」
「カマワナイって言ってたよ」
「けどなぁ。愛菜ちゃん、本当にいいのか?」
(はい)

周防さんが私の手を優しく握ると、覗き込むように見つめてくる。
少しだけ困ったような顔をしているのは、気を遣ってくれているからだろう。

(精霊を通してじゃ、言いにくかったのかな?)
(周防さんに聞きたい事があったので、直接の方がいいと思って…)
(ふむふむ…なるほどね。で、愛菜ちゃんは春樹の中に「闇」の存在があったのかどうか知りたいと)

私の心を見透かしたのか、周防さんに尋ねたかったことを先に言われてしまった。
周防さんの力が分かった今では、その事に対して一々驚くことは無い。
ただ、慣れそうにはないけれど。

(……はい。春樹のことを教えてください)
(闇は……誰にでも少しはあるもんだ。今の春樹は問題になるほどの大きさではなかったよ)
(よかった。それが一番心配だったんです)

私は心の中で、ホッと胸を撫で下ろす。
春樹が秋人さんのように性格が豹変してしまうんじゃないかと不安だったのだ。
そんな私の気持ちを読み取ったように、周防さんが口を開いた。

(でも、愛菜ちゃんには注意していて欲しいんだよ)
(注意? どうしてですか?)
(あくまで、今は大丈夫ってだけなのさ。神宝の力が身の内にある限り、豹変する可能性はあるからな)

私の心にそう語りかけてくると、周防さんは少しだけ強く手を握ってきた。

私は……
①(注意ってどうすれば……)
②(闇の存在を消すにはどうすればいいんでしょうか)
③(じゃあ、秋人さんのように私が春樹の力も譲り受けます)

226 名前:847[sage] 投稿日:2008/05/17(土) 22:46:53 ID:???
③(じゃあ、秋人さんのように私が春樹の力も譲り受けます)

闇に取り込まれる可能性があるのなら、私が器になって力を譲り受ければいい。
それで春樹を守れるのなら、それが一番良い方法だろう。
春樹に対しては迷うことばかりだけど、大切にしたいと思う気持ちに嘘は無い。
もし私の心を今も見えているのなら、決意にも似た思いをきっと周防さんも感じてくれているはずだ。

(愛菜ちゃん……。春樹が大事なんだね)
(春樹が私を守りたいと思っているように、私も春樹を守りたいんです)
(そうか)

周防さんは私の前髪を静かに払い、ため息のような深呼吸をした。
その手がおでこに触れられ、思いの外暖かい手が置かれる。
周防さんの顔を見ると、憂いを含んだような苦しい顔つきをしていた。

(今、愛菜ちゃんは体の自由が利かないだろう。すべて神宝のせいだ。それは分かっているのか?)
(わかっています)
(もう片方の神器の鏡、修二と契約すればいいと思っているね)
(……はい)
(仮に契約したとして……また今のように体の自由が利かない体になってしまう可能性だってあるんだよ。
儀式が上手くいく保障もない。危険過ぎるだろう)
(それもわかっています。けど、私は出来ることをしたいんです)
(ふぅん。愛菜ちゃんは立派だねぇ。とても立派だ)

周防さんが最後に発した言葉には、子供をからかうような突き放した棘が含まれていた。
こんな時にも飄々としている周防さんに対して、少しムッとしてしまう。

(もっとちゃんと考えてください。私、すごく真剣なんですよ)
(考えてるさ)
(考えているなら、なんでそんな言い方するんですか)
(決まっているじゃないか。愛菜ちゃんがなにも分かっていないからさ)
(私、中途半端な気持ちで言ったわけじゃありません)
(知っているよ。俺には手に取るように、愛菜ちゃんの気持ちが見えてるんだから)

周防さんはすべてを見透かすような、瞳を私に向けていた。
その澄んだ瞳に気圧されそうになったけれど、私は周防さんから目を逸らすことなく訴える。

(なら、なぜそんな突き放すような言い方をするんですか)
(お前さんは……昔の俺が犯した過ちを繰り返そうとしているのに、まったく気づかないんだな)
(周防さんの過ちって、綾さんとの事ですか?)
(そうさ。組織の手先だった俺はこよみの心をボロボロにした。罪を償いたくて、牢獄のような組織から逃がそうとしたんだ。
こよみが抹殺されかけたから、咄嗟に庇った。その時、薄れる意識の中で当然の罰を受けたと思った。経緯は美波から聞いただろう?)
(聞きました。でも、どうしてそれが身勝手なんですか?)
(すべて俺の思い上がりだったのさ)
(周防さん、一体何が言いたいんですか?)
(やっぱり愛菜ちゃんはわかっていない。だから同じ過ちを繰り返そうとするんだよ)

周防さんはそれだけ言うと、私の額から手を離してしまった。
と同時に扉が開いて、お盆を持った春樹が入ってくる。

私は……
①春樹に話しかける
②周防さんに話しかける
③考える

227 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 09:41:07 ID:???
×(仮に契約したとして……また今のように体の自由が利かない体になってしまう可能性だってあるんだよ。
儀式が上手くいく保障もない。危険過ぎるだろう)

○(契約して体が元に戻っても……春樹の神宝の力を譲り受けたら、また体の自由が利かなくなるかもしれないよ。
儀式が上手くいく保障もない。危険過ぎるだろう)

228 名前:848[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 12:17:18 ID:???
③考える

(周防さんの言う過ちって……何?)

周防さんにしては珍しく、ちょっと怒っているみたいだった。
春樹の力を譲り受ける事が過ちだというのだろうか。
もしそうだとしたら、私は悪いことだとは思わない。
体が動かなくなるかもしれないという可能性よりも、確実に春樹を守る方法を優先したい。

「お待たせしました。あの……何かあったんですか?」

春樹は周防さんの様子が少し変わったのを感じ取ったみたいだ。
コーヒーをテーブルに置きながら、言いにくそうに尋ねている。

「いやぁ。愛菜ちゃんがとんでもない事を言い出すからさ」

周防さんは私をチラリと見て、また溜息をついていた。
そんな周防さんの様子に、春樹は不安そうな顔を私に向けてきた。

「姉さん。一体、何を言ったんだよ」
(それは……)

私が答えに窮していると、さっきから黙って様子を見ていたチハルが間に入ってきた。

「あのね。愛菜ちゃんは春樹のチカラもギシキでゆずりうけたいって言ったんだよ。
そしたら、スオウがそれはあやまちだって言ったんだ」
「チハル、それは本当なのか?」

春樹は信じられないという顔をして、チハルに確認している。

「うん。ほんとうだよ」
「その小さいのの言うとおり、愛菜ちゃんはこんな身体になっているのに、まだ自分が器になればいいと思っている。
そして、それが思い上がりだって事にすら気づいていない」

周防さんは相変わらず飄々としていてるけど、どこか責めるような口調を崩さない。
私は非難されるような事を言ったつもりは無いのに。

(どうしてそれが思い上がりなんですか? ちゃんと教えてください)
チハルに頼んで、私は周防さんに改めて問いただす。
「じゃあごーまんな考え方と言い換えれば、愛菜ちゃんにはわかりやすいのかな」
(傲慢って……酷い)
「答えは自分で見つけなきゃ意味が無い。強い力を得て、愛菜ちゃんは大切なことを忘れてしまっている。思い出すんだ」
(思い出すって……何を)
「何の力も無く、ただ守られていた頃の辛さだよ」
(守られていた頃の辛さ……)
「俺がさっき言っていた、一番簡単な事なのに見つけにくい答えを言っただろ?」
(笑顔にさせる方法でしたっけ)
「そうそう。俺が八年もかかって手に入れた答えの本当の意味も、傲慢だって言った理由も、
その辛さを思い出せばすべて理解できるさ」

私は……
①周防さんの言ったことに頷く
②わからないと言う
③春樹の様子を見る

229 名前:849[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 16:24:02 ID:???
③春樹の様子を見る

周防さんのいう事は、曖昧すぎてはっきりとした答えが見えてこない。
(守られていた頃の辛さを思い出す……か)
そういえば、守られることが辛いと言って隆の前で泣いてしまったのを思い出す。
あの時、敵が襲ってきた時は俺が守るからお前は逃げろと隆に言われたんだ。
春樹も私を守るために家を出て行ってしまい、声まで失って、すごく動揺していた。
みんなが私のために言ってくれる守るって言葉を重荷に感じて、とにかく辛くて泣けてきたんだ。

(私が器になることは……春樹にとって重荷なのかな……)
(だけど、闇に取り込まれるかもしれない春樹を見過ごすなんて出来ない)

そう思って春樹を見ると、何かを考え込むようにジッと一点を見ていた。
そんな春樹に対して、周防さんは「ふむふむ……」と感心するような声をあげる。

「愛菜ちゃんだけじゃなく自分にも言われてるんだって、春樹も気づいたようだな」
「さすがに分かりますよ……」
「そうそう。悩めば自然と見えてくることがあるのさ」
「俺が持っている神宝の力を譲り受けるって言ってくれた姉さんの気持ちは、よくわかるんです。
でも、少しも嬉しくない。それに何だろう……悲しいっていうか、情けない気持ちになるんです……」
「ふぅん。どうして情けないと思ったんだ?」
「よく分からないです。ただ……」
「ただ?」
「闇に心を奪われない方法が、強い負の感情を抱かない事なら…俺にも出来る、やってやると思っていたんです。
理性で闇を飼いならしてみせると思っていたのに……俺は…姉さんに信用されていないんだなって……」
「で、情けなくなったんだな」
「そう…ですね」

(春樹……)

春樹のためにと器になることを選んだのに、結局、春樹を傷つけてしまった。
私が犠牲になる方法なんて、春樹はちっとも望んでいなかったんだ。
春樹が自分自身でどうにかしてみせると思っているのなら、信じてあげるべきなのに。
なのに私は、春樹の意見も聞かず、勝手に巫女の力が必要だと思い込んでしまっていた。

(力なんて使わなくても、春樹を支えてあげればよかったんだ……)

よく考えれば、春樹が力を求めて家を出て行った時、私も同じ気持ちを抱いていた。
たとえ春樹に力が無くても、近くに居てくれているだけでよかった。
それで十分守られていると感じていたのに、なぜ春樹は気づかないのかって思うとすごく悲しかった。

(力を手に入れた事で、周防さんの言うとおり私は思い上がっていたのかも……)

どうしようかな
①私の気持ちを二人に伝える
②二人の様子をみる
③チハルを見る

230 名前:850[sage] 投稿日:2008/05/18(日) 22:40:55 ID:???
②二人の様子をみる

(けど……今の私に春樹を支える資格があるのかな……)

『俺は、姉さんのことが――』今も耳に残っている言葉の、先を聞くのがやっぱり怖い。
その先の答えが何にしろ、私はどんな顔をして春樹と過ごしていけばいいのか想像すらできない。
いっそ朝の記憶を消してしまいたいとさえ思ってしまう。
複雑な思いで春樹を見ると、これから何かを話そうと口を開いたところだった。

「あの……周防さん」

周防さんを呼びかける春樹の声が、いつもより少しだけ低かった。
声のトーンは小さかったけれど、はっきりとした口調だった。

「ん? どうしたんだ春樹。改まって」
「一つ、聞きたいことがあるんです」
「いいぞ。何が聞きたいんだ?」
「すごく抽象的な質問なのかもしれないんですけど……強さの定義って、周防さんは何だと思いますか?」

春樹は一つ一つの言葉を考えながら発するように言った。
それだけ、真剣に質問しているのかもしれない。

「そりゃまた唐突な質問だな」
「俺にとってはそうでもないです。俺は今までずっと強くありたいと思ってきました。
小さい頃は、実の父から母を守るため。今は……家族を守りたいと思っています。
けど、姉さんに無理をさせるような選択ばかり選ばせてしまうなんて、まだまだ足りない証拠なんです」
「ふーん。それで?」
「最近の色々な出来事や周防さんの言葉で、守ることも、強さも分からなくなりました。だから意見を聞きたくて」
「まずお前さんが考える強さが何なのか、聞かせて欲しいな」
「俺の……考えですか?」
「そうさ。まず春樹の考えを教えてくれよ」

周防さんの言葉で、春樹はしばらく考えを巡られているようだった。
そして、首を少しだけ傾けるとゆっくり顔を上げる。

「それなら……俺の考えじゃなく、こんな風になりたいって思った出来事ですけどいいですか?」
「別に何でもいいぞ」
「今から五年前……俺に継父と姉が出来た時の事です」

そう言うと、春樹は視線を落して私を見つめた。

私は
①そのまま様子を見る
②五年前のことを思い出す
③春樹に話しかける

231 名前:851[sage] 投稿日:2008/05/26(月) 23:25:33 ID:???
②五年前のことを思い出す

(今から五年前……)

私は自分の机の上にある、写真立てに目を向ける。
春樹は私の視線を追いかけるように立ち上がると、その写真立てを手に持った。

「この写真、姉さんも飾ってるんだ」
(うん。居間に飾ってあるのと同じなんだけどね)

私と春樹の会話を聞いて、周防さんは春樹の手元を興味深そうに見つめていた。
「家族の写真……か。俺にもよく見せてくれ」
(構いませんよ。春樹、周防さんに渡してあげて)

春樹は「どうぞ」と言って、五年前に撮った写真を手渡した。

「ほうほう。まだ二人とも小学生か? にしても春樹……お前さん、なんて無愛想な顔をしてるんだ。
写真なら、もっとにこやかに笑うものだろう?」
「たしかに酷い顔ですね。でもあの時は……笑えるような心境じゃなかったんです」
「ん? どういうことだ?」

疑問に思った周防さんは、顔を上げて春樹を見る。
春樹は苦笑いを浮べながら、再び座布団に座った。

「五年前、俺は親の再婚に反対していたんです」
(春樹が再婚に反対していたのは、お継母さんがまた暴力を受けないか心配だったからだよね?)
私はチハル伝いに、今までの春樹が言っていた言葉を確認する。
「まぁね。だけど、それだけじゃなかったんだ」

過ぎた話を蒸し返すのも躊躇われて、私たちは今まで詳しい話をほとんどしたことがなかった。
春樹は少しだけ口をつぐむと、心の中の秘密を打ち明けるようにポツリと話し出した。

「この写真を撮る半年前、再婚の話を母からはじめて聞いた時……俺はすごく嫌な気分になったんです。
再婚を望む母さんがまるで違う女の人みたいに見えてしまって。継父さんや姉さんは母さんをそそのかした敵だと思いました」
(私とお父さんが敵……だから私達に全然会ってくれなかったんだね)
「うん。どれだけ母さんに会うように言われても、二人の顔すら見たくなったんだよ」
「このくらいの年頃だったら余計ややこしく考えたりするしな。親の再婚となれば、なおさらだろう」

周防さんは庇うように言うと、写真立てを春樹に返していた。

「ずっと反対していましたけれど、とうとう悩むのに疲れてしまって、俺は自暴自棄を起したんです。
『再婚でも転校でも母さんに従うよ』と、そう伝えました」
(春樹の言葉をお継母さんは……半年間説得して、やっと認めてくれたんだと勘違いしたんだね)
「そうなんだ。本当に再婚が決まった時は、言葉も出なかったよ」
「すれ違い……か。母親といっても間違いはあるしな。
子供の意見を無視せず、ちゃんと認めさせようとしていた伯母上を責めるのも可哀想だよな……」
「今の俺なら、色々な事に対して折り合いをつけることも出来ます。
母が継父を好きになって、一緒に居たいと思った気持ちも痛いくらい理解できる。
だけど俺はまだ子供だったから……姉さんと継父さんを言葉の暴力で酷く傷つけてしまったんです」

春樹は小さくため息を吐くと、指先でそっと写真をなぞっていた。

私は……
①春樹に話しかける
②周防さんに話しかける
③チハルに話しかける

232 名前:852[sage] 投稿日:2008/05/27(火) 02:09:17 ID:???
①春樹に話しかける

春樹に最初に会って言われたのは、『お前らなんか必要ない!』という言葉だった。
そのときはショックで、私は泣いてしまったのだ。
春樹が言っている言葉の暴力はその事を指しているのだろう。

(あの時のことは、もう気にしてないよ。私だって……今まで一杯春樹に酷いことを言ったもん)
「そんな事はわかってるよ。ただ、情けない俺も姉さんに知って欲しいと思うんだ。
今まで気付かれないように隠してきたのに、なぜだろうね……」

そう呟くと、春樹は力なく笑顔を向けてきた。
そんな切ない笑顔をされると、私はどうすればいいのか分からなくなってしまう。

「五年前、家族になることを拒んでいた俺が一週間後に突然『家族を守る』と言っただろう?
最初の話に戻るけど、その時の理由が俺の思い描く強さの正体に近い気がするんだよ」

そうだ。すれ違いは1週間もすれば消えていたのだ。
春樹の心にどんな変化があったのかわからない。それが強さだというのだろうか。
ただ一週間が過ぎた頃、春樹は約束してくれた。
『母さんだけでなく姉さんも、義父さんも守れるくらいに強くなる。ずっと守る』恥ずかしそうに、私にそう言った。
あれから、春樹はちゃんと約束を守り続けてくれている。

「ちょっと待ってくれ。突然『家族を守る』と言ったって何だ?」

周防さんが食い下がるように、問いかける。
春樹は周防さんに、私たち家族のことを尋ねられるまま答えていた。

私はその言葉を聞きながら、連鎖のように五年前の自分の記憶を思い出していった。

新しい家族が増えるかもしれないと父から聞かされたのは、私が小学校六年生になったばかりの時だった。
まだお母さんが生きていると信じていた私は、父から再婚の話を聞かされた時、驚くと同時に、悲しくなった。
お父さんはお母さんをこのまま忘れてしまうの?と、すごく悲しくなったのだ。

だけど、私は再婚に賛成した。
父は幼かった私の世話をするために、疲れて帰ってきてから家事をしてくれていた。
高学年になった私も家事をして助けていたつもりだけど、管理職に就き多忙になった父の負担は増えるばかりだった。
なにより私が寝た後に、晩酌をしながら母の写真を見ていた父の姿を目撃していた。
その寂しそうな背中を私だけでは埋めることが出来ないのは知っていた。
母が失踪して五年間、ずっと待ち続けていた父が新しい女の人に心を移しても責めるなんて出来なかったのだ。

それから約半年間、私はお父さんとお義母さんとで遊園地に行ったりしながら、少しずつ打ち解けていった。
お義母さんは優しくて会えばすごく楽しかったから、この人が新しい母親なら良いかなと思うようになっていた。
いつも疲れていた父も、お義母さんの前では少年のように笑っていた。
けれど、なぜかその場には弟になる子の姿は無かった。
私はその事が気がかりで、何度尋ねても、お義母さんは曖昧な返事しかしてくれなかった。

父と義母の再婚が決まったのは、秋の終りだった。
私は新しい家族を迎えるその日に間に合うよう、家族四人分のマフラーを編むことに決めた。
みんなお揃いの物を身につければ、きっと喜んでくれると思ったからだ。
特に始めて会うことになる一つ年下の弟は、すごく驚くかもしれないな、と心を躍らせていた。
一目一目が慣れない作業だったけど、わくわくしながら編んでいった。

私は……
①続きを思い出す
②二人の話を聞く
③チハルを見る

233 名前:853[sage] 投稿日:2008/05/29(木) 12:06:14 ID:???
①続きを思い出す

十二月に入り、私たちは家族になった。
お母さんの事は忘れられないけど、私の心の中だけに仕舞っておこうと決めた。

会ったらすぐに渡しそうと、私は完成したばかりのマフラーが入った紙袋を抱きかかえた。
この紙袋の中には、真っ白なマフラーが四つ入っている。
白を選んだのは性別を選ばない色で揃えたかったし、何にも染められていないところが相応しい気がした。
不安もあるけれど、せっかく一緒に暮らすのだから仲良くしたい。
私の贈り物を、お義母さんも弟もきっと喜んでくれるはずだ。

父も落ち着かないのか、私たちは家から出て一緒に待つことにした。
寒そうにして待つ父に、まず最初にマフラーを渡した。
父は少し驚いていたけど、二人にも渡すのだと言うと黙って頭を撫でてくれた。

しばらくすると、引越しの大きなトラックと一緒に、お義母さんと春樹がやってきた。
タクシーから出てくる、お義母さんと弟を出迎えた。
それが、春樹との出会いだった。

春樹を見た瞬間、思わず釘付けになってしまったのを今でもよく憶えている。
カッコいいと思ったのもあるけれど、一つ年下なのに雰囲気が他の子とはまるで違っていたからだ。
優しそうな顔立ちなのに、冷たい視線。落ち着いているけれど、やり場のない怒りを抱えているような瞳。
そんなアンバランスな危うさを持った子供を見たことがなくて、私はとても動揺してしまった。

とりあえず頭を振って気を取り直すと、私はお義母さんと春樹にマフラーを渡した。
お義母さんはすごく喜んでくれたけど、春樹は緊張しているのか無表情のままだった。
お父さんの提案で、私たちは家族になった記念に写真を撮った。
四人で同じマフラーをしていると、まるで血の繋がった家族みたいだった。

私は早く弟と仲良くなりたくて、すぐに遊びに行こうと誘った。
お父さんは「疲れているだろうから、ゆっくりさせてあげなさい」と言ったけれど、春樹は「いいよ。行こう」と言ってくれた。

まずは幼馴染の隆を紹介することにした。男の子同士だし、隆だったらすぐに仲良くなってくれるかなと思ったからだ。
けれど、紹介している時にも春樹は黙り込んだままで、終始不機嫌そうだった。
いきなり隆に会わせた事で、きっと弟は怒ってしまったんだ……。
そう思った私は、早々に陽の落ちた薄暗い児童公園に着いたところで春樹に謝った。

春樹は私の横を静かに通り過ぎると、枯れた藤棚の下にあるベンチに座った。
そのすぐ後に返ってきた答えは、私の思っていた言葉とは全く違うものだった。

私は……
①続きを思い出す
②二人の話を聞く
③チハルを見る

234 名前:854[sage] 投稿日:2008/05/30(金) 00:11:26 ID:???
①続きを思い出す

「どうして君が謝るの? 意味がわからないんだけどな」

さっきまで相槌くらいしか話をしてくれなかったから、始めてちゃんと声を聞いた気がした。
私よりもきれいに通る高めの声だったけど、語気は思ったよりも強かった。
暗がりのせいで、ほとんど弟の表情は分からない。
ただ私が作った白いマフラーだけが、はっきりと浮き上がって見えた。

「無理に……私が幼馴染のところに連れて行ったから、怒っているんだよね。
疲れてるのに急に誘って……春樹くん、ごめんね」

私はここで嫌われちゃいけないと思って、もう一度謝った。
すると、春樹はつまらなさそうにクスクスと笑い出した。

「やめて欲しいな。そんなくだらない事で、怒ったりしないよ」
「もしかして……私が嫌なことを言っちゃった?」
「別に言ってないよ」
「それなら、どうして怒っているの?」

怒っていなければ、こんなに不機嫌にはならない。その理由を聞かないことには、直す事もできない。
身を切るような北風のせいで、耳が冷えて痛くなってくる。
沈黙の後、白いマフラーが少しだけ揺れると、弟の声が聞こえてきた。

「君……まわりの友達から、「いい子ちゃん」とか「真面目だね」って何度も言われてきたでしょ?」

馬鹿にするような、からかうような言い方だった。
たしかに何度か言われた事があった。だけど、香織ちゃんや隆がそのたびに庇ってくれた。

「どうしてそんな事を言い出だすの? 怒っている理由を教えて欲しいだけなのに……」
「姉がどんな性格なのか知りたいだけだよ」
「そうなんだ……」
「だから、僕の質問に答えてよ。君は他人の顔色ばかり気にする、つまらない子供なんだよね?」

今まであまり考えたことはなかったけど、言われたらそんな気がしてきた。
すると、自分がどうでもいいような人間に思えてくる。

「そうかも…しれない…よ」
「このマフラーだって、本当は僕や母さんへの点数稼ぎなんだろ?」
「そんなこと……」

そんなこと「ない」と言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。
喜んで欲しいと思う気持ちの裏側に、嫌われちゃいけないという打算があった。
春樹の言うとおり、私は他人の顔色ばかり気にする、つまらない子供なのだろう。

春樹はベンチから立ち上がると、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。
首に巻いていたマフラーを解いて、パッと手を離す。
白いマフラーは音も無く、春樹の足元に落ちた。

「君、鈍感そうだよね。僕が怒っている理由を、特別に教えてあげるよ。
よく見ていてね」

そう言うと、春樹は地面に落としたマフラーを思い切り踏みつけた。
突然の出来事に、私は声も出ない。意味が分からず、ただ涙が溢れてくる。

私は……
①続きを思い出す
②二人の話を聞く
③チハルを見る

235 名前:855[sage] 投稿日:2008/05/30(金) 12:12:06 ID:???
①続きを思い出す

「こんなもの、気持ち、悪いんだよ……」
「……やめ…」
「お前ら、なんて、絶対に、認めてやるもんか」
「……やだ……やめて……」

私の願いは届かず、春樹のマフラーがボロボロになっていく。
悪意を込めて、春樹はなじるように踏み続けた。

「そうやって、女は、すぐに、泣くんだ。おい、ちゃんと見てろって言っただろ!」
「どう…して……ひどいよ……」
「泣けばいいと思ったら、大間違いなんだからな。母さんだってそうだ。お願いだから認めて欲しいって泣いて……。
毎回泣かれたら、諦めるしかないじゃないか。だけど、僕は絶対にお前らを認めないからな!」
「……やめて! もう、やめて!」

ようやく我に返って叫ぶと、私は春樹を突き飛ばしながら、マフラーにしがみ付いた。
何度も踏みつけられたマフラーを、私は必死で抱きしめる。真っ白だった色は土色に薄汚れていた。

突き飛ばされた春樹は一瞬よろけたが、息を荒くしながら無言で私を見つめた。
その視線は私を射るように鋭く、怒りに満ちていた。
と同時に、視界の先に父の姿が目に入ってきた。私は縋るような思いで、父に駆け寄っていった。

「お父さん!」
「帰りが遅いから迎えに来てみたんだ」
「お父さん…あのね、春樹くんが……」
「……ん?愛菜、泣いてるのか。一体、どうした?」

父は私の顔を覗きこむと、慌てて尋ねてきた。

「春樹くんが……春樹くんがね……」
「いい子ちゃんは、そうやってすぐに大人にチクるんだ……」

近寄って来た春樹は、私の言葉を遮るように呟いた。非難されたようで、私は何も言えなくなってしまう。
涙に濡れた目を手の甲で擦ってみても、次々とあふれ出てきた。

「春樹くん、一体、どうしたんだ。愛菜に何があったのか教えてくれないか?」

父は泣いてばかりいる私に尋ねるのを諦めたのか、今度は春樹に声を掛けていた。

「なんでもないです」
「泣いているのに、そんなはずないだろう。姉弟喧嘩でもしたのか?」
「姉弟? そんな言い方、やめてください」
「何を言うんだ。春樹くんと愛菜は姉弟になっただろう?」
「……そんなの、大人の勝手な都合じゃないか!」

細い肩を震わせて、春樹は言い放った。
さすがの父も、これには言葉を失ってしまったようだ。

春樹は私と父を交互に見据え、唇をかみ締めていた。
そして、目に涙を浮べながら、怒りを爆発させるように大声で叫んだ。

「お前らなんか必要ない! 家族だなんて、絶対に認めないからな!!」

一人で走り去っていった春樹を、私は呆然と見ることしか出来なかった。

私は……
①続きを思い出す
②二人の話を聞く
③チハルを見る

236 名前:856[sage] 投稿日:2008/06/02(月) 15:59:05 ID:???
①続きを思い出す

私とは違い、父はすぐに行動を起こした。
公園を出て行く春樹を、ものすごい速さで走って追いかけたのだ。
しばらく公園で待っていると、父が春樹を連れて戻ってきた。
とりあえずベンチに座るよう春樹を促しながら、父は努めて穏やかな口調で語りかけていた。

「春樹くん。私と愛菜が必要ないとはどういう事かな。これから皆で暮らしていくのだから、もう少し歩み寄ってみないか」

父の言葉を聞いても、春樹は押し黙ったままだった。
それでも父は諦めることなく、言葉を続けていた。

「すぐに家族として認めてもらおうとは、思っていない。
確かに、春樹くんにも愛菜にも再婚のことで無理をさせてしまっただろう。
だからこそ、互いが認め合えるような家庭を築いていきたいと思っているんだよ」

そう言うと、父は私の持っていたボロボロになったマフラーに触れた。
私は胸に抱いていたマフラーを父に渡す。
父はマフラーをそっと広げながら、誰ともなく問いかける。

「なぜ……こんなに汚れてしまったんだ? 二人の間で何があった?」

私は春樹が怖かったけど、包み隠さずすべて話した。
いい子ちゃんと馬鹿にされても構わない。
悪いことをした訳ではないのだし、隠す必要なんてないと思ったのだ。

父はちゃんと私の話を聞いてくれた。
春樹は否定も肯定もすることなく、鋭い目つきで私たちを見ていた。
そして、馬鹿馬鹿しいという顔で首を振ると、ゆっくり立ち上がった。

「そうですよ、僕がやったんです。この子鈍感そうだから、何をしても無駄だって分かり易く教えてあげたんですよ」
「春樹くん、今すぐ愛菜に謝りなさい」
「嫌です。さっきから綺麗事を並べ立てて、丸め込むつもりだろうけどそうはいかないですから。
現実は……もっとずっと息苦しいんだ。もう父親なんて…要らない……」

そこから春樹の声が聞こえなくなった。
私も父も、お義母さんから春樹が実の父親を憎んでいることを聞いていた。
だから父親を要らないという理由も、私たちを拒む理由も少しだけ理解できた。
とはいえ、どうやって春樹の心を解けばいいのか、見当もつかない。

「わかった。春樹くんが私を認めないというのなら、君に選択権を一任しよう」
「選択権……ですか?」

突然の父の提案に、春樹は面食らっている。自信があるのか、父は構わず言葉を続けた。

「ああ。私達の運命を君に託すんだ。春樹くんの一声で、家族を終える事を約束する。その代わり、条件が二つある」
「二つの条件?」
「そうだ。一つ目は愛菜を姉として認め、守ること。もう一つは、中学卒業までは選択権を使わないで欲しい」
「……四年後、ですね」
「今の春樹くんでは、公平な判断もできないだろうし、視野も狭い。そんな状態で運命を託すことは出来ないからな」
「……大人になるまで待てってことですか」
「中学卒業でもまだ子供だが……五年以上は長過ぎるからな。それに、四年あれば私を父親と呼ばせる自信もある」

春樹は再びベンチに座り直すと、身動きひとつせず考え込んでいた。
私は不安になって、自信たっぷりに言い放った父の腕をギュッと握り締めた。

私は……
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②二人の話を聞く
③チハルを見る

237 名前:857[sage] 投稿日:2008/06/03(火) 13:51:29 ID:???
①続きを思い出す

「僕が中学を卒業する時に、まだ父親と認めていなかったら……母さんと離婚するって事ですか?」

やっと口を開いた春樹は、確認するように父に尋ねた。

「春樹くんが望むなら、そうしなくてはならないだろうな」
「そんな簡単に……」
「簡単に決めるのも、よく考えて決めるのも春樹くんだよ」
「僕だけ別の場所で暮らしたいと言ったら、どうしますか?」
「思うとおりにするといい」
「じゃあ、お前だけ出て行けって言ったら、一人で出てってくれますか?」
「ああ、約束だからな」

どうして父がこんな無茶を言い出したのか、理解できなかった。
私達を要らないという春樹に任せてしまったら、未来までボロボロされてしまう気がした。
だけど、きっと父には深い考えがあるのだと信じ、私は見守ることに徹したのだった。

「もう一つの条件は、姉を認めて守ることですよね」
「条件は二つとも満たさなくてはいけないよ」
「わかってます。実際にどうやったら姉を守った事になるんですか?」
「それは春樹くんが自分で考えるのさ」
「僕が考える……」
「どんな方法でもいい。私を拒絶するのは構わないが、愛菜のことは姉として認めるんだ」
「でも……母さんがこんな賭けのような真似、許すはず無いと思いますけど」
「必ず私が説得するさ。愛菜もいいよな?」
「うん。お父さんを信じるよ」
「愛菜もいいと言っている。さぁ、春樹くんはどうするんだ?」

父は相変わらず強気の姿勢を崩さなかった。
こんな約束、父の不利にしかならないはずなのに。

「すぐには決められません。一週間、考えさせてください……」
「わかった。このままでは二人とも風邪をひいてしまう。寒いし、早く家に帰ろう」

父の言葉で、私達は家に向って歩き出した。
頑なに拒んでいた春樹だったけれど、私達の後を黙ってついて来たのだった。

私は……
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②二人の話を聞く
③考える

238 名前:858[sage] 投稿日:2008/06/05(木) 14:16:13 ID:???
①続きを思い出す

あれから数日が経ったけど、春樹とはほとんど言葉を交わすことなく過ぎていった。
春樹は二学期の終わりまで、今までの小学校に通い続けていたからだ。
三学期の初めに転校してくるまでは、別々の小学校に通うことになっていた。
春樹の学校は電車で三十分以上かかるらしく、朝は私よりも早く出て、帰りも私より遅かった。

いつものように、春樹は何も言わずに玄関の扉を開けて家に入ってきた。
私が出迎え「おかえり」と言うと、そこでやっと「ただいま」と小声で返してくれる。
相変わらずの無愛想で苦手だけど、ちゃんと挨拶をすれば返してくれるし、仲良くなれるかもしれないと私は思い始めていた。

春樹の小学校の制服から、私服に着替えてリビングに下りてきた。
そしてキッチンでゴソゴソと何かを作り始めていた。
いつもだったら自室に閉じこもってしまうのに、何をしているんだろうと不思議に思った。
しばらくすると、今度はコートを着て玄関に向っていた。

「春樹くん。どこかに出かけるの?」

玄関で靴を履いている春樹の背中に向って、私は話しかけた。

「少しね」
「少しってどこ? もう暗くなってきているよ」
「どこでもいいだろ。母さんが帰ってきたら、僕が出て行ったこと言っといてよ」

それだけ言うと、春樹は家を出て行ってしまった。
私は急に不安になっていく。もしかしたら、家出かもしれないと思ったからだ。
慌てて靴をはき、急いで春樹の後を追いかけていった。

走って駅まで追いかけていくと、春樹は定期を使って中に入っていくところだった。
偶然ポケットに入っていた小銭で切符を買うと、私はその後を見つからないように追いかけていく。
知らない駅につくと、春樹は迷うこと無く電車を降りていった。
それに倣って、私もその駅で電車を降りた。

春樹は改札を抜け、早足で知らない町に消えていく。
自動改札で切符を入れて追いかけようとしたところで、突然、行く手を阻まれてしまった。
改札機の扉が閉まって、「ピコン、ピコン」と警報音がけたたましく鳴り響いたのだ。

駅員さんが私のところまでやってきて、「どうしたのかな?」と話しかけてきた。
どうやら私の買った切符ではお金が足りず、『のりこし精算』というのをしなくてはいけないらしい。
私は今まで経験したことの無い事態に遭遇して、どうしていいのか分からなくなった。
知らない町で一人ぼっち。おまけにポケットのお金では、駅員さんの言う金額に足りない。
私はただオドオドとすることしか出来なかった。

私は……
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②春樹をみる
③周防さんをみる

239 名前:859[sage] 投稿日:2008/06/05(木) 16:51:04 ID:???
①続きを思い出す

「あの……何かあったんですか?」

落ち着いているのによく通る高めの声が聞こえ、私は顔を上げた。
すると見失ってしまったはずの春樹が、駅の構内に立っていた。

「君は?」と尋ねる駅員さんに、春樹は「この人は僕の姉です」と説明していた。
自動改札で動けなくなっている私を見て状況を飲み込んだのか、春樹は駅員さんと何かを話していた。
結局、春樹が足りない金額を支払うことで、私はようやく解放された。

「こんなところまで、何しに来たの?」
冷ややかな視線を向けながら、春樹は私を見ていた。

「……春樹くんが家出をしたのかと思って、追いかけてきたんだよ」
恥ずかしさのあまり、肩をすくめて私は答えた。

「お金も持たずに追いかけてきたの?」
「うん。とにかく見失わないように、必死だったから」
「僕が家出なんて、馬鹿な真似する訳ないだろ」
「そうだよね。私の勘違いだったよ……」
「まぁ、いいけど。ところで君、これからどうするの?」
「どうするって言われても……」
「せっかくだし、僕と一緒に来る?」

早く帰れと言われるのかと覚悟していたのに、正反対の答えが返ってきた。
私は思わず春樹の顔を覗きこむ。

「えっ、いいの?」
「別にいいよ。大した用事でもないしね」
「本当にいいの?」
「で、来るの? 来ないの?」
「行きたい。春樹くんと一緒に行きたいよ」
「じゃあ、行こうか」

そう言って春樹は駅を出てると、夜のとばりが降りた街を歩き出した。
私の知らない街を、春樹は当たり前のような顔をしながら歩いていく。
私にとっては見慣れない不安な道でも、春樹にとっては思わず足取りが軽くなるほど見慣れた場所なのだろう。

住み慣れた土地を離れ、もうすぐ友だちとも引き離されてしまう春樹の心を始めて覗いた気がした。
本当は私や父が憎い訳じゃなくて、多くの事があり過ぎて受け入れられなくなっているだけかもしれない。
そう思うと、春樹の存在が遠いものから近いものへと変わっていく気がした。
なんでも知っているような大人びたクールさの下に、歳相応の悩みを隠している。
今もマフラーの事は謝ってくれないけど、このまま許してあげてもいいかなと思えたのだった。

私は……
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②春樹をみる
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240 名前:860[sage] 投稿日:2008/06/07(土) 00:51:52 ID:???
①続きを思い出す

しばらく歩いていると、街から住宅地へと景色が変化していった。
さらに進むと民家が途切れ、目の前に急坂が現れた。
もしも自転車で来ていたら、とてものぼれそうに無いほどきつい傾斜だった。
機嫌良く歩く春樹の後について、私は黙ってその坂道をあがっていく。

やっと坂道が終わり、視界が広がった。
私達が登ってきた坂道の頂上には、立派な建物の学校があった。

「ここ、春樹くんが通ってる小学校?」
「そうだよ」
「すごく大きいね」
「あっちの山側にある校舎は中学校なんだ。隣接してるから大きく見えるだけだよ」
「こんな遠いところまで毎日通っているんだもんね」
「あと少しでこの坂道ともさよならだ。今度の学校は登校でヘトヘトにならずに済みそうだし、得したのかもね」

そう呟く春樹に、「本当は転校が嫌なの?」と問いかけようとして思いとどまる。
両親も春樹の負担を考え、近い小学校の方がいいと思って決断したに違いない。
初日に比べれば、春樹の様子も確実に変わっていた。

「じゃあ、春樹くんはこの急な坂道が苦手なんだね」
「面倒だけど嫌いじゃないかな。今はこんなだけど、春になったら桜がすごいんだ」

自慢げに話す春樹が言うには、桜の木は坂道から校庭までずっと続いているらしい。
よく見ると、校庭と校舎を繋ぐ道まで公園のように整備されていた。
学校の名称が書かれた校門は私の通っている小学校より大きく、奥の敷地も広そうだった。

「校門が閉まっているね。これじゃ、春樹くんの忘れ物が取れないかも……」
「忘れ物?」
「だって、学校に用事があったんでしょ?」
「違うよ。僕の用事はもっとこっちだよ」

春樹は私の手を取ると、突然、わき道を逸れていった。
街灯も極端に少なくなっていき、木が覆う小道をズンズンと入っていく。
枯れ葉を踏みしめながら暗い道を通り抜けると、小さな神社を見つけた。
朽ち果てた社に、倒れた灯篭。月明かりに照らされたその場所には、当然だが人影はなかった。

薄気味悪くて、私は春樹の影に隠れるように身を縮める。
一方の春樹は持ってきた鞄を探り、中から包みを取り出していた。

「春樹くん。一体なにをするの?」
「ご飯をあげるのさ」

包みを解くと、手の平くらいの容器に大量の鰹節のかかったご飯が入っていた。
これって確か、ねこまんまって言うんだよね……。

「もしかして、ネコにあげるの?」
「うん。ミケって呼んでるんだ。居るかな……」

春樹は這いつくばりながら、お社の床下を覗き込んでいた。
「あれ……居ないみたいだ」
「なら、少し間待ってみようよ。せっかく来たんだもん」

氷のように冷えた石段の上に座ると、私達はミケという名前のネコを待つことにした。

私は……
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②春樹をみる
③周防さんをみる

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