91 名前:718[sage] 投稿日:2008/02/23(土) 20:14:27 ID:???
②思わない

「なにそれ……なんでそんなこと言うの? 思うわけないじゃない!」
修二くんの言葉に、ふつふつと怒りが湧いてくる。

「修二くんは道具じゃないよっ、修二くんだけじゃない冬馬先輩だってちゃんと人なんだから。
 感情があるから悩むんでしょう? 心が痛くなるんでしょう? だからそんなに辛そうな顔をしてるんでしょ!?
 先輩も先輩だよ……寂しいと感じてはいけない、喜んではいけない、ないてもいけないってっ、なんでそんな事いうのよ。
 そう思ってる段階で、寂しがったり喜んだり泣いたりしてるって、どうしてわからないの!?」
怒りと、言葉にしているうちに湧き上がってきた悔しさに涙が浮かぶ。

「愛菜ちゃん……っぃて」
「はいはい、そこまで、ちょっと愛菜を泣かさないでよ。それから手を放しなさいっ」
パシンっといい再度音がして、修二くんが少し離れる。

「香織ちゃん……?」
「愛菜、大丈夫? まったくコレだから男は!」
「え? なんで香織ちゃんがここに……?」
「もう男どもに愛菜を任せておけないって思ったのよ」
「え? え?」
べりっと、修二くんを引き剥がしてかわりにぎゅーっと抱きしめられる。
呆然とした修二くんが傘の外へでてぬれていく。

「とうとう力を取り戻したんだね、愛菜。 もう封印は解けたから、私のことも思い出すと思うけれど……」
「え……? まさか、香織ちゃんが勾玉?」
「あたり! 本当はあなたに前世のことで苦しんでほしくなかったから私のことを封印していたんだけれど……。
 思い出しちゃったものは仕方ないわよね」
そう言った香織ちゃんは、一転真面目な顔になると修二くんを振り返った。

「まったく、過去はどうでも良いって言いながら、一番こだわってるのはキミでしょ? 
 愛菜が本当に好きなら無理強いなんてしないでよ?」
「……香織ちゃんが勾玉? 本当に?」
「ウソ付いてどうするのよ」
「でも、俺には力が見えないんだけど?」
「そりゃ隠してるもの」
香織ちゃんは肩をすくめる。

(神様は、私を支えてくれる人っていってた。確かに香織ちゃんは親友だし私を支えてくれてる。じゃあ、本当に?)
「私だって鏡と剣と同じ、ずっと前から自分が勾玉って自覚もあったし、力を隠すくらいするわよ。過去の記憶も少しはあるしね」
「俺に過去はない」
「そう思ってるだけよ。ちゃんと振り返りなさいな。
 怖くて振り返れないなら、過去を引きずらないことね。自分で言うとおり、前だけ見据えなさいよ?」
いったいどこから話を聞いていたのか、辛辣に言い放って香織ちゃんは私を振り返る。

「さあ、愛菜。私にして欲しいことを言って?」
「え?」
「何をして欲しい? 勾玉として力を貸して欲しい? それとも親友として励まして欲しい?」
そういって私を見つめる香織ちゃんは、とても優しい目をしている。

私は……
①力を貸して欲しい
②励まして欲しい
③力を確認する

92 名前:719[sage] 投稿日:2008/02/25(月) 11:50:01 ID:???
①力を貸して欲しい

「力を貸してほしい……けど……」
「けど?」
「香織ちゃんまで危険な目にあうのは嫌だよ……」
「~~~~~あ、い、なっ。本当に可愛い子ねぇ。大丈夫大丈夫」
思い切りぎゅっと抱きしめられ、さらに頭を撫でられ勾玉でも香織ちゃんは香織ちゃんだと、ホッとする。
けれど、ふと昨日のことを思い出して心配になる。

「昨日、熊谷さんにファントムつけられてたけど大丈夫? なんともない?」
「ああ、平気平気。あの時はまだ愛菜の封印が解けてなくて、私の力も封印されたままだったから、相手には私が勾玉だってわからなかっただろうし、今は封印が解けてるから、あの程度干渉なんてなんてことないわよ」
「……つまり、愛菜ちゃんの勾玉に関する封印をしたのは香織ちゃんで、ついでに愛菜ちゃんの封印と一緒に自分の力も封印。
 愛菜ちゃんの封印が解けたら自分の封印も一緒に開放されるってカラクリだったわけだ?」
修二くんが憮然とした表情で、私たちを見ている。

「そうよ。私は愛菜には普通に生きてほしかったし、愛菜が普通に生きる限り私の力は不要なものだったからね」
それに、と香織ちゃんは私から離れると修二くんに向き直って言葉を続けた。

「私が始めて愛菜に会ったとき、すでに愛菜の力は自己暗示で使えないのと同じ状態だったもの。それをちょっと強化しただけよ」
「香織ちゃんに初めて会ったときって……」
「そう、小学の3年に上がったときね」
香織ちゃんは元は転入生で、小学3年から同じクラスになった。

「一目見て分かったわ。私は鏡みたいに見る力は強くないけれどね」
その言葉に、私は不意に不安になる。

「……じゃあ、香織ちゃんは私が壱与だから親友になってくれたの?」
「…………はぁ、おばかさんねぇ。そんなわけないでしょう?」
香織ちゃんは盛大にため息をつくと、軽く私の頭を小突く。

「過去なんてどうでもいいのよ。確かにきっかけは、愛菜が壱与だから引かれたのもあるかもしれない。
 でも、愛菜をしれば知るほど、過去の壱与なんかどうでもよくなったわよ。あんたもそうでしょ?」
最後の言葉は、修二くんへ向けて。
その言葉に修二くんは頷いた。

「俺はずっといってるよ、愛菜ちゃんだから好きなんだって。 信じてもらえてなかったみたいだけど?」
「ご、ごめん……」
「まぁまぁ。さて、と、てゆーかこんなにのんびり話しなんてしててもいいの? 私には見えないけど、なんとなーく嫌なピリピリした空気をあっちから感じるんだけど?」
香織ちゃんが指差したのは、私の家の方向だ。
修二くんに詰め寄られたり、香織ちゃんが勾玉だったりと展開についていけずすっかり忘れていた。

①修二くんに家の状況を聞く
②とりあえず家に戻る
③神器をそろえるために一郎くんを呼ぶ

93 名前:720[sage] 投稿日:2008/03/05(水) 14:11:05 ID:???
①修二くんに家の状況を聞く

「ねえ修二くん、向こうがどうなってるか分かる?」
「ん~……」

修二くんは家の方向を見て、少し目を細めた。

「とりあえず片方は勝負がついたみたいだな。もう片方は逆に熾烈になってる。
 勝負がついたほうの勝者がもう一方に向かってるな」
「どっちの勝負がついたの……?」
「愛菜ちゃんの家に近いほうの勝負はついてるね。ついてないのは、そこから少し離れた場所のほうだ。
 けどまあ、この力は剣だよね。問題ないんじゃない?」

修二くんはどこか突き放したように言うと、肩をすくめて見せる。

(じゃあ、周防さんの方は決着がついたんだ……)
周防さんは大丈夫って言っていたけれど、熊谷さんに勝ったのだろうか?
それに敵だといっても、熊谷さんがひどい怪我をしていないか心配だ。

「どうする?行ってみる?」

香織ちゃんが私にたずねてくる。

「危険だろ?やめたほうが良いって。愛菜ちゃんがケガしたらどうするのさ」

修二くんは顔を顰める。

「私が居れば大丈夫よ。私の力は護りの力だもの。宗像くんはちゃんと覚えていないみたいだけれど、見えてるでしょ?」
「見えてるよ、でもせっかく安全な場所にいるんだ。わざわざ危険なところに飛び込まなくてもいいよ」
「まぁ、確かにその言い分にも一理あるわね。どうする愛菜? 行くのやめる? 
 なんなら委員長も呼んで皆でいく?そうすれば、古の契約が履行されるから、愛菜にとってはプラスになるかもしれないわよ」

香織ちゃんは私に判断をゆだねてくる。

どうしよう……
①すぐに行く
②一郎くんを呼んで行く
③行かない

94 名前:721[sage] 投稿日:2008/03/06(木) 12:44:36 ID:???
②一郎くんを呼んで行く

「修二くん。一郎くんがどこか教えてくれないかな?
香織ちゃんが勾玉だって教えてあげなきゃいけないし、神器が揃っていた方がいいと思うんだ」
「……兄貴はひと足先に愛菜ちゃんの家に向ったよ」
「一郎くんも……。じゃあ、急がなきゃ」
「そうね。行くわよ、愛菜、宗像くん」

香織ちゃんは一足先に私の家に向って走り出した。

「ま、待ってよ。香織ちゃん!」
数歩走ったところで、修二くんが全く動いていない事に気づいて足を止めた。
私は再び修二くんの傍まで駆け寄る。

「早く行こう。みんなが心配だよ」
「……………ど」
修二くんは私から視線を落しながら、小さく何かを言っていた。
「どうしたの? 修二くん」
「さっきの答え、まだ教えてもらってないんだけど」
「さっきの答え?」
「付き合ってもらえるかどうかの返事を、まだちゃんと聞いてないんだけどな」

(そういえば、香織ちゃんが突然現れてきちんと返事してなかったんだっけ。
修二くんは全部終わってからでもいいって言ってくれだけど……。こんな状態じゃ恋愛どころじゃないし、先のことなんてもっと考えられないよ)

「やっぱり無理だよ。その……ごめんなさい」
私は頭を下げて、けじめをつけるためにきっぱりと断った。
すると、修二くんは苦しそうに笑い出だした。

「バカみたいだな、ったく……。最初は兄貴へのあてつけのつもりだったのに、なんでこんなに悲しいんだ……」

「愛菜。宗像くんも何してるの? 急ぐわよ」
香織ちゃんが少し離れたところから、私たちを呼んだ。

「香織ちゃんが呼んでる……。みんなが心配だし、行こう?」

私の言葉が聞こえているはずなのに、修二くんは一歩も動こうとしない。
そして、私を見据えながらゆっくり口を開いた。

「他人の心配ばかりして、愛菜ちゃんは優しいね。でも知ってる? その優しさって時にはすごく残酷なんだって事」
「私が残酷……」
「そうだよ。俺を突き放しておいて一緒に行こうだなんて、愛菜ちゃんは残酷だ。
『道具なんかじゃない』って声高に言うわりに、結局は俺を鏡として利用しようとして……矛盾してるよね。
俺はね、ずっと兄貴に、愛菜ちゃんが納得できるやり方にするべきだって言ってきた。けど、間違いだったみたいだ。
もうどんな手を使ってでも解決していくことに決めたよ。たとえ、愛菜ちゃんや兄貴と敵対することになってもね。
だから……本当にさよならだ、愛菜ちゃん」

修二くんはそう言うと、学校の方へ歩きだした。

私は……
①香織ちゃんの方へ走っていく
②修二くんを追いかける
③立ち尽くす

95 名前:722[sage] 投稿日:2008/03/07(金) 14:30:22 ID:???
②修二くんを追いかける

とっさに修二くんを追いかけて、腕を掴む。
修二くんは私の腕を振り払いはしなかったけれど、振り返った顔には何の感情も浮かんでいなかった。

(修二くんじゃないみたい……)
「なに?」
感情を感じさせない声。
無表情の顔と声にふと冬馬先輩の姿が重なる。
けれどどこか優しい冬馬先輩とは違い、今の修二くんはただ無機質な冷たさしかない。

「用がないなら、手を離してくれる?」
豹変した修二くんの態度に硬直していた私に、さらに感情の削げ落ちた声がかけられる。

「あ……」
雨が降っていて乾燥しているわけでもないのに、口の中がからからに乾いていく気がする。

(でも今の私には神器の力が必要なんだよ……)
修二くんの言うとおり、不本意だけれど今は鏡の力を利用することになる。
一郎くんと香織ちゃん、そして冬馬先輩は今までの態度から私に力を貸してくれるだろう。

(けど、修二くんが鏡として扱われるのがいやなら……)
壱与の記憶がよみがえる。
物に宿った力を別のものに移すための儀式。
鏡や勾玉はその性質上この儀式を行うことは無かったけれど、剣は戦でつかわれ、破損や劣化するために古い剣から新しい剣へと力を移す儀式を数十年に一度行っていたらしい。

「修二くんが望むなら、鏡としての役割を終わらせることが出来るよ……」
「……どういうこと?」
無表情だった修二くんの顔に少しだけ疑問が浮かぶ。

「内に宿った力を、別のものに移す儀式があるの。その儀式をすれば、修二くんの中から鏡の力は消える。普通の人になるよ」
(その儀式を今の私がやって無事でいられるかは分からないけど……)
最後の言葉は口には出さない。
巫女としての知識のみある今の私が、巫女として修行をした壱与と同じ事が出来るかといわれれば、難しいだろう。
それに、壱与は知識はあるが実際にこの儀式を行ったことはない。
先代の巫女が剣の力を移したばかりだったことと、鏡は壱与の意思で壊したため新たな鏡に力を移す儀式は行わなかった。
けれど鏡の力があるために修二くんがつらいのなら、鏡を割ってしまった過去の私の責任だ。

「本当に?」
修二くんの言葉に私はただ頷いた。

(移す器が無いから、しばらくは私が力をあずかることになるだろうけど……)
儀式は、古い器から力を一旦自分の中へ取り込み、それから新しい器へと移すものだ。
新しい器となるものが無い以上、修二くんがこの儀式を望むなら私の内に力をとどめておくことになる。
生まれつきこの力を宿して生まれた一郎くんや修二くん、香織ちゃんと冬馬先輩と違う私が、別の力を宿してどうなるかなんて分からない。

(でも、こんな修二くん見たくないよ……)

私は……
①「どうする?」
②「考えておいて」
③修二くんが何か言うのを待つ

96 名前:723[sage] 投稿日:2008/03/08(土) 01:15:08 ID:???
②「考えておいて」

今の私には、これだけ言うのが精一杯だった。
思い出した儀式の記憶も説明しようかと思ったけれど、今の修二くんにはどうしても言えなかった。

「わかった。考えておくよ」
相変わらず射抜くような視線だったけど、話し方だけはいつも通りに戻っていた。

(よかった。一応、私の言葉に耳を貸してくれた。あっ、そうだ……)

「あの……あと、もう一ついいかな……」
「なに?」
「余計なお世話かもしれないけど……修二くん、風邪ひかないようにね」

傘をさしているけれど、さっきの告白で修二くんの制服はすっかり濡れてしまっていた。
もう傘をさしている意味がないほど酷い有様になっている。

私の言葉を聞いて、修二くんは冷ややかに視線を上下させた。
そして、呆れたように口を開く。

「……愛菜ちゃんもずぶ濡れじゃない」
「あっ、そういえば……そうだね」
「何? もしかして、気づいてい無かったとか?」
「必死だったからすっかり忘れてたよ。……クシュン」

修二くんに指摘されて、急に寒気を覚えた。

「くしゃみしてる」
「平気。それじゃ、香織ちゃんが待ってるから行くね」

私はきびすを返し、香織ちゃんの方へ走ろうとして――手を掴まれている事に気づいた。
次の瞬間、グイッとその手を引き寄せられた。
すぐ目の前に修二くんの顔が迫っていて、思わず身を強張らせギュッと目を瞑る。

(……あれ?)

また何か怖いことをされるんじゃないかとビクついていたけれど、これといって何もされることはなかった。
むしろ、心なしか身体のだるさが無くなったような気がする。

「……これって、修二くんの気を少し分けてくれたんだよね。あ、ありがとう」

目を開けた私は、修二くんにお礼を言った。
けれど修二くんは不機嫌な顔で押し黙ったまま、私の手を離した。
そして、何事も無かったように校舎の方へ歩いて行ってしまった。

どうしよう…
①香織ちゃんのところへ行く
②もう一度修二くんにお礼を言う
③黙って背中を見送る

97 名前:724[sage] 投稿日:2008/03/10(月) 17:26:22 ID:???
②もう一度修二くんにお礼を言う

「本当にありがとう、修二くん!」
最後にもう一度お礼を言って修二くんの反応を見ずにきびすを返すと、香織ちゃんの元まで走る。

「ごめん、香織ちゃん」
「宗像くんは来ないんだ?」
「……うん」
「そう。ま、いいわ。いきましょ」
香織ちゃんが私の手を取る。
それに驚いて視線を上げると、優しい香織ちゃんの視線とぶつかった。

「大丈夫よ愛菜」
「香織ちゃん?」
まっすぐに前を向いて歩く香織ちゃんに手を引かれるままに、歩き出す。

「愛菜、覚えてる?」
「?」
「勾玉の力」
「あ、うん……護りの力だよね」
剣が戦うための攻めの力、鏡が相手を見極める補助的な力とすると、勾玉は身を守る護りの力だ。

「そう、だから私は戦うための力は極端に低いの」
「う、うん」
「それに人になって知ったんだけど……」
香織ちゃんはそう言いながら、少しだけ私を振り返る。
振り返った香織ちゃんの目には、強い決意が見える。

「強力な護りに入ったら私は動けなくなる。
 もとは勾玉で護るべき対象が身に付けてたから、動けなくてもぜんぜん問題なかったんだけどさ。
 だからね愛菜、私の側を離れないで? 強い力を使っている間は私は動けないけど、その間は絶対に守るから」
「う、うん……」
「まぁ、軽い護法なら平気だけどね。でも、私が呼んだら私から離れないでよ?
 離れてても、守れるけどやっぱり近くにいたほうが守りやすいもの」
「わかったよ」
「ということで愛菜、私から離れないでね」
「え?」
「ん~、囲まれてるっぽい?」
「えええ?」
肩をすくめながら、香織ちゃんはゆっくりと確認するように辺りを見回す。

「ん~、見えないけど……悪意は感じるのよね。あーあ、鏡がいればなぁ」
香織ちゃんはため息を付く。 そのとき軟らかい感触が手を叩いた。

「え?」
手元を見ると、修二くんにぬいぐるみに戻されてピクリとも動かなかったチハルが私の手をぽふぽふとたたいている。

「チハル!」
手のひらにのせるように持ち直すと、ポンいう音と共にチハルが人の姿に代わる。
今回は子供の姿だ。

「愛菜ちゃぁぁぁん」
「ええええ!? うそ、かわいい!」
私にしがみつくチハルの姿を見た香織ちゃんが、歓声を上げる。
さっきまで廻りを囲まれてるかも、と言っていた割には緊張感がない。

えっと……
①チハルを紹介する
②廻りは大丈夫なのか聞く
③チハルに大丈夫か聞く

98 名前:725[sage] 投稿日:2008/03/11(火) 10:57:15 ID:???
③チハルに大丈夫か聞く

「チハル。身体は大丈夫? なんともない?」
「うん。ビックリしたけどへいきだよ。それより、愛菜ちゃん」
「ん? どうしたの?」
「くるしい……」

よく見ると、香織ちゃんはしゃがみ込み、チハルを力の限り抱きしめている。
頭を撫でたり頬擦りしたりして、すごい歓迎ぶりだ。

「ホントかわいい! ほっぺもぷにぷに~」
「愛菜ちゃん。たすけてぇ」

香織ちゃんの過剰な可愛がり方に、さすがの人懐っこいチハルもお手上げのようだ。

「香織ちゃん。チハルが苦しがってるよ」
「あっ! ごめんごめん。つい我を忘れちゃったわ」

(さすが、かわいいものに目が無い香織ちゃんだ……)

ショッピングモールで買い物する時も、まずファンシー雑貨屋に行きたがる香織ちゃん。
ここ数年は『ブーさん』と『ハローキャティ』にはまっている。
辛いカレーも大の苦手だし、大人っぽくみえて、意外と少女のままなのだ。

「ボクは精霊のチハルだよ。おねえさんのことは知ってるんだ。香織ちゃんだよね!」
チハルが元気に挨拶すると、今度は香織ちゃんの瞳がうるうるとしだした。

「私の名前を呼んでくれるのねぇ! もうっ最高!!」
香織ちゃんは感動のあまり、またチハルをひしっと抱きしめて頬擦りしていた。

(私でも止められそうにないな。あっ、でもそういえば……)

「香織ちゃん。そういえば、廻りを囲まれているって言ってたよね」
「あっ、忘れてた」

(だ、大丈夫かな)

香織ちゃんはすくっと立ち上がると、廻りを探るように意識を集中させだした。

なんて言おうかな…
①「香織ちゃん。チハルには少し見える力があるみたいなんだけど」
②「チハル。敵は何人かわかる?」
③「チハル。香織ちゃんを助けてあげて」

99 名前:726[sage] 投稿日:2008/03/13(木) 13:09:25 ID:???
②「チハル。敵は何人かわかる?」

「んーとね。三人だよ」
「あら? チハルくん。もしかして、鏡みたいに見える力があるの?」
香織ちゃんが不思議そうに、チハルを覗き込んでいた。

「うん。少しならわかるよ。えーっと、あっ、この人……」
突然、チハルが怯えたように黙り込んだ。
「どうしたの? チハル」
「すごく怖い人がみえる……」
「まずいわね……。あの児童公園で結界を張るわ。私についてきて」

香織ちゃんに手を引かれ、児童公園までやってきた。
私はチハルの手を取っていたけれど、小さく震えているのがわかった。

「チハル。大丈夫?」
「う、うん……」
「嫌な感じ。私にも威圧するような気配が伝わってくるわ。愛菜、チハルくん、少しそこに立ってくれる?」

私とチハルは香織ちゃんに言われるまま、公園の中央にある広場に立った。
地面は雨でぬかるんで、水溜りが出来ている。

「私が良いっていうまで、そのまま立っててよ」

そう言うと、香織ちゃんは小さな声で呪文を唱え、指を組みながら印をきりだした。
ただ、日本語ではない全く聞いた事の無い不思議な言葉が紡がれている。

(香織ちゃん、違う人みたい……。これが勾玉……)

「香織おねえさんは神様の言葉でお願いしているだけだから、心配ないよ」
私が不安な顔をしていたのを見て、チハルが話しかけてくれた。

「さてっと、それじゃ……頼むわよ」
香織ちゃんはぬかるんだ地面を手のひらでグッと押さえつけた。
すると、私とチハルと香織ちゃんを取り囲むように、青い光を帯びた魔方陣が浮き上がった。

「すごいよ! 香織ちゃん」
「まぁねー。これは護りの魔方陣なのよ。でも、よかったわ。成功し……」

香織ちゃんが地面から手を離そうとして、そのまま糸が切れたように崩れ落ちた。
バシャンという音と共に、香織ちゃんの身体が地面に横たわる。
地面に描かれた魔方陣が、跡形も無く消滅してしまった。

「香織…ちゃん……?」
「この程度の干渉に耐え切れなかったとは……八尺瓊勾玉もたいしたことは無い」

顔を上げると、そこには人影があった。

その人は……
①秋人
②春樹の父親
③美波さん

100 名前:727[sage] 投稿日:2008/03/14(金) 10:39:20 ID:???
①秋人

「こんにちは。大堂愛菜さん」

黒い傘をさした秋人さんが、ゆっくり私に近づいてくる。
倒れた香織ちゃんの横を通り、私の前で立ち止まった。

「秋人さん……」
「おや? 私の名前を知っているとは。光栄だな」

秋人さんは穏やかな笑みを浮べていたけど、相変わらず眼鏡の奥の瞳は冷え切っていた。

「愛菜ちゃんは……ボクが守るんだからね!」
震えていたチハルは私の前に出て、精一杯の虚勢を張っていた。
「……ダメだよ。チハルじゃこの人には敵わない。うしろに下がってて」
「愛菜ちゃん?」
「ごめんね、チハル。もう私のために誰かが傷つくところは見たくないんだ」

私はチハルを諭すと、目の前の秋人さんを見る。

「秋人さん。一体、何をしたんですか。香織ちゃんは大丈夫なんですか?」
「さあ? 無事かどうかは自分で確認するといい」

秋人さんの言葉を聞き流しながら、私は香織ちゃんの元へ駆け寄って肩を抱いた。
香織ちゃんの顔は青白く、微かな息が口から漏れていた。

(わかる……。このままじゃ香織ちゃんが危ない…)

香織ちゃんが行っていた術が暴走した跡があった。
多分、秋人さんの干渉で香織ちゃんは術を自分の身に受けてしまったのだろう。

私は目を閉じ、私の内にある生命力を香織ちゃんの身体に流し込んでいく。
香織ちゃんを支えていた腕の力が入らなくなり、酷い倦怠感が全身を蝕んでいく。

「自らの命を削るとは……愚かな」

私は秋人さんの言葉には答えず、代わりにチハルを呼んだ。
「チハル。香織ちゃんを連れて、なるべく遠くまで逃げて」
「でも……」
「お願い。今は私の言うことに従って」

チハルが青年に変身し、香織ちゃんを背負う。
それを確認して、私は再び秋人さんに向き直った。

①「投降します。だから、このふたりを見逃してあげて」
②「私は戦う。秋人さんの好きにはさせない」
③「もう止めてください。秋人さんはなぜこんなことをするの?」

101 名前:728[sage] 投稿日:2008/03/14(金) 23:52:56 ID:???
③「もう止めてください。秋人さんはなぜこんなことをするの?」

チハルと香織ちゃんを庇うように、私はふらつきながらも両手を広げる。

「そんな抵抗をしても無駄だ。ようやく見つけた勾玉は逃がさない。道具として必要だからね」
「香織ちゃんを道具なんて言わないで」
「壱与、いや大堂愛菜さんも大切な道具として生まれてきたんだ。気高い鬼の姫君の器としてね」
「壱与でも、鬼の姫でもない! 私は、大堂愛菜。あなたの弟、大堂春樹の姉。ただそれだけです!」

言い放つ私をあざけるように、秋人さんは薄笑いを浮かべる。

「……春樹か」
「春樹は……私の弟は無事なんですか?」
「ああ、もちろん。私にとっても大切な弟だからね」
「早く春樹を返して!」
「では、私について来るといい。春樹に会わせてあげよう」

(春樹に会える……でも……)

私が躊躇っていると、秋人さんが哀れむように深い溜息を漏らす。
そして、一歩、また一歩と私に向かって近づいてきた。
私はチハルと香織ちゃんを守りながらも、ジリジリと後退していく。

「怯える必要は無い。君に……渡したいものがあるだけだ」
「私に?」
「いい子だから、手を出してごらん」

(手を……)

私は言われるまま、ゆっくり手を差し出す。手の平には、赤茶色の小さな石が置かれた。

「この赤い石はもしかして……」
「やはり、身に覚えがあるようだな」

(赤い石といえば、夢で見た出雲のメノウだ。秋人さんはもしかして……帝?)

私の知っている帝と秋人さんは、雰囲気が違う。
だけど、壱与と帝だけしか知りえない事を秋人さんは知っている。

「これは君がプレゼントした石だ」
「え?」

(違う。赤い石の勾玉は帝がプレゼントしてくれた物のはず……。じゃあ、これは、一体?)

「何を驚いているんだ。コード№673に、君が買い与えたものだろう?」

手の中の石は、降り注ぐ雨に洗われて本来の姿を取り戻していく。
乳白色のムーストーン。
私の手首を、鉄の匂いを帯びた赤い液体が伝い落ちていく。

「その血で汚れた石は、草薙剣がとても大切にしていた物だ。捨てるには忍びなくてね」
「冬馬……先輩の血……」
「そうだ。三種の神器は滅多なことでは死なないために、ついやり過ぎてしまったのだよ。
これでは、草薙剣も八尺瓊勾玉も当分は道具として使い物にならないだろうな」

私は……
①動揺のあまり、気を失った
②怒りにまかせて鬼の力を使う
③手の中の石を握りしめる

102 名前:729[sage] 投稿日:2008/03/15(土) 16:18:12 ID:???
③手の中の石を握りしめる

(冬馬先輩……)

「その石を見つけた時も、私に奪われまいと気を失う寸前まで抵抗していたんだ。
健気な剣じゃないか。どう手なずけたのか知らないが、たいした忠誠心だよ」

秋人さんは哀れむように、首を左右に振っていた。

「……冬馬先輩は無事なんですか?」
「コード№673は、私たちと違って高い自己回復力を備えている。問題は無いだろう」
「え?」
「彼の出生は特殊だからな。前例がない分、現存していた剣の遺伝子からまた剣が生まれるとは、当時の研究員も半信半疑だったようだが。
ただ、研究員が望んだような力の発現は無く、結果としては失敗だったようだな」

(まさか……冬馬先輩がいつも自分を粗末に扱っていたのは、特別な身体を持っているから……)

「秋人さん。組織は……冬馬先輩のような人を生んでまで、何をしようとしているの?」

私の問いかけに、秋人さんが眉根を寄せた。

「さきほど、説明したばかりだろう」
「三種の神器を使い、壱与を復活させる事……」
「わかっているなら、くだらない質問をしないでくれるか。不愉快だ」
「では、あなたも……十種の神宝だから……壱与にこだわるんですか」

秋人さんを見据えながら、私は問いかけた。

「ほう? そこまで思い出しているとは、伝承に綴られた巫女の中でも、君は壱与に最も近い存在なのかもしれないな。
そうだ。十種の神宝としての魂を授かった高村の者は、出雲の王族、とりわけ鬼の力が強い壱与を求める。
これは仕方のないことだ。それに、壱与は研究材料としての価値も高い。
伝承の中だけに住まう鬼が、君の中に眠っている。それを見たいと思うのは、この分野を研究する学徒としては当然の欲求だよ」

(十種の神宝……。でも、おかしい。神器がこんなにも簡単に倒されるなんて)

道具としての一つ一つの力は、十種の神宝よりも三種の神器の方が上回っていたはずだ。
なのに、秋人さんの力は神器の力を遙かに凌駕している。

(もしかして……)

「もしかして、神宝の圧倒的な力は……」
「待ってよ、愛菜ちゃん。あの人!」

今まで、ずっと黙っていたチハルが話しかけてきた。
私は、チハルが見ている視線の先を追う。
雨の向こう、佇む人影と、足元に倒れた人影が二体あった。

「あれは……。足止めすらできないとはな。全く使えない力の器どもだ」
秋人さんは視線を向けながら、苦々しげに呟いていた。

その人影は、真っ直ぐ私の方へ歩いてくる。
そして、私のすぐ横にまでやってきた。

「神宝の圧倒的な力は、十種の神宝の内、八種類の神宝の力を、すでにこの男が手に入れてしまっているせいだ」

現れた人物とは……
①一郎くん
②周防さん
③春樹
④冬馬先輩

103 名前:730[sage] 投稿日:2008/03/16(日) 02:48:56 ID:???
③春樹

「春樹か。やはりお前も神宝だったのか」
「はい。姉の覚醒と同時に発現しました」
「もう一つ見えるのは……神器。いや、違うな」
「兄さん、教えてください。あなたが自分の身体も省みず、八種類もの力を次々と自分のものにした事も、
神器と姉を手に入れようとしている事も、すべて、鬼が治めていた国を再興のため……違いますか?」
「なぜそう思う」
「すべて思い出しました。高村一族もまた、鬼の末裔だったんですね」

目の前には、間違いなく春樹が立っていた。
突然の出来事に、なかなか言葉が出てこない。
それどころか、段々、今が夢なのか現実なのか、よくわからなくなってしまう。

「春樹だぁ。ぶじだったんだね」
「チハル……」
「ボクね、春樹のことすごく心配だったんだ。けど、げんきみたいでよかった!」
「ずっと俺を守ってくれていたのに、置いていって…ごめんな」

(本当に……春樹なの?)

「……春樹?」
「姉さん……」

私の呼びかけで、春樹がようやくこちらに向き直った。
その顔は、嬉しそうにも、辛そうにも見えた。

「ホントに……本当に春樹なの?」
「姉さん。心配掛けてごめん」
「夢じゃなく、本当の春樹なのね」
「うん……」

目の前に居るはずの、春樹の顔が滲んでいく。
胸が熱くなって、次々と涙が溢れ出て、止められない。

「すごく……すごく心配したんだから!!」
「うん。わかってる」

私は力の限り、春樹を抱きしめる。
「春樹……春樹……会いたかったよ……」

春樹は苦しいのか、少しだけ身体を強張らせている。
けれど、静かに息を吐いたあと、私の身体に腕がまわされた。

「……俺も会いたかった」

懐かしい匂いに、顔を埋めて泣く。
たった数日なのに、離れている時間はとても長く感じられた。

(本当に……よかった)

「さあ。感動の再会も済んだようだし、壱与を渡してもらおうか。春樹」
秋人さんの声で、私たちはゆっくりと身体を離す。

「……姉さん、また無茶したんだね。だけど、もう大丈夫だよ。何があっても俺が守るから」

どうしよう……
①春樹のうしろに隠れる
②チハルたちと逃げる
③様子をみる

104 名前:731[sage] 投稿日:2008/03/17(月) 13:15:22 ID:???
③様子をみる

「だけど……秋人さんはとても強いよ。春樹の力では勝てない……」
「力では圧倒的に負けてるのは分かってる。けど、兄さんに持っていないものを俺達は持ってるんだ。
だから、大丈夫だよ」

春樹の目に、失望の色は無い。

(春樹を信じよう)

「もう一度言う。壱与の器を渡してもらおうか」
「できません」
「それは……私に逆らうということだな」

秋人さんの言葉には、静かな怒りが含まれていた。

「兄さんに従うつもりはありません」
「馬鹿な弟を持ったものだ。お前の力で私に勝てると思っているのか」
「多分、勝てないと思います。けど、負けるつもりもありません」

春樹は一歩踏み出し、私の前に立った。

「祖父や父、そして兄さんがしようとしている事も全部知りました。多くの人たちを不幸にさせ、命を弄ぶ……。
こんなやり方、人間の出来ることじゃありません」
「人間か。私を愚劣極まりない者達と一緒にしないで欲しいな」
「兄さんがどれだけ人間を嫌い、否定しても、あなた自身が人間なんだ。もう、本物の鬼は遙か昔に滅んでいるんです」
「この娘と神器を使って、本物の鬼を復活させれば済むことだ」

春樹の背中が、怒りに震えている。

「だから……!科学の力を使って、命を弄ぶ計画が間違っていることに、なぜ気付かないんですか!
伝承に記された高村の祖先も、兄さん達も……高村の人間はみな狂っています」
「伝承……。神宝の力を得たお前も、見たのだな」

秋人さんは腕を組み、春樹を見つめていた。

「はい。高村の祖先は、壱与の魂をもった鬼の化身と交わることで、時代と共に薄まっていく鬼の力を維持し続けていたんですね。
神宝の力は陰の力。高村にとって、力を誇示するためには失ってはならないものだったんだ。
そして兄さんたちは、巫女を守る神器を利用し、より純粋な鬼の化身を得るために画策していた――そういうことですね」
「ああ、その通りだ」
「もうこれ以上、神器と神宝の馬鹿げた小競り合いに、姉さんを巻き込まないでください。
俺も姉さんも……神器のみんなだって、本当に欲しいのは力なんかじゃない。当たり前の日常なんです」

(春樹……)

①春樹に話しかける
②秋人さんに話しかける
③黙っている

105 名前:732[sage] 投稿日:2008/03/17(月) 20:56:11 ID:???
①春樹に話しかける

「待って春樹……壱与の魂をもった鬼の化身って…私のこと…なのよね?」
「……うん」
「……鬼の化身って? もしかして…私は人ではなく、鬼なの?」

春樹は何も答えてくれない。
その代わりに、春樹の向こう側にいる秋人さんが口を開いた。

「弟に代わって私が教えてあげよう。その通りだ。君はもう人ではなくなっている。
もし人であったなら、勾玉に生命力を分け与えた時に、君は倒れているはずだからね」
「でも、周防さんが言ったんです。力を使いすぎるとこよみさんのようになるって……。
それは嘘なんですか」

秋人さんは数秒黙り込み、再び話し出した。

「こよみ……? ほう、そうか。コードNo543とは懐かしい。
一時は壱与の器かもしれないと目されていた娘だったな。まあ、周防の言うことが嘘か本当かと問われれば、本当だろうな。
力を使いすぎると、コードNo543のように死んでしまうからな。ただ……」
「ただ?」
「内包する力の容量が違うのだよ。一般の能力者と、覚醒済みの壱与の器である君とではね。
三種の神器と契約するということは、君の身も心も壱与、すなわち鬼に近づくということだ。
君はすでに剣と契約を交わしている。後は…言わなくてもわかるな」

(神器と契約するって……壱与そのものになっていくってことなの……?
じゃあ……私自身はどうなってしまうんだろう……)

「愛菜ちゃん。香織おねえさんが…!」

その言葉でうしろを見ると、チハルにおぶさったままの香織ちゃと目が合った。

「香織ちゃん! 目が覚めたのね」
「な、なんとかね。でもすぐには加勢できそうにないわ」
「無理しないで。そのまま安静にしてて」

私の言葉に、香織ちゃんの顔がいつになく真剣になる。

「愛菜、そんなこと言ってる余裕はないわよ?
春樹くんはこの男と刺し違えてでも、あんたを守るつもりだもの。勝てないけど、負けないってそういう意味だろうからね。
それだけの覚悟を春樹くんは持っていることに気づいてあげるべきよ」
「えっ……」

前を向いて、春樹を見る。
春樹にも聞こえているはずなのに、何も言ってはくれなかった。

「……春樹、教えて。香織ちゃんが言っていることは……本当なの?」

私に注がれていた悲しげな視線は、逸らされる様に、ゆっくり下へ移動していく。
嘘をつくことが苦手な春樹は、言いたくないことや都合の悪い話になると、いつもこんな風に黙り込んでしまう。

私は……
①「春樹、ちゃんと答えて」
②「絶対にそんなこと許さないよ」
③「春樹だけにはさせないよ。私も戦う」

106 名前:733[sage] 投稿日:2008/03/18(火) 11:29:03 ID:???
①「春樹、ちゃんと答えて」

(春樹だけが犠牲になるなんて…耐えなれない……)

春樹がゆっくり顔を上げる。
その顔は、胸が苦しくなるくらい綺麗な微笑だった。

「あの日、家族になった時に交わした約束を……守らせて欲しいんだ」
「『母さんだけでなく姉さんも、父さんも守れるくらいに強くなる。ずっと守る』……だっけ」
「よく憶えてるね。恥ずかしいな」

春樹は照れくさそうに笑って、また私を見る。

「姉さん。ひとつ尋ねてもいいかな」
「うん。いいよ」
「家族になってから今日まで……姉さんにとって俺は『良い弟』だった?」
「春樹……?」
「いつも迷ってたんだ。『良い弟』にならなくちゃって……。あの日から、ずっと考えてた。『弟』である俺の姿を。
俺、ヘンじゃなかったよね」

なぜこんな質問を投げかけてくるのか春樹の気持ちが読めなかった。
黙ったままの私に、うしろから香織ちゃんの声がする。

「答えてあげなよ、愛菜」

しっかりもので、口うるさくて、いつも優しい春樹。
真っ直ぐで、素直すぎるせいで、少し損をすることもある。
けど、弟としてだけじゃなく、ひとりの人間としても尊敬できる男の子だ。

「私にとって、勿体ないくらい春樹は『最高の弟』だよ。
でもね、一つだけ不満があるんだ」

私は一度大きく息を吸って、吐いた。
そして、今度は後ろを振り向く。

「香織ちゃん。お願いがあるんだ」
「わかってるわ。私と契約するのね」

私は黙って、香織ちゃんにうなずいた。
その姿を見て、不意に春樹が叫んだ。

「それだけは、絶対に駄目だ!姉さんは契約の意味をわかってないよ! さっきも兄さんが言っていたじゃないか。
契約は、身も心も鬼に近づくことなんだ。
姉さんが姉さんで無くなる……もしかしたら、姉さんの自我が失われるかもしれないんだよ!」

春樹が私を止めようとしたが、秋人さんによって阻まれていた。

「邪魔するな、春樹。さあ、壱与の器よ。八尺瓊勾玉と契約を交わせ」

私は……
①契約する
②やめる
③考える

107 名前:734[sage] 投稿日:2008/03/18(火) 15:31:13 ID:???
①契約する

春樹が言うように、私は身も心も鬼に近くなるのかもしれない。
けれどには一つだけ確信があった。

「香織ちゃん」
「ええ……チハルくん降ろしてくれる?」
「う、うん」
チハルからゆっくりと降りた香織ちゃんは、私の右手を両手で包むように握る。

「姉さん!」
秋人さんに阻まれた春樹の声に私は笑ってみせる。

「大丈夫だよ春樹。私は自我を失わない」
「なんで、そんな事が言えるんだ!」
「だって契約は「壱与」とするんじゃないもの。「愛菜」との契約だよ。ね、香織ちゃん」
私の言葉に、香織ちゃんは少し微笑んだ。

「冬馬先輩との契約も「壱与」とじゃない「愛菜」としたんだよ」
あの時の私は壱与の事なんて知らなかった。私は「愛菜」として先輩と契約したんだ。
あの契約によって、私の本質は人では無くなったかもしれない。
けれど、私の自我が失われることはなかった。たとえ、身も心も鬼になっても、私は私だ。

「香織ちゃん」
香織ちゃんに呼びかけると、香織ちゃんは握った私の手を掲げる。

「私は誓う」
「姉さん!」
香織ちゃんが宣言をはじめる。
悲痛な春樹の声が聞こえたけれど、私は香織ちゃんから視線を話さない。

「我が友と定めし、愛菜。私は愛菜の為に愛菜の望む道を共に進む。愛菜を護り、私の力が向かう先を愛菜へ託す。そして……」
香織ちゃんはそこで一旦言葉をきるといたずらっぽく私を見て、それから挑戦的に秋人を見る。

「古の契約を破棄、これより新たな契約をここに宣言する。この生が終わるまで、愛菜の親友として!」
香織ちゃんが高らかに宣言を終えると、一瞬なんとも言えない喪失感を覚えた。
けれどそれを喪失だと認識する前に、新たに優しくて暖かい感覚が身を支配する。
あの喪失感は壱与との契約が破棄された証、そして新たな契約。
私はその暖かい感覚に促されるように香織ちゃんに微笑む。

「よろしくね、香織ちゃん」
私の言葉に香織ちゃんは微笑むと、私を引き寄せて少し伸び上がると額に唇を寄せた。
香織ちゃんが触れた場所から暖かいものが流れてくる。きっとそこには契約の印が現れているだろう。


「勾玉め……」
その時、秋人さんが毒づくのが聞こえた。
その声に、香織ちゃんが笑うような気配がする。

「あなたの思い通りになるなんて思わないことね?
もし、これから「愛菜」の自我が失われて「壱与」になったら勾玉の力は使えないわ。それから三種の神器の力もね」
そうだ、三種の神器の力は壱与が使うためには3つが揃っていなければいけなかった。
けれどいま勾玉と壱与との契約は破棄され、壱与は3種の神器の力を使うことが出来なくなったのだ。
それに、私もまだ鏡とは契約をしていない。修二くんとの事がある以上鏡との契約は難しいだろう。
結果、今この世界に三種の神器をまとめて扱える人はいなくなった。

①「もう神器をまとめられる人はいなくなったわ」
②「ほらね、春樹、私自我を失っていないよ」
③「香織ちゃん、ありがとう」

108 名前:735[sage] 投稿日:2008/03/18(火) 18:28:59 ID:???
②「ほらね、春樹、私自我を失っていないよ」

「よかった……。姉さんはいつも無茶するんだから」
春樹は安堵したように、深い溜息をついた。

「お取り込み中のところ悪いんだけど、愛菜……。私、もう駄目かも……立ってられないわ……」
気丈に立っていた香織ちゃんがフラフラとよたついた。
香織ちゃんの膝が折れ、チハルがそれを支える。

「ごめん。香織ちゃんに無理させちゃったね」
「そんなの、平気よ。だって、友達でしょ?」
「香織ちゃん。本当にありがとう」
「なんのなんの……。だけど、しばらくは……動けそうにも無い……かも」

香織ちゃんは笑うと、静かに目を閉じた。
術を身に受けて消耗しているのに、契約までして力尽きてしまったのだった。
だけど、気を失ってしまった香織ちゃの顔は、どこか満足げに見える。

(ありがとう。香織ちゃん)

香織ちゃんの頑張りで、巫女としての力を得た。
と同時に、私はまた一つ鬼へと近づいていく。

「契約の更新でなく、新たな契約を行ったか。伝承の壱与というものを見てみたかったが、仕方がない。
大堂愛菜。君自身を鬼の姫として迎え入れるしかないな」

秋人さんの望みは潰えたはずなのに、言葉に余裕すら感じる。
眼鏡の奥の瞳が、鈍くギラついていた。

「どういうこと?」
「君が十種の神宝と契約するのだよ。そして、永きに渡る高村の悲願、国の再興を果たす。
私が八種も力を入手している事の、これが……本来の意味だ」

不敵な笑みさえ浮べている秋人さんを、春樹は睨みつけている。

「姉さん、少し離れてて。兄さんの狙いは……俺だから」
「春樹……?」
「馬鹿な娘だな。正直、弟を殺すのは心苦しいが、君の選択が招いた結果だ。
恨むなら、軽率な行動をとった己を恨むがいい」
「えっ……」

秋人さんの姿が消えたと思った刹那、春樹が顔をゆがめた。
いつの間にか春樹を押さえ込んでいて、秋人さんの放つ赤黒い光が春樹を裂いた。

「ぐぁぁああ!!」

春樹は絶叫しながら、ぬかるんだ地面に叩きつけられる。
私はぐったりと横たわる春樹に駆け寄った。

「春樹!」

私は……
①春樹を回復させる
②自分から立ち向かっていく
③秋人さんに話しかける

109 名前:736[sage] 投稿日:2008/03/19(水) 10:24:36 ID:???
③秋人さんに話しかける

「契約は成立しないわ。私があなたとの契約を受けないもの」
以前冬馬先輩が言っていた、一方的に契約は出来ない。
拒否しなければ、仮契約と言う事で一応履行はされるようだけれど、その事実を知っている今の私が秋人さんとの契約を承諾するわけがない。

「もしあなたが春樹を、私の大切な人たちをこれ以上傷つけるなら、これから先、絶対にあなたとの契約はしないわ」
私は春樹の上半身を抱き上げる。
もう服も泥だらけになってしまっている。

「春樹、大丈夫?」
私の言葉に、春樹はうっすらと目を開く。

「姉さん、逃げるんだ」
「春樹を置いていけるわけ無いじゃない」
「俺のことは、いいから。姉さんだけでも」
「春樹、さっきわたし一つだけ不満があるって言ったよね」
「……え?」
唐突に話を変えた私に、春樹は一瞬言葉を失う。

「春樹は私には勿体ないくらいの最高の弟だけど、私にぜんぜん頼ってくれないのが不満なの」
「姉、さん……?」
「確かに春樹は約束通り私を守ってくれる。でも、私だって春樹を守りたいよ?
大切な家族だもん。一人で苦しんでいるのを見ると、私だって苦しいよ」
「…………」
「だから、今は私に守られててよ? 私にだって出来ることがあるんだから」
「なにを、する気なのさ」
「秘密。チハル、ごめん春樹も頼めるかな?」
「うん、わかった」
チハルは香織ちゃんを背負い直し片手で支えると、もう片方の手で器用に春樹を支えた。
私はチハルに春樹を託すと、秋人さんに向き直る。

「何をする気かな? 鬼の姫」
秋人さんは笑みを浮かべたまま私を見ている。

「なにも?」
私は緊張で震えそうに鳴る声を何とか押える。
チャンスは一度だけ。失敗したら二度は無いだろう。
けれど香織ちゃんと契約したことで鬼に近くなった私なら、成功率は上がっているはずだ。
とりあえず、秋人さんを油断させなければいけない。

「この先、春樹たちに手を出さないって誓うなら、今あなたについて行ってもいいわ」
「姉さん!」
「ほぅ……?」
「偽りの誓いは許さない」
「だが、それでは神宝との契約はなされないぞ鬼の姫」
「そんな事無いわ。春樹と、もう一つの神宝とも契約をそれぞれ行えばいい」
「春樹が契約をすると思うのか?」
「するわけ無いだろ!?」
「説得するわ」
「姉さん!」
「もう一つの神宝も承諾はしまい」
「なんとかする」
「…………」
私の言葉に、秋人さんが考え込むように沈黙する。

もう一息かもしれない。
①ただ待つ
②更に一言言う
③秋人さんに近づく

110 名前:737[sage] 投稿日:2008/03/19(水) 12:57:56 ID:???
①ただ待つ

私は、秋人さんの答えをジッと待ち続ける。すると、呻くような春樹の声が聞こえた。

「……絶対に、行っちゃ駄目だ。姉さん」
「私を信じてくれないの?」
「信じているに決まってるだろ。でも、姉さんはこの人の本性を知らないんだ」
「秋人さんの、本性?」
「そうさ。きっと姉さんの心を壊してでも、契約を果たすよ。今だって俺を殺して、力を奪おうとしているんだから。
兄さんは現代に蘇らなかった神宝を得るために、何千もの高村の遺伝子を持つ胎児を人工的に作り続けていた。
常識は通じないんだ。心を壊すことも、命を奪うのも、笑いながらやってしまう人なんだよ」
「酷いな、春樹。私はそこまで非情ではないぞ」
「どうだか。……くっ」

よく見ると春樹の脇腹に血が滲んで、制服が大きく裂けていた。
私は春樹に近づき、その傷口に触れながら祈る。
裂けてえぐれた皮膚が、ゆっくりと再生していった。

「……姉さん?」
「私って、意外とすごいんだよ? これでも信じてくれないかな」

目を見開いて驚いていた春樹だったけれど、治った傷口に触りながら笑い出した。
そして、観念したように口を開く。

「……わかった、俺の負けだ。だけど、姉さんだけに背負わせたりしない。一緒に家に帰ってもらわなきゃいけないからね」

春樹はチハルから離れ、静かに私の横に立つ。
そして、神の言葉をつむぎながら、空にすばやく印をきっていった。
春樹の周りに小さな赤い光がいくつも現れ、手元に集まっていく。
その発光体は握り拳八個分の長さをもった、光の剣になった。

「八握剣か」
「そのようですね。上手くいったことに、自分でも驚いていますよ」
「お前ごときが足掻いても、私に傷一つ付けることは出来ないぞ」
「神器との戦いで疲弊していて、兄さんの身体はあまり持たないはず。
八種類もの神宝を封じ込んだひずみが必ず現れる。その隙をつけばいい」
「ハハハッ……威勢のいいことだ」

秋人さんは冷たく笑って、私を見る。

「鬼の姫よ。私を油断させて攻撃するつもりだったのだろう?
春樹の機転で命拾いしたと気づいているのか。不用意に近づいた瞬間、目でも潰してやろうかと考えていたんだからな」

(震えが止まらない。怖い。でも、もう香織ちゃんに頼るわけにはいかない…私が……春樹を守らなきゃ)
その時、ふと私の頭の中に、ひとつの声が聞こえてくる。

(愛菜ちゃん……愛菜ちゃん……)
頭の中で、誰かが私を呼んでいる。
(愛菜ちゃん……ボクだよ……)
(チハル?)
(そうだよ。あのね……ボクのそばに……。春樹と愛菜ちゃんの力に……なるよ…)

私はチハルの傍に寄っていく。
(……ボク…がんばるからね……)
チハルは香織ちゃんを近くのベンチに寝かせると、ポンと音を立てて変身した。

変身した姿とは……
①盾
②鉾
③弓

111 名前:738[sage] 投稿日:2008/03/19(水) 23:43:31 ID:???
③弓

私の手には、弓と一本の矢が乗っていた。
(弓矢……これ、梓弓だ)

梓弓は神に奉る神具として扱われる、梓の木で作った弓だ。
弓矢は昔から武器だけでなく、破魔矢などの魔物を打ち倒す道具として、呪具の意味合いも持っている。
(これを……私が…)

壱与が神楽弓を練習していたのは知っているけど、私は触ったことも無かった。
壱与の記憶だけは残っているものの、まったく自信がない。

(おまけに、矢が一本だけなんて……ねぇ、チハル……)

私は頭の中でチハルに話しかける。

(愛菜ちゃん。どうしたの?)
(私、弓を扱ったことが無いけど大丈夫かな。矢も一本だけだし)
(矢が一本なのはボクがまだ精霊だからだよ。チカラがたりないんだ、ごめんね)
(ううん。ありがとう、チハル)

弓は弦を引くだけでも技術が必要だと、弓道部の友達が言っていたのを思い出す。
私は試しに、スッと弦を引いてみた。

(わっ、すごい……)

身体が勝手に動く。
やはり壱与が学んだ身体の記憶までも、魂が継承しているのだろう。

「姉さん。なんで弓矢なんて持っているんだよ」
「チハルが変身して……」

「それは梓弓だな。まさか私を射抜こうというのか」
「そ、そうよ」
「震えているぞ。せいぜい春樹を射抜かないよう、気をつけるんだな」

春樹はチラリと私を見て、大きく息を吐いた。
そして、再び秋人さんに対峙しながら、私に声をかけてきた。

「危ないから、後ろに下がってて。弓矢だし、距離を取った方がいい。
それと……姉さんを高村の騒動に巻き込んでしまったこと、悪いと思ってるんだ。
黙って家を出てった事も含めて、家に戻ったら、怒ってくれて構わないから」

(春樹……)

「来い、春樹。お前の望みどおり、相手になってやろう」
「姉さんを守ってみせる! 絶対、一緒に帰るんだ……。いくぞ!!」

赤く光る剣を両手に持ち直すと、春樹は秋人さんの懐へ飛び込んでいった。

どうしよう……
①少し離れて構える
②香織ちゃんを見る
③考える

112 名前:739[sage] 投稿日:2008/03/20(木) 11:59:26 ID:???
①少し離れて構える

弓を番え構えるが、春樹が近くて打つことが出来ない。

(それに、本当にこの弓で秋人さんをとめることができるの?)
秋人さんの内にあるものは、魔ではない。
この弓も、そして秋人さんの内にあるものも、どちらも神具だ。
そして神具の格としては、間違いなく秋人さんのほうが上。
チハルの矢は、けん制にしかならないだろう。

(その間に春樹が何とかしてくれる……? だめだめ、いけない春樹だけを頼っちゃ)
春樹だって動いているのがつらいはずなのだ。
いまこうして、弓を放つタイミングを計っている間だって顔をしかめている。

(他に方法はないの? もっと確実な……)
めまぐるしく位置が変わる春樹と秋人さんの戦いに、弓を打つことも出来ずじりじりとした時間が過ぎる。

「大堂! こんなところで何をしている。それに、この力……これは」
そのとき名前を呼ばれ、そちらに顔を向けると一郎君が立っていた。
一郎君は、春樹と秋人さんを見定めるように目を細めている。

「一郎君……春樹が……」
「……言わなくてもいい大体わかった。
 それに、勾玉との契約も行ったようだな……。
 ところで、修二はどうした? まだ学校に気配があるが一緒に来たんじゃないのか」
「修二君は……」
修二君のことを口にしようとして、修二君との会話を思い出す。

(そうだ、力の移行の儀式……。あれを秋人さんに……)
儀式と契約は違う。
契約は双方の同意が必要だが、儀式は手順さえふめば相手の意思は関係ない。
秋人さんの内にある神宝の力を、取り上げてしまえばいい。
そうすれば、少なくとも秋人さんは普通の人になる。
普通の人になった秋人さん相手なら、記憶の消したり、操作したりすることが出来るはずだ。

「うっ……」
「……春樹!」
考え込んでいる間に、春樹は秋人さんの力に弾き飛ばされ地面に叩きつけられていた。
今、隙を作れば、儀式を行うことが出来る。

①矢を放つ
②一郎に協力を求める
③秋人にしがみつく

113 名前:740[sage] 投稿日:2008/03/21(金) 02:04:13 ID:???
②一郎に協力を求める

「春樹!」
「平気だ。姉さんが来なくても、大丈夫……」

秋人さんは春樹に攻撃されていても、着衣ひとつ乱していない。
まるで、見えない壁にはばまれているようだ。
春樹は汚れた顔を袖で拭い、口に入った砂を吐き出していた。

(儀式は手順さえふめれば……)

儀式は祝詞を捧げ、神に願わなければならない。
根本から解決するには一番いい方法だと思ったけれど、手順に時間が取られる。
今それを行うほどの時間は……やはり、無い。

秋人さんが纏う見えない壁に阻まれ、春樹がせっかく剣を振るっても全く届いていない。
見えない壁を打った剣から、赤い光が火花のように飛び散り、舞う。
秋人さんの放つ一撃に、またも春樹は身体ごと吹き飛ばされてしまった。

(もう見ていられない。けど、確実な方法も無い……)

「あれは……高村の者だったな。君の弟も……そういうことか。
にしても、あの男。なんて神宝の力だ。あんな力を身体に宿していたら、肉体が持たないだろうに」
「一郎くん、いい方法を教えて!?  儀式は無理だし……このままじゃ、春樹が……!」
「落ち着いてよく見てみろ、大堂。君の弟の連続攻撃に対して、あの男の動きが怠慢になってきている。
力の消耗が激しくて、決定的な反撃ができなくなっているんだ」

たしかに、動きがさっきよりも鈍く感じる。
春樹の無謀とも思えた捨て身の行為も、策があってのことだったのだ。

「大堂。その矢を貸してくれないか」
「えっ。うん……」

私は矢を一郎くんに手渡す。
一郎くんは矢をグッと握り締めると、青白く輝き始めた。

「さあ、この矢を。致命傷を与えるほどではないが、威力は増したはずだ」

私は矢を掴むと、構えをとった。
息を整え、ゆっくり弦を引きわける。
すると、一郎くんがスッと私のすぐ傍らに立った。

(一郎くん?)

「俺に弓道の心得はない。しかし、あの男が纏っている壁の一番脆い場所は見えている。
俺の指が示す方向に矢を放て。君の弟が離れた瞬間がチャンスだ」

私の左手に一郎くんの手が添えられた。
二人の人差し指が、秋人さんという同じ的に向う。
春樹がまた地面に倒れこんだ。体力の限界が近いのか、春樹は膝を立て息を切らしている。

「大堂なら、必ずやり遂げられる。君の弟が与えてくれた機会を無駄にするな。
俺が目になっているんだ。自信を持って思い切り、放て」

私は……
①放つ
②迷う

114 名前:741[sage] 投稿日:2008/03/21(金) 09:53:10 ID:???
①放つ

(お願い!)
私はそう願いながら、光り輝くチハルの矢を放った。

光の矢は雨粒を切り裂きながら、真っ直ぐにとんでいく。
そして、秋人さんの肩の付け根ぎりぎりのところでく、見えない壁に阻まれて減速した。

(届いて……)

矢先はより強い光を帯びていく。
そして、秋人さんの肩を見事に射抜き、その光を失った。
「私の矢が……当たった……」
「……ぐっ!」
秋人さんの顔が苦痛で歪む。

「障壁は無くなった。今だ!」
一郎くんの声で、弾かれるように春樹が動く。
両手で剣を握り、春樹は秋人さんの首にめがけて剣を突き立てた。

(春樹……!)
ふたりは揉みあうように、同時に倒れこむ。
春樹は射抜かれた秋人さんの肩を掴むと、馬乗りに押さえ込んだ。
炎にも似た八握剣が、秋人さんの喉もとでピタリと止った。

「終わりです。兄さん」
「残念だが、そのようだな」
「……………」
「どうした、春樹。私を仕留める絶好の機会だぞ」
「………なぜ…昔の兄さんはこんな人じゃ…なかった…のに…」
「私は私だ」
「そんな事わかってる……! でも……」

赤い剣先は震え、まるで定まっていなかった。

「どこまでも甘い奴だ。私を殺せなかったことをあの世で後悔するがいい」
赤黒い光を纏った秋人さんの右手が、春樹の胸を狙う。

「詰めが甘いのはお前だ。高村秋人」

いつの間にか、一郎くんが私の傍らから消えていた。
春樹と秋人さんに向ってゆっくり歩きながら、一郎くんは指をパチンと鳴らす。

「くっ。身体が…この拘束は……」
「逃げられはしない。矢に仕込んだ呪術、これが鏡の力だ。さあ、大堂。力の移行の儀式を」

私は……
①儀式をする
②しない
③修二くんをみつけた

115 名前:742[sage] 投稿日:2008/03/21(金) 13:39:27 ID:???
①儀式をする

私は一郎くんに頷くと、元の姿に戻ったチハルを見る。

「チハルお願い、鈴になってくれるかな」
「すず?」
「そう、巫女神楽で使う鈴」
「わかった!」
チハルが軽い音を立てて、私の手に納まる。

「姉さん……? 一体何を」
私は春樹には答えず、ただ笑ってみせる。
目を閉じ、チハルを胸の前まで持ち上げて、神へ祝詞を捧げる。
祝詞が終わると今度は、奉納の舞。そしてそれは力を私に降ろす舞でもある。
手を動かすたびに、シャンシャンと鈴の澄んだ音が響く。

(懐かしい……)
壱与が何度も何度も練習して来た舞。
そして、流れ込んでくる力。
そのどちらもが、とても懐かしいものだった。

(そっか、神宝は鬼の力に近いから……)
だからこんなに懐かしいのだろう。

「な、なんだこれは……力が……!」
秋人さんの驚愕する声が聞こえる。
けれど、今の私にそれを気にしている余裕は無い。

(なんて、大きな力なの……)
この八種の神宝の力が一人の人間の内にあったなど、にわかには信じられない。
鬼として目覚め、神宝の力に近い私だからこそ自我を保っていられるけれど、普通の人ならば心が歪んでしまうだろう。

(それに……力が大きすぎる……)
どんどん流れ込んでくる力に、息をするのも苦しいくらいだ。
けれどここで舞を止めるわけには行かない。
流れ込んでくる力に、腕を動かすのもつらくなってくる。

一体どれだけの時間が経ったのか、気付くと流れ込んでくる力が止まっていた。

(終わった……?)
朦朧とする頭で、次の行動を思い返す。
通常ならばこの後、別の器に力を移す舞を舞うけれど別の器が無い今は、その舞を踊ることが出来ない。
私は再度最初の姿勢に戻ると、祝詞を唱えた。

(無事全部、おわった……)
自分の内にある強大な力に、どんな動作をするにも尋常ではない精神力を使う。
舞を終え疲労した私には、ただ立っているそれだけが出来なくて、身体が倒れそうになる。
貧血を起こした時のように、視界が一瞬闇に飲まれた。

(あ、倒れる)
思考だけがやけに明瞭で、はっきりした意識で地面にぶつかるのを覚悟する。
もう受身を取るだけの力がない。
けれど地面にぶつかる前に誰かに抱き止められた。まだ暗い視界を凝らして、相手を見る。

抱きとめてくれたのは……
①一郎
②春樹
③チハル
④秋人

116 名前:743[sage] 投稿日:2008/03/21(金) 15:34:31 ID:???
④秋人

(秋人さん……)
私を抱きとめてくれたのは、意外にも秋人さんだった。

「……えっ、あの……」

私はとても驚き、恐ろさも手伝ってか身体を強張らせてしまう。
何も答えず私の顔をジッと見た後、秋人さんはポツリと漏らす。

「こんな平凡な少女が、最も高貴で、最強と恐れられた鬼とは。
私の心に棲まう闇こそが、本物の鬼……だったという訳か」

それだけの言葉を残して、秋人さんは公園を出て行ってしまった。
私も春樹も一郎くんもチハルも、あえてその空しい背中を追おうとする者は無かった。

「大堂。君はこれからずっと、強大な力を留めておくつもりか」
「うん。代わりの器がないからね」
「このままでは、君の身体が持たないだろうな」

そう言うと、一郎くんは私の前に跪く。

「過去の契約を破棄し、大堂愛菜を我が主と定める」

私の右手に自分の額を当てて、言葉を紡ぎだした。

「八咫鏡の半身として、尊き願いの為に、千里を見通す目となろう。
そして、知恵と力を貴女のために振るうことを誓う。主たる君の望みのままに……」

私の手の甲に唇を寄せられ、私は少しだけ気恥ずかしくなった。

「一郎くん……。ありがとう」
「いや。君を危険な目に遭わせてしまった。それに、君と修二の間に何かトラブルがあったようだな。
学校での気配も俺から隠すようにしていたし、気も酷く乱れていた。
俺の言うことを聞くかはわからないが、大堂と契約するように言っておこう」
「うん。お願い」

(修二くんと仲直りできるといいな……)

次は……
①チハルを見る
②春樹を見る
③香織ちゃんを見る

117 名前:744[sage] 投稿日:2008/03/21(金) 17:40:41 ID:???
③香織ちゃんを見る

ベンチに横たわったままの香織ちゃんは、まだやまない雨ですっかり濡れて真っ青だ。

(濡れてるのはみんな一緒だけど……)
「チハル」
「なに、愛菜ちゃん?」
私に呼ばれて、子供の姿になったチハルが私を覗きこむ。

「香織ちゃんの所まで運んでくれる?」
「うん、いいよ」
即座に成年の姿になったチハルに抱き上げられて、香織ちゃんのいるベンチまで運ばれる。
腕を動かすのも億劫だけれど、香織ちゃんの負担を少しでも軽くしてあげたかった。
神宝の力を取り込んだ今の私なら、命を削ることなく香織ちゃんへ力を分け与えることが出来る。
取り込んだ神宝の力は陰の力が強い。
そして勾玉である香織ちゃんも陰の力が強い存在だ。
術を返されたダメージを癒すことが出来るだろう。
私は香織ちゃんの手を握り念じた。
ゆっくりと私の中の陰の力が香織ちゃんに流れていく。
力を流し込んでいると、徐々に香織ちゃんの顔色が良くなってくる。

「ん………」
小さく呻いて、香織ちゃんが目を開けた。

「香織ちゃん、大丈夫?」
「あい、な?」
ぼんやりとした目で、香織ちゃんが私を見上てくる。

「もう大丈夫だよ。今はゆっくり休んで、ね?」
「……うん」
私の言葉に、少し微笑んで香織ちゃんは再度目を閉じた。
すっかり元の顔色に戻った香織ちゃんに安心すると、どっと疲れが押し寄せてくる。

「姉さん?」
「大丈夫、ちょっと疲れただけだよ」
「大堂、無理をするな。いくら大堂とはいえ、八つの神宝を身に宿したままではつらいだろう」
心配そうな春樹の声に、こたえると、間髪入れずに一郎くんが私の状態を見極めて反論する。

「姉さん……無理しないでっていってるだろう?」
「ご、ごめん」
「今は大堂と長谷川を休ませるのが先だが……、修二とも契約を交わせば少しは大堂も楽になるだろう」
陰の力の強い神宝と違い、陽の力のつよい神器。
神器との契約が正式になされれば、陽の力で陰の力が多少は中和される。

とりあえず……
①家に帰って休む
②修二くんに会いに行く
③周防さんがどうなったか聞く

118 名前:745[sage] 投稿日:2008/03/21(金) 23:22:13 ID:???
①家に帰って休む

「家に帰るよ。ちょっと疲れたしね」
「そうだな。無理は禁物だ」

一郎くんも納得してくれたのか、私の答えに頷いてた。
私はこの中で一番元気そうなチハルに声をかける。

「ねぇ、チハル。香織ちゃんを家まで送ってあげてくれないかな?」
「でもボク、香織おねえさんのお家を知らないよ」
「それならば、俺が道案内をしよう。俺も家に帰って、身体を休めたいと思っていたんだ」

当然のように言った一郎くんに、私は驚いてしまう。

「え? 一郎くん、香織ちゃんの家を知っているの?」
「ああ。長谷川の家は帰路にあるからな」

気を失った香織ちゃんを、チハルが背負う。
私は帰ろうとする一郎くんに、ひと言だけ声をかける。

「今日はありがとう。一郎くんもゆっくり休んでね」
「大堂らしい言葉だな。だがその言葉、そっくりそのまま君に返そう」
「一郎くん……。また私が無理をしてるって言いたいの?」
「自覚があるなら、少しは悔い改めることだ」

そう言うと、一郎くんにしては珍しく、とても穏やかな笑みを浮べた。
緊張の糸が切れ、素の顔が出たのかもしれない。
私は手を振りながら、先に公園を出ていった三人を見送る。

「さてと、俺たちも帰ろうか」

一郎くんと香織ちゃんの背中が見えなくなったところで、春樹が話けてきた。

「そうだね」
「はい。乗って」
「ん? どうしたの春樹」
「姉さんは鈍感だなぁ。おぶってあげるって言ってんだよ」

少しだけ耳を赤くしながら、春樹が背中を差し出してきた。

「でも、春樹だってたくさん怪我してるよ」
「平気だって」
「ほんとに?」
「いいから。はやく」

春樹はぶっきら棒に言いながら、私の身長にあわせて姿勢を低くした。

私は……
①肩車してもらう
②断る
③タクシーを拾う

119 名前:746[sage] 投稿日:2008/03/22(土) 00:15:19 ID:???
肩車なのか?おんぶじゃなく?w
まあいいやw

①肩車してもらう

「わかったわよ……」
私は春樹の背中に体を預ける。

「ちゃんとつかまってなよ」
「わかってるって」
「よっと」
軽く声をかけて立ち上がった春樹は、いつもと変わらない足どりで歩き出す。
いつもより少し高い視界で、景色が違ってみる。
何気なく後ろから春樹の顔を見ると、あちこちに擦り傷が出来ていた。

「あ、傷になってる……」
私は無意識のうちに、春樹の傷に手をかざしていた。
この程度の傷を癒すのは神宝の力と、鬼の力、そして神子の力のほとんどが目覚めた今の自分には息をするのと同じくらいにたやすい。
特に鬼に近い神宝の力は、時間がたつにつれ身になじんでいくようだ。

「姉さん、なにしてるのさ」
「春樹の治療」
「そんなことしなくてもいいよ。どうせすぐ治るんだし」
「でも、怪我してるのを見たらお義母さんが心配するじゃない。見えるとこだけでも治しておかないと……」
「……母さん怒ってるかな」
「怒ってないよ、すごく心配してたけど……。あ……」
「なに?」
「隆が……、春樹がもどってきたらぶんなぐってやるって言ってた」
「はは……、まぁ殴られるだけのことはしたし甘んじてうけておくよ」
「ついでに、私とチハルも便乗することになってるから」
「なんだよそれ……」
眉を顰めた春樹が少しこちらを振り返る。
至近距離から春樹と視線がぶつかった。

「ねえ、さん……?」
「どうしたの?」
一瞬驚いたように呆然とつぶやいた春樹に、私は首をかしげる。

「……なんか違和感が、いや気のせい……だよ」
けれどすぐに、何事も無かったかのように前を向いて歩き出す。

「変な春樹……」
ため息混じりにつぶやいたら、春樹は何かいいたげに再度私を見たが結局何も言わずに私を背負い直す。
一定のリズムで進む春樹の背中は思いのほか心地よくて、疲弊しきった私の意識がゆっくりと薄れていく。

このまま眠ってしまいたい気もするけれど……
①寝てしまう
②春樹に話しかける
③眠らないように何か考える

120 名前:747[sage] 投稿日:2008/03/22(土) 02:38:31 ID:???
間違えたwww おんぶに直してくれー

③眠らないように何か考える

(春樹が言ってた違和感って?……ん、ポケットに何か入ってる……)
それは秋人さんから渡された、ムーンストーンだった。

(そうだ。冬馬先輩……!)

『冬馬先輩。冬馬先輩……返事して』
私は心の中で冬馬先輩に何度も呼びかける。
そして、何度目かの呼びかけで、ようやく冬馬先輩の意識と繋がった。

『愛菜……。愛菜ですか』
『無事だったんだね。冬馬先輩、怪我は大丈夫?』

私の問いかけに、冬馬先輩はしばらく黙り込んだ後、ゆっくり答えた。

『……今は動くことが出来ませんが、心配は要りません。美波と周防が治療にあたってくれています』
『動くことが出来ないって……そんなに悪いの?』

石にべっとりと付いた血を思い出し、とても不安になった。
けれど、冬馬先輩は何事もなかったかのような口調で話し出す。

『僕の場合、三日もあればそれなりに動くことが出来るようになるはずです』
『よかった。はやく元気になってね』
『はい。ありがとうございます』

(僕の場合か……やっぱり、秋人さんが言っていた通り冬馬先輩の身体は特別なのかも……)
私は冬馬先輩の身体のことに触れるに躊躇い、別の話題を探す。
なるべく明るい話題をと思い、文化祭の話を振ってみた。

『三日後といえば、ちょうど文化祭ですよ。あっ、でも冬馬先輩はたしか不参加でしたよね?』

再び、しばしの沈黙が続いてから答えが返って来る。

『愛菜が参加するよう薦めてくれたので、今は有志の企画に混じって仕事を手伝っています。
途中参加なので、雑用程度ですが』
『え? 聞いてないよ』
『あなたが尋ねてこなかったので、何も言わなかったのです』
『そ、そうなんだ……。それで、参加してみてどう? 楽しい?』
『楽しいかどうか分かりません。ですが……』

また冬馬先輩は何も言わない。
以前はそのことが無性に不安だったけれど、今はその沈黙も怖くない。

『ですが……、悪くないと思えます』
『悪くないんだ。うん。そう思ってくれることが、素直に嬉しいよ』

急に楽しめと言われても、無理なのかもしれない。
少しずつでも、先輩が学校生活に溶け込んでいければ、それで良いような気がする。

『愛菜。あなたはやはり、お母様によく似ています。
あなたのお母様も僕のために、喜んだり、悲しんだりしてくれました」

私は……
①お母さんについて尋ねる
②もう少し文化祭について話す
③考える

121 名前:748[sage] 投稿日:2008/03/22(土) 09:37:59 ID:???
①お母さんについて尋ねる

『ねえ、私のお母さんって今どうしてるの?』
『………』
『冬馬先輩?』
『……あなたのお母様は5年前になくなりました』
『そっ……か……もしかして組織に……?』
なんとなく覚悟をしていたから、思っていたよりショックを受けていない。

『いいえ、あなたのお母様は車に轢かれそうになった子供をかばって亡くなりました。組織とは関係ありません』
『子供をかばって……』
『当時、新聞にも載ったそうです』
『新聞に……』
それじゃあ、もしかしてお父さんはお母さんが事故で死んだことを知ったのかもしれない。

(だから春樹のお母さんとの再婚を決めた……)
もしお母さんが生きていたら、きっとお父さんは再婚を考えなかっただろう。
いつまでも私のお母さんを待ち続けていたはずだ。
本人に確認したわけではないけれど、きっとそういうことなのだろう。

『すみません』
『え?』
『僕がそばにいながら、あなたのお母様を助けることが出来ませんでした』
『まさか、事故の現場にいたの……?』
『はい』
5年前といえば冬馬先輩は中学に上がったばかりだったはずだ。

『あなたのお母様は最後まで僕を気にかけてくれました。置いていってしまうことを許して欲しいと』
『……そう』
『そして、愛菜をよろしく頼むと』
『………』
「ねえさん? どうしたの!?」
「え?」
春樹の声に、冬馬先輩とつながった意識が途切れる。

「どこか痛いの? 体がつらいとか……」
すごく心配そうに私を見る。
私はいつの間にか泣いていたらしい。

①「お母さん5年前に亡くなってたよ」
②「大丈夫、どこも痛くないよ」
③「そういえば春樹のお父さんどうしたの?」

122 名前:749[sage] 投稿日:2008/03/22(土) 11:40:57 ID:???
②「大丈夫、どこも痛くないよ」

私は春樹を心配させまいと、涙を拭って答えた。

「辛かったら言うんだよ。わかった?」
「うん……」

(お母さん。せめて一度だけでも会いたかった……)

『愛菜……愛菜……』
『冬馬先輩、どうしたの?』
『意識が途切れたようですが……』
『春樹が話しかけてきたから、しゃべっていたんだ。急に閉じてごめんね』
『いいえ』

それきり、また冬馬先輩の声が聞こえなくなる。

『冬馬先輩、聞こえてる?』
『今、お母様の言っていたことを思い出していました。
愛菜は……お母様が言霊の研究していたのは知っていますか?』

(そういえば美波さんが言っていたっけ……)

『うん、知ってるよ。それがどうかしたの?』
『名前はその人を表す、最も強い言霊なのです。
あなたの名前の由来について、お母様から教えてもらった事がありました』

そういえば、自分の名前について考えたことが一度もなかった。
もし冬馬先輩が私の名前の意味を知っているなら、ぜひ聞きたい。

(私とお母さんを繋ぐもの……)

『名前に込められた意味……お母さんが私に何を望んでいたのか教えて?』
『はい。あなたの名前の『愛』、これは『かけがえのないもの、いつくしむ心』
そして、『菜』は『自然物やすべての者』という意味が込められているそうです』

(かわいい名前でお気に入りだったけど、愛菜って、すごく立派な名前だったんだ。
名前負けしてるかも……)

『要は、すべてを愛するってことだよね……。立派過ぎて、ちょっと気後れしちゃった。
けど、お母さんが望んでいたことなら、少しでも近づかなきゃね』

(残酷……修二くんは私に向かってはっきりそう言っていた。
今のままでは、お母さんに顔向けできないな……)

『僕は……今の愛菜をお母様が見たら、きっと喜んでくれると思います』
『えっ。そ、そうかな』
『はい』
『本当に、本当にそう思う?』
『……………』
『先輩?』
『すみません。少し褒めすぎました』

(うーん。なんだか悲しくなってきた)

①冬馬先輩の名前についてきく
②話を終える
③別の話をする

123 名前:750[sage] 投稿日:2008/03/22(土) 12:50:09 ID:???
②話を終える

気づくともう家の前まで来ている。
『先輩、お母さんのこと教えてくれてありがとう。ゆっくり休んで早く元気になってください』
『はい』
先輩の少し微笑むような気配を感じながら、私は現実へと意識を戻す。

「さ、ついたよ姉さん」
言いながら、春樹が家の戸に手をかける。
急いで出てきたから、カギは開けっ放しだった。
一旦春樹に玄関で下ろされて、私は自分だけではもう立っていることも出来ないことに気づく。

(変だな……もう、体が疲れてるとか……そういう感じは全然ないのに)
精神的にはいろいろ疲労しているけれど、意識のほうは疲れすぎて逆に鮮明になっている気もする。
体の方だって、どちらかというと力が満ちていて不調という感じはしない。
けれど、動かそうとするとうまくいかないのだ。

「ちょっと、姉さん、本当に大丈夫なの?」
立つことも出来ない私を春樹は慌てて支えてくれる。

「うん……どっちかというと、すごく体調はいいと思うんだけど……」
「確かに顔色が悪いわけでもないし、熱があるようにも見えないけど……」
「なんていうか……、いまちょっと体と意識がつながってない感じなんだよね」
「……そう」
春樹はため息をつくと、私を玄関に座らせて、靴を脱がせてくれる。

「どっちにしろ、姉さんはがんばりすぎだよ。早く着替えて今日はおとなしく寝ててよ」
「う、うん……」
確かに今動けないのは、神宝を移す儀式をしたからだ。
まさかこんなふうに、なるなんて思いもしなかった。

(壱与も儀式はしたことなかったもんね)
春樹に抱えられて、部屋までたどり着く。

「……っていうか、姉さん、自分で着替えられる?」
「え……」
言われて思わず顔を顰める。
何とか腕を動かすのはできるから、上は着替えられるだろう。
けれど……

「チ、チハルが戻ってきたら手伝ってもらうよ」
「なんでそこでチハルがでてくるのさ……? って、自分じゃ無理なんだね」
「だって、チハルならぬいぐるみのときから私の部屋にいて、チハルの前で着替えなんて今更だし……」
子供の姿のチハルの前では今までだって普通に着替えていた。

「チハルを待ってたら風邪引くだろ。とりあえずぬれてるからちょっと廊下座ってて、中はいると部屋の絨毯ぬれるから」
そう言って私を廊下にゆっくり座らせると、私の部屋に入っていく。

「はい着替え」
春樹が持ってきたのは、私がいつも来ている部屋衣だ。

「ありがと……自分でやるから……」
「できないんだろ?」
「な、なんとかなるよ」
「本当に……」

春樹の疑いのまなざしが痛い。
①「大丈夫だってば」
②「ごめんなさい、できません」
③「どうしようもなくなったら呼ぶよ」

124 名前:751[sage] 投稿日:2008/03/22(土) 15:47:33 ID:???
③「どうしようもなくなったら呼ぶよ」

私は気恥ずかしくて、春樹の顔がまっすぐ見られなかった。
(弟なのに……私、意識してるんだ……)

「わかった。もし何かあったらすぐに呼ぶんだよ」
春樹からバスタオルを受け取り、私はうなずく。

春樹はもう一度念を押すと、廊下から去っていった。
私はゆっくりした動作で、ブレザーを脱ぎ、リボンを解く。

(あっ、下着まで濡れてる。……はぁ、仕方がない)

「春樹……」
「どうしたの? 姉さん」

呼ぶと、着替えを終えている春樹が現れた。
春樹はまだ着替え終わっていない私を見て、驚いている。

「まだ着替え終わってないの? だから、俺がやるって……」
「下着を……持ってきて欲しいの。私の部屋、チェストの二段目……」
「あ、うん。わかった」

下着という言葉で春樹の小言の勢いが無くなり、大人しくなる。
春樹は素直に頷くと、階段を上って行った。

(最悪かも……って、あれ……)

不意に両手まで動かなくなって、瞼が重くなっていく。
意識だけはハッキリしていても、身体全体の自由が利かない。
視覚だけが奪われてあとは恐ろしく冴え渡っている、そんな状態になってしまった。

「姉さん……!」

下着を持ってきたはずの春樹が飛びつくと、私の肩を掴みながら揺する。

「ビックリした。なんだ、寝てるだけか……。もう、何やってんだよ。
あっ、これどうしようか。……でも、俺がやるしか……ないのか…やっぱり…」

春樹の溜息が聞こえ、考え込む様子が伝わってくる。

(ますます最悪に……)

①頑張って身体と意識を繋げてみる
②誰かが帰ってくる音が聞こえた
③諦める

125 名前:752[sage] 投稿日:2008/03/22(土) 17:37:52 ID:???
①頑張って身体と意識を繋げてみる

そうだ、以前にも似たようなことがあった。
あの時は修二君が、不調だった私を戻してくれた。
今ならうまくつながっていない心と体をつなげる方法は知っている。
私は意識的に力をコントロールしようと、集中をする。

(あれ……おかしいな)
力は正常に私の内にある。
不調の原因となるようなゆがみはどこにもない。

「仕方ないよな……このままじゃ風邪、ひくし……」
そういう春樹の声の後に、躊躇いがちに服に手がかかるのを感じた。

(きゃぁぁぁ春樹ストップストップ!)
けれどいくら心の中で叫んでも、春樹に聞こえるはずも無い。
慌てていると玄関の戸が開く音がした。

「愛菜ちゃん、香織おねえさんおくってきたよ」
(チハルーーーーー)
私は慌ててチハルに話しかける。

「愛菜ちゃん? どうしたの……?」
「姉さんつかれて寝てしまったみたいなんだ」
「なに言ってるの春樹? 愛菜ちゃん起きてるよ」
「チハルこそなに言ってるんだ、どうみたって寝てるだろう?」
(起きてるわよ……体が動かないだけなんだってば!)
「愛菜ちゃん体が動かないだけだっていってるよ?」
「言ってるって……」
「頭の中に声がするの。春樹には聞こえないの?」
「俺にはぜんぜん……」
(着替えはチハルに手伝ってもらうからって春樹に言って、チハル!)
「着替えは僕に手伝ってもらうっていってるよ」
「そう、っていうか体が動かないって……どういうことさ姉さん!」
(分からないわよ、別に力にゆがみとかあるわけじゃないし……)
「分からないっていってるよ、力にゆがみはないって」
「そんな、それじゃあ姉さんはずっとこのままだって言うのか?」
(まだそうと決まったわけじゃないよ、ただ疲れてるだけかもしれないし、寝たら元通りになってるかもしれないし、ね)
原因はきっと神宝だろうけれど、解決策は分からない。
本当に寝て起きたら明日は元通りの可能性もある。

「疲れてるだけかもしれないって、寝たら元通りになってるかもしれないっていってるよ」
「本当に……? ……まあ、姉さんをこのままにしておくわけにもいかないし、チハル、姉さんの着替え手伝ってやって」
「うん、わかった」
一人分の足音が遠ざかっていく。

「愛菜ちゃん、ここにおいてある服に着替えるの?」
(うん、そうだよ。ごめんね)
「なんで謝るの? えっと……ボタンって結構難しい……」
なんとかチハルに着替えさせてもらって、ほっとする。
体は相変わらず動かないけれど、濡れて冷たい服を着ていたときより、楽になった気がする。

着替えも終わったしどうしようかな……
①部屋に運んでもらう
②春樹のところに運んでもらう
③春樹とも話せないか試してみる

126 名前:753[sage] 投稿日:2008/03/22(土) 18:54:02 ID:???
①部屋に運んでもらう

(チハル。私を部屋に運んでくれるかな)
「うん。いいよ」

私はチハルに自室まで運んでもらい、ベッドに寝かせてもらった。
動かない体のまま、私はチハルに話しかける。

(チハル、今日はありがとう。チハルが弓矢になってくれなかったら、私はここにいなかったかもしれないよ)
「ううん。ボクは少しだけお手伝いしただけだもん。愛菜ちゃんとか、春樹とか他の人達がいっしょうけんめいだったからだよ」

少しだけ動いた気配がすると、チハルはポンという音を立てた。
そして、私のベッドに小さな体が潜り込んでくる。

「一緒にねてもいい?」
(もちろん。チハルが居てくれると落ち着く)
「ボクもぉ」

擦り寄ってくるチハルを、今は抱きしめてあげることができない。
そんな私の気持ちを感じたのか、チハルが私にギュッと抱きついてきた。

「あのね。愛菜ちゃんにあたらしく入った、ドロッていうのも好きだよ」
(チハル……?)
「ドロドロもザラザラもほわほわもぬくぬくも、ぜんぶ愛菜ちゃんだもん。だから、だいすき」
(すごく嬉しいよ。ありがと)
「えへへ、よかったぁ」

楽しそうに笑い終えると、チハルは「ふぁ~」と大きなあくびをした。

(今日は疲れたでしょ? もう休んでいいよ)
「うん。おやすみなさい」

寝息が聞こえ始めてすぐに、チハルはぬいぐるみに戻ってしまった。
きっと、人間の姿を維持できなかったのだろう。

その時、ドアをノックする音が聞こえた。
次に、ゆっくりとドアが開く音がする。

入ってきた気配は多分……
①春樹
②隆
③お継母さん

127 名前:754[sage] 投稿日:2008/03/22(土) 20:50:40 ID:???
①春樹

「姉さん、起きてる?」
(起きてるよ)
「チハル、寝たのか? 困ったな、これじゃあ姉さんが起きてるのか寝てるのか分からないじゃないか……」
そう言いながら春樹がベッドに近づいてくる気配がある。

「姉さん……?」
思いのほか近くで春樹の声が聞こえた。
どうやら私を覗き込んでいるようだ。

「本当に、いつも無茶ばかりするんだから………。
 ねえ、本当に大丈夫なの? ちゃんと起きられるようになる?
 もし、ずっとこのままだったら俺は……」
そっと額にかかった髪を払われる。

「額のしるし、それに、両手のしるし……神器が契約した証……」
(春樹?)
「俺もの中にも力はあった……けど、なぜ誰も気づけなかったんだろう。
 父さんも、兄さんも……同じ神宝だったはずなのに」
春樹は自分の意思で力を隠していたわけではない。
それなのに、誰も気づかなかったというのは確かに不思議だった。
一郎君や修二君でさえ春樹は普通の人だと言っていた。
少しベッドのきしむ音がして、春樹の手が私の頭をなで始める。
どうやら、ベッドの端にすわったらしい。

「俺は過去に何があったのか分からない。自分の過去で思い出した事も無い。
 でも姉さんの封印が解けるのと同時に、俺の力は目覚めた。きっと過去の姉さんと会ったことがあるんだろうね」
(そういえば、公園でそんなこと言ってたね……)
「きっと俺たちは出会うべくして出逢ったんだろうな」
春樹の手が離れ、立ち上がるような気配がした。

「でもきっとそれは俺だけじゃない、姉さんにかかわる力のある人たち全員がそういう運命みたいなものでつながってるんだ」
春樹の手が右の頬をなでる。、

「それはもう終わったのかな? それとも……」
春樹は最後まで言うことは無かったけれど、それは私も思うところだ。
まだすべては終わっていない。そんな気がする。
そのとき、かすかに玄関のあく音がした。
目を閉じている分、音に敏感になっているらしい。その音に春樹は気づかなかったようだ。
しばらくして誰かが階段を上ってくる音がする。

「誰かきた……? 母さんがもどってきたのか?」
春樹もようやく気づいたらしい。トントンとノックの音が聞こえ、それから扉が開く音がした。

入ってきたのは……
①周防さん
②修二君
③お義母さん

128 名前:755[sage] 投稿日:2008/03/22(土) 23:45:42 ID:???
③お義母さん

「愛ちゃん。具合は……」
「……母さん」
「は、春樹! 春樹が戻って来たわ。愛ちゃん起きて」

私の体をゆさゆさと揺すり、お継母さんはかなり興奮しているようだ。
(お継母さん。私、返事できないんだ)

「母さん、ただいま。心配掛けて、ごめん」
「もう戻ってこないかと……春樹を…取られてしまうかと……」
「あの人は、最期を俺と過ごしたかったんだって。母さんのことも含めて、後悔しているみたいだったよ」
「何を言っているの?」
「姉さんが寝てるし、詳しい話はリビングでしようか」
「そう……そうね」
「先に行ってて。すぐに行くから」
「ええ……。わかったわ」

先にお継母さんが部屋を出て行く気配がする。
ドアが閉まったのを待っていたように、春樹が話し始める。

「俺、母さんに嘘をついてくるよ。嘘は嫌いだけど、割り切らなきゃね。
って……寝てるかもしれない姉さんに愚痴っても仕方ないか」

春樹が乾いた笑いを漏らし、そっと掛け布団を直してくれる。
そして、ドアの閉まる音がした。

私はまた、春樹が言っていた運命の話を思い返す。
私たちは何かを成し遂げるために集まったのだろうか。

(迷わず進めって神様が言ってたけど……迷うよね、普通)

思わず、神様に文句のひとつでも言ってやりたいような気持ちになる。

(そういえば、神器と神宝を鎮めることのできるのは、私だけって言ってたっけ。
鎮めるって……どういうことなんだろう)

そんな事を考えている内に、段々眠くなってくる。
闇に引き込まれるようにして私は夢の中へ落ちていった。

みた夢とは……
①壱与の夢
②高村家の夢
③お母さんの夢
④一郎と修二の夢

129 名前:756[sage] 投稿日:2008/03/23(日) 01:56:23 ID:???
①壱与の夢

「壱与、何か食べないと体が持たない。少しでいいから何か口にしてくれないか?」
人影が私の横に立つ。
私はぼんやりと空を見上げたまま、その言葉を黙殺する。
故郷がなくなった事を知ったあの日の激情のあと、私は抜け殻のように過ごしていた。

今は、何も考えたくない。


三種の神器は解放されたけれど、その力は契約を結んだ私の近くにとどまっている。
考えてしまったら、力を使ってこの悲しみをこの世界へぶつけてしまいそうだった。
そんなことはできない。
この世界には多くの人が住んでいる。
人だけじゃない、他の生き物もたくさん暮らしている。
私の悲しみですべてを終わらせていいものではない。

だから、私は何も考えない。隣に居るのが誰かも知る必要はない。
……もっと冷静になれるまで。

「壱与……、お願いだ僕を見てくれないか?」
声の意味を考えてはいけない。

「……………いて」
「壱与?」
「放っておいて、私は世界を壊したくない。まだ……早いの」
「壱与……」
そっとぬくもりに包まれる。

「すべて僕の責任だ。恨むなら僕を恨んでくれてかまわないから……だから、お願いだ、少しでいい、何か食べてくれ」
懇願する声にふと意識が向く。

だめ、見てはいけない。
本能がそれ以上意識を向けることをとめる。

①声を無視する
②声の主を確かめる
③再度放って置くように言う

130 名前:757[sage] 投稿日:2008/03/23(日) 10:43:11 ID:???
①声を無視する

もう何日も食べ物を口にしていない。
飢えと乾きは、とっくに限界を超えていた。
けれど、何も考えない。考えてはいけない。

「このままでは、君が死んでしまう。お願いだから、食べてくれ」

この声に、耳を貸してはいけない。

「こんなに細くなってしまって……」

私を包むぬくもりが強くなる。
この匂いに包まれていると、何もかもが馬鹿らしくなってくる。
……もっと欲しいと願う。

「ほら、口をあけて食べてごらん」

口許に穀物が差し出される。
けれど、こんなもので私は満たされない。

「どうして口を開けてくれない。本当に死ぬつもりなのか」

保っていた理性が沈殿する。
心を埋めていた悲しみが、本能に塗り替えられていく。

「間違ったことをしたとは思わない。けれど……君を失いたくない」

前も感じたことのある、どす黒い何かが心を埋める。

「君の望む事だったらなんでもしよう。だから、お願いだ。食べてくれ……」
「たべる……」

懇願する声が耳に届き、私の中で何かが弾けた。
私は包んでいたぬくもりを、優しく解いていく。
折箸が床に落ちて、乾いた音を立てた。

「とてもおいしそう。あなた」
「なっ!」

抵抗できないように、ゆっくり組み敷いた。
首元に舌を這わせて、味を確かめる。

「……くぅ」
「おいしい。もっとちょうだい」
「何を……まさか……!」
「そう。たべるの……あなたを……」

私は獲物の肩に犬歯を立てた。

だめ、いけない……。
①夢から去る
②食べる
③止めるに入る

131 名前:758[sage] 投稿日:2008/03/23(日) 12:33:18 ID:???
③止めるに入る

(だめだよ!壱与!)
私は必死に壱与に呼びかける。

(お願い、やめて! 私の声を聞いて!)
壱与の犬歯が皮膚を少し食い破ったのか、ほんの少し血の香りが辺りに漂う。

(そのまま本物の鬼になったらだめ! 元の壱与にもどって、お願い!)
「……だれ? 懐かしい、あなただれ?」
「壱与……?」
私の呼びかけに壱与が動きを止める。
唐突につぶやいて動きを止めた壱与に帝が心配そうな声をかけた。
自分を食べようとした壱与の変化に帝は戸惑っている。
どうやら壱与が本当の鬼になってしまう事に驚きこそすれ、壱与を畏れているわけではないらしい。

「懐かしい、お父様と同じ力……お父様?」
(同じ力……あ、神宝の力のことかな?)
壱与は私を探して視線をさまよわせる。
部屋の上のあたりから様子を見ていた私に、壱与が気づいた。
不思議そうに私を見る。

「いち、よ?」
帝には私が見えていない、急に宙を見据えて動かなくなった壱与を心配そうに見ている。

「ねえ、だれ? お父様と同じ力を持つあなた、懐かしい……」
壱与はまだ完全に自分を取り戻していないようだ。
たどたどしい言葉遣いでたずねてくる。

(私は……)
①未来のあなただという
②大堂愛菜だという
③答えない

132 名前:759[sage] 投稿日:2008/03/23(日) 15:15:16 ID:???
③答えない

壱与が私の存在を父親だと勘違いしているなら、その方がいい。
壱与は失ったものの大きさに負けているだけだ。
私は壱与の父親であった出雲国王の口調を思い出しながら、ゆっくり語りかける。

(壱与……。私だ……壱与)
「お父様。やっぱりお父様なのね!」
(ああ、そうだ。よくお聞き、壱与)
「お父様……壱与もお父様と一緒にそちらへ行きます……。お願いです。黄泉へ連れて行ってください……」

涙を流しながら懇願する壱与が、小さな頃の自分と重なる。
お母さんに捨てられたと、泣き腫らした日々をフッと思い出した。

(来てはならない。お前にはまだやるべき事が残っている)
「やるべき……こと?」
(お前はもう、大和の者だ。すべての民の幸せを祈り、巫女としての役目を果すのだ)
「出雲を滅ぼした国のために、祈ることなんて出来ません」
(憎しみや恨み、復讐からは何も生まれない。お前はそれらの心の闇に打ち勝たなければならないのだ)
「無理です。だから、一緒に連れて行って……」

「壱与……」
心配そうに見つめながら、帝は血に濡れた肩を押さえている。
私はその姿を見ながら、壱与に再び語りかける。

(すべてに感謝する心、愛しむ心を忘れず、生きていきなさい)
「私一人では出来ません。お父様が居ないと、壱与は何もできません。だから、私の前に姿を現してください!」
(お前はもう一人ではない。お前を想い、支える者がすぐ傍らにいる……)

その言葉で、壱与ははじめて帝を見る。
壱与は私自身でもある。だから、憎みきれていない事も、密かに想っている事も知っている。

(壱与。その者と手を携え、役目を果たすのだ。私は…いつでもお前を見守っているよ……)
「待って! お父様、行かないで!」

私は壱与と意識を閉ざすと、溜息をつく。
(はぁ……疲れた。お姫様に向って、説教しちゃったよ……)
お母さんが私につけてくれた「愛菜」という意味を冬馬先輩から聞いておいてよかった。
かなり適当に言ったけれど、壱与は信じてくれているようだ。
これも壱与が父親を尊敬しているからこそ、素直に信じたのだろう。

(私なんかで良かったのかな……。壱与、ちゃんと立ち直ってくれるよね……)

私は……
①続きを見る
②夢からさめる
③考える

133 名前:760[sage] 投稿日:2008/03/23(日) 20:26:52 ID:???
①続きを見る

(大丈夫かな……)
私は壱与に入り込むと、壱与自身になりながら傍観し始める――。

目の前には、傷ついた帝の姿があった。
口内に広がる鉄の味が、すべてを物語っている。

「わ、私……あの……」
「壱与……」

帝は肩を押さえながら、私の名前を呼んだ。
そして、一歩、また一歩と近づいて来る。
私は帝から逃れるように、壁を伝いながら後ずさりをしていく。

「壱与。さっき君は父親と話しをしていたんだね? よかったら、内容を僕に教えてくれないか。
すっかり嫌われてしまったけれど、せめて罪を償わせて欲しいんだ」
「来ないで……お願い」
「どうして!? もう、僕を見るのも嫌なのか」
「違う。違う……」

(見られてしまった。一番知られたくない人だったのに……)

私の中の本性、人喰い鬼の姿を帝に知られてしまった。
美しいと賞賛される外見は、人を食べるための罠。
人間を誘惑し、喰らっていた頃の名残に過ぎない。

(お父様は帝と生きていくようにと、遺言を残された。だけど……それも叶わない)

「なぜ、なぜ僕から逃げる!」
「知られてしまった……。もう、一緒に居ることは出来ないの」
「何を怯えているんだ。僕はここに居るだろう」

(とても憎い人。大嫌いだけど、こんなに心が痛いのは、強く強く惹かれているから……)

部屋の端まで追い詰められて、もう逃げ場がなくなってしまった。
帝は私の腕を掴むと、ぐいと引き寄せる。
帝の身体に勢いよくぶつかると、苦しいくらいに抱きしめられる。

「嫌われているとわかっていても、君を求めずにはいられない。
君の国を滅ぼした酷い男だが、必ず君を大切にすることを誓うよ」
「離して……」
「離さない。納得できる理由を教えてくれるまでは」
「私は……。私は……」
「僕を喰らいたいのなら、今、ここで片腕を君に差し出してもいい」
「何を……言って……」
「もし全身を欲しいというのなら、少しだけ待って欲しい。
今は死ねないけど、この国に平穏が訪れた時、この命を必ず君に差し出そう。
それが罪を償うことになるのなら、僕は……喜んでその罰を受けるつもりだ」

(壱与。どうするつもりなの?)

私は……
①さらに続きを見る
②夢からさめる
③考える

134 名前:761[sage] 投稿日:2008/03/23(日) 21:02:53 ID:???
①さらに続きを見る

「私は……あなたは……」

壱与は混乱している。
なぜ帝がこんなことを言っているのか分かっていない。
(壱与……帝はあなたを畏れていないのよ。ただあなたを求めてるだけなの)

「私は、あなたに……あの姿を知られたくなかった……知ったらすべてが壊れてしまう」
「なぜ?」
「私は鬼だから……人ではないから……」
「鬼でも人でも魔でも壱与は壱与だ、関係ない。いったい何が壊れるというんだ」
「……私が、怖くないの?」
「壱与が? なぜ僕が壱与を怖がるんだ?」
帝は心底分からないというように、首をかしげ壱与を覗き込む。

「僕が壱与を怖がることはない。こんなに愛しいのに」
そういって帝はさらに強く壱与を抱きしめる。
それを聞いた壱与の頬を新たな涙が伝う。

「本当に?」
「今まで君にはたくさんの嘘をついたけれど、これだけは本当だ。壱与、君が好きだよ」
「…………」
「だから、この国が平和になったら、君にこの命をあげるよ」
「いらない」
「壱与……そこまで僕は嫌われてしまったのか……」
「命はいらない……おねがいずっとそばに居て。もう一人にしないで……」
「壱与……本当に? 僕の都合のいいように解釈してしまうよ?」

(……もうこの二人は大丈夫ね)
私は壱与の体から抜け出す。
最後にふれた壱与の想いは、帝と同じもののはずだ。

さて……
①そろそろ夢から覚める
②別の夢へ行く
③考える

135 名前:762[sage] 投稿日:2008/03/23(日) 22:39:38 ID:???
③考える

帝も私の時代で生まれ変わっているのだろうか……。
壱与と帝を目の前にして私はふと思った。

神宝や神器が私のすぐ近くで蘇っている。
だとしたら帝ももしかしたらいるのかもしれない。
そう思うと私はなぜか春樹と秋人さんの顔が脳裏を横切った。

帝の目的の為なら非情になれる所は秋人さんに
帝の壱与の為に献身的に尽くす所は春樹に

一郎君や修二君じゃあるまいし一つのものがそう簡単に二つに分かれるなんてそうそうあるものじゃない。
それに彼らは神宝なのだから帝のはずがない……。
秋人が帝だったら鬼の国を再建なんて考えるはずがないだろうし、
春樹だって帝の壱与に対する恋愛感情と違って私に対するのは家族愛。
頭ではわかってるのに私は帝の中に2人を重ねてみていた。

なんだか2人のこと考えてると彼らのことが気になってきた。

①秋人のことを考える
②春樹のことを考える
③他に候補者を考えてみる
④考えても仕方ないので夢から覚める

136 名前:763[sage] 投稿日:2008/03/23(日) 23:26:55 ID:???
①秋人のことを考える

(そういえば、秋人さんあの後どうしたんだろう……)
最後に私を抱きとめてくれた秋人さん。
きっと神宝の力で、心がゆがめられてしまっていたのだ。

(本当はもっと優しい人だったんじゃないかな……?)
最後に見た秋人さんの目は、とても澄んでいて穏やかだった。
そう思ったとき、視界が急激に変わった。

(ここは……)
どうやらどこか部屋の中らしい。
部屋の中は薄暗く、片隅に置かれた電気スタンドがその辺りだけ淡く照らしている。
ふと、人の気配を感じて私は振り返った。

「なぜここへ来た?」
(え?)
私は驚いて、声の主を見る。部屋の隅に置かれたソファに秋人さんが座っている。

「アンタの内から力が消えているのを確認しにね」
私が何か答える前に、部屋の入り口から人影が現れる。

(周防さん……?)
「ふん、悪趣味だな」
「何とでも言えばいいさ。で、気分は?」
「悪くはない」
「自分の内から力がなくなるって言うのはどういう気分なんだろうね?」
「さあ? お前もあの鬼の姫に頼んだらどうだ?」
「それはおいおい頼むとして、今はそれどころじゃないからね」
「まあ、そうだろうな」
秋人さんは意味ありげに笑う。

「お前も気をつけることだ。闇は俺の中から消えた。だが、鬼の姫の内へ移ったわけでもないらしい」
「へぇ?アンタが俺に忠告とはね。明日は雪かな」
「ふん……、まあせいぜい気をつけることだな、従兄殿」
「はいはい、忠告ありがとさん」
周防さんはいつもの調子でヒラヒラとてをふると、部屋を出て行った。

(闇? 闇ってなに……?)
その闇というのが、鬼の国を再建させようとしていたのだろうか。
高村も鬼の一族だったと言っていた。けれど、本来の鬼の力は失って久しい。

(あ……)
考え込んでいると、ふと体が引っ張られるような感じがした。
目が覚める前兆。誰かが呼んでいるようだ。

その声は……
①春樹
②隆
③チハル
④お義母さん

137 名前:763[sage] 投稿日:2008/03/23(日) 23:48:25 ID:???
④考えても仕方ないので夢から覚める

(きっとその内わかるよね。今までだって不思議とそうなってきたし)

春樹が言っていた運命なら、帝にも出会えるはず。
なぜか確信に近い、予感がする。
焦って考えなくてもいいかな、と思いつつ私は夢から覚めた。

(目が開かない。体が動かない。ということは、まだ駄目なんだ)
がっかりしていると、声が聞こえてくる。

「うーん。こりゃ、チハルが復活するのに、二、三日かかりそうだな」
「そうですか。困ったな」

(隆と春樹の声だ……)

「しかしなぁ、俺が授業を受けてる間に、そんな事があったなんて驚いたぜ」
「無事に帰ってこれて、本当によかったですよ……」

春樹の溜息が聞こえる。
そして、隆が動く気配がして、また話が始まる。

「俺が加勢してたら、もっと楽だったのかもな。呼んでくれりゃよかったのに」
「そんな暇ありませんよ。突然、力が覚醒したと思ったら、高村の伝承が頭の中に入って。
すごく嫌な予感がしたんで、兄さんを追ったら……冬馬先輩が倒されてたんです」
「で、秋人って奴との兄弟喧嘩が始まったわけだな」
「まぁ、そうですね。後はさっき言った通りですよ」

隆が「うーん」と唸っている。
まるで、納得できないという感じだ。

「ていうかお前……ホントに力使えるのか? 何も感じないんだけどな」

(使えてたよ。すごかったんだから)
そんな私の声も届かず、話は進んでいく。

「一応は……。高村家の血筋の者だけが使える、十種の神宝って力なんですけど……」
「で、具体的にどんな力なんだ?」
「八握剣って赤い剣が出るんです」
「そんだけか? あんまり使えないな」
「そうですね。訓練すれば色々使いこなせるみたいですけど……俺は要らないです」
「訓練って面倒そうだしな。ていうかさ、ここでその剣を出してみてくれよ」
「嫌ですよ。物騒じゃないですか」
「もったいぶらずに、いいだろ」

私は……
①(疑われてるなら、剣を出してみたらいいのに)
②(春樹の言うとおり、物騒だよ)
③(隆って、好奇心旺盛よね)

138 名前:764[sage] 投稿日:2008/03/24(月) 00:23:40 ID:???
被った。
763の後に投下した方はナシでお願いします

②隆

「おい! 愛菜起きろ!! ホントだなビクともしない」
「じゃあ、チハルはどうですか」
「うーん。こりゃ、チハルが復活するのに、二、三日かかりそうだぞ」
「そうですか。困ったな」

(隆と……もう一人は春樹の声だ)
覚醒したはずなのに、相変わらず目も開かないし体も動かなかった。
(はぁ……まだ駄目なんだ)
がっかりしていると、また隆の声が聞こえる。

「しかしなぁ、俺が授業を受けてる間に、そんな事があったなんて驚いたぜ」
「無事に帰ってこれて、本当によかったですよ……」
「俺が加勢してたら、もっと楽だったのかもな。呼んでくれりゃよかったのに」
「呼ぶ暇なんてありませんよ。突然、力が覚醒したと思ったら、高村の伝承が頭の中に入って。
すごく嫌な予感がしたんで、兄さんを追ったら……冬馬先輩が倒されてたんです」
「で、秋人って奴との兄弟喧嘩が始まったわけだな」
「まぁ、そうですね。後はさっき言った通りですよ」

隆が「うーん」と唸っている。
まるで、納得できないという感じだ。

「ていうかお前……ホントに力使えるのか? 何も感じないんだけどな」

(使えてたよ。すごかったんだから)
そんな私の声も届かず、話は進んでいく。

「一応は……。高村家の血筋の者だけが使える、十種の神宝って力なんですけど……」
「で、具体的にどんな力なんだ?」
「八握剣って赤い剣が出るんです」
「そんだけか? あんまり使えない力だな」
「そうですね。でも、能力者は訓練しだいで別の力も使えるようになるみたいですよ」
「訓練って面倒そうだよな。ていうかさ、ここでその剣を出してみてくれないか」
「嫌ですよ。物騒じゃないですか……」
「もったいぶらずに、いいだろ?」

私は……
①(疑われてるなら、剣を出してみたらいいのに)
②(春樹の言うとおり、物騒だよ)
③(隆って、好奇心旺盛よね)

139 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/03/24(月) 10:30:48 ID:???
ぶった切りすみません、時々wiki編集している者ですが、wiki管理者様へ

ページ名間違って作成してしまいました、登録メンバー以外修正出来ないようなので修正お願いしますosz
ストーリーを読む 3ページ目 > ストーリーを読む 4ページ目

お手数をおかけいたしますがよろしくお願いします。

140 名前:名無しって呼んでいいか?[sage] 投稿日:2008/03/24(月) 12:20:47 ID:???
>>139
wiki編集乙であります
肩車からおんぶに直っててホッとしたw

141 名前:765[sage] 投稿日:2008/03/24(月) 13:33:56 ID:???
③(隆って、好奇心旺盛よね)

結構何にでも興味を示して追求するのは子供の頃から変わらない。

(でも、飽きやいんだよね……)
よっぽど気に入ったことでもなければ、隆が飽きるのはやい。
逆に気に入ったことならとことんのめりこむのだ。

「にしても、このままじゃヤバイだろ? おばさんだって心配するし」
「そうなんですよね……でもどうしたらいいのか……」
(そうよね……お義母さんだって心配するよ。もし入院とかさせられたら困るし……)
隆や春樹の様子からして、夕食が終わった後らしい。

「うーん、美波さんに連絡が取れれば……」
「美波さん?」
「あー、お前が出て言った後にいろいろ世話になった人だよ。組織の反主流派で、医者でもある能力者だ」
「組織の……?」
「ああ、でも信用できる人だと思うぜ。 治癒能力が高くて、もしかしたら愛菜を元に戻してくれるかもしれない」
「そうなんですか……?」
「ああ、以前愛菜が電話してたな……リダイヤルで繋がるんじゃないか?
 あ、いや……最初にかけてたのは別の奴にだったかな……たしか、春樹の従兄ってやつだ。
 でも、ま、そいつにかければ美波って奴にも連絡取れるだろ」
(ああ、待ってどこかに不調があるわけじゃないのよ!)
美波さんが来ても何も解決しないだろう。
おそらくこれは神宝を内に宿しているために起こったことだ。

(隆や春樹ともはなせればいいのに……)
周防さんや冬馬先輩、それに秋人さんは、きっと力の使い方を訓練したからお互い念じれば話せるのだろう。
力の使い方の応用もできる一郎くんと修二くんともきっと話せる。。
過去の記憶がある香織ちゃんももしかしたら声が届くかもしれない。
一番いいのはここにいる二人に声が届くことだけれど……

(でも、冬馬先輩と香織ちゃんはケガしたりしてたし、無理させちゃだめだよね)

誰に話しかけよう
①隆か春樹
②一郎か修二
③周防さんか秋人さん

142 名前:766[sage] 投稿日:2008/03/24(月) 15:36:35 ID:???
②一郎か修二

(一郎くんとは契約しているし、繋がるかも)

私は一郎くんに念じてみる。
何度も名前を呼んだり、その姿を思い浮かべてみたり、色々試してみた。
けれど、何も返ってこない。

(一郎くんじゃ駄目なのかな。よし、次は修二くん)

修二くんにも繋がらない。今度は周防さんを試してみる。
私が念じている間に、隆と春樹の会話は続いていく。

「愛菜の携帯か。制服の中かな……」

ゴソゴソと物色する音がして、「あった」と声がした。

「あったぞ。さてと……」
「でも、いいんですか? 姉さんの携帯を勝手に触ってしまって」
「緊急事態だよ。うわ、俺の知らない男の名前を発見……。おい、春樹。この名前知ってるか?」
「……知りませんよ」
「お前、保護者だろ。ちゃんと知っとけよ」
「保護者じゃなくて、弟です。ていうか……、なんでアドレス見てるんですか」
「ちょっと気になるじゃないか」
「後から姉さんに怒られても知りませんよ」
「寝てるんだし、平気だって」
「起きてるかもしれないのに……」

(起きてるし! 全部聞こえてるし!)

隆と春樹に叫んでみても、やっぱり声は届かなかった。

結局、一郎くんも修二くんも隆も春樹も周防さんも香織ちゃんや冬馬先輩まで、
知っている能力者に全員に試してみたけど駄目だった。

(困ったな。神宝に問題があるのかな……)

そうしている間に、隆は周防さんを見つけ出して電話を掛けていた。
電話が終わり、春樹が隆に声を掛けている。

「どうでした?」
「ああ。今日は無理だけど、明日の午前中に来てくれるってさ」
「明日……。そうですか」
「まぁ、疲れてるだけかもしれないしさ。今夜は様子をみようぜ」

私は……
①(なぜ誰とも繋がらないのだろう)
②(勝手にアドレス見るなんて。隆、許さないんだから)
③(そういえば、春樹は隆に殴られたのかな)
④諦めてまた夢に入る

143 名前:767[sage] 投稿日:2008/03/24(月) 16:37:05 ID:???
②(勝手にアドレス見るなんて。隆、許さないんだから)

いくら緊急事態だと言っても、勝手にアドレスを見るなんて許せない。
周防さんに連絡してくれたのはいいけれど、だからと言って他の人のアドレスまで見る必要なないはずだ。

「にしても、俺も春樹も知らない奴の登録があるなんて思わなかったな」
「……姉さんにだって付き合いくらいあるでしょう」
「そうだけどさ、俺とは同じクラスだし、春樹は家で毎日一緒だろ? それらしい男の影なんてなかったじゃないか」
(ちょっと、いいたい放題言ってくれるじゃないの!)
それらしい男の影というなら、そりゃ無かったかもしれないけど……。
きっと隆も春樹も知らない名前と言うのなら、委員会関係の人か香織ちゃんつながりの人だろう。

「もうちょっと見てみようぜ」
(ちょっと! 隆、いい加減にしなさいっ!!!!)
心の中で、絶叫した時。
パァンと空気のはじける音がした。

「うあっ!?」
「っ!?」
(!?)
突然の音に、一瞬の静寂。

「……な、なんだ?」
「……もしかして姉さんじゃないですか? 勝手に見たから怒ってるんですよ」
「てことは、起きてるのか?」
(起きてるわよっ)
自分がやった自覚は無いけれど、とりあえずこれ以上携帯を見られることはなくなったらしい。

「なんだ、起きてるなら起きてるって言えよな」
「そんな無茶なこと言わないでください。話せたらとっく話してますよ」
ため息をつきながら春樹が近づいてくる気配がする。

「姉さん、とりあえず母さんにはうまくごまかしておきました。明日から土曜日までは仕事で夜も遅くなるそうですから、その点は心配しなくても大丈夫です。明日もこのままなら土曜日までに何とか解決策を見つけます」
(そっか、お義母さん仕事忙しいんだ。 まぁそのおかげで、こうして寝てても余計な心配させなくてすむんだけど)
とりあえず、ホッとしていると隆が話しかけてきた。

「ところで愛菜、おまえチハルと話せるってことは、精霊となら意思疎通が出来るってことか?」
(?)
隆の言葉に首を傾げていると、隆が言葉を続けた。

「ったく、反応が無いってやりにくいな……精霊と話せるなら、お前に好意を持ってそうな道具にお願いして、そいつを通じて会話が出来ないかと思ってな」
「なるほど……でも、チハルと同じ位姉さんと一緒にいて、姉さんに大事にされてるものなんて、あるかな……それにチハルだってすぐに人の姿になれなかったんだ、その精霊が人の姿になれるかなんて分からないよ」
「確かにそうだけどさ、やらないよりはマシだろ?」
「それはそうかもしれませんが……」
私が返事を出来ないために、二人は勝手に話を進めていく。

今の話し私は……
①やってみる価値はある
②気が進まない
③考える

144 名前:wiki”管理”人[sage] 投稿日:2008/03/24(月) 17:30:50 ID:???
豚ギリスマソ
>>139
編集乙です。直しておきました。

後、デザイン変えてみましたが使いにくければまた言ってください。

145 名前:768[sage] 投稿日:2008/03/24(月) 18:31:52 ID:???
>>144乙です!
③考える

(何か引っかかる……)

私は何かを忘れているような気がする。
チハルと同じ位ものを探すより、もっと手っ取り早い……何か。

『愛菜ちゃんに新しいリボンもらったから、こっちのリボンをあげる』
『ボクがずっと身につけてたから、御守!』
『愛菜ちゃんがいままでだいじにしてくれたぶんもおかえしするよ』
『とりかえっこだね』

そして、夢の中でチハルと指きりした。

(そうだ。チハルの古いリボン……もしかしたら……)

けど、どこに置いたか思い出せない。
チハルに新しいリボンを結んであげた。
そして昔の水色のリボンを……。

(あっ!……思い出した。でも、二人にどうやって……。よし、決めた!)

さっきの要領で怒れば、同じことが起きるはず。

(隆のバカ!乙女のメアドを勝手にみるなんて、絶対に許せない!!!!)
(春樹のアホ!少しは私のこと頼りにしろ!!!!)
(普通の生活を送らせろ!ボケェ!!!)
(冷蔵庫に残しておいた私のプリン食べたの誰よ!!!!)

思いつく限りの腹を立てた出来事を心の中で叫びまくる。

パァンと空気のはじける音がした。
「うあっ!? またかよ!!」
「っ!? 白い羽毛が……たくさん……」
(イタタッ! でも、成功!!)

私の枕が弾け、部屋中に真っ白の羽毛が舞っている……はず。
あとは、古いリボンを見つけてくれれば。

「これ……この水色のリボン」
「ん? なんだ?」
「チハルのリボンですよ。このリボンをまたチハルにつけてみれば……」
「そっか……ナイスだ春樹! チハルが目を覚ますかもしれないぞ」

隆の力の波動が伝わってくる。
明るい隆らしい感じだ。

①隆の願いも聞こえてきた
②様子を見守る
③チハルに話しかける

146 名前:769[sage] 投稿日:2008/03/24(月) 22:11:18 ID:???
>>144 修正ありがとうございます

③チハルに話しかける

(チハル、チハル? ねえ聞こえる?)
何度か呼びかけると、眠そうなチハルの声が響いた。

(愛菜、ちゃん? どーしたの?)
(疲れてるところごめんね、私の声がチハルにしか聞こえないみたいだから)
(うん、ボクは愛菜ちゃんとずーっと一緒に居たから、愛菜ちゃんの思ってることが分かるんだ。
 愛菜ちゃん、ボクには色々な気持ちを話してくれたし)
(そうなんだ?)
確かに子供のころからチハルには楽しかったことや、悲しかったこと、怖かったことなど色々話していた。
それが、今とても助かることになるとは思いもしなかったけれど。

(それで、何を伝えればいいの?)
(あ、あのね、春樹に伝えて、前にも言ったけど私は体調が悪いわけじゃないって。
 力の乱れから動けなくなったわけじゃないから、美波さんじゃ治せないとおもうって)
(うん、わかったよ)
チハルが頷くのと同時に、耳元でポンという音が聞こえた。
どうやら人の姿になったらしい。

「お、チハル起きたか」
「うん、愛菜ちゃんがね、体調が悪いわけじゃないって、チカラの乱れから動けなくなったわけじゃないから、みなみさんじゃなおせないとおもうって言ってるよ」
「姉さんがそう言ってるの?」
「うん」
(神宝が原因だと思う)
「シンポウが原因だとおもうって」
「神宝って……結局、姉さんがこうなったのは高村の俺達のせいなのか……」
苦しそうな春樹の声が聞こえた。
私は慌てる。

(は、春樹のせいじゃないよ……!)
「ばかだなあ、春樹のせいじゃないだろ? それにお前はもう高村じゃない、大堂春樹だって自分でも言ってたじゃないか」
私が否定するのと同時に、隆が否定する。

「愛菜ちゃんも春樹のせいじゃないって言ってるよ」
「……でも」
「いいからお前、それ以上なにも言うな。 で、愛菜原因は神宝って分かってるんだろ?解決方法に心当たりは無いのか?」
隆は強引に春樹を黙らせると私に話しかけてくる。

(心当たり……)
いわれて考える。

解決方法……
①神器との契約を完成させる
②残りの二つの神宝を取り込む
③内にある力を別のものに移す
④やっぱりわからない

147 名前:770[sage] 投稿日:2008/03/25(火) 09:54:22 ID:???
①神器との契約を完成させる

(神器と契約すれば、この体の不調も収まるはず)

まったく体が動かない理由は、まだ神宝と神器が馴染んでいないからだと思う。
神宝と神器が馴染んで体が動くようになったとしても、神器と契約しないことには不調は続くだろう。
私がもっと鬼に近づかないことには、神宝の力を体に留めておくことは難しい。
儀式ではなく、契約をしなければ鬼には近づけない。
だから、最後の神器と契約する以外に解決方法はないのだ。

私はチハルに頼んで、そのことを二人に伝えた。

「最後の神器が宗像弟かよ。やっかいだな」
「修二先輩は姉さんに対して協力的だったし、大丈夫じゃないですか?」

(でも、修二くんに嫌われちゃったんだよね……)

「あのね。『道具として扱われるのが嫌だ』ってシュウジが言ったんだって。
それでね、『協力しない』って断られたんだって」
「契約は神器と巫女の合意で初めて成立する……そうだったよね、姉さん……」

(うん)

「なんだそりゃ!? 宗像弟以外、愛菜を治せないってことか」
「そうですね」
「それじゃあ、愛菜はずっとこのままだっていうのかよ……」
「そんなこと絶対にさせません」
「春樹。なにか良い手があるのか?」

春樹の気配が黒く変わっていく。

「最後まで協力しないと言い張るのなら……修二先輩の心を壊してでも……」

(駄目ぇ!! 春樹戻ってきて!!)

私はチハルを介して、黒くなりかけていた春樹を急いで止める。

「冗談だって。なに真に受けてんのさ」
(びっくりさせないでよ。もう!)
「けど……修二先輩が協力しないのは本当に困りましたね」
「だな。宗像兄と仲が良いって訳でもなさそうだし、他の誰かの説得も……聞くはず無いよな」

私は……
①私からもう一度頼んでみる
②二人に頼む
③考える

148 名前:771[sage] 投稿日:2008/03/25(火) 13:29:54 ID:???
①私からもう一度頼んでみる

(私から修二くんにもう一度頼んで見るよ。だから明日学校が終わってから家に来てくれるように伝えてくれない?)
チハルが私の言葉を春樹たちに伝える。

「分かりました、何が何でも連れてきます」
「任せとけ、ちゃんと連れてきてやるよ」
(二人とも、無理やりはダメだからね……)
二人とも修二くんが嫌がったら、気絶させてでも連れてきそうな勢いだ。

(そういえば、明日は周防さんが来てくれるって言ってたよね?)
「明日スオウがくる?」
「ああ、そうそう。お前の寝てる原因が分からなかったから、とりあえず呼んでおいた。原因が分かったから断っておくか?」
(ううん、聞きたい事があるから)
さっき見た夢が気になる。きっとあれは普通の夢じゃない。

「愛菜ちゃん、スオウに聞きたい事があるって」
「聞きたいこと? なんだ?」
(うん、ちょっと気になることがあって……、ねえ春樹、秋人さんって急に性格が変わったんだよね?)
「ええ、以前はもっと優しい人だったよ。
 そんなに態度には出さないようにしてるようだったけど、気がつくと助けられてたってことも結構あったな」
(やっぱりだいぶ性格が変わったみたいだね)
秋人さんが言っていた「闇」と言う言葉が気になった。
周防さんはそれが何か分かっているような口ぶりだったから、明日来たら聞きたいと思ったのだ。

(それにさっき一瞬春樹の気配が黒く変わった……それも気になる)
いまは全く感じないけれど、あの時確かに今までの春樹なら口にしないことを言った。

(周防さんにそのことも確認したいし、ね)
(愛菜ちゃん……?)
不安そうにチハルが心に話しかけてくる。
チハルにも春樹の異常が分かったのかもしれない。

①チハルを安心させる
②もっと秋人さんのことを聞く
③今日はもう寝る

149 名前:772[sage] 投稿日:2008/03/25(火) 15:34:08 ID:???
③今日はもう寝る

(周防さんに来てから尋ねればいいか……)

神宝と神器を体に馴染ませるためには、少しでも休んだ方が良い。
いくらチハルとの会話でも、少しは力を使っている。

(チハル。ちょっと疲れたらかもう寝るね。春樹と隆にも言っておいて)
(わかったー。おやすみ、愛菜ちゃん)
(おやすみ。チハル)

意識が落ちて、また夢が現れた。

(これは壱与の中。……でも、あれから数年経ってるみたい……)
大堂愛菜の意識は壱与の中で、また静観しはじめる――。

あれから、私たちはお互いの気持ちを封印し、強い信頼関係を築いていった。
けれど、三種の神器はその拠り所を失い、力を弱めていく一方だった。
人間に与えられた祝福だったけれど、私が壊してしまったのが原因だ。
託宣も最近は得られず、巫女としての使命に限界を感じ始めていた。

「壱与!」
「帝……!」

久しぶりに現れた帝は、少しやつれ気味だった。
天災続きで、政にも影響が出ているのだろう。

「今日は面白いものを持ってきた。見てくれないか」

顔色とは裏腹に、帝は子供のようにはしゃぎながら私にある竹簡をみせる。

「これはなんでしょう?」
「大陸から贈られたものだ。しかし、文字というのは難しいな……」
「えーっと……これは経典ですね」
「なぜ分かる? まさか、君は大陸の文字が読めるのか!?」
「ええ。出雲と楽浪郡は貿易が盛んでしたので……」
「すごいぞ! 頼む、僕に文字を教えてくれないか」

(教えてしまってもいいのかしら……)

①教える
②教えない
③考える

150 名前:773[sage] 投稿日:2008/03/25(火) 18:50:03 ID:???
①教える

「いいですよ」
「本当か!? ありがたい」

これを期に、私は帝に文字を教えることになった。
大和が大陸と本格的に貿易を始めたのが、最近だという話だった。
帝は要領がいいのか、砂が水を吸うように文字を覚えていく。
そして、数ヶ月もしない内にほとんどの文字が読めるようになっていた。

「この仏教というのは、興味深い教えだな」

帝はしみじみと竹簡を見ながら、呟いている。

「どういった内容なんですか?」
「うーん。色々なことが書いてあるな」
「色々……」
「一言でいうと、心の在り方を説いている……というところだ」
「心の在り方?」
「個である意識の問題かな。たとえば、思うようにならない苦しみがあるだろう?」
「はい」

(災厄に疫病……思うようにならないことばかり)

「なぜ苦しむのか。それは、比べているんだ。思い通りになった自分と。そして嘆く」
「なんとなく……わかります」
「苦しむことも嘆くことも比べる事自体が無意味なんだ。自分自身も原因と結果の一つに過ぎないのだから。
その大きな流れの中で自分は生かされている。けれど、自分の行いもまた原因を作り結果を生む。
だから、身の丈にあった出来ることを精一杯すればいい。要約すればそんな感じだろうな」
「難しいですね」
「まあな。僕は絶対者である神の系譜だ。だが、この教えは絶対神を否定している」
「神であることに、疲れているのですか?」
「そうだな……。きっと、そうなのだろうな」
「でも……」

そう言いながら、私は言葉を続ける。

「でも……すべての中に神はいます。小川のせせらぎの中にも。風の中にも。
たとえ祝福がなくなってしまったとしても、人はその美しい声を聞くことが出来るはずです」

「そうか。やはり君は:…気高く…強いな……」
帝は私を見ながら、穏やかに笑った。

(二人が何を言っているのか全然わからなかった……)

私は……
①夢を終える
②続きを見る
③考える

151 名前:774[sage] 投稿日:2008/03/26(水) 11:08:18 ID:???
③考える

二人が何を言っているのかは分からなかったけれど、壱与の言った言葉は私も知っていることだ。

(すべての中には神がいる……)
壱与が言っている神には精霊も含まれているのだろう。
チハルは、精霊は力が強くなると神に昇格すると言っていた。
つまり、すべてのものは神になれる可能性を秘めているのだ。
壱与にとってそれは当たり前で、帝がなぜそんな事を言うのか不思議に思っている。
私はふと、壱与のいるこの時代の風景を見たくなった。
大和に来てから壱与の記憶はほとんどが神殿の室内で、外の景色はその窓から見える範囲に限られていた。

(ちょっと見て見たいな……)
ふとそう思うと、不意に視界が変わった。

(ここは……?)
どうやら森のなからしい。
現代の日本では限られた場所でしか感じることが出来ない濃い緑の香り。
重さを感じてしまうくらい濃密な空気。
そして、そこここに感じる力の気配。

(この力の一つ一つが精霊なのかな? ……あれ?)
澄んだ力の気配とは異質な気配を感じて私はそちらに意識を向けた。

(なんだろう……懐かしい感じもするのに、嫌な感じもする……)
確認したいけれど、かすかに感じる嫌な気配にためらってしまう。

どうしよう……
①行く
②行かない

152 名前:775[sage] 投稿日:2008/03/26(水) 12:40:20 ID:???
①行く

(せっかく来たんだしね)

私は湿り気を帯びた空気を吸いながら、深い森をさらに進んでいく。
すると、鏡のように澄んだ池が見えてきた。

「お前は……誰だ」

うしろから声がして私は振り向く。
すると、隆が立っていた。

「隆!!」
「……人間じゃないな。何者だ」
「隆……なんでこんな所に? 迎えに来てくれたの?」
「タカシ? それはどんな食べ物だ。うまいのか?」
「何言ってるの? それに……そんな裸みたいな格好してたらお腹痛くなるよ」
「貴様……よく見ると鬼だな」

隆はそういうと、途端に敵意むき出しにして私を睨む。
(ヘンな隆……)
それに……格好だけじゃなくて、いつもの隆とは決定的に違っているものがあった。

「耳……だ」
「鬼め。ここの精霊たちを喰いにきたのだろううが、そうはいかないからな」
「よく出来てる耳。隆が作ったの?」
「この土地を守護する者として貴様を倒す!」
「何の変装…わかった! お化け屋敷のだ」

私はその良く出来た耳をギュッと触る。
すると生きているみたいに暖かくて、ピクンと動いた。

「わ! 本当に生えてるみたい」
「気安く触るな!」
「狼男のつもり? だけど、香織ちゃんから聞いてるでしょ。うちクラスは和風だよ」
「俺の話も完全に無視とは……大した度胸だ。死んでから後悔するんだな!」

そう言うと、隆は私に掴みかかってきた。
どうする?

コマンド
①たたかう
②にげる
③ぼうぎょ

153 名前:756[sage] 投稿日:2008/03/26(水) 14:46:32 ID:???
③ぼうぎょ

私はとっさにぎゅっと目を瞑り、顔の前で手を交差して頭をかばう。
けれど、衝撃は来なかった。

(あれ?)
不思議に思って、おそるおそる目を開ける。
目の前に隆はいなかった。
あわてて周りを確認すると、私の後で呆然と立っている隆がいた。

「すり抜けた? ……貴様、普通の鬼でもない、のか?」
悔しそうに唇をかみしめる隆に、私はふと疑問を覚える。

(そういえば隆に、私が鬼になったこと言ってないよね……? 何で知ってるの?)
春樹が隆に言ったのだろうか?
いや、春樹がわざわざそういうことを言うとは思えない。
それにあの耳も、温かくて血が通っているようだった。

「何者だ……その強い力……」
敵意をむき出しにしたまま、警戒するように隆は幾分腰を落として私を見ている。
いつでも飛びかかれるような態勢だ。
それに、すり抜けたってどういうことだろう?
私はさっき普通に触ることが出来た。

「ね、ちょっと聞いていい? あなた隆じゃないの?」
「だからそれはなんだ?」
「そっか、違うのか……」
けれど、見れば見るほどそっくりだ。

(耳だけは違うけどね……そういえばさっき……)
ここを守護するものとか、精霊を喰いにきたとか言っていたような?

「ちょ、ちょっと、もしかして私が精霊を食べるとでも思ってるの!?」
「食べないとでも言うのか? 貴様鬼だろう……ちょっと変わってるが」
「食べるわけ無いじゃない!」
そりゃあ、野菜なんかにも精霊がいるのだからそういう意味では食べてると言えるけど……。

「野菜とか果物とかは食べるけど、それにも精霊がいるんだろうけど……むやみに食べたりしないわよ」
私の言葉に、隆のそっくりさんはぴくっと耳を動かした。
けれどそれは私の言葉に反応した分けでは無いらしい、私もすぐに異変に気付く。

「なに、この嫌な感じ……」
さっき感じた嫌な感じがこちらに近づいて来る。

「敵が来る」
「え?」
「お前の仲間だろう」
「……鬼ってこと? でも、鬼の一族は壱与以外……まさか、高村の一族?」
力の弱くなった鬼、それが高村の一族だといっていた。

突然空気が震える。まるで、何かが引き裂かれたかのような感じがした。

「な、なに!?」
「くそっ、鬼めっ」
隆のそっくりさんが、ものすごい勢いで嫌な感じがする方へと走って行く。

私は……
①追いかける
②この場にいる
③考える

154 名前:777[777ゲットsage] 投稿日:2008/03/26(水) 15:55:37 ID:???
①追いかける

「隆! 待ってよ!!」
私は急いでその背中を追いかけた。

(足、早すぎ……)

「見つけた……手負いの鬼だ」
隆のそっくりさんが草むらに隠れる。
私もそれにならった。

陰から覗いたその姿は、それなりの地位を持っているであろう男性だった。
小川の脇、大木に座り込んでその身を隠している。
身体から止めどなく血が流れ、酷い怪我をしていた。

(助けなきゃ……)
「おい、お前!ちょっと待てって!!」
そっくりさんの制止を振り切り、草むらから飛び出すと男性の前に立つ。
「大丈夫ですか? すぐに祈祷を……名前を教えてもらっていいですか?」
祈りを捧げるためには対象者の名前が必要だった。
「……守…屋」
「わかりました。それ以上はしゃべらないでください」
私はその男性の身体に触れ、祈り始める。

「見つけたぞ! こっちだ!!」
その時、男性を追ってきた兵のひとりに見つかってしまった。
(どうしよう……このままじゃ、この人死んじゃうよ)

もぞもぞと草むらが動いて、隆のそっくりさんが現れる。
そして男性を背負うと、私に向かって口を開いた。
「こっちこい。見つからないとこまで走れ!」

私は……
①ついていく
②やめる
③考える

155 名前:778[sage さっき番号間違ってたorz] 投稿日:2008/03/26(水) 17:13:20 ID:???
①ついていく

私はあわてて隆のそっくりさんについていく。
人を一人背負っているとは思えない速さで走って行く彼に、付いて行くのが精一杯だ。

「おい、お前たち侵入者だ、かく乱しろ」
そっくりさんは走りながら周りに向かって声をかけている。
その声に反応するように、精霊のものと思われる力が幻影を作り出していく。

「すごい……」
振り返って見ると、幻影に惑わされた兵士が別の方向へ走って行く。
しばらく走り、繁みに囲まれて隠れるのによさそうな木の根元で、そっくりさんは守屋さんを降ろした。

「ここまでくれば平気だろ」
「………っ」
「! すぐに癒します」
私はあわてて傷の上で手をかざす。
守屋さんの名前を唱え、神に祈る。
身の内にある、神宝の力が守屋さんを癒していく。
鬼ということもあるのか、力はすぐに守屋さんの傷を塞ぐ。
流れた血はさすがに戻せないけれど、これで命に危険は無くなったはずだ。
守屋さんはぐったりとしていて、まだ話す元気は無いようだ。

「あんた、その力……巫女? いや、だが間違いなく鬼の気配が……」
隆のそっくりさんがぶつぶつと言っているのに気付いて、私は振り変える。

「私は鬼だけど、巫女でもあるの……昔ね」
「昔?」
「うーん、なんて説明すればいいのかな? 前世?」
「ふーん……?」
そっくりさんは納得したのかしないのか、あいまいに返事をする。
とりあえず、このそっくりさんに名前を聞いてみようと、私は立ち上がってむきあう。

「私、愛菜っていうの。あなたは?」
「アイナ? 変な名前だな……。 俺は……」
そっくりさんはそこで言葉を濁し、視線をさまよわせふと一点で視線を止めた。
そちらをみると、木の枝が風で揺れ葉に光が反射してている。

「俺のことは光輝とでも呼べばいい」
「コウキ?」
「そうだ」
「ていうか、いま思いついたみたいな答えなんだけど?」
「あたりまえだ、良く知りもしない相手に本名を教える精霊がいるわけ無いだろう」
いわれて、記憶がよみがえる。
そういえば、真名とはとても大切なものだった。
現代でこそ普通に名乗りあっているが、この時代では真名を握られると言う事は命を握られるのと同意だった。

(普通に名前教えちゃったよ……ま、いいか)
光輝が私の真名をしって、何かするとは思えない。

とりあえず……
①ここはどこか聞く
②守屋さんの様子を見る
③追っ手が来ないか探って見る

156 名前:779[sage] 投稿日:2008/03/26(水) 18:56:18 ID:???
②守屋さんの様子を見る

(守屋さん。大丈夫かな……)

守屋さんの身なりは、ちゃんとしていた。
材料の乏しいこの時代でも、上等なものはすぐにわかる。

(若く見えるけど……この人、身分が高い)

だけど、なぜ追われていたんだろう。
あの兵は、たぶん大和も者だ。

(ということは……出雲の民……?)

大和の兵に追われている鬼ならば、逃げ延びた出雲の民に違いない。
けれど壱与の記憶を遡ってみても、王族で思い出すことは出来なかった。
(身分は高いけど、きっと王族じゃないんだ……)

その時、守屋さんの口から意外に名前が漏れる。

「おやめ……くだ……さ…い…帝…」

「え?」
驚いた私を見て、光輝が振り向く。
「どうした。何を驚いているんだ?」
「この守屋さんが、今、おやめください帝って……。まるで…家臣みたいに…」
それを聞いて、光輝が腕を組んで首を振った。

「あんたの聞き間違いだろ。鬼と大和の帝といえば、いくさで殺しあった国同士だ。
森の中に住んでる俺でも知ってる事だぜ」
「うん。そうだね……」

(でも、たしかにそう聞こえたんだけどな)

「ところで……鬼の女」
私が考え込んでいると、光輝が声をかけてきた。
「あのさー。鬼じゃなくって、愛菜って呼んで欲しいんだけどな」
光輝はキョトンとした顔で私を見て、鼻の頭を掻いている。

「どうしたの?」
「あ、いや……。なんでもない……」

①「何、気になるじゃない」
②「名前が呼び辛いの?」
③「それにしても、隆にそっくりだね」

157 名前:780[sage] 投稿日:2008/03/27(木) 10:18:54 ID:???
③「それにしても、隆にそっくりだね」

鼻の頭を掻く仕草もそっくりだ。
もしかしたら、隆と同じで照れてるのかもしれない。

「そのタカシってのはなんだ?」
「私の幼馴染だよ」
「じゃあ鬼なのか」
途端不機嫌そうに、光輝は顔を顰める。

「違うよ。人間。精霊と話をすることが出来るけど、鬼じゃないよ」
「なんで鬼に人間の幼馴染なんているんだよ」
「なんでといわれても……私が鬼になったのだって最近だし……」
「はぁ? 元々はお前も人間だったって言うのかよ」
意味が分からないと言うように、光輝は首をかしげる。

「うん、そうだよ。三種の神器と契約しちゃったから、鬼として目覚めたんだって」
「わけわかんね。大体、神器は大和が管理してるだろ。最近はその力もやけに弱くなってるが……。
 それに、お前の中にあるのは神器じゃないだろう」
「分かるの?」
「あのなあ……俺はこの地を任されてるんだ。 それなりに地位が高いんだよ。
 これくらい分からないでどうする」
「へぇ……光輝ってえらいんだ」
隆と同じ顔だからあまりそういう感じはしないけれど、そういえばさっき周りの精霊に命令していた。

「当たり前だろ? まったく礼儀を知らない奴だな」
「ご、ごめんね」
そうだ、隆とそっくりだけど光輝は隆じゃない。
地位の高い精霊みたいだし、隆と同じ感じで話していたらすごい失礼なことなのかもしれない。

(って、あれ? ……これって夢、だよね?)
これは過去の私の夢ではないのか?
けれどここに壱与はいない。壱与はあの神殿から出られない。
そして壱与の記憶のどこにも光輝のことは無かった。守屋さんのことも。

どういうこと?
①実際に過去に来ている
②他の誰かの夢
③気にしない事にする

158 名前:781[sage] 投稿日:2008/03/27(木) 13:48:23 ID:???
①実際に過去に来ている

(壱与から抜け出して、過去に来てるのかな……)

よくわからない。
でも、今までの夢から現実での謎が解けてきている。
だったら、今回もこの夢に意味があるのかもしれない。

「くっ……ここは…」
どうやら守屋さんが目覚めたみたいだ。
私は守屋さんの傍まで、急いで駆け寄る。

「…一体…どこ…なん…だ…」
「ここは……えっと光輝。ここはどこ?」

光輝は「はぁ?」という顔をして、仕方なさそうに口を開く。

「ここは穴虫峠の外れだ」
「……そうか、俺は……君らに助けられたのか……」
「怪我をしていたので、治療しておきました」
「……すま…ない」

そして、守屋さんはまた目を閉じてしまった。
ジッと睨みつけるように見ていた光輝に、私は顔を向ける。

「どうしたの怖い顔して?」
「……鬼の女、この守屋ってヤツの手を見てみろよ」
光輝に言われて、私は守屋さんの手を見る。

二十五歳過ぎくらいに見える年齢のわりにゴツゴツとしていて、無骨な手をしている。
マメやタコの跡らしきものもあって、お世辞にも綺麗とは言えなかった。

「それ、剣ダコだぜ。きっと、かなりの使い手のはずだ」
「剣ダコ?」
「剣の握りのことに出来るタコだよ。んなことも知らないのか?」
「知らないよ……」

「うぅ……」
守屋さんが微かな唸り声を上げている。
傷口は塞いでも、痛みまで取り除くことは出来ない。

(壱与に比べると鬼の力は弱い……けど、さすがに鬼だ…)

普通の人間だったら、私が治療しても間に合わなかっただろう。
特に失血が酷かったのか顔色は青白く、身体が小刻みに震えている。
きっと、体温が下がっているのだろう。

私は……
①もういちど治療する
②身体を温める方法を探す
③光輝に話しかける

159 名前:782[sage] 投稿日:2008/03/27(木) 15:24:55 ID:???
②身体を温める方法を探す

(とにかく暖めなくちゃ……)
私はとりあえず自分の着ている服を見下ろす。
今まで気にしていなかったけれど、私は制服を着ていた。

(これじゃあ暖められないよ……)
せめてコートとか来ていれば毛布代わりになったと思うが、無い物はしかたない。
火をおこすことも考えたけれど、追っ手がいる今煙なんて見えたらこちらの場所がばれてしまう。

(どうしよう……こういうとき使えそうな術とかなかったかな……)
私は必死に記憶を探る。
火を操る術ばかりが頭をよぎる。

(だから、火じゃ駄目なんだってば……)
結局何も思い浮かばす、私は原始的な方法を取ることにする。

「?」
不思議そうな顔をする光輝を尻目に守屋さんの手を取る。

「うわ、冷たい……」
血が足りないのだろう。すっかり体温が下がっている。
私はあわてて守屋さんの手をさする。
手の皮が厚くごつごつとしていて、ところどころささくれている為、さすっていると私の手も痛くなってきたが気にしていられない。

「……おい」
「なによ」
「放って置けよ。鬼なんだ、そんな簡単に死にやしない」
「分かってるけど、でも何か出来るならしたいじゃないの」
背後からかけられる光輝の声は、不機嫌そうだったがこの状態の守屋さんをただ見ているだけなんて出来ない。

(どうしよう……ぜんぜん暖かくならないし、なんだかさっきよりつらそう?)
「なんでそんなに必死になるんだ? 同じ鬼だからか?」
光輝が私の横に立つ。

なぜって……
①「そうかも?」
②「ケガ人だもの」
③「理由なんて考えなかったよ」

160 名前:783[sage] 投稿日:2008/03/27(木) 17:27:07 ID:???
②「ケガ人だもの」

「手負いの獣は放っておくのが普通だろう。変わってるな」
「そうなの?」
「そうさ。下手に助けたら、今度は自分がやられちまうからな」
「確かに……私も危なかったもんね」

そこでふと思う。
大和の兵に見つかったとき、なぜ光輝は助けてくれたんだろうか。

「じゃあ、光輝は…なぜ私と守屋さんを助けようと思ったの? 普通だったら、助けないんだよね」
「普通だったらな」
「普通じゃなかったってこと??」
「そりゃ……お前を死なせるのが……急に惜しくなったんだよ」

光輝はそう言うと、私の横に静かに座った。

「鬼のくせに……いい匂いだったからさ……」
「えっ…」
「ホワホワするっていうか……」

そして、私の髪の間に指を絡ませる。
裸みたいな隆が、私の髪の匂いを嗅いで目を細めている。

(ななななな、なに!?)

私は混乱して、光輝を思い切り突き飛ばした。
光輝は勢いよく転がり、後ろにあった倒木に頭をぶつけていた。

「いってぇー!!」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫なわけあるか! この暴力鬼!!」
「ごめんね。本当にびっくりしただけなんだ」

(ゴンって、すごい音してたし……)

私が何度も謝ると、光輝はようやく許してくれた。
「ちっ、仕方ねェな。二度とすんなよ」
「ほんと、ごめん……」

その後も、私はしつこいくらいに守屋さんを暖め続けた。
けれど、顔色は一向に良くならない。
「おい……」
「何?」
「そんなに、鬼の男を助けたいのか」
「うん」
「まったく、仕方ねぇな……」
光輝は守屋さんを背負うと、ぶっきら棒に言葉を続ける。

「付いて来い。俺のねぐらはここより暖かいからな」

どうしよう?
①付いて行く
②やめる
③守屋さんを見る

161 名前:784[sage] 投稿日:2008/03/27(木) 19:25:07 ID:???
①付いて行く

「ありがとう、光輝」
守屋さんを背負って前を歩いていく光輝にお礼を言う。

「なんで、お前が礼を言うんだよ?」
「だって、この人を助けてくれたもの」
「だから、なんでお前が礼をいうんだ? こいつはお前とまったく関係ない鬼なんだろう?」
「でも、私が助けたいって言ったから助けてくれるんでしょ?」
「……気が向いただけだ」
そういう光輝の顔が赤い。

(なんか、こういう素直じゃない反応もそっくりだよね、本当に隆を相手にしてるみたい……)
光輝のねぐらという場所はさっきの場所からそれほど離れていなかった。
けれど……

「ちょっと、光輝、これがねぐら、なの?」
「おう」
光輝は短く答える。私は呆然とそれを見た。

(おっきい……)
神社でみるような御神木よりもはるかに大きな木だ。
いったい何百年、いやもしかしたら千年以上生きているのかもしれない。
光輝はその木の枝をひょいひょいとジャンプして上へ上へと登っていく。

「ちょ、ちょっと!」
あっという間に姿の見えなくなった光輝に、私は呆然と立ち尽くす。
けれどすぐに光輝が戻ってきた。守屋さんはもう背負っていない。

「なんだ、登れないのか? 仕方ないな」
光輝は立ち尽くす私を見て肩をすくめると、掬うように私を抱き上げる。
いわゆるお姫様抱っこだ。

「ちょ、ちょっと!?」
「登れないんだろ? おとなしくしてろ」
私よりも重い守屋さんを軽々運んでいただけあって、まるでなんでもないことのように再度ひょいひょいと木を登っていく。
思わず下を見てしまった私は、思わず光輝の首にしがみついて目を閉じた。

「た、高い高いっ!」
「うあ、急に首を締めるな! びっくりするだろ!? ……ほら、ついたぞ」
言われてなるべく下を見ないように恐る恐る目を開く。

「わぁ……」
この木は回りの木よりも大きいため、そこから見える景色は緑色のじゅうたんのようだった。
思わず感嘆の声を上げ、ふと思い出す。

①「守屋さんは?」
②「お、おろして」
③「ここに住んでるの?」

162 名前:785[sage] 投稿日:2008/03/27(木) 21:05:08 ID:???
③「ここに住んでるの?」

「さっきから、ねぐらだって言ってるだろ……」

呆れたように言いながら、光輝はゆっくり下ろしてくれた。
喜んでいる私を見つめながら、呆れながらも満足そうに鼻の頭を掻いている。

「柔らかい……踏んでも平気なんだよね」
「ああ」

私は緑色のじゅうたんを踏みしめながら、先に歩いていく。

「ちょっと待て!」
「な、なに……うわぁ!」

緑のじゅうたんの底が抜けて、片足が落ちそうになる。
光輝が咄嗟に私の手を掴んでくれた。

「危ないだろ! よく見て歩けよ」
「あ、ありがとう。気付かなかったよ……」

敷き詰められた緑の中に、ところどころ黄色や、茶色になっている場所がある。
葉が腐って落ちてしまった場所もあるようだった。

「葉っぱ、腐ってたんだね」
「この大木は特に土地の恩恵を受けているんだ。けど、酷い有様だろ」
「どういうこと?」
「最近、ここの土地もすっかり痩せちまってんのさ」

光輝はそれだけ言うと、私を守屋さんのところまで黙って案内してくれた。

(なんのことだろ……)

「ほら、鬼の男だ」
「うわぁ……ここは……」
「ここなら、身体の回復も早いだろう」

(世の中に満ちるエナジー。一郎くんや武くんが言ってたのはこれだったんだ……)

蛍のような光が渦巻く場所に、守屋さんは寝かされていた。
その薄緑色の光は数千、数万という膨大な数だった。
光の塊が渦を巻いたり広がったりしながら、守屋さんの周りを漂っている。

どうしよう……
①光輝に話しかける
②守屋さんに近づく
③考える

163 名前:876[sage] 投稿日:2008/03/28(金) 11:14:57 ID:???
②守屋さんに近づく

守屋さんの横に座って、顔を見ると先ほどより少しは顔色が良く見える。
この場所のおかげなのだろう。

「よかった……」
試しにその手を触ってみる。けれど体温は相変わらず低い。
私はさっきと同様その手をさする。
後から光輝が近づいてきて、私の横に胡坐を掻いて座る。

「……なに?」
その手が伸びてきて私の髪を触ってくる。
守屋さんの手をさすりながら、顔だけ光輝に向ける。

「……気にするな」
「気にするなって……気になるに決まってるじゃない」
「そうか、だけど本当に気にしなくていいぞ。
 お前に触ってると力が回復する気がする。ほわほわして気持ちいいし、不思議な奴だな」
言いながら髪に触ってくる。けれどそれ以上近づいてこないのは、さっきのことを警戒しているのかもしれない。

(そういえば、チハルもそんなこと言ってるよね。やっぱり光輝も精霊だから感じるのかな?)
私の中の何がそんなに精霊に心地いい物なのか分からない。

(でも、隆と同じ姿って言うのがちょっとねぇ……そういえば)
「ねえ、光輝。もしかして子供の姿になれたりする?」
「ん? まあな」
どうしてそんなことを聞くのかと、首を傾げる光輝に私は……

①「聞いて見ただけ」
②「変わってみて?」
③「それじゃ、毛布とかにも変われるよね」

164 名前:名無しさん@板設定投票日決定!詳細は自治スレへ[sage] 投稿日:2008/03/28(金) 11:15:28 ID:???
ああ、番号間違い786ですorz

165 名前:787[sage] 投稿日:2008/03/28(金) 12:18:11 ID:???
③「それじゃ、毛布とかにも変われるよね」

「モウフ? それは美味いのか?」
「違うよ。食べ物じゃなくて、寝てる人に掛けたりする物なんだけど」

私が説明に困っていると、光輝が閃いたようにポンと手を叩く。

「わかった。ムシロの事だな」
「ムシロって言うんだね。光輝お願い、それに変わってもらって守屋さんを……」
「ヤダ」
「どうして? いいじゃない」

はっきりと断る光輝に対して、私は言い募る。
でも、光輝は「嫌だ」の一点張りだ。

「寒そうにしてて、可哀想だよ」
「ムシロに変身してても、男と一緒に寝るなんてごめんだ。諦めるんだな」
「変身してくれないの?」
「当たり前だ」

そう言うと、光輝は不機嫌に立ち上がる。

「助けたのはお前がいい匂だったからだ。鬼の男がどうなろうと俺には関係ない」
「じゃあ、守屋さんが辛そうでもいいって事?」
「手負いの獣が死ぬのは天命だしな」
「そんな……」
「同属同士なんだ。お前がこの男を暖めればいいだろ」
「でも……」
「俺がしてやるのはここまでだ。これ以上はお前でどうにかしろ」
「お願い。今頼れるのは、光輝しか居ないんだよ」
「じゃあ、俺の女になれ」

(……へ?)

「鬼だが、お前は気持ちいい。女になるのならこの男を助けてやる」

な、なんだって―!!
①仕方がないので私が暖める
②光輝の女になる
③考える

166 名前:788[sage] 投稿日:2008/03/28(金) 14:49:17 ID:???
③考える

(光輝って以外にプレイボーイ……?)
隆に似た外見のため、つい右手で拳をつくってしまう。

「それ、本気でいってるわけ?」
「な、なんだよ……」
一瞬光輝はひるんだが、すぐにぷいっとそっぽを向く。

「嫌ならいいんだ。さっきも言ったように別に俺はこの鬼がどうなろうと、しったこっちゃないからな」
隆なら私が少し怒った様子を見せれば妥協案を提示してくるけれど、さすがに光輝だとそうはいかない。

「……ちなみに光輝の女になるってどう言う事?」
光輝は精霊だ、女になるっていう意味ももしかしたら人とは違うかもしれない。

「なんだ、その気になったのか? 俺の女になるって言うのはずっとそばに居るってことだ」
「そ、そっか……」
(あいまいすぎて、深い意味があるのかどうかわからないよ……でも……)
今は過去に来ているのかもしれないが、いつ目が覚めるか分からない。
ずっとという約束は出来ないのだ。

「ごめん、ずっと一緒にいる約束はできないや」
「どうしてだ?」
「だって、私ここにずっといられないもの。たぶん急にもとの場所に戻されるだろうし」
「なんだよそれ?」
「うまく説明出来ないけど、元の所に戻らなくちゃいけないの」
「誰かに無理やり、連れて行かれるってことか?」

うーん、なんて説明しよう
①「えっとね、本当の私は眠ってるの」
②「誰かってわけじゃないけど、私の意思じゃどうにもならないよ」
③「違うよ、私は本来ここにいない人だから」

167 名前:789[sage] 投稿日:2008/03/28(金) 21:14:48 ID:???
③「違うよ、私は本来ここにいない人だから」

「じゃあ、本来はどこに居るんだ?」

当然の質問だ。
私だって同じことを尋ねるだろう。

「未来……ずっと未来から来たんだよ」

光輝はキョトンと目を丸くした後、段々不機嫌な顔になっていく。

「嘘にしても、もっと上手い嘘つけよ……」
「本当なんだよ」
「俺のこと、バカにしてるんだな」
「バカになんてしてないってば」
「なら、ふざけてんのか? 鬼だからって、精霊の俺を見下してんだろ」
「質問してきたから答えただけなのに、なんで怒られなくちゃいけないの?」
「くだらねぇ。もうお前だけでどうにかしろ。俺は知らないからな」

光輝はプイと私から背けて歩き出す。
そして、この場所から黙って去ってしまった。

(怒らせちゃった……)

残ったのは、私と青白い顔をした守屋さん。
守屋さんの手をさすりながら、自分のブレザーを身体に掛ける。
だけど私のブレザーでは、大きさが全然足りない。

「どうしよう……」
独り言を呟いていても、助言はない。
自分でどうにかしないと、守屋さんが辛そうだ。

私は……
①添い寝をする
②木の葉をむしる
③守屋さんを触る

168 名前:790[sage] 投稿日:2008/03/29(土) 01:22:08 ID:???
②木の葉をむしる

(火を使ったら、この木が燃えちゃうよね……)

今、ここには私しか居ない。
傷は治したけど、低体温での命の危険も十分あり得る。
私が諦めてしまったら、守屋さんが死んでしまうかもしれない。

(ごめんね。少し摘ませて)

私は黄色や茶色になった木の葉をしゃがみ込んで千切っていく。
あちこちの別の場所に散らばった枯れ葉を拾い集めるのは大変だ。
水分の少ない葉を出来るだけ沢山にしないと、身体が湿ってしまっては逆に体温が奪われてしまう。

(こ、腰が……)

小山が出来るほど貯める頃には、腰が痛くなってしまった。
私は守屋さんの着ている服をなるべく緩める。
そして、大量の枯れ葉を守屋さんの上に掛けていった。

(よし。これでオッケーかな)

守屋さんの身体は枯れ葉にすっぽり覆われた。
毛布とまではいかないけど、まったく無いよりはいいはずだ。

(やっぱり、するしかない。よしっ、決めた)

私はリボンを解いて、ブラウスを脱ぐ。
キャミソールは……最後の防衛線なのでさすがに脱げなかった。
とりあえずブラウスも枯れ葉の上に乗せてみる。

(変態みたいだけど……失礼します)

枯れ葉のベッドにモゾモゾと潜り込む。
そして、素肌がなるべく触れ合うように身体を密着させた。

(こんな格好で男の人にくっついたことなんて、初めてだよ)

泣きたくなるけど、目の前で守屋さんが亡くなってしまうのは絶対に嫌だ。
私はチハルがするみたいに、しっかりと守屋さんに抱きついた。

私は思う……
①守屋さん。はやく元気になってください
②お父さんやお継母さんや春樹が見たらなんて言うだろう
③そういえば、光輝はどこへ行ったんだろう

169 名前:782[sage] 投稿日:2008/03/29(土) 10:47:55 ID:???
①守屋さん。はやく元気になってください

祈りながら、少しずつ鬼の力も送る。
すると、熱に反応したのか鬼の力に反応したのか守屋さんは身じろぎすると、私をぎゅっと抱きしめてきた。
守屋さんの冷たい身体に私の体温が奪われ、思わず身震いする。
その目は堅く閉ざされたままだ。

(無意識、なのかな?)
きっと本能がそうさせたんだろう。 
自分で熱を生むことが出来ない身体が、近くにある熱を欲するのは自然のことだ。
私は守屋さんの顔を見る。こころもちさっきより顔色がいいように見えた。

(この場所のおかげでもあるかな?)
さっきまで眉間に刻まれていた皺も、いまは無く呼吸も少し穏やかになっている。
と、守屋さんの瞼がピクリと動いた。
それからゆっくりと目が開いて、守屋さんを見ていた私と視線が合う。
守屋さんは、どこかぼんやりした感じで瞬きをすると少し首をかしげた。

「……ひ、め?」
「え?(ひめ、って姫のことよね……壱与と間違えてる?)」
守屋さんは鬼なのだから、私が知らなくても壱与を知っている可能性はある。
私が鬼の力を分けているから、意識がまだはっきりしていない守屋さんは勘違いしているのかもしれない。

「姫、申し訳、ありません、王をお守り、できず…………生き恥を……さらし……」
やはり私を壱与と間違えているようだ。

「……人間と偽り姫を……お助け……と………鬼の国を………お慕い……」
途切れ途切れにの言葉にが、だんだんと小さくなっていく。
最後の方の言葉はほとんど聞こえず、何を言っているのかわからなかった。
そして開いていた目もまたゆっくりと閉じられる。

(出雲の王様を守っていた人、なのかな?)
光輝の言葉を思い出す。
守屋さんの手は剣を扱う手だと。かなりの使い手であろうとも。
それに、少し気になる言葉を言っていた。

①人間と偽って、って……
②鬼の国を、って……
③お慕い、って……

170 名前:名無しさん@板設定投票日決定!詳細は自治スレへ[sage] 投稿日:2008/03/29(土) 10:49:14 ID:???
↑ああああ、また番号逆行orz
791です

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年04月02日 10:34