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②(壱与なの?)

問いかけても答えは返って来なかった。

(壱与! 壱与ならちゃんと答えて)

独り言を考えているみたいに、一方通行の呼びかけにしかならない。
混乱したまま、状況だけでも確認しようと意識を向ける。
部屋の壁に押し付けられたままの修二くんが、息苦しそうに声を出した。

「笑うな……」
「ふふふっ。鏡よ、まるでお主は玩具を手に入れたがっている子供じゃ」
「どういう意味だ」
「言葉のままじゃ。この者を強引に手に入れたところで、玩具のように壊れてしまうだけだというのにな」
「黙れ。アンタに人の心が分かるのかよ……」
「自惚れるなよ、鏡。お主こそ人ではなくただの道具ではないか」

『道具』という言葉を聞いて、修二くんが息を止める。
さっきまで抵抗していた修二くんの両腕が、だらりと垂れた。

「道具……」

修二くんは気が抜けたように呟く。

「そうじゃ、お主はただの神器。我が使役する道具に過ぎない」
「違う…俺は……」
「それも転生した八咫鏡を補うための複製、それがお主の正体であろう?」

(複製? 壱与は何を言ってるの?)

「止め…ろ……」
「我は知っておるぞ。お主は模造品の人形……」
「止めてくれ……」
「兄である一郎とは双子なのではないものな」
「それ以上言うな!」
「兄は本物、お主はただの複製。勝てるはずもない」
「……もう…」
「兄の一郎はお主を憐れに思いつつ、優越感に浸っているのかのぉ」
「……………もう…やめろ」

修二くんはうな垂れて全く抵抗を示さなくなった。

私は……
①考える
②話をきく
③本当に壱与かもう一度尋ねる

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①考える

(えっ!? 一郎くんと修二くんは双子じゃないって?)

そう思った時、冬馬先輩と一郎くんの言葉がフッと頭をよぎる。
私の力が目覚めた後、テニスの部室で修二くんについて会話だった。

『彼と僕は非常に近い存在ですから。彼はよく僕のことをこう呼んでいます、『お人形』と。すなわち、それはそのまま』
『待て。憶測でものをいうのはやめてもらおうか』
『…憶測ではないのは君が一番よく知っているはずだろう、コードno.702。
僕の話がただの憶測にすぎないのなら双子のはずの君たちはなぜコード番号が続きの数ではないのか、
なぜ片方だけ転生の記憶が一切抜け落ちているのか』

(この会話がずっと引っかかっていたけど……)

私の記憶では、修二くんはno.711と呼ばれていた。
双子なら連番のはずが、一郎くんと修二くんのナンバーが9も離れている。
冬馬先輩の言うとおり、たしかに不自然だ。

(修二くんはもしかして……本当に……)

どうして、冬馬先輩を異常なまでに嫌っていたのか。
なぜいつも『道具じゃない』と訴え続けていたのか。

『俺は人形だ。だけど、もう兄貴の横で、道化を演じるのは沢山なんだよ』

告白の時、辛そうな顔をさせて呟いた修二くんの言葉。
今になって、こんな状況になってようやく気付く。

(修二くんは一郎くんのクローン……)

修二くんは出生の秘密を知っていた。
だから、自分自身を人形と言ったんだ。

(修二くん! 修二くん!!)
(お願い! 修二くんと話をさせて!!)

私がどれだけ叫んでも、壁に押さえつけられた修二くんは気が抜けたように私を見ている。

(修二くん…私の声に応えてよ……)
(もっと話さなくちゃ…いけないのに……)

「ふん、もう抗弁する力もないのか。
助けを求めて逃げ出すこの者と道具だと認められぬ腑抜けのお主。
どちらも運命に抗うことすら出来ん度量の小さき者達じゃ」

そう言うと、私は鼻を鳴らして修二くんの戒めを解いていた。

「腑抜けだが、せめて我の血肉となるといい」

身体が勝手に動いて、修二くんを両腕で抱きしめる。

「まずはその左腕から頂くとするかのぉ」

私は丁寧に修二くんの左腕を掴むと、口許へ運んでいった。

①(ダメ!!)
②(させない!!)
③(やめて!)

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②(させない!!)

私は心の中で思い切り、叫ぶ。
すると、私の気持ちが通じたように身体の動きが止まった。

(あなたの好きにはさせない……!)

今、私の身体を操っているのは間違いなく人喰い鬼。
壱与ではなく壱与を乗っ取ろうとしていた、欲望に忠実な本来の姿。
それは鬼になった私にも当然存在しているだろう。
鬼に心を乗っ取られたままじゃ、また逃げているのと同じになる。

「だからこそ、もう好きにはさせないんだから!!」

私は修二くんの腕から片手をはずし、閉じたり開いたりを繰り返す。
(よし。身体が戻ってる)

意思どおりに動く身体を確認し終わると、もう一度修二くんを見る。
修二くんは相変わらず、空ろな目をしたままだ。
もしかしたら、目が開いているだけで私のことは見えていないのかもしれない。

「修二くん! 私だよ、愛菜だよ!」

修二くんの身体を揺すりながら、私は必死で訴えた。
だけど肩が大きく揺れているだけで、私の叫びすら耳にまで届いていない。

「しっかりして! 私、修二くんと話がしたいんだから!」

修二くんは呆けた顔のまま、少しも動かない。

「目を覚ましてよ! 悔しいままで終わるつもりなの!?」

私は片手を大きく振り上げて、修二くんの頬を平手で叩いた。
パシッと乾いた音が室内に響く。

「イテッ…って、あれ?」

修二くんがゆっくり顔をあげる。
まだ、状況が飲み込めていない顔をしている。

「愛菜……ちゃん?」
「そうだよ! 愛菜だよ!」
「あれ……どうしてここに?」
「私、修二くんのこと…ずっと誤解してた…」
「そうだ……俺は……」
「全然気付いてあげられなくてごめんなさい」
「たしか……ベッドの上で……」
「修二くん、ずっと苦しんでたんだよね?」
「思い出した。愛菜ちゃんとエッチの最中だったんだ」

(……!!!)

①殴る
②蹴る
③叩く

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①殴る
(私は必死だったのに、何を言って……)

「修二くんのバカ!!」

私の気持ちなんて何も分かっていない修二くんに腹が立って、私は拳を振り上げた。
そして、グーのまま思いっきり振り下ろす。

「痛っ!な、何?」

私のパンチが修二くんの肩に当たる。けど、私の力では体を揺らすことすら出来ない。
悔してもう一度拳を振り上げると、今度はあっさり修二くんに止められてしまった。
私は腕をつかまれたまま、逃げるようにもがく。

「離して! 修二くんなんて嫌いだよ! もう知らない!」
「ど、どうしたの? 何を怒ってるんだよ!?」

叩いた手のひらも、殴った手の甲も痛くてジンジンしてくる。
反対にやられた修二くんの方が平気そうなんて、本当に馬鹿みたいだ。

「修二くんなんて大嫌い! 離して!」
「せっかく愛菜ちゃんに戻ったのに、どうして怒ってるの!?」

何も分かっていない修二くんに向って、私は怒りをぶつける。

「怒るに決まってるでしょ! 私、修二くんに体を触られた時、本当に怖かったんだよ!?
それに、私の中の鬼が修二くんの事を道具なんていうから……私、絶対に止めなくちゃって……」

言葉が続かない。
どこから、なんてしゃべっていいのか。
私は続かない言葉の代わりに、もう一度逃れようと暴れた。

「離して! 離してって言ってるじゃない!」
「やだ。離したくない」
「何がエッチの最中だったよ! 人の気も知らないで!」
「だって、本当のことじゃん。途中で邪魔が入っただけで嘘は言ってないし」
「嘘だとかは関係ないの! 修二くんは女の子の気持ちを全然わかってない!」

私の怒りとは反対に、修二くんの顔が少し嬉しそうにも見える。
すると更に腹立たしさが募っていく。

「へらへら笑わないで欲しいんだけど!」
「別にへらへらしてるつもりないんだけどなー」
「ふざけないで! 私、本気で怒ってるんだから!」
「そんなの、見てれば分かるって」
「だったら……!」

そう叫んだ瞬間、修二くんが覆いかぶさるように抱きついてきた。
私は突然の出来事に、びっくりして心臓が止まりそうになる。

「愛菜ちゃん、おかえり。さっきは突然消えちゃったから…俺…」

息が出来ないほど、ギュッと抱きしめられる。
そして始めて、修二くんが私を心配してくれていた事に気付いた。

私は……
①逃げる
②じっとしている
③話しかける

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②じっとしている

(修二くん……)
温かい体温を感じながら、私は修二くんを見た。

「愛菜ちゃんが戻ってきてくれてうれしいよ。ホントよかった……」

修二くんが私のことを強引に手に入れようとしたのは……今でも許せない。
だけど、その瞳から心配してくれていた気持ちに嘘がないのはわかる。

「安心して。私、もう鬼の意識じゃなくて愛菜だから」
「うん。見える、愛菜ちゃんだって見えてる」
「心配してくれたんだよね。ありがとう」
「当たり前じゃん。大好きなんだからさ」

修二くんの腕が更に強くなって、私を締め付けてくる。
辛抱できず「苦しい」と呻くと、ようやく腕の力を緩めてくれた。
私は息を整えると、改めて修二くんに向き直る。

「それでね、修二くん。ちょっと聞いて欲しいんだけどいいかな」
「どうしたの? 改まって」

私の言葉に修二くん尋ねてきた。
どうやって話をしようか途惑いながら、私は口を開いた。

「あのね。私と普通に契約して欲しいんだよ」

またどこで体が動かなくなって、鬼の意識が表れるかわからない。
一刻も早く契約して、体の不調を治すのが最優先だ。

「うん。俺も最初から契約するつもりだよ」

修二くんは当然のように言った。
契約する体の部分の仕方を変えて欲しいと伝えたかったのに、遠まわしすぎたようだ。

「えと……普通っていうのはね。一郎くんやみんなみたいに見てわかる部分に契約して欲しいって
ことなんだけどね……」

言いにくくて、語尾がごにょごにょしてしまう。

「見てわかる部分って、手の甲とか、額ってこと?」
「うん」

私は首を縦に振って、応えた。
修二くんは「うーん」としばらく考えて、「だめ」と言った。

「……どうしてそんな意地悪をいうの?」
「意地悪?」
「そうだよ!」
「確かに、意地悪かもね。だけど、つまんない所だったら愛菜ちゃんが俺のものって証明にならない。
振られた俺には、もうこの手段しか無いんだからね」
「でも……」
「愛菜ちゃんの気持ちを無視してるって事だろ? そんなのわかってるよ。
それでも愛菜ちゃんは俺との契約が必要なんだし、駆け引きとして利用するのは当たり前だと思うけどな」

さっきの修二くんの態度からも、私を大切に思ってくれているのは分かる。
だけど、好きだと言ってくれるわりには、私への思いやりが感じない。

①考える
②怒る
③説得する

886
①考える

(契約を駆け引きに使うなんて……)

恋愛の駆け引きがわかるほど、私はそういう経験を積んではいない。
むしろ初心者というか、全く未知の部分と言っていい。
それに比べると、修二くんは沢山の女の子達と付き合ったことがあるベテランだ。

そんな疎い私だけど、修二くんみたいに契約を駆け引きに使うやり方はどうしても納得できない。
もしも私に本当に好きな人ができたら、相手を計るような駆け引きなんてしたくない。
相手が望むことを叶えてあげたいって思う。

「……修二くんは、意地悪だし勝手だよ」

私は思ったことをそのまま口にする。
その言葉に、修二くんは顔色を変えずに小さく笑った。

「今頃気付いたんだ? 俺は、意地悪で勝手らしいね。よく周りからも言われるし間違いないんじゃないかな」
「開き直らないで。契約を駆け引きに使うなんてズルイよ」
「愛菜ちゃんは駆け引きがズルイって言うけど……主流派とのやり取りだって、
俺達の「見える力」って切り札があったから対等に渡り合えたんだ。それもズルイって言う?」

(そういえば、主流派を牽制してくれていたから私は普通に生活できてたんだ)

「でも、それとこれとは全然違うよ。私の事と主流派の話とは別だもん。
切り札とか、駆け引きとか……修二くんは間違ってる!」

(私を好きだと言ってくれていた言葉も、全部嘘にしか聞こえない)

「どうして愛菜ちゃんの契約と主流派との事を別だと考えるのかな? 全部繋がってるじゃん。
ただ俺は、力や組織には縛られたくなくて、愛菜ちゃんを手に入れたかった。
その目的のためだけにイヤな主流派とも手を組んで、兄貴の言う事にも従ってたんだから」

修二くんは嘘は言っていない。
確かに、最初から修二くんの目的はハッキリしていた。

「だけど……修二くんは間違ってるよ」

上手く言葉に出来ないけど、何かが間違っている。
それを修二くんに伝える手立てが無い。
(修二くんの考え方は……納得できない)
無性に悔しくて、私は唇をかみ締めた。

その姿を見て、修二くんは心配そうに私を覗き込む。
そして、私の頭を撫でようと髪の毛にゆっくり手を伸ばしてきた。

伸びてくる手が嫌で、私は修二くんから咄嗟に逃げた。
修二くんは空振りになった左手を見て、悲しそうな顔を私に向けてくる。

「お願いだから逃げないで。俺は愛菜ちゃんが好きなのに」
「触らないで! もう修二くんの好きは嘘にしか聞こえない!」

私はベッドの上を、這うように逃げた。
だけど修二くんは真剣な瞳を向けて追いかけてくる。

「嘘じゃないんだ!」

懇願するように、修二くんは四つん這いで近寄ってくる。

「俺は……他の誰よりも愛菜ちゃんを大切に思ってる。ホントにホントなんだ!
なのに、俺の気持ちをはぐらかしたり弄んだり……愛菜ちゃんの本心がさっぱり
わからないんだ!」

そう叫んで、修二くんは私を押さえつけた。

私は……
①考える
②逃げる
③説得する

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①考える

(さっぱり分からないのは、修二くんの本心だよ)

私の事を好きだと言うけれど、やっぱり口先だけに聞こえてしまう。
本当に好きな相手だったら、嫌われたくないし良く思われたいはずだ。
けど、修二くんは嫌われてもいいから手に入れたいと言う。
私の気持ちなんて二の次みたいに言ってくる。
大切と言うのなら、相手の気持ちを一番に考えたくなるんじゃないだろうか。

(それに私、修二くんを弄んだことなんて無いのに)

修二くんの力が必要で、結果的に利用しようとしてしまった事はあった。
だけど、決して気持ちを弄んだわけじゃない。
修二くんは私を組み伏せ、ただ静かに見下ろしている。

部屋を茜色に染めていた太陽が沈んだのか、段々薄暗くなっていく。
その薄暗い中に浮かび上がる一際大きくて暗い影が動き、黒い手が目の前に迫ってきた。
ただ怖くて、ギュッと目を閉じる。

(……!!)

私に触れた修二くんは、髪の毛をゆっくり指で梳いていた。
毛先を指で絡めながら、何度も往復させている。

「一体、どうやったら俺の気持ちが愛菜ちゃんに通じるのかな…」

その口調は問いかけにも、独り言にも諦めにも聞こえた。

「俺が何度も好きだって言っているのに伝わらない。全部冗談にされてしまうんだ」

(修二くん……?)
修二くんが言っている言葉の意味を私なりに探す。
その間も、修二くんの声は弱々しく語りかけるように降り注いでいる。

「そういえば、愛菜ちゃんが足を怪我した時も告白したのに相手にしてもらえなかったよね。
一緒にいるだけで楽しかったし、まぁいいやと思っていたけど……茶道室でキスしてからな。気持ちの歯止めが利かなくなったのは」

私は今まで、修二くんの軽口をずっと聞き流してきた。
軽薄なところのある修二くんなりの挨拶なのかな、と決め付けていた。
もしも、あの軽口がすべて本当の気持ちだったとしたら……。

「だれにも渡したくないって思ったよ。けど愛菜ちゃんの気持ちも大事にしたかった。
本当だよ。俺を信じてるって言ってくれた愛菜ちゃんを、俺も信じたかったんだ」

修二くんは私の髪に絡めていた手を止めた。
そして、少しだけ笑いを漏らす。

「だからもう一度、俺の気持ちを知って欲しくて告白をしたんだ。なのに返ってきた答えはどれも曖昧でさ。
嫌いならはっきり言われた方がよっぽとスッキリするのに。
おまけに偽善者ぶって、俺の力まで利用しようとしてきたんだよ」

そうだ。私は矛盾を指摘されて何も言えなくなったんだ。
私は知らず知らずの間に、修二くんの気持ちを弄んでいたのだろうか。

「愛菜ちゃんは誰にでも優しい。そんな愛菜ちゃんだから好きになったんだ。
けど、みんなに優しいって事は同時に残酷って事だよ。全員に優しくするなんて不可能だからね。
少しずつ歪んでいって絶対に矛盾になる。俺の言っている意味、わかるよね?」

私は……
①わかる
②わからない
③修二くんを見る

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③修二くんを見る

私は影のようにぼんやりと映る修二くんを見る。
薄っすらと修二くんの輪郭が分かるだけで、怒っているのか悲しんでいるのか確認できない。

「今のが俺の気持ちだよ。だから愛菜ちゃんも本心を隠すのは止めなよ。
今までずっと誤魔化されてきたけど、もういい加減知りたいんだ」

(私の、本心?)

私の本心を隠すってどういう事だろう。
なぜ修二くんはこんな事を言い出すのだろう。

「私が本心を隠してるって……」
「言葉のままだって。ここで本心をさらけ出しなよ」

(修二くんは何を言っているの?)

「私の本心って言われても……よくわからないよ」
「じゃあ、愛菜ちゃんは俺のものだね。元々そのつもりだったし」
「そ、それは困るよ!!」

自分でもビックリするほど大きな声で叫んでいた。

「どうして困るって思うのかな。俺が嫌いなの?」
「……嫌いじゃないけど……」
「嫌いじゃないってどういう意味? また曖昧な答え方をして煙に巻くつもり?」
「そんな……」
「もうのらりくらりした答え方は止めようよ。俺は愛菜ちゃんの本心が知りたいんだから」
「………」

私は何も答えられず目を伏せる。
さっき、反射的に修二くんに困ると叫んでいた。

(修二くんが指摘するように、私、なぜ困ると思ったんだろう……)

修二くんの事は今でも嫌いという訳じゃない。
けど、何か違うと感じていた。

「さっきも言ったけど、愛菜ちゃん。世の中の奴ら全員に優しくすることなんか不可能なんだ。
そんな事しても誰かが傷つくだけなんだよ」
「……そう、だね」
「だったら、隠してないで曝け出せばいいじゃん。愛菜ちゃんは一体、誰に優しくしたいの?」
「誰って……」
「もう冗談は無しだよ。俺は今までの気持ちを全部打ち明けたんだ。
今度は愛菜ちゃんの番だよ。一番に大事に思っているのは一体、誰?」

それは……
①わからない
②修二くん
③春樹
④隆
⑤一郎くん
⑥冬馬先輩
⑦周防さん
⑧チハル
⑨美波さん
⑩秋人さん

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③春樹

修二くんに問われて、頭の中に浮かんだ顔。
それは弟の春樹だった。

(春樹だけは……駄目なのに)

私は思い切り首を振って、その気持ちを打ち消そうとした。
春樹は家族として大切だ。
けど、修二くんが尋ねているのは違う意味のはず。
どれだけ振り払おうとしてもその想いを打ち消すことは出来なかった。

「愛菜ちゃん。今、誰を思い浮かべたの?」

修二くんの声で我に返った。
大きな影のような修二くんは、静かに問いかけた。

「それは……」
「はっきり答えなよ」

修二くんの声にいつもの軽さは無くなっていた。
一郎くんの声に限りなく近い、修二くんの声が届く。

(ちゃんと答えなくちゃいけない。けど……)

「どうして黙っているのかな」
「……………」
「愛菜ちゃん?」
「………ごめん、修二くん」
「謝るって、俺には言いたくないって事?」
「違う……違うんだよ」
「じゃあ何?」

修二くんの声色が低くなった。
私がきちんと答えないから、少しイラッときたのかもしれない。

「私には好きな人がいる……と思う」
「と思うって、どういう事?」
「はっきりしないんだ。そう思ってしまう事が怖くて」
「怖いから考えないようにしてるって事?」
「うん。自分の気持ちなのに、自信が無い。正しい考え方だとは思えない。だから……言っちゃ駄目なんだよ」
「どういう事? 愛菜ちゃんはどうして怯えているの?」
「分からない。けど、怖くてたまらない。胸がすごく苦しい」

私はパジャマの胸元を強く掴む。
喉の奥が痛くて、思わず泣きたくなった。

私は……
①考える
②修二君を見る
③修二君に話しかける

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②修二君を見る

けれど今の答えでは、修二くんが尋ねてきた答えにはなっていない。
修二くんは誰が好きなのかと聞いているのに、私には答えられなかった。

(こんな答えじゃ、きっと修二くんは納得してくれないよ)

そう思いながら、修二くんの様子を伺う。
修二くんは髪を掻き揚げる仕草をすると、ゆっくりベッドから降りていた。
そして、一つ大きなため息を吐くと窓際に立った。

「愛菜ちゃん。少し、聞くけど」
「何?」
「そいつの事を考えるだけで、怖くて、胸が苦しくなる?」
「うん。考えちゃ駄目だって思うと、余計に苦しくなるよ」
「それは……全部、愛菜ちゃんの本心で間違いない?」
「……間違いないよ」
「そっか」

それなりに納得してくれたような言い方だった。
今までに比べて、急にあっさり引き下がられて逆に不安になってしまう。

「あの……修二くん。本当に今の答えでいいの?」
「何が?」
「だって……」

さっきまで修二くんは私を襲おうとしたり、契約を条件に迫ったりしていた。
手段を選ばないような態度だったのに、まるで手のひらを返したような態度だ。
私は上半身を起こしてベッドに座り、窓際の修二くんを見る。

「だって、好きな人の名前を……まだちゃんと答えてないから」
「ふーん? じゃあ愛菜ちゃんは答えたかったんだ。いいよ、誰だか言いなよ」
「それは……」
「言えないんだろ?」
「うん」
「じゃあこれ以上詮索しても無駄じゃん」
「まぁ、そうなんだけど……」
「それに俺の入る隙なんて無いほど、愛菜ちゃんがそいつを大好きなんだって分かっちゃったからね」

窓際の修二くんは暗くなった外を見ていた。
ガラス越しに映っている修二くんに向って、思わず問いかける。

「修二くんが言うように……私、やっぱりその人の事を好き……なのかな」
「それを俺に聞く?」
「ご、ごめん……」

私が小さくなって謝っていると、修二くんは仕方なさそうに肩をすくめる。
そして壁にある電気のスイッチを入れる。
すると、いつもと変わりない修二くんが目の前に居た。

「一つだけ言わさせてもらうとさ、俺も愛菜ちゃんを見ているだけで、すごく苦しかった。
だけどこの苦しみは、他の女の子じゃ埋めることは出来ないんだ。
それと同じで、一時的に愛菜ちゃんを俺で一杯したとしても、心までは奪えない。
代替なんて利かない。それが人を好きになるって事なんだろうね」

(修二くん……)

「なんてね~。くだらない話さ。ったく」
いつもの軽口のように言うと、修二くんは困ったように笑った。

私は……
①考える
②修二君を見る
③修二くんに話しかける
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