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③春樹を見る

私は確認するように春樹を見た。
ようやく私の視線に気付き、呆れたように口を開く。

「兄さんは信用できる人だ。けど嫌ならハッキリ言った方がいいよ」

(それって、私に任せるって事だよね……)
私は迷った。
もし足を治すなら、私の家で飼いながら獣医さんに連れて行けば済む。
あえてこのお兄さんを頼る必要なんかない。
けど……

「あの、少しだけ……いいですか?」
「何だい、大堂愛菜さん」
「えっと、さっきの二人の会話で一つだけ気になる事があったんです……」

私の言葉を聞いて、お兄さんは首を傾げる。
そして、私に向かって優しく問いかけた。

「一体、何が気になったのかな?」
「私の勘違いだったら謝ります。あの……あなたが自分の母親を悪く言っている気がして……」

さっきの会話で、お兄さんが『半分卑しい血』と言った後に春樹が『兄さんの母親の事?』 と尋ねていた。
私はその時に感じた気持ちを、素直に言葉にしていく。

「事情はよく分からないんですけど、もしそうだったらすごく悲しいなって……
そんな考え方の人にはミケは渡したくないって……そう、思ったんです」

自分自身でも何が言いたいのか、上手く整理ができなかった。
随分ひどい言い方になってしまった気がする。
相応しい言葉を選べなかったかったもどかしさに、思わず目を伏せた。

「愛菜さん、顔をあげて?」

言われるまま、私はゆっくり顔をあげる。
すると、お兄さんは怒るどころか顔を歪ませるように笑っていた。

「姿は変わってしまっても、君は君のままなんだね……」
「えっ?」
「済まない、こちらの話だよ。そうだね、愛菜さんの言う通り……僕は寂しい考え方をしていたね」

お兄さんはフッとため息を漏らした。
そしてまた泣きそうな笑みを私に向ける。

「今の言葉で目が醒めたよ。ありがとう」
「そんな、私は……」
「謙遜することはないよ。僕はとても嬉しかったのだから」
「あの、高村さん。ミケを……」
「??」
「ミケを治してあげてください。お願いします――」

そう言って、私はミケを手渡した。

①お兄さんに話しかける
②春樹に話しかける
③帰る

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③帰る

私達はお兄さんに別れを告げて、家へと急いだ。
別れ際、お兄さんは私と春樹が見えなくなるまで見送ってくれた。

「よかったの? 兄さんにミケを渡して」

家に着いて、今まで黙り込んでいた春樹に話しかけられた。
ようやくリビングのソファーに座ることが出来て、肩の力が抜けていく。

「うん。春樹くんが信用できるって言ってたしね」
「それは言ったけど……でも決めたのは姉さんだろ?」
「……あっ」
「何?」
「ううん。なんでもないよ」

(また姉さんって言ってくれた)

「なんだよ、気になるじゃないか……」

これ以上詮索されても困るし、私は慌てて話題を変えた。

「そ、それより私、お腹が空いちゃった」
「まだ母さんも帰ってきてないから……しょうがない、僕が作るよ」
「いいの?」
「ミケのご飯を物欲しそうに見ていただろ? すぐ作るからそのまま座っててよ」
「うん!」

三十分ほどして、食卓には立派な夕食が並んでいた。
春樹の手際のよさに、感心してしまった。

「このから揚げ、表面はサクッとしてるのに中はすごく柔らかいよ!」
「鳥もも肉にフォークで穴を開けておくと、下味も入りやすいし火の通りが早くなるから、柔らかくなるんだよ」
「へぇ……すごいね。あっ、このポテトサラダも美味しい」
「聞いてないし……」
「そんなこと無いよ。わっ、この中にチーズが入ってたよ」
「全く、仕方ないなぁ」

一々感動しながら食べている私を春樹は苦笑しながら見ていた。
私もようやくその視線に気付いて、また何か嫌味を言われないかと身構える。

「……また意地悪を言うつもりだったんでしょ」
「ううん、別に。ただミケみたいだなって思っただけだよ」
「むっ、それってミケみたいに焦って食べてるってこと?」
「違うよ。美味しそうに食べるなーってね。やっぱり一人で食べるより何倍も美味しく感じるなと思ったんだ」
「……そうだね」

私も一人で食事をする事が多かったから、その気持ちはよく分かった。
隆のうちでご馳走になったり、父と食べる事もあったけど毎回という訳にはいかなかった。
きっと春樹も同じだったに違いない。

私は……
①春樹に話しかける
②黙々と食べる
③様子を見る

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③様子を見る

私は春樹の様子を伺う。
すると、いつものやり場のない怒りは抜けて、とても穏やかな表情をしていた。

「ねぇ、姉さん」
「どうしたの? 春樹くん」
「明日、義父さんと話をしてみるよ」
「ええっ!?」
「……そんなに驚くことないじゃないか。あれからちょうど一週間なんだし」
「そ、そうだよね……」

聞く耳すら持たなかった春樹が、なぜだろうと思った。
ミケを見つける前まで、私や父を拒んでいたのは確かだ。
あの数時間で、春樹にどんな心境の変化があったのかは分からない。
親しいお兄さんに言われたからなのか。
それとも単なる気まぐれなのか。
春樹がどう思っているかなんて、どれだけ考えても私には理解できない。

「でも、よかった。春樹くんがそう思ってくれて」
「春樹でいいよ。一応、姉なんだから」
「えっ、だけど……」
「せめて名前の呼び方くらい姉っぽくしてくれなきゃ。らしくないんだし」
「う……」
(否定できない)

「さぁ、早く食べないと冷めてしまうよ」
「うん!」

意識が浮上していくのが分かる。
ああ、また夢を見ていたんだな、とようやく気付いた。
思い出している内に、寝てしまっていたようだ。

(私、すっかり忘れていたんだ……)

夢は忘れた記憶を呼び覚ますというけれど、今回はそんな感じだった。
五年前に私が経験したことばかりだったからだ。
目の前が白み始め、私はゆっくり目を開けていく。

そこに居たのは……

①春樹
②周防さん
③隆
④修二くん
⑤チハル

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④修二くん

息がかかるほど間近に修二くんの顔があった。
私は飛び上がるほど驚いたけれど、動かない体ではもちろん何も出来ない。

「…………」

修二くんは何も言わず、ただ私を見下ろしている。
いつもの明るい表情とは違う修二くんが目の前に居る。
双子のことをよく知らない人が見たら、きっと一郎くんの方だと間違えてしまうかもしれない。

「愛菜ちゃん、目が覚めたんだ」

どちらかというと、投げやりな言い方で名前を呼ばれた。
昨日、残酷だと言われたばかりだし当然なのかもしれない。

(一応、来てくれたんだ……)

隆が強引に連れてきたのだろう。
目の前にいるのは間違いなく協力出来ないと言った修二くんだ。
とりあえずお礼を言いたいけれど、やっぱり指先ひとつ動かない。

「弟くんも湯野宮も精霊もここには居ないよ?」

夕日の落ちる部屋で、修二くんは口だけ歪ませて笑った。
周りに誰の気配も感じられないということは、私と修二くんの二人だけなのだろう。

「逆らうと協力しないって言ったら、みんな簡単に部屋から出て行ってくれたんだ」

見下ろしたまま、修二くんが私の頬を撫でた。
私は叫ぶことも、言い返すことも出来ず、されるがままを受け入れるしかない。

「皮肉だよね。結局、愛菜ちゃんは俺の力を必要とするんだからさ」

自虐的な笑みを絶やさず、一方的に修二くんは言葉を続ける。

「今だったら、愛菜ちゃんに一生消えないような傷をつけることも簡単だよ?」

修二くんは、私が何も出来ないのを判って言っている。
だからこそこの状況を楽しんでいるみたいに、私の耳元でそっと囁くのだろう。

「俺ってさ、遊んだ女の子に言わせると躊躇なく酷いことをするタイプなんだって。
ねぇ、愛菜ちゃん。こんな状況でもはまだ俺を信じてるって言ってくれるのかな?」

私は……
①(それでも修二くんを信じたい)
②(修二くんは卑怯だよ!)
③(助けて……)

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①(それでも修二くんを信じたい)

正直、修二くんが怖い。
目を瞑ってしまいたいけど、ここで視線を外したらいけない気がした。

「その目……まだ諦めてないんだ。
未だに俺を信じたいと思っているんだね。まったく…驚きだよ」

『驚き』という言葉とは裏腹に、修二くんの口調は淡々としている。
修二くんの暗い瞳に私の顔が映っているのが見えた。

「……優しいね」

やっと聞き取れるほどの声で、修二くんは呟く。
まるで独り言のようにも聞こえた。

「愛菜ちゃんはやっぱり優しい。
だからこそ、すごく残酷なんだって昨日も言ったよね?」

昨日、私は修二くんを結果的に利用しようとしてしまった。
利用するつもりなんてなかったけど、誤解されても仕方ない状況だった。
道具として利用されることを誰よりも嫌っているって、知っていたはずなのに。

「優しさってね、真綿で首を絞められてるみたいなんだ。
気付かないほどゆっくり、でも確実に傷つけられている。修復できないほど深く、ね」

そう言うと、修二くんは私からゆっくり体を離していった。
私は深く息を吐き、体の強張りを解く。
信じたいと思っていても、やっぱり緊張していたんだろう。

「俺はね。愛菜ちゃんみたいに優しい奴をもう一人知っているよ。
そいつもね、未だに俺を信じているんだ。馬鹿みたいだよね」

誰なんだろう、と思った。
そう思っても、今の私には尋ねることも出来ない。

「多分、本人もわかってないのかもね。
無意識だから、余計にタチが悪いんだ。本当の道化は俺の方なのにさ」

そう言って、修二くんは私の右手を強く掴んだ。

私は……
①(さっきから何を言っているの?)
②(それってまさか……)
③(痛い!)

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①(さっきから何を言っているの?)

そう心で問いかけてみても、修二くんは答えを返してはくれない。
会話とも呼べない、一方的なやりとりは続く。

「この右手……兄貴の刻印だね」

私の右手の甲には契約の印が刻まれている。
これは三種の神器の鏡、修二くんの対である一郎くんのものだ。

「左手は剣、額に勾玉……」

私の右手を掴んだまま、修二くんは視線だけを動かして言った。

「愛菜ちゃんは俺がいないと駄目なんだ。
判るかな。君の中で暴れている陰の力を鎮められるのは俺しかいないって」

修二くんは目を細めて、微笑む。

「振られた時はショックだったよ。でもやっぱり、愛菜ちゃんは俺が
必要なんだもん。仕方ないよね」

私の右手を掴む力がより強くなり、指先が赤く鬱血している。

(い、痛いよ……)

「こうやって実際に右手を見ると、想像以上に妬けるね。
ねぇ、愛菜ちゃん。兄貴にこうやってキスされたんだろ?」

修二くんは一郎くんを真似るように、私の手の甲に口付けを落した。
その後、ゆっくり顔を上げて私を見据える。

「こんなつまらないところに契約するなんて、兄貴らしいな~」

いつもの修二くんのような明るい声だった。
身を乗り出して、食い入るように私を見る。

「兄貴って優しいんだ。たとえば俺より一歩引いて目立たないように振舞ったりしてさ。
きっと俺のことを可哀想だと思っているからだろうね」

そして、フフッと笑う。

「でも、そういう優しさって押し付けがましくてすごく不愉快なんだ。
愛菜ちゃんにも身に覚えがあるんじゃない? 優しさを押し売りした経験とかさ」

私の顎から首筋にかけてを、親指で先で何度も撫で上げる。
その度に私は息を詰めることしか出来なかった。

私は
①修二くんを見る
②考える
③チハルを心の中で呼ぶ

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①修二くんを見る

せめて視線だけでも修二くんから逃れようとするけれど、上手くいかない。
目を泳がせている内に、修二くんが腕を捲くっていた事に気付いた。
日焼けした腕にはテニスでついた筋肉つき、薄く静脈が浮き上がっている。
女の私とは違う、男の子の鍛えられた腕が目の前にある。
その腕が微かに動いた。
あごを這っていた指がゆっくり移動して、私の下唇に触れたからだ。

「愛菜ちゃんの唇って、マシュマロみたいにすごく柔らかいよね。
でもさ、ここから発する言葉が刃物になることだってあるんだよ」

上唇と下唇を円を描くように弄ぶ。
私はどうしていいのか分からず、ぎゅっと目を閉じた。

「ちゃんと目を開けて俺を見て。でないと協力できないよ?」

修二くんの言葉で、私は再び目を開ける。
目の端で、私の唇の上を滑るように修二くんの指先が動いている。

「この唇の奥って、どんなカンジだろ。
柔らかくて暖かいのかな。それとも、ぬるっとしてて纏わりついてくるのかな。
愛菜ちゃんの中まで、全部欲しいよ」

(本気なの、修二くん……?)

「この俺がお願いしてるんだから、当然、きいてくれるよね」

傲慢で高圧的とも取れる言葉だけど、修二くんが言うとなぜか軽い調子になる。
きっと、修二くんだけが持っている独特の雰囲気のせいだ。
華やかで、自由で、無邪気なワガママさは、こうなってしまった今でも失われていない。

「この前のキスなんて、ただの子供だましなのに愛菜ちゃん真っ赤だったしさ。
今時、そんな子は天然記念物に指定されて見世物にされちゃうよ」

修二くんの軽口で、見世物にされている自分を思わず想像してしまった。
と同時に、修二くんの顔がグッと近づいて唇が触れ合う。

(……!!!)

修二くんは唇を離すと、呆れるような視線を私に向けてくる。

「そんなに驚かなくても、みんな楽しんでることだって。
それに、これだけで終わらせるつもりなんて無いしね。
口の中にも沢山気持ちいい場所があるってこと、教えてあげる約束だしさ」

うなじに右手が添えられると、軽く頭を持ち上げられる。
そのまま修二くんの唇が重なり、私の中に割り入ってきた。

私は……
①頭がぼうっとして何も考えられなくなった。
②嫌悪感で背筋が寒くなった。
③ドキドキして鼓動が早くなっていった。

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①頭がぼうっとして何も考えられなくなった。

(やだ……)

悪いのは誰なんだろう。
私? それとも修二くん? 
考えたいのに、頭に霞がかかったように答えが纏まらない。

(いやだ、やめて……)

生暖かく長い舌が私の舌を絡め取った。
唾液を掻き回すように、舌の裏側にまで割り込んでくる。
口全体が修二くんで一杯になったような錯覚になる。

背中から腰にかけて、悪寒のような電流が走った。

(んんっ……)
その時、声にならない吐息が漏れた。
背筋に感じた悪寒は、くすぐったいような甘い疼きに変化していく。

奥に押し込まれた修二くんの舌が器用に歯茎をなぞり続ける。
上顎の奥をを舌先でくすぐられた。

(しゅ…う…じ…くん……)

私の体が熱く火照っていく。
頬の裏の粘膜や歯の裏までを丹念に弄られるたびに、甘い疼きがじわじわと体を侵食していった。
修二くんから注ぎ込まれた唾液が口の端から溢れ出し、零れ落ちる。
身体が刻みに震え出し、息が乱れる。
頭が真っ白になって、何も考えられない。
硬く目を閉じ、快楽の波にすべてを攫われないようにするのが精一杯だった。

永遠にも似た、とても長い時間だった。

修二くんは舌を引っ込めて、ゆっくりと唇を離す。
私の上半身に重みと体温がはっきり残っている。
それに気付いてようやく、強く強く抱きしめてられていたとわかった。

目の前の修二くんは無邪気な笑みを浮べている。

「どう? 楽しかった?」

答えの代わりに、私は目を逸らした。
恥ずかしさや戸惑い、悔しさが入り混じり、真っ直ぐ視線を向けることが出来ない。

「俺はすごく幸せだよ。だって、大好きな愛菜ちゃんとキスできたんだもん」

そう言って、修二くんは私の頬に触れた。

「泣かせちゃったんだ。ごめんね」

無意識に涙が伝っていたのか、修二くんは親指で雫を拭ってくれている。

「ホントごめん…」

消えそうな声で呟いて、私を見る。

「けど、今のではっきり分かったよ。
俺の一番欲しいのは、やっぱり愛菜ちゃんだけなんだ」

修二くんの唇がそっと私と重なる。

「兄貴や他の誰かのものになるなんて、絶対に認めたくない。
いっそ、奪って壊しちゃう方が俺にとってはずっとマシなんだ…」

その瞳は懇願するように、私だけを見ていた。

「憎しみでもいいんだ。お願いだよ、俺だけを見てて。ね、愛菜ちゃん」

①目を逸らす
②受け入れる
③逃げたいと願う

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③逃げたいと願う

(もう…やめて……)

今の私に修二くんを拒むことは出来ない。

(やめようよ…修二くん……)
私に憎まれてもいいと言うけれど、本当にこんな未来を望んでいたのだろうか。

「いいこと思いついた、愛菜ちゃん。俺だけが確認できる所に契約すればいいんだ」

そう言うと、修二くんが勢いよく布団を剥いだ。
汗ばんでいたのか、身体が急に冷えていく。

「愛菜ちゃんを抱くたびに、強い繋がりを確認できるんだ」

ベッドが軋んで、修二くんが上がってきた。
私に覆いかぶさるように、顔を埋めてくる。

「ごめんね。もう信じて欲しいなんて、言わないから……」

甘えるようなくぐもった声が聞こえる。
いつもの修二くんの声。
この姿は嘘で、冷たくて怖いのが本当の姿だったのか。
それとも、修二くんのことが何も見えていなかっただけなのか。

(修二くん…どうしてそんなに……苦しそうなの……)

信じたいという気持ちと、絶望的な気持ちが混ざり合って渦巻いている。
その中に、感じたことの無い感情が沸々と湧き上がってくる。

パジャマの中に修二くんの手が滑り込んでくる。
全身が粟立つのを感じた。

(止めて!!!)

頭の中で何かが弾け、真っ白になった。
すると、心の奥から声が聞こえる。

(汝…助…け…)
(…声……チハル?)
(助けを…望む…か……)
(冬馬先輩? 誰?)
(汝……助け…望む…か)
(壱与? もしかして壱与なの?)
(我を望…め……)
(壱与! こんなの間違ってる! 止めさせてよ!!)
(汝、我を望むか)

本当に壱与?
それとも違う声?
私を本当に助けてくれるの?

①望む
②望まない
③考える

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①望む

(助けて! もう嫌だ! お願いだよ!!)

私は心の中で必死に叫んだ。

「汝の願い、しかと聞き入れたぞ」

私の意思を無視するように、勝手に口が動いた。
その声が耳に届いたのか、胸へと滑らせていた修二くんの手がピタッと止まる。

「愛菜ちゃんが……変わった?」

最初は目を丸くしていた。けれど、すぐに顔つきが厳しくなっていく。
修二くんは顔をしかめ、私を睨みつけながら口を開いた。

「アンタ、誰だ」

(えっ!?)
修二くんが発した言葉の意味が分からず、思考が一瞬停止する。

「思いを寄せるおなごに対して、その態度はなかろうて」
「愛菜ちゃんとアンタじゃ全然違う」

警戒するように、修二くんは私から身体を離していく。
次の瞬間、身動きが取れないように私の両腕を強くベッドに押し付けた。

(痛い! 止めてよ、修二くん!!)

「早く、愛菜ちゃんを出せ!!」
「ほう、さすがは鏡。我が見えているという訳か」
「アンタ……まさか……」
「どうした、鏡。続きをせぬのか? お楽しみの最中であったのだろう?」
「邪魔しといてよく言うよ。愛菜ちゃんをどこに隠した」
「この者が我を望んだのだ。隠したとは心外な……」

そう言うと、考えられないような力で修二くんが押し付けている腕を持ち上げていく。
修二くんの鍛えられた腕が、ジリジリと押されていった。

「この者はお前になど抱かれとう無い申しておったぞ。残念じゃったな」

修二くんの身体が、私に押されて壁にぶつかった。
いつの間にか、形勢が逆転している。

私の意思とは無関係に頬が緩む。

(私、笑っているんだ……)

「手篭めにしたところでこの者の心など奪えぬのに。笑えるのぉ」

私は口を押さえて、押し殺すように笑った。
身体が勝手にしゃべり、勝手に動く。
まるで…誰かに身体を乗っ取られてしまったように。

①(ファントムなのかな)
②(壱与なの?)
③(あなたは誰?)
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