841
①闇についてきく

(ねぇ、チハル。周防さんに闇について教えてくださいって言ってくれないかな)
(スオウがね、ヤミのはなしはちょっとまってくれっていったよ)
(え……なんで?)
(春樹のココロにヤミがないかしらべるって)
(春樹に闇……? そう周防さんがチハルの心の中に直接言ったの?)
(うん。てれぱしーでおはなししたよ)
(そうなんだ。何かあるのかな……)

私は仕方なく、ベッドの上から二人の様子を見守ることにした。

「なぁ、そういえば……」
「なんでしょうか?」
「春樹は……従兄である俺のことは知ってるよな?」

いきなりの話題を振ってきた周防さんに対して、春樹は首をかしげた。
それでも律儀にちゃんと質問に答える。

「もちろんです。お葬儀に出た記憶がありますから」
「葬式……。一応、昔に会ってるんだけどさ」
「すみません。会った記憶は無いです」
「じゃあ、葬式に出た従兄が生きていたなんて思わなかっただろう?」
「はぁ……」

曖昧に言葉を濁すと、春樹はコーヒーカップを持ち周防さんを改めて見つめていた。
春樹にとって周防さんは、死んだはずの従兄だったのだから当然だろう。
周防さんはそんな春樹に対して、試すような視線を向ける。

「分家から拾われた俺は、十二、三歳の頃には奴らの手伝いもしていたんだ。それも知らないんだよな?」
「はい。組織の存在すらまったく知らされてませんでした」
「ふぅん。まぁお前さんは幼かったし、能力も無かったから知らなくても当然か……」

周防さんが発した言葉に、春樹は一瞬表情を曇らせていた。
きっと小さな頃の記憶が蘇ったのだろう。

「後から知ったんですけど、俺に能力が無いために……父から仕打ちで母は随分苦労したようでした」
「叔父上はそういう人だったしなぁ。じゃあ春樹は、今能力を手に入れた時どう思った?」
「嬉しかったのかな……。とにかくこの力で守れる、そう思いました」
「誰を守れると思ったんだい?」
「………ね、姉さんですよ」
「ふーん、愛菜ちゃんねぇ」

周防さんはチラリと私を見ると、「なるほどねぇ」と言っている。
春樹はコーヒーを急いで飲もうとして、こぼしそうになっていた。

私は……
①複雑な気持ちになる
②うれしかった
③恥ずかしくなった

842
③恥ずかしくなった

(なるほどって……どういう意味ですか?!)
私は恥ずかしくなって周防さんに向って叫ぶけれど、まるで届いていないようだ。
今の私では、直接触れなければ周防さんと意思疎通ができないらしい。

それにしても、心の中を覗かれるのがこんなに恥ずかしいことだとは思わなかった。
次に会うときは、絶対に触れられないように気をつけなくちゃ。

そんな私の誓いをよそに、周防さんはニヤニヤと私と春樹を交互に見ては笑っている。
春樹は落ち着かないのか、ムキになって声をあげた。

「な、なにか文句がありますか?! 弟が姉を心配してなにが悪いんですか」
「別に。悪いなんて一言もいってないけど?」
「その口……そのにやついた口が嫌なんですよ」
「これは、生まれつきだからなぁ。俺はただ美しい姉弟愛に幸あれと思っただけさ」
「そ、そういうことならいいんですけどね……」

周防さんは「とまぁ……冗談はこのくらいにして」と言って姿勢を正した。
春樹も様子の変わった周防さんを見て、同じように居住まいを直す。

「ずっと能力が無いことに嘆いていたようだがな、春樹。そのお陰でお前は真っ当な生活を送れたんだぞ」
「どういうことでしょう?」
「直系の正統継承者だったお前が高村から抜け出せたのは、能力が無かったからだ。
もし、先天的に能力が覚醒していたら、秋人のようになっていたかもしれない」
「兄さんのよう、ですか?」
「結局、秋人も犠牲者なんだよ」
「………そう…ですよね」
「秋人のように強い力を望んだりするなよ。自分を見失うことになるぞ」
「兄さんと同じ……」

春樹は聞こえないような小声で呟くと、目を伏せた。
すると、周防さんの手が春樹の頭に伸びる。
ぽんぽんと頭を叩かれて、春樹は呆けたように従兄の周防さんを見た。

「なんて顔してんだよ。こっちまで暗くなるじゃないか」
「でも……」
「春樹はまだ十六歳の子供だろ。少しくらい間違えたっていいんだぞ」
「お、俺は……もう子供じゃありません!」
「ムキになって、まぁ。でも、それでいいんだ。それが青少年の正しい姿さ」
「青少年って……」
「とにかく全部背負い込もうとするなよ。本当に愛菜ちゃんを大切に思うなら、笑顔にさせる方法を考えるんだ」
「……はい」
「素直だなぁ。よしよし」

周防さんは大人の笑みを浮べて、春樹の髪をぐしゃぐしゃにした。
春樹はそれを不機嫌な顔だったけど、甘んじてその洗礼を受けているようだった。

私は……
①そのまま見守る
②春樹の心についてきく
③秋人さんのことを尋ねる

843
①そのまま見守る

(春樹……)

いつも私を大切に思ってくれているのは、ずっと前から気づいていた。
それがどういう形の愛情なのか疑うことも無かった。

私は姉であることに十分満足しているし、今でもそれ以上を想像できない。
だけど、春樹の気持ちはどうなんだろう。そこまで考えて、また怖くなった。
自分自身の臆病さとズルさに胸が痛くなったところで、再び、周防さんの声が耳に入ってきた。

「実はな、春樹。お前と同じ歳の時に、俺は大切な人を失ってしまったんだ」
「……被験者を逃亡させようとした事件ですか?」

春樹の言葉で、周防さんは頭から手をゆっくり離すと息を吐いた。
その溜息には、自嘲とも取れるような笑いが含まれている。

「……そっか。組織で聞いたんだな。あの事件から八年間、俺は反主流派として活動をしてきたんだ。
大切な人を弔うために生きてきた、と言ってもいい」
「八年間も……」
「そうだ。なぜアイツは命を犠牲にしてまで、俺を生かしたのかってそればかり考えて生きてきた。
残された俺はどうすればいいんだって、憤っては何度も叫んだよ」
「……………」
春樹は上手く相槌がうてなくなったのか、うつむいて黙り込んでしまった。
その様子を見ても、周防さんは話を続ける。

「でもな。ようやく最近になって、アイツの本当に望んでいた事がわかってきたんだ」
「本当に望んでいたこと……?」
春樹はようやく顔を上げて、周防さんの顔を見る。

「アイツは、俺を苦しませるために犠牲になったわけじゃないんだ。ただ俺に笑って欲しくて、元気に生きてて欲しくて命を張ったんだよ」
「……その被験者の方も、周防さんが大切だったんですね」
「自惚れでも無く、俺もそう感じ始めたんだよ。そんな感じだから、当たり前の事に気づくのに八年も掛かっちまったんだけどな。
さっき俺が『笑顔にさせる方法を考えるんだ』ってお前さんに言っただろう?」
「はい」
「これが実は一番難しいことなんだって、俺は思うんだ。相手のことをしっかり理解していないと実現しないからな。
なにせこの俺自身、死んだアイツの望みがわかるのに八年も費やしたくらいだしさ」
「確かに、一番難しいですね」
「だろ? 当たり前のことが一番難しいし、一番気づきにくいんだ。正直、こよみのしたことは正しいとは言えない。俺にも多くの間違いがあった。
もう取り返しはつかないし、こよみは戻ってこないんだ。けど、従弟に教えることができるんだから、まぁ無駄ばかりでもなかったのかもな」

周防さんは耳の裏を掻いて、目を泳がせている。
春樹はその姿を黙ってみていた。

「とまぁ……色々言ったけど、お前さんが背伸びをし過ぎて出口を見失ってる、そんな心の内が見えたんだよ。
昔の俺とそっくりでさ。なんか放っておけなくて、柄にも無く説教くさい話をしちまったのさ」
「心の内……ですか?」
「その……なんだ。心を読んだともいうが……」
「まさか……! 神宝の……」
「……鏡の力だよ」

(周防さんバラしちゃったけど、いいのかな)

私は……
①そのまま見守る
②春樹の心についてきく
③秋人さんのことを尋ねる

844
①そのまま見守る

周防さんに尋ねてみたいけれど、私から言うにはチハルを介さなくてはいけない。
私が会話の腰を折るよりも、今は周防さんと春樹の会話を聞いていた方が良さそうだ。
そう思っている間にも、二人の会話は更に進んでいる。

「神宝の鏡、辺津鏡が俺の力だ。お前さんは八握剣だったんだよな」
「そうですけど……よく分かりましたね」
「秋人から色々聞き出したからな」
「兄さんと話をしたんですか?」
「ああ、昨晩会ったんだ。その時、秋人が少しばかり意味深なことを言っていたんだよ」
「意味深、ですか?」
「珍しく俺に忠告してきた。心の闇に気をつけろってな」
「心の闇……」
「高村である俺たちも今は人間だか、鬼の血が混じっている。その伝承は知ってるよな?」
「はい……。高村家は元々石見国の鬼の一族だった。
そして、時代と共に薄まっていく力を鬼の化身と交わることで維持し続けてきた……ですよね」

春樹は言いにくそうに呟くと、私を見た。
私はその視線をどう受け止っていいのか分からず、目をそらす。
周防さんは冷めかけのコーヒーを一口だけ飲むと、話を続けた。

「その通りだ。鬼の陰の気があったから、一族は強い力を操り、伝承を受け継ぐことが出来た。
だけど鬼の力は諸刃の剣でもある。鬼の陰の気は人間には強すぎるんだ」
「強すぎるって……どういう事ですか?」
「鬼の強力な陰の気は、負の感情を増長させるんだよ」

周防さんはコーヒーカップをゆっくり置きながら言った。
春樹はその言葉の意味を考え込んでいたが、答えを見つけたように話し出した。

「あの……伝承が入ってきた時のすごく嫌な気配は……もしかして……」
「察しがいいな、春樹。伝承は知識と記憶の塊だ。当然、その中には祖先が蓄積してきた負の感情も含まれてるのさ」
「それが心の闇……」
「一度乗っ取られたら剥がすのは困難だ。伝承の中に巣食っている闇に、心まで狂わされることになる」
「俺は……どうすれば……」
「とりあえず、強い負の感情を抱かないのが一番だろうな」

(鬼の力が心を狂わせる……)

私は……
①考える
②周防さんに話しかける
③春樹に話しかける

845
②周防さんに話しかける

(ちょっと待って……。周防さんが闇に心を奪われなかったのはなぜ?)
鬼の陰の力が人間に良くないのは説明でわかった。
けど、秋人さんは心を狂わされたのに、周防さんだけ無事だったという差を疑問に思う。
高村の血筋だったら、周防さんだって同じなはずなのに。
私はチハルに頼んで、さっそくその疑問を伝えた。

「なるほど。愛菜ちゃんはなぜ俺に闇が取り付かなかったのか知りたいんだよな」
(はい)
「俺の場合、自分の能力で回避できたからなんだ」
「周防さんの能力って……さっきチラッと言っていた覚りの力ですか?」
春樹は頭の中の記憶を探り出すように、口許を押さえながら周防さんに尋ねた。

(覚り?)
「姉さんは聞いた事ない言葉だろうけど、覚りって心を読む力の事なんだ。
伝承では、神器にしろ神宝にしろ鏡の力を持った者は、何かしらの見る力に特化している事が多いらしいんだよ」
「春樹の言うとおり、俺の能力は覚りだ。人の心を覗くだけじゃなく、制御したり、攻撃したりも出来る」
「………じゃあ、俺の心も全部見透かされてたってことですよね」
「悪い、お前の頭を触った時に見せてもらった。ほんの少しだけな」
「そうなんですか。あんまり気持ちのいいものではないですね」

春樹の正直な発言に、周防さんは苦笑いを浮べている。
「俺の能力は春樹にも不評かぁ。だが、覚りだったから俺は闇に取り込まれずに済んでいるんだけどな」
「どういうことですか?」
「俺は自分の精神を制御して、心が乗っ取られるのを防いでいたのさ」
「精神を制御するっててことは、もしかして……負の感情を力で抑えてたって事ですか?」
「どうにもならない時だけな。もし自分以外に誤って精神コントロールなんてやっちまったら、組織の奴らと一緒になるからな」
「組織の精神コントロールって……洗脳……」
「ああ。俺の精神コントロールも一種の洗脳だからな。
だから、すでに薬で洗脳を受けてる奴やファンムに取り付かれた奴の心は読めないし、精神コントロールも出来ないんだ」
「闇に染まってしまった人も、ですか?」
「叔父上にも、秋人にも、まったく効かなかったよ」

そう言って、周防さんはまたコーヒーを手に取ると一口飲んだ。
つられて春樹もカップを持ったけれど、空だったのか飲まずに元へ戻していた。

「コーヒー冷めてませんか? 俺、淹れなおしてきますよ」
「そうだな……じゃあ、お願いするか」

春樹は「少し待っててください」と言うと、コーヒーカップとソーサー、
あとチハルが飲んでいたジュースのコップをお盆に載せて、立ち上がった。

どうしようかな……
①春樹を呼び止める
②周防さんに話しかける
③話を整理してみる

846
②周防さんに話しかける

春樹が扉を締めるのを確認して、チハルに呼びかけた。

(チハル。周防さんに私に触れるようお願いしてくれないかな)
(またスオウにココロのなかをみられちゃうかもしれないよ)
(構わないんだ。周防さんに頼みたいことがあるから、言うとおりにしてもらっていい?)
(うん。わかった)

チハルは私に向かって頷くと、周防さんの上着の裾をくいくいと引っ張った。
周防さんはチハルに振り向き、チハルに声をかける。

「ん? どうした、小さいの」
「あのね。愛菜ちゃんがさわってほしいんだって」
「俺に? ……愛菜ちゃんの考えていることが見えてしまうんだけどな」
「カマワナイって言ってたよ」
「けどなぁ。愛菜ちゃん、本当にいいのか?」
(はい)

周防さんが私の手を優しく握ると、覗き込むように見つめてくる。
少しだけ困ったような顔をしているのは、気を遣ってくれているからだろう。

(精霊を通してじゃ、言いにくかったのかな?)
(周防さんに聞きたい事があったので、直接の方がいいと思って…)
(ふむふむ…なるほどね。で、愛菜ちゃんは春樹の中に「闇」の存在があったのかどうか知りたいと)

私の心を見透かしたのか、周防さんに尋ねたかったことを先に言われてしまった。
周防さんの力が分かった今では、その事に対して一々驚くことは無い。
ただ、慣れそうにはないけれど。

(……はい。春樹のことを教えてください)
(闇は……誰にでも少しはあるもんだ。今の春樹は問題になるほどの大きさではなかったよ)
(よかった。それが一番心配だったんです)

私は心の中で、ホッと胸を撫で下ろす。
春樹が秋人さんのように性格が豹変してしまうんじゃないかと不安だったのだ。
そんな私の気持ちを読み取ったように、周防さんが口を開いた。

(でも、愛菜ちゃんには注意していて欲しいんだよ)
(注意? どうしてですか?)
(あくまで、今は大丈夫ってだけなのさ。神宝の力が身の内にある限り、豹変する可能性はあるからな)

私の心にそう語りかけてくると、周防さんは少しだけ強く手を握ってきた。

私は……
①(注意ってどうすれば……)
②(闇の存在を消すにはどうすればいいんでしょうか)
③(じゃあ、秋人さんのように私が春樹の力も譲り受けます)

847
③(じゃあ、秋人さんのように私が春樹の力も譲り受けます)

闇に取り込まれる可能性があるのなら、私が器になって力を譲り受ければいい。
それで春樹を守れるのなら、それが一番良い方法だろう。
春樹に対しては迷うことばかりだけど、大切にしたいと思う気持ちに嘘は無い。
もし私の心を今も見えているのなら、決意にも似た思いをきっと周防さんも感じてくれているはずだ。

(愛菜ちゃん……。春樹が大事なんだね)
(春樹が私を守りたいと思っているように、私も春樹を守りたいんです)
(そうか)

周防さんは私の前髪を静かに払い、ため息のような深呼吸をした。
その手がおでこに触れられ、思いの外暖かい手が置かれる。
周防さんの顔を見ると、憂いを含んだような苦しい顔つきをしていた。

(今、愛菜ちゃんは体の自由が利かないだろう。すべて神宝のせいだ。それは分かっているのか?)
(わかっています)
(もう片方の神器の鏡、修二と契約すればいいと思っているね)
(……はい)
(契約して体が元に戻っても……春樹の神宝の力を譲り受けたら、また体の自由が利かなくなるかもしれないよ。
儀式が上手くいく保障もない。危険過ぎるだろう)
(それもわかっています。けど、私は出来ることをしたいんです)
(ふぅん。愛菜ちゃんは立派だねぇ。とても立派だ)

周防さんが最後に発した言葉には、子供をからかうような突き放した棘が含まれていた。
こんな時にも飄々としている周防さんに対して、少しムッとしてしまう。

(もっとちゃんと考えてください。私、すごく真剣なんですよ)
(考えてるさ)
(考えているなら、なんでそんな言い方するんですか)
(決まっているじゃないか。愛菜ちゃんがなにも分かっていないからさ)
(私、中途半端な気持ちで言ったわけじゃありません)
(知っているよ。俺には手に取るように、愛菜ちゃんの気持ちが見えてるんだから)

周防さんはすべてを見透かすような、瞳を私に向けていた。
その澄んだ瞳に気圧されそうになったけれど、私は周防さんから目を逸らすことなく訴える。

(なら、なぜそんな突き放すような言い方をするんですか)
(お前さんは……昔の俺が犯した過ちを繰り返そうとしているのに、まったく気づかないんだな)
(周防さんの過ちって、綾さんとの事ですか?)
(そうさ。組織の手先だった俺はこよみの心をボロボロにした。罪を償いたくて、牢獄のような組織から逃がそうとしたんだ。
こよみが抹殺されかけたから、咄嗟に庇った。その時、薄れる意識の中で当然の罰を受けたと思った。経緯は美波から聞いただろう?)
(聞きました。でも、どうしてそれが身勝手なんですか?)
(すべて俺の思い上がりだったのさ)
(周防さん、一体何が言いたいんですか?)
(やっぱり愛菜ちゃんはわかっていない。だから同じ過ちを繰り返そうとするんだよ)

周防さんはそれだけ言うと、私の額から手を離してしまった。
と同時に扉が開いて、お盆を持った春樹が入ってくる。

私は……
①春樹に話しかける
②周防さんに話しかける
③考える

848
③考える

(周防さんの言う過ちって……何?)

周防さんにしては珍しく、ちょっと怒っているみたいだった。
春樹の力を譲り受ける事が過ちだというのだろうか。
もしそうだとしたら、私は悪いことだとは思わない。
体が動かなくなるかもしれないという可能性よりも、確実に春樹を守る方法を優先したい。

「お待たせしました。あの……何かあったんですか?」

春樹は周防さんの様子が少し変わったのを感じ取ったみたいだ。
コーヒーをテーブルに置きながら、言いにくそうに尋ねている。

「いやぁ。愛菜ちゃんがとんでもない事を言い出すからさ」

周防さんは私をチラリと見て、また溜息をついていた。
そんな周防さんの様子に、春樹は不安そうな顔を私に向けてきた。

「姉さん。一体、何を言ったんだよ」
(それは……)

私が答えに窮していると、さっきから黙って様子を見ていたチハルが間に入ってきた。

「あのね。愛菜ちゃんは春樹のチカラもギシキでゆずりうけたいって言ったんだよ。
そしたら、スオウがそれはあやまちだって言ったんだ」
「チハル、それは本当なのか?」

春樹は信じられないという顔をして、チハルに確認している。

「うん。ほんとうだよ」
「その小さいのの言うとおり、愛菜ちゃんはこんな身体になっているのに、まだ自分が器になればいいと思っている。
そして、それが思い上がりだって事にすら気づいていない」

周防さんは相変わらず飄々としていてるけど、どこか責めるような口調を崩さない。
私は非難されるような事を言ったつもりは無いのに。

(どうしてそれが思い上がりなんですか? ちゃんと教えてください)
チハルに頼んで、私は周防さんに改めて問いただす。
「じゃあごーまんな考え方と言い換えれば、愛菜ちゃんにはわかりやすいのかな」
(傲慢って……酷い)
「答えは自分で見つけなきゃ意味が無い。強い力を得て、愛菜ちゃんは大切なことを忘れてしまっている。思い出すんだ」
(思い出すって……何を)
「何の力も無く、ただ守られていた頃の辛さだよ」
(守られていた頃の辛さ……)
「俺がさっき言っていた、一番簡単な事なのに見つけにくい答えを言っただろ?」
(笑顔にさせる方法でしたっけ)
「そうそう。俺が八年もかかって手に入れた答えの本当の意味も、傲慢だって言った理由も、
その辛さを思い出せばすべて理解できるさ」

私は……
①周防さんの言ったことに頷く
②わからないと言う
③春樹の様子を見る

849
③春樹の様子を見る

周防さんのいう事は、曖昧すぎてはっきりとした答えが見えてこない。
(守られていた頃の辛さを思い出す……か)
そういえば、守られることが辛いと言って隆の前で泣いてしまったのを思い出す。
あの時、敵が襲ってきた時は俺が守るからお前は逃げろと隆に言われたんだ。
春樹も私を守るために家を出て行ってしまい、声まで失って、すごく動揺していた。
みんなが私のために言ってくれる守るって言葉を重荷に感じて、とにかく辛くて泣けてきたんだ。

(私が器になることは……春樹にとって重荷なのかな……)
(だけど、闇に取り込まれるかもしれない春樹を見過ごすなんて出来ない)

そう思って春樹を見ると、何かを考え込むようにジッと一点を見ていた。
そんな春樹に対して、周防さんは「ふむふむ……」と感心するような声をあげる。

「愛菜ちゃんだけじゃなく自分にも言われてるんだって、春樹も気づいたようだな」
「さすがに分かりますよ……」
「そうそう。悩めば自然と見えてくることがあるのさ」
「俺が持っている神宝の力を譲り受けるって言ってくれた姉さんの気持ちは、よくわかるんです。
でも、少しも嬉しくない。それに何だろう……悲しいっていうか、情けない気持ちになるんです……」
「ふぅん。どうして情けないと思ったんだ?」
「よく分からないです。ただ……」
「ただ?」
「闇に心を奪われない方法が、強い負の感情を抱かない事なら…俺にも出来る、やってやると思っていたんです。
理性で闇を飼いならしてみせると思っていたのに……俺は…姉さんに信用されていないんだなって……」
「で、情けなくなったんだな」
「そう…ですね」

(春樹……)

春樹のためにと器になることを選んだのに、結局、春樹を傷つけてしまった。
私が犠牲になる方法なんて、春樹はちっとも望んでいなかったんだ。
春樹が自分自身でどうにかしてみせると思っているのなら、信じてあげるべきなのに。
なのに私は、春樹の意見も聞かず、勝手に巫女の力が必要だと思い込んでしまっていた。

(力なんて使わなくても、春樹を支えてあげればよかったんだ……)

よく考えれば、春樹が力を求めて家を出て行った時、私も同じ気持ちを抱いていた。
たとえ春樹に力が無くても、近くに居てくれているだけでよかった。
それで十分守られていると感じていたのに、なぜ春樹は気づかないのかって思うとすごく悲しかった。

(力を手に入れた事で、周防さんの言うとおり私は思い上がっていたのかも……)

どうしようかな
①私の気持ちを二人に伝える
②二人の様子をみる
③チハルを見る

850
②二人の様子をみる

(けど……今の私に春樹を支える資格があるのかな……)

『俺は、姉さんのことが――』今も耳に残っている言葉の、先を聞くのがやっぱり怖い。
その先の答えが何にしろ、私はどんな顔をして春樹と過ごしていけばいいのか想像すらできない。
いっそ朝の記憶を消してしまいたいとさえ思ってしまう。
複雑な思いで春樹を見ると、これから何かを話そうと口を開いたところだった。

「あの……周防さん」

周防さんを呼びかける春樹の声が、いつもより少しだけ低かった。
声のトーンは小さかったけれど、はっきりとした口調だった。

「ん? どうしたんだ春樹。改まって」
「一つ、聞きたいことがあるんです」
「いいぞ。何が聞きたいんだ?」
「すごく抽象的な質問なのかもしれないんですけど……強さの定義って、周防さんは何だと思いますか?」

春樹は一つ一つの言葉を考えながら発するように言った。
それだけ、真剣に質問しているのかもしれない。

「そりゃまた唐突な質問だな」
「俺にとってはそうでもないです。俺は今までずっと強くありたいと思ってきました。
小さい頃は、実の父から母を守るため。今は……家族を守りたいと思っています。
けど、姉さんに無理をさせるような選択ばかり選ばせてしまうなんて、まだまだ足りない証拠なんです」
「ふーん。それで?」
「最近の色々な出来事や周防さんの言葉で、守ることも、強さも分からなくなりました。だから意見を聞きたくて」
「まずお前さんが考える強さが何なのか、聞かせて欲しいな」
「俺の……考えですか?」
「そうさ。まず春樹の考えを教えてくれよ」

周防さんの言葉で、春樹はしばらく考えを巡られているようだった。
そして、首を少しだけ傾けるとゆっくり顔を上げる。

「それなら……俺の考えじゃなく、こんな風になりたいって思った出来事ですけどいいですか?」
「別に何でもいいぞ」
「今から五年前……俺に継父と姉が出来た時の事です」

そう言うと、春樹は視線を落して私を見つめた。

私は
①そのまま様子を見る
②五年前のことを思い出す
③春樹に話しかける

|