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①「もう鬼にこだわる必要なんてない気がします」

「私はこだわっているのだろうか」
「とてもこだわっている様に見えます」

時々、心がひとつのことに囚われすぎて、周りが見えなくなってしまうことがある。
たとえば、家の中だけで何日も過ごしていると、その箱庭がすべてのように感じてしまう。
けれど私の家も、遠くから見渡せば街明かりの一つに過ぎない。

守屋さんも復讐に囚われすぎていて、光輝のことなんてまるで気にも留めていない。
兵士の人達にだって家族や恋人や友達だっているはずなのに。
複雑な事情がありそうだし同情はするけれど、それ以上に段々腹が立ってきた。

(身勝手ですごくムカツク……)
喉がカラカラに渇いて、私はまた葡萄のジュースを飲み干した。
今日は熱帯夜なのか、身体がすごく熱い。
空になった器を手で弄びながら、守屋さんに視線を向ける。

「守屋さん」
「何かな。撫子の君」
「私を……抱きしめてくれませんか?」
「えっ。今、ここでか?」
「はい」

私を見つめる守屋さんの目は潤んで、顔も赤い。きっと、かなり酔っている。
さっきから饒舌に自分の考え方を語ってくれるのも、お酒の力だろう。

「本気なのか?」
「もちろんです」
「やはりここではまずい。私の衾でいいだろうか」

(フスマ……?)

「どこでもいいです。舞いを披露しなければいけませんし、早くしてください」
「わかった」

足が痺れたのか、ふらついて思わず倒れそうになる。
守屋さんは私の腰に手をまわし、ゆっくり立たせてくれた。

「飲みすぎじゃないのか?」
「ジュースなんて、少々飲みすぎても大丈夫です」
「じゅうす? まぁいい。歩けるのか?」
「平気です。ちゃんと歩けますから」
「そうか。では行こう」

そう言って、守屋さんは私の手を引いて歩き出した。

私は……
①後を付いていく
②手を振りほどいて一人で歩く
③やっぱりやめる

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①後を付いていく

手を引かれるまま、私は黙って後をついていく。
案内されたのは、陣で一番大きなかやぶき屋根の陣屋だった。

「さぁ、入ってくれ」

私は言われるまま、黙ってその中に足を踏み入れる。
そして、たどり着いた場所には麻の布団だけが敷かれていた。

「……これって……」
「衾だが? ここは私の寝所だよ」
「フスマって……布団……?」
「まさか君から、まぐわいに誘ってくるとは思わなかったな」
「なにを……」
「訳あって出雲で育った私には……君の鬼の気配すらも、懐かしく感じていたのだ」

そう言うと、守屋さんの大きな手が私の髪を顔から払うように撫で梳く。
髪から、耳、頬、唇へとその指先が移動していった。
火照った私の顔に、守屋さんの顔が近づいてくる。

「きゃっ、あの……」
「そんなに緊張しなくてもいい」
「ま、待って……」
「やはり君は撫子のように可憐な女人だな」
「ちょっ……えっと……」
「命を助けられた時から、ずっと君のことが忘れられなかった」

大きな守屋さんに組み敷かれ、私は布団に倒れ込んだ。
潤んだ目をした守屋さんと、間近で目が合う。
守屋さんは微笑みながら、私の額に口付けをした。

「うわぁ、待ってください。…守屋さん、少し落ち着いて……」
「怖くない。心配は無用だ」
「あっ、あの……お願いがあるんです」
「どうしたのだ」
「少しの間、私を抱きしめるようにして、目を閉じてくれませんか?」
「……それが君の望みなのか?」
「はい」
「わかった。それで君が落ち着くのなら、言うとおりにしよう」

守屋さんは私を優しく抱きしめると、目を閉じてくれた。
(力の封印、私にできるのかな)

幼い頃、私は力を捨て去るために自らの力を封印した。だから、きっと今回も出来るはずだ。
私は祈りを込めて、守屋さんにしがみ付く。

(お願い……)

どんな複雑な理由があっても、多くの犠牲を払う復讐なんてしちやいけない。
守屋さんが鬼だという事にとらわれているなら、その力を失くしてしまった方が冷静になれる気がする。
本人の了解も無しに勝手な封印することは、いけない事だろう。
けれど、私はどうしても守屋さんの考え方が許せなかったし、納得できなかった。

(成功して……!)

①封印に成功した
②封印に失敗した
③そのまま気を失った

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③そのまま気を失った

「……さん、……姉さん」

(春…樹の声……?)

「姉さん、姉さん……」
「愛菜ちゃん、はやくおきてよー」

(あれ……守屋さんは? 私戻ってきちゃったの?)

封印が成功したのかどうか分からないままなのに、戻ってきてしまったようだ。
それにしても、ただ私は封印したかっただけなのに、あの時の守屋さんは変だった。
酔っ払ってたのもあるけど、明らかな勘違いしているように見えた。

(私の言い方が悪くて、変な勘違いさせちゃったような)
(いざとなったら全力で抵抗したけど、けっこう守屋さん本気だったのかも……)
(っていうか……宴会で舞を見せてないのに戻ってきちゃったし)

光輝のためにも、再生の舞は宴会で披露しなくちゃいけない。
(一体どうなっちゃうんだろう。また眠れば戻れるのかな)

私は考えを巡らせながら目を開けてみると、やっぱり覗き込む春樹の顔があった。
その横には、ちゃんとチハルもいる。

「愛菜ちゃんがおきたー」
「やっと起きたね」
(おはよう……でもないか)
「そろそろ周防さんが来る時間だから起こそうと思って。と、その前に……」

春樹の手には、おしぼりとヘアブラシが握られている。

「来客なのに、寝起きのままじゃ……姉さんも嫌だろうからさ。一応、準備をしようと思ってね」
(さすが春樹。気が利くなぁ)
「愛菜ちゃんがさすが春樹だっていってるよ」
「チハルだって手伝ってくれただろ? 姉さんの着替えを準備してくれたじゃないか」
「えへへ……はい、愛菜ちゃんのきがえ! ボクがやってあげるからね」
(チハルはえらいね。いつもありがと)
「やったー。ほめられた、ほめられた」

チハルはくるくると楽しそうに回りだした。
春樹もいつも通りの弟の姿に戻っている。

「それじゃあ姉さん。少し体を起こすよ」

春樹の手が伸びて、私の両肩を掴んだ。
考えないようにしているのに、どうしても朝の出来事が頭をかすめてしまう。
その見慣れた世話焼きな手も、いつもとは違って映った。

私は春樹を……
①やっぱり弟としか思えないと再確認した
②今までより強く異性だと意識した
③逃げ出したいほど怖く感じた

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③逃げ出したいほど怖く感じた

『俺は、姉さんのことが――』
(その先を聞くのが……やっぱり怖い。いますぐ春樹から逃げ出したい……)

朝のことを思い出して、私はかたく目を閉じる。
今までの春樹だったら、少しは意識することはあっても、安心して体を預けることが出来た。
隆や冬馬先輩や他の人達に触れられても、ドキッとしたり恥ずかしくなったりするけれど、怖くなんてなかった。
修二くんが豹変してまった時だって、こんなに怖いとは思わなかった。
秋人さんに対して感じた恐怖とも違う。
自分の心なのに、なぜ春樹から逃げ出したくなるのか、考えても答えが出てこない。

(どうして怖く感じるの? どうして逃げたくなるの?)

春樹の腕が、私の両肩を支えている。
変に意識が働いて、全神経が肩に集中してしまったように緊張する。

「愛菜ちゃん、大丈夫?」
心を見透かしたのか、チハルが声をかけてきた。

(チハル頼みがあるの。私が怖がっていることを春樹に言わないで)
(どうしていっちゃいけないの?)
(春樹が傷つくと思う。だからお願い)
(ほんとにいいの?)
(心配してくれるのはすごく嬉しいけど、私の言う通りにして欲しいんだ)
(うん……わかった)
(わがまま言って、ごめんね)

「どこか痛かった? 強く掴みすぎたかな」

私の肩を抱いた春樹が、小首をかしげて心配そうに覗き込んできた。

(チハル。春樹に大丈夫って言って)
肩ではなく、胸が締め付けられるように痛いけど、心配させたくなくて嘘をつく。

「愛菜ちゃんがダイジョウブ、だって」
「それならいいけど……。痛かったら我慢しないで言うんだよ」

ベッドを軋ませながら私を抱き上げると、春樹が上半身を使って私を支える。
だらりと垂れる頭を肩で固定しながら、クシャクシャになった髪にそっと触れてきた。
ヘアブラシを上から下へ動かしながら、ゆっくり私の髪をとかしていく。
その手は壊れものでも扱うように、どこまでも丁寧で優しかった。

春樹とは対照的に、されるがままの私は子供のように動揺していた。
さっきまで戦をする守屋さんに対して、すごく腹を立てていた。
自分の事を棚に上げ、守屋さんを怒る資格なんて私には無い。
どれだけ巫女や鬼の能力を手に入れても、自分の気持ちすら理解できないままだ。

朝の事なんてなかったように、春樹はためらい無く手を動かしていく。
隆と言い合っていた出来事の方が夢だったと思えるくらい、いつも通りの様子を崩さない。

私は……
①春樹に話しかける
②チハルに話しかける
③涙が出てきた

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①春樹に話しかける

(だけど……普段とは少し違うかも……)

表面上の春樹は、ちゃんと今までの弟になっていた。
けれど、不自然なほど優しすぎる動作が、割り切れない気持ちを表しているようだった。
やっぱり私と同様に、春樹も途惑いを隠せないのかもしれない。

チハルを介して、私は髪を梳き続ける春樹に話しかけた。

(もう……いいよ。ありがとう)
「そう? じゃあ、ベッドに横になろうか」
(迷惑かけて、本当にごめん)
「……謝らなきゃならないのは俺なのに、何を言っているのさ」
(なんで春樹が謝る必要があるの?)
「姉さんの体が動かなくなったのは、俺にも責任があるから……」
(は、春樹のせいじゃないよ……!)
「……けど」
(昨日、隆も言ってたでしょ? 春樹は大堂春樹なんだから)
「そう…だね……」

掠れるような声でうなずくと、春樹は手を止めてヘアブラシをテーブルの上に置いた。
空いた片手で落ちた髪を払い、脇にあるごみ箱に捨てる。
ベッドに膝を立てると、腕で私を支えたまま、上半身をずらした。

背中と首に春樹の腕を感じながら、私は再びベッドに寝かされた。
鼓動が聞こえるほど間近に、春樹の胸が迫ってくる。
私は息をするのも忘れて、その一挙一動に緊張してしまった。

「苦しくなかった? 寝かせるのって意外と難しいものだね」
(春樹が丁寧にしてくれるから、苦しく無かったよ)
「よかった。疲れてない?」
(全然平気)
「今度は顔を拭くつもりだけど、少し休んでからにする?」
(ううん。続けて欲しいな)

当たり障りの無い会話を選ぶようにして、言葉を交わしていく。
もっと重要な話をしなければいけないのは、十分にわかっていた。
何も知らなかった頃には戻れない。
答えを先延ばしにして、ずっと逃げ続けるほどの器用さも持ち合わせていない。

姉弟という切れない絆を五年間かけて紡いできた。それは私にとってかけがえのないものだ。
だけど同時に、正体の分からない気持ちが次々と溢れてきて、胸を締め付けてくる。
まるで今まで無理やり閉じ込めていたみたいに、押さえが利かない。

(怖い……)

チャーラーラーチャラーラーラー

その時、突然私の携帯が鳴った。

誰からの連絡だろう?
①周防さん
②美波さん
③修二くん

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①周防さん

春樹はホルダーから携帯を抜くと、ディスプレイを確認して、私に顔を向ける。

「周防さんからだ。俺が出てもいいよね」
(うん。お願い)

私の言葉に黙って頷くと、春樹は携帯の通話ボタンを押した。
携帯で話している春樹の様子を、ベッドから眺める。

「もしもし……俺は…そうです、春樹です。……はい」
「姉さんは相変わらずです。俺ですか? 俺はなんともないですけど……」

しょんぼりした顔で、チハルが私の元まで近寄ってきた。
私を覗き込みながら、心の中に話しかけてくる。

(愛菜ちゃんは春樹がこわいんだよね。どうしてこわいの?)
(私にもよく分からない。ただ色々なことが整理できなくて、不安なの)
(ボクになにかできることない?)

小さなチハルにまで心配を掛けている。そう思うと、いたたまれない気持ちになった。
思わず泣きたくなったが、涙を見せると余計に心配させてしまいそうだ。

(おてつだい、なんでもがんばってするよ?)
(それじゃ……お願いしようかな)

チハルに何をしてもらうおうかと考えて目を動かしていると、青空が目に入ってきた。

(昨日はずっと雨だったのに、今日は晴れているんだね)
(うん。あさからおてんきだよ)

太陽は時々薄い雲に隠れながら、穏やかな秋の日差しを私の部屋に届けていた。
こんな日は外に出たくなるけど、今は諦めるしかない。

(窓……窓を開けて欲しいな)
(いいよ。まってて)

ぱたぱたと窓まで走っていくと、チハルは勢いよくガラス戸を開ける。
頬をくすぐるような、ひんやりとした風が部屋の中に入ってきた。

チハルはまた私のベッドまで戻ってくる。
そして、私の動かない手を握りながら心の中に直接話しかけてきた。

(愛菜ちゃん、げんきになった?)
(気持ちいい風……。うん、元気になってきたよ)
(えへへ。よかったぁ)
(チハル、ありがとう)

そよ風がレースのカーテンを静かに揺らしていた。
外に出ることは出来ないけれど、沈んでいた気持ちが楽になっていく。

「……わかりました。はい……失礼します」

周防さんとの電話を終えて、春樹は私の携帯を閉じる。

私は……
①春樹に話しかける
②チハルに話しかける
③考える

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①春樹に話しかける

(周防さん、何か言ってた?)
電話の内容が気になった私は、チハルを介して春樹に尋ねた。

「もうすぐ着くってさ」

春樹は携帯を机に置くと、私に向かって歩いてきた。

「着替えもしなきゃいけないか。チハル、大きくになってくれないかな。
姉さんを着替えさせるのに、子供のままじゃ出来ないだろう?」
「ボク、もうおおきくなれないよ」
(えっ……。もしかして、私が食べちゃったから?)
間髪いれず、私はチハルに問いかけた。更に幼い男の子になってしまった時から、嫌な予感はしていた。

「うん。もうヘンシンするだけのチカラがないみたい」
(回復しないの? ずっとこのまま?)
「ずっとこのままだとおもう」
(ごめんね。チハル……)
「ちがうよ。わるいのはボクだって、隆もいってたよ? だから愛菜ちゃんはわるくないよ」

チハルの言葉しか聞こえていないはずなのに、何かを察した春樹はチハルの頭を優しく撫でた。

「チハルは姉さんを救おうとしたんだし、決して悪い事をしたわけじゃないよ。
たぶん隆さんが怒った理由は、チハルが自分を粗末にしたからじゃないかな」
「ソマツって、もともとボクに命はないよ? サキミタマだもん」
納得できないのか、チハルは頬を膨らませた。

「全部差し出してしまったら、チハルの存在は無くなってしまうだろ? ぬいぐるみに戻ったとしても、それもうチハルじゃないんだ」
「だけど……ボクはくまちゃんでもあるんだよ?」
「ぬいぐるみは器だろ。精霊として姉さんにつけてもらった名前はチハルじゃないか。
チハルが居なくなるのは、すごく悲しいことなんだ。それを隆さんは怒ったんだよ」
「ボクが消えちゃうのが、みんなかなしいってこと?」
「そうだよ。みんなチハルの事が大好きだからね」
「そっか……。わかったよ。ごめんなさい」

ようやく理解できたのか、チハルは私と春樹にペコッと頭を下げた。
(私も食べちゃおうとしたんだから、おあいこにしよ?)
(うん。おあいこだね)

(それにしても……春樹って精霊とかに詳しかったっけ?)
私は不思議に思って、心の中で首をかしげた。
よく考えれば、私がチハルを食べようとしていた事実をすんなり受け入れているようだった。

「あのね、愛菜ちゃんがどうして春樹は精霊にくわしいのって聞いてるよ?」
「高村の伝承を手に入れたからね。伝承では、精霊って陽の気だけを持った精神体なんだってさ。
幸御魂だってチハルが言っていたのは、四魂っていう精霊の性質みたいなものだね。
わかりやすく人間に例えると心の部分……特に愛だけ抜き取った存在、みたいなものなんだよ」
(すごいんだね。高村の伝承って)
「全然。マニアックな知識と歪んだ高村の歴史が詰まってるだけさ」

ピンポーン

「周防さんが来たみたいだ。チハル、俺の代わりに姉さんの顔だけでも拭いといて」
それだけ言うと、春樹は階段を下りていく。

私は……
①高村の伝承について考える
②チハルに精霊についてきく
③大人しく周防さんを待つ

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①高村の伝承について考える

チハルにおしぼりで顔を拭かれながら、私は考える。
春樹が言うには伝承とは、「マニアックな知識」と「歪んだ高村の歴史」が詰まってるものらしいけど……。

(マニアックな知識って……?)

たった今、春樹から精霊についての説明を聞いた。
以前、周防さんからも『伝承どおりなら、愛菜ちゃんの力は太極の陰陽両儀だ』と聞いた。

少なくとも、力や精霊に関しての知識が記されている事だけはわかる。
前に放送室で、「力についての知識を得るために組織へ近づいた」と一郎くんが教えてくれた。
もしかしたら、伝承に記された知識が目的だったのかもしれない。

(もう一つ言っていたのは、高村の歴史か……)

昨日、チハルの体に神様が入ってきたことがあった。
あの時、神様がいっていた伝承についての言葉を思い返してみる。

『伝承を正しく伝えるのが一族の勤め』
『一族の先祖は出雲へは移らず石見国で伝承を伝え続けた』
『そなたらが行う事象そのものが伝承となる』

きっと過去の高村家の人々が後世に伝承を伝え、今に至るのだろう。

(ねぇチハル。チハルは高村の伝承って知ってる?)
(名前だけなら知ってるよ)
(名前だけ……そっか)
(デンショウがどうかしたの?)
(あっ! そういえば……)
(なあに?)
(ううん、なんでもない。少し思い出したことがあったんだよ)

昨日の夜、春樹の言葉にも伝承という単語があったのを思い出した。

『突然、神宝力が覚醒したと思ったら、高村の伝承が頭の中に入ってきて……』

伝承は高村家の中でも、神宝の力を手にした者だけが得られるものみたいだ。
祖先から培われてきた知識と系譜が伝承と呼ばれ、ずっと伝えら続けてきたのかもしれない。

(周防さんも伝承を知ってるって事は……神宝なのかな)

そんなことを考えていると、ノックの音が聞こえ、それから扉が開く音がした。

ます入ってきたのは……
①周防さん
②春樹
③別の誰か

839
①周防さん

「よっ! 愛菜ちゃん」

片手を挙げながら入ってきたのは、周防さんだった。
基本がマイペースなのか、どこで会っても周防さんの様子は変わらない。
(あ……周防さん。こんにちは)

初めて見る周防さんに少し警戒しているのか、チハルは私から離れようとしなかった。
手を握って、心の中に語りかけてくる。

(この人が愛菜ちゃんがいってたスオウなの?)
(そうだよ。とってもいい人なんだ)
(悪いカンジはしないけど、モヤモヤの気がまじってるね)
(それは陰の気だよ。多分、神宝の影響じゃないかな)
(モヤモヤのカンジが春樹とよくにてる……)
(従兄だから似てるんだよ。それでね、チハル。また私の代わりに会話してもらってもいいかな?)
(愛菜ちゃんのお話を、ボクがスオウに伝えればいい?)
(うん。お願いね、チハル)

「おっ、この小さいのは精霊だな」

周防さんはチハルに近づくと、その頭をくしゃくしゃと撫で始めた。
チハルは逃げるように頭を押さえながら、周防さんを見上げている。

「ちいさいのじゃなくて、ボクはチハルだもん。おじさんはスオウだよね」
「お、おじさん……。せめてお兄さんにならないか?」
「ならないよ。スオウはおじさんだもん」
「なぁ、春樹。ちゃんとこの精霊に教育してるのか?」
「チハルは姉さんのぬいぐるみから出てきた精霊ですから。文句は俺じゃなく、姉さんに言ってください」

コーヒーを持って来た春樹が、苦笑いで答えてる。
周防さんはチハルの頭から手を離し、仕方なさそうに溜息を吐いた。

「そうかー、愛菜ちゃんの精霊ならおじさんでも許すしかないな」
「姉さんだったら許すって……今、すごい贔屓を感じたんですけど」
「そりゃ、従弟よりも女子高生に好かれたいからな」
「やっぱり、スオウはおじさんだ! おじさんだ!」

チハルは歌うように言って、クルクルと楽しそうに踊りだす。

「参ったな……。悔しいが、この小さいのに一本取られたみたいだな」

笑いながら頭を掻くと、周防さんは私のすぐ傍まで近づいてくる。
そして、少しだけ真面目な顔になって私の額にそっと触ってきた。

(愛菜ちゃん、色々大変だったな。大丈夫だったか?)

私の心に直接、周防さんの心配そうな声が聞こえてきた。

①(周防さん……?)
②(チハルが失礼なこと言ってしまって済みません)
③(闇について教えてください)

840
①(周防さん……?)

なぜ周防さんの声が私の心に直接聞こえてくるのがわからない。
私は、途惑うばかりだ。

(こんな体にさせてしまったのは、神宝の影響だ。本当に済まない)
(周防さんの声が心に……でも……あれ……?)

まるで私の心が読めているように、周防さんは語りかけてくる。
昨日、誰かと交信できないか試して、全員だめだったのに。

(心配しなくていい。これが俺の能力だからさ)

やっぱり周防さんの声が心に直接届いてくる。
私の言葉も周防さんには分かっているみたいだ。

(周防さんの能力?)
(この能力の種明かしはあまり好きじゃないんだが……)

周防さんは私の額から手を離すと、その両手を私に見せる。
そして、また額に触れる。触れた瞬間、また私の心に声が聞こえだす。
また私から周防さんが手を離すと、声が途切れる。
今度は私の手を握ると、また声がした。

(わかったかい?)
(周防さんが私に触れたびに、声が直接聞こえてきます)
(だろうな。俺は触れたものの思念を読み、伝えることができる。神宝の辺津鏡(へつのかがみ)の力なんだ)
(思念を読む……)
(サイコメトリーとテレパシーのあわせ技だよ。俺のは少し変わっていて、精神攻撃も出来るんだ)
(精神攻撃ですか……?)
(テレパシーノックアウトっていうんだけどさ。大嫌いだから、一度しか使ったこと無いけどな)

よく考えてみたら、周防さんにはいつも頭やなんかを触られていた気がする。
そのとき必ず、私の心を見透かすような発言をしていた。
たしか修二くんと初めて会った時にも、周防さんから握手を求めていたのを思い出す。

(うわぁ……。じゃあ、私の心も全部読まれてたってことですか?)
(まあ、触っている時だけな)
(恥ずかしい……私、へんな事考えてませんでしたよね?)
(いいや。愛菜ちゃんの心はいつも優しくて純粋だよ)

それだけ言うと、周防さんはパッと私から手を離して微笑む。
「……さてと。俺に尋ねたいことがあるんだったっけ」
「そうだ、姉さん。周防さんに尋ねたいことがあったんだよね?」
「そこのちっさい精霊が通訳してくれるんだよな」
「うん。ボクが愛菜ちゃんの代わりに答えるよ」

じゃあ何からきこうかな……
①闇についてきく
②秋人さんについてきく
③伝承についてきく

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