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[[451~460>http://www22.atwiki.jp/1000ed/pages/63.html]] 461 ①一郎くんのいいところを言う 肩越しに、一郎君くんの息遣いまで聞こえてくる。 これほどの至近距離なのに、なぜかとても冷静な自分がいることに気付く。 「臆病の何が悪いの? 人の痛みを知っているから、臆病になってしまうんだよ。 一郎くんは人の話を真剣に聞いて、ちゃんと汲み取ってくれる優しさがあるじゃない。 あまり感情を表に出さないから誤解されてしまう事もあるけど、一郎くんの優しさをわかっている人だってちゃんといるよ。 それは、決して弱さなんかじゃないよ」 私の言葉を聞いて、一郎くんがゆっくり顔を上げる。 その瞳はまるで迷子のように寂しそうだった。 「大堂……」 「実は私もね、最初は一郎くんが完璧すぎて少し怖かったんだ。 でも放送委員で一緒にやっていく内に、一郎くんのさりげない気遣いや思いやりに気付けたんだよ。 私でも気付けたのに、一番身近にいる修二くんが気付いていないはず無いよ」 「やめてくれ。君は……俺を買いかぶり過ぎている」 一郎くんは扉につけたままの手をギュッと握り締め、拳を固めた。 「どうして自分自身を嫌うの? そんなの駄目だよ」 「修二に比べると、やはり俺は弱い。君が言う気遣いも、相手から嫌われないための処世術に過ぎない。 俺は絶えず何かに怯えている。見捨てられないように……」 一郎くんはとても苦しそうに顔をしかめた。 「見捨てる? 誰も一郎くんを見捨てたりしないよ」 「わかっている…。わかっているが、どうしようもなく孤独に苛まれてしまう時があるんだ。 気丈に振舞ってみても……自分の弱さを抑えられなくなる」 さっきと同じ、迷子の瞳が私に向けられる。 (もしかしたら……、一郎くんは……昔の私?) お母さんが居なくなってから、ずっと私も怯えていた。 私のことが嫌いになったから、お母さんは出て行ったんだと自分を責め続けていた。 一郎君も力のせいで、幼い頃に施設に預けられていた。 親に見捨てられたと思い込んでしまうことで、トラウマとして今も一郎くんを苦しめているのかもしれない。 私は… ①私も同じだと言う ②黙って微笑む ③抱きしめる 462 ②黙って微笑む けれどこれは自分で乗り越えるしかないことだ。 理性で孤独ではないとわかっていても、感情が暴走する事だって確かにある。 私が心の底から、自分は孤独じゃないって実感できたように、一郎君だってそうできるはずだ。 私には、幼馴染の隆がそばに居て、その後は弟になった春樹がどうしようもない不安を取り除いてくれた。 一郎君にもずっとそばに修二君がいたのだ。 いや、もしかしたら修二君ではダメなのかもしれない。 一郎君は自分と修二君を比べて劣等感を抱いているから。 「それじゃあ、孤独でどうしようもなくなったら、私に連絡頂戴?」 「大堂…?」 「私だって一郎君の話を聞く位はできるんだよ。あ、あんまり高尚な話だと理解できないけどさ」 不思議そうな顔になった一郎君に、説明する。 「ほら、会話って相手が居ないとできないでしょ?相手が居るって事は孤独じゃないって事だし…ね?」 私の言葉に一郎君は驚いた顔になり、それから泣きそうな顔でわらった。 「大堂はすごいな」 一郎君は目を伏せ、次に目を開けたときにはいつもの一郎君だった。 ゆっくりと体を起こし私を解放する。 「すまなかった、ありがとう」 一郎君は少し恥ずかしそうにうつむいて笑うと、くるりと私に背をむけ今まで作業していた机を片付け始める。 私は… ①先に帰る ②このまま一郎君を待つ ③何か話す 463 ③何か話す 「「あの……」」 ほぼ同時に私たちは声を掛け合ってしまった。 その後、なんとも言えない沈黙が私たちの間に流れる。 「な、何かな…一郎くん」 「大堂こそ、俺に何か言おうとしていただろう…」 「あー…、べつにたいした事じゃないの。「また明日」って言おうとしただけだから」 (私、一郎君にすごく偉そうなこと言っちゃったような気がするよ……) なぜか今頃になって気恥ずかしさが、こみ上げてくる。 一郎君の姿をまともに見ることが出来ない。 「一郎君はどうしたの? 私に言いたいことがあるんだよね」 誤魔化すように、一郎君に向かって尋ねた。 「俺もたいした事じゃない。ただ……さっきの話はその…修二には秘密にして欲しいんだ」 私に背を向けたまま片付けを続けているせいで、一郎君がどんな顔をしているのか判らない。 ただ口調から気まずいのは一郎君も同じなのかな、と感じた。 「どうして?」 「修二に劣等感を抱いている事を知られたくないんだ」 「いいけど……。修二君に素直な気持ちを言った方がすっきりするんじゃない?」 「駄目だ。君には分らないかもしれないが、男兄弟というのは自分の弱みはみせたくないものなんだ」 一郎君は鞄を持って、私の方に向き直った。 一見、いつもどおりに見えるけど、一郎君の顔が少し顔が赤いような気もする。 「そういうものなの?」 「そういうものだ」 有無を言わせない口調で一郎君は言い切った。 私は… ①「でも、それならどうして私には言ってくれたの?」 ②「うん、わかったよ」 ③「じゃあ、春樹も私に弱みをみせたくないのかな…」 464 ②「うん、わかったよ」 私が素直に頷くと、一郎君はほっとしたような表情を見せた。 「ありがとう、そうしてくれると助かる」 一郎君は空いている方の手に放送室の鍵を持って扉を開けた。促されるように私も廊下へ出る。 (なりゆきだけど一緒になっちゃったし、先に帰っちゃうのもヘンだよね) 結局、戸締りをした後鍵を返しに職員室に向かう一郎君についてゆくことにした。 「兄弟がいるって、どんなかんじ?」 放課後の廊下を並んで歩きながら、ふと思いついた事を一郎くんに尋ねてみる。 「……どうした、急に。大堂にも弟くんがいるだろう」 「うん、そうなんだけどね。えっと、春樹は男の子でしょ?それに私よりも大人だしあんまり兄弟ってかんじじゃないから」 「歳の近い姉か妹が欲しかった、と。そういう事か?」 そう言って一郎君はほんの少し表情を崩した。 「あ、一郎くん今子供っぽいって思ったでしょう」 「いや。……そうだな。数回話しただけだが、弟くんは君よりも大分大人びた印象を受ける」 「春樹の方がしっかりしてるって、みんなそう言うよ……」 うなだれる私の隣りでなんでもないように一郎君が言った。 「彼がそうありたいと努めてるんだろう、おそらく」 一郎君の言葉は意外だった。春樹は出会った当時からしっかり者だったし、今までもそんな春樹の性格は生来のものだと思い込んでいたけれど。 「努める?春樹が?」 「ああ。無理をしているとまでは言わないが、君の前では特に」 「そう……なのかな、でも最近なんだかケンカばっかりなんだよね。もしかして、それが原因なのかな。春樹、私の世話で疲れちゃったってこと?」 「俺は弟くんではないから、これはあくまで推測の域を出ないが……」 一郎君は横目で眉間に皺が寄った私の顔を見やると、小さく笑って言った。 「彼が君の世話を焼くのは彼が好きでやっていることだろう。君が気に病む事じゃない」 「……どうしてそう思うの?男同士、何か通じるものでもあったり?」 「さあ、どうだろうな」 私の問いかけを軽くはぐらかすと、私を一人廊下に残して一郎君は辿り着いた職員室の中に入っていってしまった。 (さっきは一郎君を少し身近に感じた気がしたけど、やっぱりよくわからないや……) 一郎君を待ちながら、ぼんやりとそんな事を思った。 さて、どうしよう? ①せっかく職員室まで来たので、近藤先生に改めてお礼を言う ②一郎君の言葉からなんとなく春樹の事を考えてみる ③さっき聞いた一郎君と修二君の関係について思い返す
[[451~460>http://www22.atwiki.jp/1000ed/pages/63.html]] 461 ①一郎くんのいいところを言う 肩越しに、一郎君くんの息遣いまで聞こえてくる。 これほどの至近距離なのに、なぜかとても冷静な自分がいることに気付く。 「臆病の何が悪いの? 人の痛みを知っているから、臆病になってしまうんだよ。 一郎くんは人の話を真剣に聞いて、ちゃんと汲み取ってくれる優しさがあるじゃない。 あまり感情を表に出さないから誤解されてしまう事もあるけど、一郎くんの優しさをわかっている人だってちゃんといるよ。 それは、決して弱さなんかじゃないよ」 私の言葉を聞いて、一郎くんがゆっくり顔を上げる。 その瞳はまるで迷子のように寂しそうだった。 「大堂……」 「実は私もね、最初は一郎くんが完璧すぎて少し怖かったんだ。 でも放送委員で一緒にやっていく内に、一郎くんのさりげない気遣いや思いやりに気付けたんだよ。 私でも気付けたのに、一番身近にいる修二くんが気付いていないはず無いよ」 「やめてくれ。君は……俺を買いかぶり過ぎている」 一郎くんは扉につけたままの手をギュッと握り締め、拳を固めた。 「どうして自分自身を嫌うの? そんなの駄目だよ」 「修二に比べると、やはり俺は弱い。君が言う気遣いも、相手から嫌われないための処世術に過ぎない。 俺は絶えず何かに怯えている。見捨てられないように……」 一郎くんはとても苦しそうに顔をしかめた。 「見捨てる? 誰も一郎くんを見捨てたりしないよ」 「わかっている…。わかっているが、どうしようもなく孤独に苛まれてしまう時があるんだ。 気丈に振舞ってみても……自分の弱さを抑えられなくなる」 さっきと同じ、迷子の瞳が私に向けられる。 (もしかしたら……、一郎くんは……昔の私?) お母さんが居なくなってから、ずっと私も怯えていた。 私のことが嫌いになったから、お母さんは出て行ったんだと自分を責め続けていた。 一郎君も力のせいで、幼い頃に施設に預けられていた。 親に見捨てられたと思い込んでしまうことで、トラウマとして今も一郎くんを苦しめているのかもしれない。 私は… ①私も同じだと言う ②黙って微笑む ③抱きしめる 462 ②黙って微笑む けれどこれは自分で乗り越えるしかないことだ。 理性で孤独ではないとわかっていても、感情が暴走する事だって確かにある。 私が心の底から、自分は孤独じゃないって実感できたように、一郎君だってそうできるはずだ。 私には、幼馴染の隆がそばに居て、その後は弟になった春樹がどうしようもない不安を取り除いてくれた。 一郎君にもずっとそばに修二君がいたのだ。 いや、もしかしたら修二君ではダメなのかもしれない。 一郎君は自分と修二君を比べて劣等感を抱いているから。 「それじゃあ、孤独でどうしようもなくなったら、私に連絡頂戴?」 「大堂…?」 「私だって一郎君の話を聞く位はできるんだよ。あ、あんまり高尚な話だと理解できないけどさ」 不思議そうな顔になった一郎君に、説明する。 「ほら、会話って相手が居ないとできないでしょ?相手が居るって事は孤独じゃないって事だし…ね?」 私の言葉に一郎君は驚いた顔になり、それから泣きそうな顔でわらった。 「大堂はすごいな」 一郎君は目を伏せ、次に目を開けたときにはいつもの一郎君だった。 ゆっくりと体を起こし私を解放する。 「すまなかった、ありがとう」 一郎君は少し恥ずかしそうにうつむいて笑うと、くるりと私に背をむけ今まで作業していた机を片付け始める。 私は… ①先に帰る ②このまま一郎君を待つ ③何か話す 463 ③何か話す 「「あの……」」 ほぼ同時に私たちは声を掛け合ってしまった。 その後、なんとも言えない沈黙が私たちの間に流れる。 「な、何かな…一郎くん」 「大堂こそ、俺に何か言おうとしていただろう…」 「あー…、べつにたいした事じゃないの。「また明日」って言おうとしただけだから」 (私、一郎君にすごく偉そうなこと言っちゃったような気がするよ……) なぜか今頃になって気恥ずかしさが、こみ上げてくる。 一郎君の姿をまともに見ることが出来ない。 「一郎君はどうしたの? 私に言いたいことがあるんだよね」 誤魔化すように、一郎君に向かって尋ねた。 「俺もたいした事じゃない。ただ……さっきの話はその…修二には秘密にして欲しいんだ」 私に背を向けたまま片付けを続けているせいで、一郎君がどんな顔をしているのか判らない。 ただ口調から気まずいのは一郎君も同じなのかな、と感じた。 「どうして?」 「修二に劣等感を抱いている事を知られたくないんだ」 「いいけど……。修二君に素直な気持ちを言った方がすっきりするんじゃない?」 「駄目だ。君には分らないかもしれないが、男兄弟というのは自分の弱みはみせたくないものなんだ」 一郎君は鞄を持って、私の方に向き直った。 一見、いつもどおりに見えるけど、一郎君の顔が少し顔が赤いような気もする。 「そういうものなの?」 「そういうものだ」 有無を言わせない口調で一郎君は言い切った。 私は… ①「でも、それならどうして私には言ってくれたの?」 ②「うん、わかったよ」 ③「じゃあ、春樹も私に弱みをみせたくないのかな…」 464 ②「うん、わかったよ」 私が素直に頷くと、一郎君はほっとしたような表情を見せた。 「ありがとう、そうしてくれると助かる」 一郎君は空いている方の手に放送室の鍵を持って扉を開けた。促されるように私も廊下へ出る。 (なりゆきだけど一緒になっちゃったし、先に帰っちゃうのもヘンだよね) 結局、戸締りをした後鍵を返しに職員室に向かう一郎君についてゆくことにした。 「兄弟がいるって、どんなかんじ?」 放課後の廊下を並んで歩きながら、ふと思いついた事を一郎くんに尋ねてみる。 「……どうした、急に。大堂にも弟くんがいるだろう」 「うん、そうなんだけどね。えっと、春樹は男の子でしょ?それに私よりも大人だしあんまり兄弟ってかんじじゃないから」 「歳の近い姉か妹が欲しかった、と。そういう事か?」 そう言って一郎君はほんの少し表情を崩した。 「あ、一郎くん今子供っぽいって思ったでしょう」 「いや。……そうだな。数回話しただけだが、弟くんは君よりも大分大人びた印象を受ける」 「春樹の方がしっかりしてるって、みんなそう言うよ……」 うなだれる私の隣りでなんでもないように一郎君が言った。 「彼がそうありたいと努めてるんだろう、おそらく」 一郎君の言葉は意外だった。春樹は出会った当時からしっかり者だったし、今までもそんな春樹の性格は生来のものだと思い込んでいたけれど。 「努める?春樹が?」 「ああ。無理をしているとまでは言わないが、君の前では特に」 「そう……なのかな、でも最近なんだかケンカばっかりなんだよね。もしかして、それが原因なのかな。春樹、私の世話で疲れちゃったってこと?」 「俺は弟くんではないから、これはあくまで推測の域を出ないが……」 一郎君は横目で眉間に皺が寄った私の顔を見やると、小さく笑って言った。 「彼が君の世話を焼くのは彼が好きでやっていることだろう。君が気に病む事じゃない」 「……どうしてそう思うの?男同士、何か通じるものでもあったり?」 「さあ、どうだろうな」 私の問いかけを軽くはぐらかすと、私を一人廊下に残して一郎君は辿り着いた職員室の中に入っていってしまった。 (さっきは一郎君を少し身近に感じた気がしたけど、やっぱりよくわからないや……) 一郎君を待ちながら、ぼんやりとそんな事を思った。 さて、どうしよう? ①せっかく職員室まで来たので、近藤先生に改めてお礼を言う ②一郎君の言葉からなんとなく春樹の事を考えてみる ③さっき聞いた一郎君と修二君の関係について思い返す 465 ①せっかく職員室まで来たので、近藤先生に改めてお礼を言う (近藤先生居るかな…?) 職員室を覗き、近藤先生がいるか確認する。 (あれ…いないや) けれど良く考えれば、近藤先生だって自分のクラスや部活動の監督があるはずだ。 「大堂さんじゃないか」 その時、後から声をかけられた。振り向くと今まさに考えていた近藤先生が立っている。 「あ、近藤先生」 「こんなに遅くまで残ってどうしたんだ?今日は具合がわるいんだろう?早く帰りなさい」 近藤先生は眉をしかめて私を見下ろしている。 お礼を言いたいけれど、とてもそんな雰囲気ではない。早く帰りなさいという無言の威圧感がある。 (確かに具合が悪かった人がこんな時間まで残ってたら、逆に心配かけちゃうよね…) 言葉はきついが、それが近藤先生の優しさだと分かっていても、竦んでしまう。 「大堂すまない、待たせた」 そのとき、職員室から出てきた一郎くんに声をかけられた。 私へ向けられた意識が、一郎くんへと移り思わずホッと息をつく。 「ん?……ああ、宗像くんか」 「近藤先生。どうかしたんですか?」 「いや、たいした事ではない。大堂さんを送っていくのか?」 「はい、そのつもりですが」 「そうか、なら安心だな。気をつけて帰りなさい」 「はい。さようなら」 「…今日はいろいろありがとうございました。さようなら」 一郎くんと二人で先生にあいさつをして歩き出す。 「近藤先生となんかあったのか?」 「なんかあったっていうか…」 ①朝の話をする。 ②威圧感がすごいと言う。 ③口ごもる。 466 ③口ごもる。 「あー。えっと…」 朝の話をしようとして、また修二君とのキスの話に戻ってしまう事に気付いた。 (また、気まずい雰囲気になりたくないし…やめておこう) 「な、なんでもないよ。帰ろうか、一郎君」 「ああ」 口ごもってしまった私を察したのか、一郎君はそれ以上は詮索してこなかった。 校舎を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。 一郎君と校門を出て、見慣れた街なみをゆっくり歩く。 きっと、私の歩くペースにあわせてくれているのだろう。 しばらく歩くと、道が十字路になっていた。 私は歩みをとめて、一郎君を見た。 一郎君も二、三歩先を歩いたところで、私の方を向き直る。 「どうした? 大堂」 「遠回りになるから、ここまででいいよ」 「俺が好きで送っていくと言ったんだ。気にする事はない、君の家まで送ろう」 「でも……」 「構わない。ここで立ち話をしていたら余計に遅くなってしまう」 一郎君は私が歩き出すのを待っている。 「さあ、行こう」 「あ…うん」 結局、家の前まで送ってもらってしまった。 「一郎君、ありがとう」 「いや…それより、さっきは取り乱してしまって済まなかった。君に不快な思いをさせてしまったな」 一郎君は少し困った顔をしながら言った。 「そんなことないよ」 「ならば、よかった…」 安心したように、一郎君は少しだけ笑顔をみせた。 「じゃあ、一郎君。気をつけて帰ってね」 一郎くんは私の言葉に、小さく手を振って返してくれた。 (少し遅くなったから、春樹が心配してるかも) 「ただいまー」 玄関のドアを開けると、誰かが私を待つように立っている。 立っていたのは… ①春樹 ②隆 ③チハル 467 ③チハル 「おかえりなさい!愛菜ちゃん!!」 チハルはそう言うやいなやまだ玄関の扉も閉めきらない私に、まるでじゃれる子猫が飛びつくみたいに 勢いよく抱きついてきた。突然のことによろけながらもなんとか体勢を立て直して扉を閉める。 「ただいま、チハル。遅くなっちゃってごめんね」 覗き込みながら声をかけると、チハルは抱きついたまま不満そうな声をあげた。 「ほんとだよ!はるきのそばにいなきゃだめっていわれたからがまんしてたけど、ぼく愛菜ちゃんのことうんとしんぱいしたんだからね」 「そっか、我慢してお留守番もしてくれてたんだね。ありがとう、チハル」 そう言いながらチハルの髪をゆっくりなでる。チハルはしがみついたまま小さく首をかしげた。 「……愛菜ちゃん、うれしい?」 「うん、とっても嬉しいよ。チハルはいい子ね」 チハルはいつも聞きたがる褒め言葉を聞けたことに満足したらしく、顔をあげると本当に嬉しそうに笑った。 (チハルを見てると、なんだか元気が出るかんじがするなあ) 私もはしゃぐチハルにつられたように、自然と顔がほころんだ。 「おかえり、姉さん。……そんなところでどうしたの?」 私とチハルの話し声が聞こえたのだろうか、春樹がリビングから顔を出した。 春樹の言葉に玄関先で靴も脱がずにチハルとくっついている今の状況を思い出して、チハルをなだめて退いてもらいなんとかスリッパに履き替える。 「ただいま春樹。ごめんね、クラスの準備の後で委員会の方に顔出してたらこんな時間になっちゃった」 「近藤先生に具合が悪いって聞いたんだけど……その様子だと大丈夫そうだね」 「え、うん……まあ今は元気だけど」 てっきり恒例のお小言が待っているものと覚悟していたのに、妙にあっさりした春樹に軽い違和感を覚える。 「……どうかした? ちょうど今夕飯が出来た所なんだ、着替えたらテーブルで待ってて。俺隆さんを呼んでくるよ」 「じゃあ、お願いするね」 春樹はわかった、と返事をしたもののこちらを見もしないで脇をすり抜けて玄関を出て行った。 (どうしたんだろう、怒られなかったのは良かったけど……。それほど心配しなかったのかな) もやもやとした疑問を抱える私の手をひいて、チハルがもどかしそうに言った。 「愛菜ちゃん、どうしたの?おへやにいかないの?」 どうしようかな? ①おとなしくチハルと一緒に自分の部屋へ行く ②気になるのでそれとなくチハルに今日の春樹の様子を尋ねる ③先に帰った事を香織ちゃんにメールで謝る 468 ②気になるのでそれとなくチハルに今日の春樹の様子を尋ねる 私は階段を上りながらチハルに話を振る。 「ねえチハル。なんか今日の春樹おかしくない?」 私の言葉にチハルは首を傾げうーんと唸る。 「ボクわかんないよ。愛菜ちゃんのことは良く知ってるけど春樹のことなんて知らないし」 確かに隆に動けるようにしてもらうまでのチハルはずっと私の部屋に置かれていて、通常の春樹の様子を知りようがない。 部屋に入って着替えながら、ちょっと考えてチハルにたずねる。 「それじゃ今日は一日どんな感じだった?」 「うーん、ずっと机にすわってて前に立ってる人の話を聞いてた」 チハルが言っているのはたぶん授業のことだろう。 「他には?」 「あ!おっきい男の人が、愛菜ちゃんが具合悪いって言いに来た」 「おっきい男の人…ああ、近藤先生ね」 「あとは……あ、ときどきぼーっとしてため息ついてた」 「ぼーっとしてため息?」 春樹がぼーっとしているなんて、珍しい。しかもため息までついて? 「…おかしい」 「?」 きょとんとした顔で首を傾げるチハルの頭を撫でながら、原因を考える。 ①昨日のことをまだ引きずっている? ②朝、最近夢見がわるいって言ってたのが原因? ③もっとほかの事? 469 ②朝、最近夢見がわるいって言ってたのが原因? (そういえば春樹、最近夢見が悪いみたいな事言ってたよね……) 「ねえねえ愛菜ちゃん、どうしたの?しんぱいごと?」 上の空な私の様子が気になったのか、チハルは髪を撫でる私の手を止めた。チハルなりに心配してくれたようで、小さく眉根を寄せている。 「ごめんごめん。春樹があんまりよく眠れないって言ってたから、そのせいかなって思って」 「……またはるきのこと?」 チハルはむっつりとそう言うと隠そうともせずに不満の色を露にした。あまりにわかりやすいチハルに対し、苦笑いは漏れるもののどこかで仕方なく思うような自分がいる。 「またって……春樹は私の弟だから。私にはチハルの事とおんなじくらいに気になるんだよ」 「ボクのこととおんなじくらい?」 「そう。チハルが夜眠れないって言ったら心配するし、それとおんなじように春樹も心配なの」 「ボク、よるねむれないなんていわないよ。愛菜ちゃんといっしょだもん」 「うんまあ、そうなんだけどね」 なぜか得意げなチハルが可愛らしくて、ほんの少し笑ってしまう。チハルはそれが面白くなかったのか、ぷうっと頬を膨らませた。 「もー、ボクはいっつも愛菜ちゃんのことかんがえてるのにどうしてはるきのしんぱいなんてするの。はるきなんか……」 「?どうしたの?」 「そうだ!はるきなんか、うしろにすわってたおんなのこにおかしもらってた!なんとかじっしゅうとかいうのでつくったのよって。ほかのひとにはないしょねって!」 (お菓子?……ああ、調理実習の事かな?私も去年、クッキー作ったんだよね) 「良いじゃない、私も学校でお菓子作ったらお友達にあげたりするよ?」 「でもはるき、にこってしてありがとうっていってた。愛菜ちゃんといっしょのときはいっつもぷんぷんしてるのにね。あのおんなのこのほうがはるき、やさしいよ。だから、愛菜ちゃんもはるきなんかきにしなくていいよ」 力説するチハルにどう答えたものかと思案していると、着替え終わった私にチハルはぎゅっと抱きついてきた。 「ボクは愛菜ちゃんのこといちばんかんがえてるし、いちばんしんぱいしてるよ。ボク愛菜ちゃんがいちばんすき」 そう言って見上げるチハルの目には少しの迷いもない。チハルの澄んだ目に映る自分の顔を不思議な気持ちで眺めた。 私の今の気持ちは…… ①チハルの好意が素直に嬉しい ②春樹の話がショック ③どうしてチハルがそんなに春樹を嫌がるのか不思議 470 ①チハルの好意が素直に嬉しい 「ありがとうチハル」 まっすぐに私に向けられる好意がくすぐったくて、うれしい。 ぎゅっとチハルを抱きしめて頬ずりする。 「愛菜ちゃんくすぐったいよー」 チハルが笑いながらじたばたと身をよじる。 すっぽりと腕の中に納まるチハルを抱きしめていると、ホッとする。 元はぬいぐるみのはずなのに、その体は私たちと変わらず暖かい。 「はー、なんかチハルをぎゅーってしてると落ち着くな」 小さい頃からずっと一緒で、子供の頃はそれこそぬいぐるみのチハルを抱きしめていた。 「愛菜ちゃんいつもボクをぎゅーってしてたよね」 にこにこ笑いながらチハルが私を見上げてくる。 そうだね、と頷いて笑い返すとふとチハルが何かを思いついたかのように声を上げた。 「あ!」 「どうしたの?チハル」 「いつも愛菜ちゃんがぎゅーってしてくれるから、今度はボクがぎゅーってしてあげる!」 「え?」 チハルは言うないなや私の腕をすり抜けて、私の体を抱きしめる。 今までのじゃれて抱きついてくるのとは違う。抱きしめる動作。 「むー」 「どうしたの?」 おとなしくチハルのされるがままになっていると、チハルが不満そうに声を上げた。 「ボクちいさくて愛菜ちゃんの背中に手がまわらない」 「チハルは小さいから」 不満そうなチハルの言葉に、思わず笑ってしまう。 「そっか、ボクが大きくなればいいんだ」 チハルはそういうと、ポンと軽い音を立てた。 それがチハルが変身するときの音だと分かっていたけれど、急に目の前に現れた男の子とチハルが私の中でつながらない。 「愛菜ちゃん、これでぎゅーってできるね」 にっこり笑って目の前の男の子が私をぎゅっと抱きしめる。 「ち、チハル!?」 「うん、どうしたの?愛菜ちゃん?」 私はあわてて大きくなったチハルを見上げる。 見下ろしてくる目は、確かに以前のチハルと変わらない。 顔もたしかに子供のチハルの面影がある。 けれどその声はさっきより低いし、目の前に居るチハルは私とほぼ変わらない年齢に見える。 「おーい、愛菜、晩飯食わないのか?」 その時、階段を上がってくる音と、隆の声が近づいてきた。 春樹が呼びに行ってから結構時間が経っていたようだ。 でも今の状態はやばいのではないだろうか…? どうしよう ①チハルはチハルだしこのまま気にしないことにする。 ②チハルに子供の姿に戻るように言う。 [[③隆に部屋の戸をあけないように言う。>http://www22.atwiki.jp/1000ed/pages/65.html]]

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