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[[春樹961~970]]
私達のクラスの出し物はお化け屋敷だ。
お化け屋敷といっても色々あるけれど、お岩さんや落ち武者が出てくる古典的な和風もの。
別のクラスが洋風のお化け屋敷をするから消去法で和風になった。
とはいえ、着物などの小道具はなかなか揃えるのが大変だったようだ。
古い浴衣を汚してみたいり、安いウィッグを貼り合せてお化けのような乱れたカツラにしたていったらしい。
教室の中が暗く見にくいけど、妥協しないのが責任者になった香織ちゃんの流儀だそうだ。
「お待たせしました。次の方、入ってください」
午後から、私は入り口でお客さんの案内をする入場係をしている。
放送委員の仕事と兼任だったし、何より「愛菜はお客さんより恐がるに決まってる」と香織ちゃんに言われたからだ。
くやしいけどもっともな意見だ。
さすが親友、私の苦手な事もよく知っている。
入場係といっても教室内が混み合わないように入場制限をしたり、並んで待っている人達に気を配ったり。
簡単に思えて意外とやる事は多かった。
午後二時過ぎになるとお客さんの入り具合も大分落ち着いてきた。
「愛菜ちゃん!」
係りの仕事に没頭していると名前を呼ばれ、声の方に振り向く。
するとお母さんとチハルが順番待ちの列に並んでいた。
私は二人の所に近づく。
「お母さんチハル。もう出前食堂はいいの?」
(別れた時は冬馬先輩の手伝いをしていたはずだよね)
「あの後、お客さんに手伝わせて申し訳ないってすぐに3年の生徒さんが替わってくれたの。
それから校内をぐるっと回って愛菜ちゃんの様子を見に来たのよ」
「そうだったんだ」
「とーまの手品すごかったよ」
「そうね。千春は沢山遊んでもらえたものね」
しょんぼりしていたチハルもすっかりご機嫌になっている。
心配だったけど、冬馬先輩の言うとおりにして本当によかった。
「ところで愛ちゃんのクラスはお化け屋敷なのね。どんな感じなの?」
「割りと古典的なお化け屋敷かな。結構恐いって評判みたい」
「そう。楽しみだわ」
「香織ちゃんのお岩さんが特に迫真の演技らしくて。その井戸は私が色塗りしたんだ」
話の途中、出口からお客さんが出てくるのが見えた。
「ごめん、私戻るね」
係りの仕事に戻った私はまた案内を始める。
しばらくするとお母さんとチハルの番になった。
「二人ともお待たせ。入っていいよ」
「真っ暗だぁ」
「ちょうど後ろに誰も居ないから、ゆっくり見て回っても平気だよ」
「いってきまーす」
「千春。暗いから一緒に手を繋いでいくのよ」
チハルは嬉しそうに入っていく。
続いてお母さんがあわてて入っていった。
(チハル、恐くないのかな)
昨日まで精霊だったチハルにとっては幽霊なんて親戚みたいなものなのかもしれない。
(そういえば鬼の私がお化け恐がるのも変かも)
そんな事を考えていると、出口からお母さんが出てきた。
次にチハルが顔を出す。
その小さな手にひかれながら青白い顔をした軍人が出てきた。
「ひぃっ……」
一瞬で血の気が引いていく。
その軍人は一直線に私の元にやってきた。
「こっ、来ないで……」
「俺だ、俺」
「悪霊退散。悪霊退散」
「俺を勝手に悪霊にするな」
(すごく馴染みのあるこの声は……)
「もしかして、隆?」
「そうだよ」
「な、なんだ……隆か」
「ホント恐がりだな」
「うっ、うるさいな。いいでしょ、別に」
最初こそ軍服に見えたけど、よく見ると中学の時の学ランにそれらしい装飾しているだけだった。
「あー疲れた。やっと休めるぜ」
「これから休憩?」
「そうだよ。長谷川の奴、俺を奴隷のようにこき使いやがって」
「じゃあお昼ご飯もまだなの?」
「そうだよ。朝遅れた分、存分に働けとさ」
(さすが香織ちゃん。容赦ないな)
「すみません。さっきお化け屋敷の中に居た軍人さんですよね」
二人組みの私服を着た女の子が隆に話しかけてきた。
私達よりも少し幼い感じがする。まだ中学生くらいだろうか。
「ああ。そうだけど」
「よかったら一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」
「別にいいぜ」
「やったね!」
女の子達は嬉しそうにはしゃいでいる。
「よかったら写真撮りますよ」
私は名乗りを上げてカメラを受け取り、シャッターを押した。
女の子二人に挟まれた隆は照れくさそうに鼻をかいている。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
「お前ら中学生か? うちの学校の生徒じゃないよな」
「二人とも中三だから受験で。ここが志望校なんです」
「俺らまだ二年だから一緒になれるかもな。がんばれよ」
「すごくいい学校だから入れるといいね」
「はい、がんばります!」
カメラを受け取った女の子達は満足そうに歩き出した。
去り際に「明るいところで見てもカッコよかったよね」「名前聞いとけばよかった」と会話が耳に入ってきた。
「隆うれしそう。でれってしてるー」
すぐそばにいたチハルが隆を見て言う。
「俺、お化けメイクしてもらってるんだけどな」
「それがよかったんじゃない?」
「だよな。……ってんな訳あるか」
私の言葉に即突っ込みが入る。
「隆くんは素敵だもの。うちの雑誌の男性モデルでも通用すると思うわよ」
お母さんがすかさずフォローを入れる。
「お母さん。褒めすぎると隆がその気になっちゃうよ」
「そうかしら。ねぇ、隆くん。こうやって知らない人から写真頼まれたりする事って初めてじゃないわよね」
「まぁ、たまにはな」
「やっぱり。容姿だけじゃなく優しいし頼れるし、当然女子は放っておかないわよね」
「へー。知らなかったよー」
「棒読みかよ。ていうか、どうでもいいって顔するなっ」
(私、写真頼まれた事なんて一度もないのになぁ)
少し悔しくもあるけど、隆が見栄を張って嘘をつく性格でないのも知っている。
考えてみれば隆のお姉さんの美由紀さんはとても美人だ。
そのお姉さんに似ている隆も顔が整っているといえるだろう。
バレンタインのチョコも毎年それなりに貰っていたようだった。
(たまにすごい男前な行動とるけど基本適当だからなぁ)
「ねぇねぇ隆。お外でチョコバナナ屋さんみつけたんだよ。一緒に食べよう」
私達の話なんて興味がないチハルが隆の手を引く。
「ああ、いいぜ」
「やったぁ」
「千春。隆お兄さんはまだご飯食べてないのよ」
お母さんがあわてて千春に言い聞かす。
「どうせ校庭の模擬店見て回るつもりだし、俺は構わないよ。おばさん」
「そう? ありがとう。千春は隆くんが大好きだから」
「年の離れた弟みたいなもんだしな」
隆はそういうと、チハルの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
チハルは不満そうに頬を膨らまして言った。
「ちがうよ、隆。隆がボクを目覚めさせたんでしょ! だからお父さんなの!」
「千春ったらおかしな事言って。お父さんはお家にいるでしょ」
チハルは自分が人間の子供になった状況がまだ分かっていないようだ。
でも小さい子供のいう事だから、誰も気に留めていない。
心の中でホッと胸をなでおろす。
「あー腹減ったな。さぁ、千春行こうぜ」
よほど空腹なのか、隆は何度もお腹をさすっている。
「うん! 行こう」
チハルは飛びつくように隆と手をつないだ。
「ねぇ、隆。その青い顔のままで行くつもり?」
青白く塗られた顔。包帯をした頭からは血も流している。
「そういやそうだな」
「すっごく目立つよ」
「またメイク直すの面倒だ。このまま昼飯食うさ」
隆は格好に無頓着なところがある。
Tシャツとジャージが正装だと言い張るほどだ。
外野からどう思われようと構わないともよく言うし、きっと気にならないのだろう。
「ねーねー、隆。はやく行こうよ」
「わかったわかった。てかそんなに腕引っ張るなって」
チハルに引きずられるようにして隆達は校庭のほうへ歩き出した。
「愛ちゃん。私達はもうそろそろ帰るわね」
「そうなの?」
「ええ。十分楽しめたもの」
「わかったよ。気をつけて帰ってね」
最後にお母さんは内緒話をするように耳元に顔を寄せてくる。
「時間があるようなら春樹のクラスに行ってみたら? 面白い喫茶店だったわよ」
「面白いってどんな?」
「行ってみれば分かるわよ。じゃあね、愛ちゃん」
お母さんはふふっと笑うと、チハル達を追いかけるため足早に行ってしまった。
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私達のクラスの出し物はお化け屋敷だ。
お化け屋敷といっても色々あるけれど、お岩さんや落ち武者が出てくる古典的な和風もの。
別のクラスが洋風のお化け屋敷をするから消去法で和風になった。
とはいえ、着物などの小道具はなかなか揃えるのが大変だったようだ。
古い浴衣を汚してみたいり、安いウィッグを貼り合せてお化けのような乱れたカツラにしたていったらしい。
教室の中が暗く見にくいけど、妥協しないのが責任者になった香織ちゃんの流儀だそうだ。
「お待たせしました。次の方、入ってください」
午後から、私は入り口でお客さんの案内をする入場係をしている。
放送委員の仕事と兼任だったし、何より「愛菜はお客さんより恐がるに決まってる」と香織ちゃんに言われたからだ。
くやしいけどもっともな意見だ。
さすが親友、私の苦手な事もよく知っている。
入場係といっても教室内が混み合わないように入場制限をしたり、並んで待っている人達に気を配ったり。
簡単に思えて意外とやる事は多かった。
午後二時過ぎになるとお客さんの入り具合も大分落ち着いてきた。
「愛菜ちゃん!」
係りの仕事に没頭していると名前を呼ばれ、声の方に振り向く。
するとお母さんとチハルが順番待ちの列に並んでいた。
私は二人の所に近づく。
「お母さんチハル。もう出前食堂はいいの?」
(別れた時は冬馬先輩の手伝いをしていたはずだよね)
「あの後、お客さんに手伝わせて申し訳ないってすぐに3年の生徒さんが替わってくれたの。
それから校内をぐるっと回って愛菜ちゃんの様子を見に来たのよ」
「そうだったんだ」
「とーまの手品すごかったよ」
「そうね。千春は沢山遊んでもらえたものね」
しょんぼりしていたチハルもすっかりご機嫌になっている。
心配だったけど、冬馬先輩の言うとおりにして本当によかった。
「ところで愛ちゃんのクラスはお化け屋敷なのね。どんな感じなの?」
「割りと古典的なお化け屋敷かな。結構恐いって評判みたい」
「そう。楽しみだわ」
「香織ちゃんのお岩さんが特に迫真の演技らしくて。その井戸は私が色塗りしたんだ」
話の途中、出口からお客さんが出てくるのが見えた。
「ごめん、私戻るね」
係りの仕事に戻った私はまた案内を始める。
しばらくするとお母さんとチハルの番になった。
「二人ともお待たせ。入っていいよ」
「真っ暗だぁ」
「ちょうど後ろに誰も居ないから、ゆっくり見て回っても平気だよ」
「いってきまーす」
「千春。暗いから一緒に手を繋いでいくのよ」
チハルは嬉しそうに入っていく。
続いてお母さんがあわてて入っていった。
(チハル、恐くないのかな)
昨日まで精霊だったチハルにとっては幽霊なんて親戚みたいなものなのかもしれない。
(そういえば鬼の私がお化け恐がるのも変かも)
そんな事を考えていると、出口からお母さんが出てきた。
次にチハルが顔を出す。
その小さな手にひかれながら血みどろの青白い顔をした軍人が出てきた。
「ひぃっ……」
一瞬で血の気が引いていく。
日本刀を腰に下げた軍人は一直線に私の元にやってきた。
「こっ、来ないで……」
「俺だ、俺」
「悪霊退散。悪霊退散」
「俺を勝手に悪霊にするな」
(すごく馴染みのあるこの声は……)
「もしかして、隆?」
「そうだよ」
「な、なんだ……隆か」
「ホント恐がりだな」
「うっ、うるさいな。いいでしょ、別に」
最初こそ軍服に見えたけど、冷静に見ると中学の時の学ランにそれらしい装飾しているだけだった。
刀もただのおもちゃだ。
「あー疲れた。やっと休めるぜ」
「これから休憩?」
「そうだよ。長谷川の奴、俺を奴隷のようにこき使いやがって」
「じゃあお昼ご飯もまだなの?」
「そうだよ。朝遅れた分、存分に働けとさ」
(さすが香織ちゃん。容赦ないな)
「すみません。さっきお化け屋敷の中に居た軍人さんですよね」
二人組みの私服を着た女の子が隆に話しかけてきた。
私達よりも少し幼い感じがする。まだ中学生くらいだろうか。
「ああ。そうだけど」
「よかったら一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」
「別にいいぜ」
「やったね!」
女の子達は嬉しそうにはしゃいでいる。
「よかったら写真撮りますよ」
私は名乗りを上げてカメラを受け取り、シャッターを押した。
女の子二人に挟まれた隆は照れくさそうに鼻をかいている。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
「お前ら中学生か? うちの学校の生徒じゃないよな」
「二人とも中三だから受験で。ここが志望校なんです」
「俺らまだ二年だから一緒になれるかもな。がんばれよ」
「すごくいい学校だから入れるといいね」
「はい、がんばります!」
カメラを受け取った女の子達は満足そうに歩き出した。
去り際に「明るいところで見てもカッコよかったよね」「名前聞いとけばよかった」と会話が耳に入ってきた。
「隆うれしそう。でれってしてるー」
すぐそばにいたチハルが隆を見て言う。
「俺、お化けメイクしてもらってるんだけどな」
「それがよかったんじゃない?」
「だよな。……ってんな訳あるか」
私の言葉に即突っ込みが入る。
「隆くんは素敵だもの。うちの雑誌の男性モデルでも通用すると思うわよ」
お母さんがすかさずフォローを入れる。
「お母さん。褒めすぎると隆がその気になっちゃうよ」
「そうかしら。ねぇ、隆くん。こうやって知らない人から写真頼まれたりする事って初めてじゃないわよね」
「まぁ、たまにはな」
「やっぱり。容姿だけじゃなく優しいし頼れるし、当然女子は放っておかないわよね」
「へー。知らなかったよー」
「棒読みかよ。ていうか、どうでもいいって顔するなっ」
(私、写真頼まれた事なんて一度もないのになぁ)
少し悔しくもあるけど、隆が見栄を張って嘘をつく性格でないのも知っている。
考えてみれば隆のお姉さんの美由紀さんはとても美人だ。
そのお姉さんに似ている隆も顔が整っているといえるだろう。
バレンタインのチョコも毎年それなりに貰っていたようだった。
(たまにすごい男前な行動とるけど基本適当だからなぁ)
「ねぇねぇ隆。お外でチョコバナナ屋さんみつけたんだよ。一緒に食べよう」
私達の話なんて興味がないチハルが隆の手を引く。
「ああ、いいぜ」
「やったぁ」
「千春。隆お兄さんはまだご飯食べてないのよ」
お母さんがあわてて千春に言い聞かす。
「どうせ校庭の模擬店見て回るつもりだし、俺は構わないよ。おばさん」
「そう? ありがとう。千春は隆くんが大好きだから」
「年の離れた弟みたいなもんだしな」
隆はそういうと、チハルの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
チハルは不満そうに頬を膨らまして言った。
「ちがうよ、隆。隆がボクを目覚めさせたんでしょ! だからお父さんなの!」
「千春ったらおかしな事言って。お父さんはお家にいるでしょ」
チハルは自分が人間の子供になった状況がまだ分かっていないようだ。
でも小さい子供のいう事だから、誰も気に留めていない。
心の中でホッと胸をなでおろす。
「あー腹減ったな。さぁ、千春行こうぜ」
よほど空腹なのか、隆は何度もお腹をさすっている。
「うん! 行こう」
チハルは飛びつくように隆と手をつないだ。
「ねぇ、隆。その青い顔のままで行くつもり?」
青白く塗られた顔。包帯をした頭からは血も流している。
「そういやそうだな」
「すっごく目立つよ」
「またメイク直すの面倒だ。このまま昼飯食うさ」
隆は格好に無頓着なところがある。
Tシャツとジャージが正装だと言い張るほどだ。
外野からどう思われようと構わないともよく言うし、きっと気にならないのだろう。
「ねーねー、隆。はやく行こうよ」
「わかったわかった。てかそんなに腕引っ張るなって」
チハルに引きずられるようにして隆達は校庭のほうへ歩き出した。
「愛ちゃん。私達はもうそろそろ帰るわね」
「そうなの?」
「ええ。十分楽しめたもの」
「わかったよ。気をつけて帰ってね」
最後にお母さんは内緒話をするように耳元に顔を寄せてくる。
「時間があるようなら春樹のクラスに行ってみたら? 面白い喫茶店だったわよ」
「面白いってどんな?」
「行ってみれば分かるわよ。じゃあね、愛ちゃん」
お母さんはふふっと笑うと、チハル達を追いかけるため足早に行ってしまった。
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