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[[911~920]] 921 ③隆に明日の文化祭の話をする 春樹くんは相変わらず考え込んでいて、何も言わない。 記憶の整理に時間が掛かるのだろうか。 ソファーに座っていた千春は、いつの間にか携帯ゲーム機で遊び始めている。 ミケはお母さんに食べ物をねだりに、キッチンへ行ってしまった。 なんとなく、また妙な沈黙になりそうな予感がする。 (そうだ。隆に文化祭の話をしなくちゃいけなかった) 「ねえ、隆」 「ん? どうしたんだ愛菜」 「明日、私達の学校が文化祭なんだ。おばさんには言ったんだけど、聞いてる?」 「まぁ、一応はな……」 「じゃあ、話は早いね。隆、うちの学校の文化祭見に来てよ。すっごく面白いと思うよ」 明日の為に、学校中のみんなが頑張ってきたのだ。 長期入院で高校に行けなかった隆だけど、学校の雰囲気だけでも感じて欲しい。 「文化祭……か。で、お前は何をするんだよ」 まだ決めかねているのか、隆は質問で返してくる。 私は文化祭の仕事について、指折りしながら説明していく。 「放送委員の仕事でしょ。それにクラスの出し物の……演劇でしょ」 「演劇?」 春樹くんの問いかけが聞こえてきて、私は指折りを止める。 口元に手を当てて考え込んで、春樹くんはようやく話し出した。 「姉さんのクラスは、お化け屋敷のはずだったけど……」 「全然違うよ。私の書いた台本がね、クラスのみんなに認められたんだ。すごいでしょ?」 「ふーん。お前が書いたのか。だったら、そんなに期待出来ないかもな」 隆は足を投げ出したまま、茶化すように言う。 私はそんな隆を軽くにらみつけた。 子供っぽい私と隆のやりとりを春樹くんは仕方なさそうに見ている。 「ところで、姉さん。一体どんな劇をするの?」 「昔話、だよ。そうだ。隆にも何度か夢の話をしたよね? あれを劇にするんだ」 「あぁ。あの気味悪い夢のことだな……」 隆が気味悪がっていたのは、私が子供の頃から同じような夢を連続で見続けていたからだ。 まだ日本が小国の集まりで成り立っていた頃の、とても遠い昔話だ。 「夢……?そうか。姉さんは記憶と同じように、不思議な夢を見ているんだね」 春樹くんは興味深そうに呟いて、また黙り込んでしまった。 私は…… ①夢の説明をする ②隆に文化祭に行けるのか聞く ③春樹くんに夢に興味を持った理由を尋ねる 922 ②隆に文化祭に行けるのか聞く 「ね、隆、文化祭に……」 「しゃーねーな。 そこまで言うなら行ってもいいぞ」 私が最後まで言うのをさえぎるように、隆が頷いた。 「ほんとう!?」 喜ぶ私に「ただし」と付け加える。 「晴れてたらな」 「大丈夫、明日は晴れだもん」 せっかくの文化祭が雨なんて嫌だと思っていたから先週あたりから 毎日週間予報をチェックしている。 結果、明日の天気は晴れの予報だ。 二人で話をしていると、視線を感じそちらに顔を向ける。 こちらを見ていた春樹くんは、私と目が合うと少し笑った。 「変わらないね、二人とも」 「? あ、春樹くんも明日予定が無かったら文化祭来てよ!」 春樹くんの言葉の意味が掴めず、首を傾げながら思いついた事を口にする。 「俺が?」 「うん、せっかく再会できたんだし、私の書いた劇も見てほしいな」 「……そう、だね」 春樹くんは少し考えてから、頷いた。 「じゃあ、明日待ってるね。  あ、私のクラスの劇は午後の部の一番最初、13時から第一体育館でやるから!」 「おう、わかった」 「……」 頷いた二人に笑って見せると、春樹くんがふと時計を見上げた。 「……俺、そろそろ戻るよ」 「え?うん……もう大丈夫?」 「うん、たぶん……。大体わかってきたから、ここが姉さんの望んだ世界なんだって」 「……え?」 その言葉を私は少し前に聞いた。 名前も名乗らないで消えてしまった男の子。彼もそんな感じのことを言っていた。 「ここなら、俺は姉さんの弟じゃない……」 呆然としていると、春樹くんが呟いて立ち上がった。 「じゃあ明日、劇楽しみにしてるよ、愛菜」 そういって微笑むと、リビングを出て行った。 最後に私の名前を呼んだ事にびっくりする。 驚いて放心していると、玄関が開き、静かに閉じる音がした。 私は…… ①慌てて追いかける ②このままリビングに居る
[[911~920]] 921 ③隆に明日の文化祭の話をする 春樹くんは相変わらず考え込んでいて、何も言わない。 記憶の整理に時間が掛かるのだろうか。 ソファーに座っていた千春は、いつの間にか携帯ゲーム機で遊び始めている。 ミケはお母さんに食べ物をねだりに、キッチンへ行ってしまった。 なんとなく、また妙な沈黙になりそうな予感がする。 (そうだ。隆に文化祭の話をしなくちゃいけなかった) 「ねえ、隆」 「ん? どうしたんだ愛菜」 「明日、私達の学校が文化祭なんだ。おばさんには言ったんだけど、聞いてる?」 「まぁ、一応はな……」 「じゃあ、話は早いね。隆、うちの学校の文化祭見に来てよ。すっごく面白いと思うよ」 明日の為に、学校中のみんなが頑張ってきたのだ。 長期入院で高校に行けなかった隆だけど、学校の雰囲気だけでも感じて欲しい。 「文化祭……か。で、お前は何をするんだよ」 まだ決めかねているのか、隆は質問で返してくる。 私は文化祭の仕事について、指折りしながら説明していく。 「放送委員の仕事でしょ。それにクラスの出し物の……演劇でしょ」 「演劇?」 春樹くんの問いかけが聞こえてきて、私は指折りを止める。 口元に手を当てて考え込んで、春樹くんはようやく話し出した。 「姉さんのクラスは、お化け屋敷のはずだったけど……」 「全然違うよ。私の書いた台本がね、クラスのみんなに認められたんだ。すごいでしょ?」 「ふーん。お前が書いたのか。だったら、そんなに期待出来ないかもな」 隆は足を投げ出したまま、茶化すように言う。 私はそんな隆を軽くにらみつけた。 子供っぽい私と隆のやりとりを春樹くんは仕方なさそうに見ている。 「ところで、姉さん。一体どんな劇をするの?」 「昔話、だよ。そうだ。隆にも何度か夢の話をしたよね? あれを劇にするんだ」 「あぁ。あの気味悪い夢のことだな……」 隆が気味悪がっていたのは、私が子供の頃から同じような夢を連続で見続けていたからだ。 まだ日本が小国の集まりで成り立っていた頃の、とても遠い昔話だ。 「夢……?そうか。姉さんは記憶と同じように、不思議な夢を見ているんだね」 春樹くんは興味深そうに呟いて、また黙り込んでしまった。 私は…… ①夢の説明をする ②隆に文化祭に行けるのか聞く ③春樹くんに夢に興味を持った理由を尋ねる 922 ②隆に文化祭に行けるのか聞く 「ね、隆、文化祭に……」 「しゃーねーな。 そこまで言うなら行ってもいいぞ」 私が最後まで言うのをさえぎるように、隆が頷いた。 「ほんとう!?」 喜ぶ私に「ただし」と付け加える。 「晴れてたらな」 「大丈夫、明日は晴れだもん」 せっかくの文化祭が雨なんて嫌だと思っていたから先週あたりから 毎日週間予報をチェックしている。 結果、明日の天気は晴れの予報だ。 二人で話をしていると、視線を感じそちらに顔を向ける。 こちらを見ていた春樹くんは、私と目が合うと少し笑った。 「変わらないね、二人とも」 「? あ、春樹くんも明日予定が無かったら文化祭来てよ!」 春樹くんの言葉の意味が掴めず、首を傾げながら思いついた事を口にする。 「俺が?」 「うん、せっかく再会できたんだし、私の書いた劇も見てほしいな」 「……そう、だね」 春樹くんは少し考えてから、頷いた。 「じゃあ、明日待ってるね。  あ、私のクラスの劇は午後の部の一番最初、13時から第一体育館でやるから!」 「おう、わかった」 「……」 頷いた二人に笑って見せると、春樹くんがふと時計を見上げた。 「……俺、そろそろ戻るよ」 「え?うん……もう大丈夫?」 「うん、たぶん……。大体わかってきたから、ここが姉さんの望んだ世界なんだって」 「……え?」 その言葉を私は少し前に聞いた。 名前も名乗らないで消えてしまった男の子。彼もそんな感じのことを言っていた。 「ここなら、俺は姉さんの弟じゃない……」 呆然としていると、春樹くんが呟いて立ち上がった。 「じゃあ明日、劇楽しみにしてるよ、愛菜」 そういって微笑むと、リビングを出て行った。 最後に私の名前を呼んだ事にびっくりする。 驚いて放心していると、玄関が開き、静かに閉じる音がした。 私は…… ①慌てて追いかける ②このままリビングに居る 923 ②このままリビングに居る 「ねぇちゃんってメンクイだよな」 「は?何言ってるの、そんなことないよ?」 「いや、絶対そうだって」 「ないってば」 「じゃあ、気付いてないだけだよ」 「は?」 千春はゲームを中断すると、私に向き直る。 「じゃーさ、隆の顔はどうおもう?」 「え? 隆? 普通じゃない?」 「そっから間違ってるから…。じゃーさ、美由紀お姉ちゃんは?」 「美由紀姉さん? 美人だなーっておもう」 「……その美由紀お姉ちゃんと、隆って似てると思わないの?」 「え? 結構似てると思うよ、姉弟だし」 そう言うと千春は、はーっとわざとらしくため息をつく。 「だろ? なんで美由紀お姉ちゃんは美人で、似てる隆が普通なんだよ」 「……あー」 私は隆を見る。そう言われて見れば、確かに隆だって顔立ちは整っている。 あの美由紀姉さんの弟で、同じ血を引いてるんだから当たり前だけれど……。 「な、なんだよ……」 じっと見る私に居心地悪そうに隆が身じろぎする。 「さっきの……春樹さん?だってかなりの美形だよね」 「た、確かに……」 「それとねぇちゃんの友達の香織お姉さんも美人だし」 「うん、香織ちゃんは美人だよね」 「それに、前にねぇちゃんに打合せの書類持ってきた人……えっと名前忘れたけど放送部の委員長? あの人はすごくランク高い」 「い、一郎くん? なんでそこで一郎くんが出てくるのよ!」 「ま、とにかく、ねぇちゃんの周りは平均以上の顔が多いの。  普段見てる顔が平均以上なもんだから、自覚がなくても基準が高くなってメンクイになってるの!」 「えー……」 そこまではっきり言われてしまうと、そうなのかもしれないと思う。反論すら出来ない。 「まったく……なんで並のねぇちゃんがこんなにモテてるのか、謎だね」 「? 私モテないよ?」 「はいはいそーですね。そのまま無自覚で天然でずーっと家に居るといいよ。きっとお父さんは大喜びするから」 「なにそれ、私が行き遅れるとでも言いたいの!?」 「おっと、やぶへび。じゃーなー」 私の声に千春は素早く立ち上がると、リビングを出て行った。 そのまま階段を上がる音がしたので、自分の部屋へ行ったのだろう。 「まったく、千春ってばひどいと思わない!?」 「え? あー、まあ行き遅れることはないだろ……」 「なに、赤くなってるのよ?」 「気のせいだろ。さ、さて俺もそろそろ帰るよ」 「え、あ、うん。明日待ってるから」 「おう、じゃーな」 言いながら隆も帰って行った。 急に静かになって、なんとなく落ち着かない。 どうしよう…? ①部屋に行く ②リビングに居る ③キッチンへ行く ④出かける 924 ①部屋に行く そういえば、ばたばたしていて着替えも済ませて居なかった。 私は部屋に戻る事にする。 私服に着替えてベッドに転がる。 枕元に置いてある小さな熊のぬいぐるみを抱き上げていつものように話しかけた。 「今日ねミケを拾ったときに助けてくれた男の子が家に来たんだよ、春樹くんっていってねちょっと変わってるけど……」 一つ年下だけれど隆や私よりも大人っぽい雰囲気を持っていた。 それと…… 「庭にいた男の子は一体誰だったんだろう?」 制服を着ていたんだから、学校の先輩か後輩だとは思うけれど……。 「見た事はないよね……たぶん。でも、私のことは知ってるみたいだったなぁ」 春樹くんみたいに昔あった事があるのだろうか? でも、消えるとか良くわからないことを言っていた。 「二人とも、私が望んだ世界とかなんとか……、なんのことだろうね?」 私が望んだ世界だと言うけれど、今日の昼の放送部での出来事だって私が望んでいたわけではない。 かなり不本意な出来事といえる。 「私が望んだ世界なら、もっと私にやさしくても良いじゃない、ねぇ?」 熊のぬいぐるみはただ私の言葉を聴いてくれる。 それにしても今日は精神的に疲れた。 ぬいぐるみを枕元に置いて目を閉じる。 (明日の文化祭、成功するといいなぁ……) 隆は気持ち悪い夢といったけれど、私はそうは思わない。 確かに連続で同じような夢を何度も見るのは不思議だけれど、夢の内容は恋物語といった感じだ。 地方の豪族から巫女としてやってきた少女と、まだ若い帝の物語。 ぼんやりと夢の事を思い出していると、下からお母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。 「愛菜! 千春! お昼ご飯準備できたわよ」 「はーい」 隣の部屋から、千春が返事をするのが聞こえた。 私はまだあまりお腹は空いていないけれど…… どうしよう? ①ご飯を食べに行く ②後にすると言う ③とりあえず下に移動する 925 ②後にすると言う 「お母さん! 私、まだお腹空いてないから後で食べるよー!」 部屋のドアを開けて、キッチンに向けて叫んだ。 すると階段を上る音がして、お母さんが私の部屋までやってきた。 「食欲がないの?」 「明日の事考えたら少し落ち着かなくて」 「あら、大丈夫?」 「平気だよ。それに文化祭のスケジュールで気になるところがあるし、確認してから食べようと思ってたんだ」 「そう? なら冷蔵庫に入れておくわね」 「うん。お願い」 お母さんが部屋から出て行ったのを確認して、私は鞄の中から放送委員のスケジュールを取り出す。 (午前中はほとんど放送室にカンヅメ状態だ……) BGMの放送、プログラムや出店の案内、迷子などのお知らせ、先生の緊急呼び出し。 タイムスケジュールはびっしりと埋まっている。 きっと委員長の一郎くんなんて、一日中休む暇は無いだろう。 (午後一番はクラスの出し物の演劇。その後は隆と春樹くんを案内するんだよね) 鞄から出した小冊子、演劇の台本をパラパラとめくっていく。 私達のクラスに与えられた時間は準備も含めてたった45分間しかない。 通し稽古では、いつも10分ほどオーバーしていた。 (不安材料はいくつか残ったままだ。けど……) 巫女役の香織ちゃんは本当に綺麗で、舞台上でも華がある。 私の夢の中の巫女に変わらないくらいの、ハマリ役になった。 他の出演者、照明、大道具、小道具、衣装、私も参加している音響だって明日の為に頑張って準備してきたのだ。 (やれる事は、全部やったんだ。後は本番に賭けるしかないよ) 私は目を閉じて、成功を祈る。 演劇の後に隆と春樹くんと行動するにしても、どうせなら気分よく案内したい。 瞼の裏には、文化祭の賑わう様子が浮かんでくる。 ほどなくして少しずつ意識が沈み込み、体が重くなっていく。 これは不思議な夢を見る前ぶれに感覚が似ていた。 私の見た夢とは…… ①帝と壱与の夢の続き ②守屋さんとの夢の続き ③望む前の世界の続き 926 ②守屋さんとの夢の続き 目を開けると目の前に呆然と座りこんでいる男の人が居た。 (守屋さん?) なぜか自分はこの男の人を知っている。 夢なのだから、なぜ知っているのかなんて気にしても仕方ないのだけれど……。 「な、撫子の君……な、なにを……、何をしたんだ!」 守屋さんはどこか不安げに私を見て来る。 私は守屋さんの鬼の力を封じたのだ。 「これから先、鬼の力は必要のない世界になるんだよ」 「君も鬼ではないか!」 「……」 守屋さんの言葉に、私は何も言えずに黙り込む。 (そう、私は鬼だ) 夢の中の私は困ったように守屋さんを見つめ、守屋さんから逃げるように出口へ向かう。 「再生の舞を、舞って来ます(全てを再生させる。光輝の森も、壊してしまった鏡も……)」 守屋さんへは伝えられなかった言葉を胸の中で呟いた私は、陣の中心へ向かう。 割れた鏡がまだ存在しているこの世界なら、鏡を元に戻すことが出来る。 全ての神器と契約を交わし、神宝の力も内にある今なら労せずできるだろう。 (壱与の代わりに私が神器を再生させて、全てを元通りにする) 神器によって一族を殺された壱与には、神器を復活させる意思はない。 けれど、元通りになった神器を再度壊すような事はきっとしない。。 幸い私は神器との契約が済んでいるから鏡を元通りに戻し、力を元の器へ戻るように誘導させれば、神器は以前の姿に戻る。 神器が元に戻れば、対となる神宝も自然と元の姿に戻る。 そこまで考えて、私はハタと足をとめた。 (あ、守屋さんのもってる神宝……) あれに力がもどったら、せっかく鬼の力を封印したのに刀の力で封印をとかれてしまう可能性がある。 神器を元に戻したからといって、即座に神宝にも力が戻るわけではない。 ある程度の時間はかかるだろうけれど……。 神器は壱与がいるから問題はない。 修復された神器に疑問を覚えるだろうが、神器が元通りになれば、壱与は以前と同じように神子として神器を守っていくだろう。 だが、神宝はどうなるのか? そもそも八握剣以外の神宝がいまどうなっているのか分からない。 どうしよう…… ①とりあえず再生の舞を舞いに行く ②守屋さんから八握剣を取り上げる ③神宝のある場所を探る 927 ①とりあえず再生の舞を舞いに行く (私が……やらなくちゃ……) すべての元凶は鏡を割ってしまった罪から始まっている。 でも今の私なら、手にした力で再生させることができる。 神器も神宝も大昔のこの世界なら、本来の器がまだどこかにあるはずだ。 陣の中心にあるかがり火の光に吸い寄せられるように、私はゆっくり歩みを進める。 「撫子の君! 待ってくれ!」 守屋さんが私に駆け寄ってきた。 その手には、薄桃色のキラキラと光る薄くて細長い布が握られている。 「それは?」 守屋さんが手に持っている布を見ながら、私は問いかける。 「これは比礼だ。身に着けた者の穢れを払い、難から逃れる呪力を持っている」 「これを私に……?」 「そうだ。兵の皆のために舞を披露する君にこそ相応しい」 手渡された比礼という布は透けるほど薄いけれど、魅入られるほど美しかった。 まるで昔話に出てくる天女が纏っていた、天の羽衣みたいだ。 「でも……これは守屋さんの大切なものなんじゃないですか?」 「ああ。本当は出雲の姫……壱与に贈るつもりだった物だ」 「壱与……」 守屋さんと壱与はどういった関係だったのだろう。 私の中にある壱与の記憶に、守屋さんは居ない。 私の頭に浮かんだ疑問を見透かしたように、守屋さんは薄く笑った。 「幼少の頃、私は壱与に振られていているんだよ。また再挑戦するつもりだったが、今となってはそれも叶いそうに無い」 「振られる? 壱与にですか?」 「残念ながらな。石見国の王族だった私は……出雲国王に招かれたのだよ。政略結婚の相手としてね」 「政略結婚?」 「ああ。だが壱与はその事を知らない。おそらく壱与にとって私など、ただの幼馴染でしかないはずだろうな」 「もしかして……あなたは『弓削(ゆげ)』?」 「!!……どうしてただの遊行女婦である君が……私の幼名を知っている!?」 目を見開いて驚いている守屋さんと記憶の中の弓削が、ようやくひとつに繋がる。 『弓削』という名の弱虫で泣き虫な男の子と遊んだ楽しい記憶。 いつも壱与が連れまわしていて、そんな壱与に必死で付いていくような男の子だった。 そんな楽しかった頃の記憶が、巫女の修行に明け暮れていた頃の壱与にとって唯一の慰めだったのだ。 私は…… ①さらに続きを話す ②舞を披露する ③夢から覚める 928 ②舞を披露する 「その答えは少し前に言ったと思いますけど……壱与が転生して、私になったって」 「……」 私の言葉に、守屋さんは顔をしかめて私を見た。 私はそんな守屋さんから視線をはずして、受け取った比礼を身に付ける。 「じゃあ私、舞って来ますね」 以前ここに来た自分は、この夢で起きるタイムパラドックスを畏れていた。 今はもう畏れても、迷って居もない。 再生の舞を舞い、鏡を再生させることで起きるタイムパラドックスは予想が付かない。 けれど、神器と神宝の力は人が宿すには強すぎる。この力は人が宿してはいけないものなのだ。 (それに、約束したもの……私の望む世界を見せるって) この舞いを舞い終わった瞬間に、自分は消えてしまうかもしれない。 それでも神宝の力に翻弄され心の闇にとらわれていく高村の人たちが、そしてそんな高村に利用されて傷つく人たちが居なくなれば良いと思う。 そしてこの力で誰も傷つかない世界になってほしい。 舞台の前に立った私に、陣にいる人たちの視線が集中する。 守屋さんが用意してくれた鈴を手に取り、舞台に立つ。 深呼吸して心を落ち着けて……鈴を鳴らし、大地を踏み鳴らす。 記憶にある舞を舞いながら、内に宿る力を少しずつ開放していく。 穢された大地を浄化させる力を乗せて、森の再生を願う 散らされた命の苦しみが和らぐよう祈りを乗せて、魂の再生を願う あらゆる物の再生を願い舞っていると、ふわりと意識に何かが触れた。 (これは、神器) 契約者である私の舞いに惹かれて来たのだろう。 三種の神器の力が集まってくる。 (元の依り代をここへ……) 神器の力へ向けて願うと、それに答えて依り代であった剣と勾玉、そして割れた鏡が頭上に現れる。 周りが騒然としているけれど、気にしている余裕はない。 力を開放しながらの舞は思った以上に大変な事だった。徐々に体が重くなっていく。 気力を振り絞って割れた鏡へ手を伸ばし、神宝の力を借りて鏡の再生を願う。 神器の鏡はそれに応えてもとの姿に戻った。 (三種の神器……もとの依り代に戻って……そして壱与の所へ帰ってあげて) 契約者の願いに力が依り代にもどると、徐々にその輪郭が薄れて消えた。壱与の所へ戻ったのだろう。 (これでもう大丈夫だね……) 私はホッとしてタンと大地を踏み鳴らした。 舞が終わり、動きを止めても私は消えては居なかった。 けれど頭が重い。力の使いすぎだろうか。 座りこみそうになるのを何とかこらえる。 神器の再生は終わった。次は、守屋さんのもつ剣をなんとかしなくてはいけない。 守屋さんの姿を探して陣を見回し、ふと異様に陣内が静かな事に気付いた。 それが徐々にざわめきだす。 「……見たか、さっきの」 「なんだったんだアレは?」 「実はすごい舞手なんじゃないのか?」 ところどころ、聞こえてくる内容に目立ちすぎただろうかと不安になる。 私は…… ①ここから逃げ出す ②守屋さんを探す ③立ち尽くす 929 ①ここから逃げ出す (もしかして……私すごく目立ってる?) ぐるりと見渡すと、ざわめきが更に大きくなっていく。 「ネェちゃん! すごい芸じゃないか!」 「綺麗だったぞ! 思わず見入っちまった!」 「やるねぇ、さすが大将が見込んだ女だ!」 「俺にも酒の酌してくれ!」 「女だ! 久しぶりの女が居る!」 「こっちへ来いや。かわいがってやるからよ!」 賛辞とも冷やかしともつかないざわめきは止むどころか、どんどん大きくなっていく。 舞を披露しているときは集中していて周りが見えていなかったけれど、こんなにも大勢の人たちに見られていた。 状況を把握した途端、手が震えて持った鈴を落としてしまった。 段々恥ずかしくなって、顔が熱くなる。 (無理。たくさんの視線に晒されるのはやっぱり無理無理無理無理無理) 私はダッシュで宴会場の中心から逃げだす。 何人かの兵士達は私を追いかけようと立ち上がった。 けれど立ち上がったのは酔っ払いばかりで、フラフラの千鳥足だった。 (よし、これなら私にも撒けるかも) そう思って走っていたけれど、さすが百戦錬磨の屈強な兵士の人たち。 私との距離が少しずつ縮まっている気がする。 とにかく無我夢中で走り続ける。 (やだ、やだ!もう追ってこないでってば!) (酔っ払いの相手なんて絶対嫌だよ!) (近寄るな! ケダモノ! ヘンタイ!) 「ハァ、ハァ、ハァ……ッ」 ガバッとベッドから起き上がり、私は目を覚ました。 今まで全速力で走っていたように、すごい汗を掻いている。 肩で息をしているし、心臓が飛び出しそうほど高鳴っている。 「なんだ夢……。ていうか私、どんな夢をみていたんだっけ……?」 ①覚えている ②覚えていない 930 ②覚えていない (だめだ、思い出せない……怖い夢ではなかったと思うけど……) 「……ねぇちゃん? どうしたの?」 「え? 千春?」 かけられた声に顔を上げると、千春が心配そうな顔をのぞかせていた。 「すごい悲鳴が聞こえてきたんだけど?」 「悲鳴……?」 「そう、「いやーーーーーー」って、悪い夢でも見たのか?」 いまだ肩で息をしている私を見た千春が、部屋の中に入ってきてベッドに座りこんでいる私を覗き込んでくる。 「わからない、覚えてないから。でも、怖い夢ではなかったと思う。……疲れたけどね」 それは本当のことなので、千春に笑ってみせる。 千春はそんな私に手を伸ばして幼い子供にするようによしよしと少し不器用に撫でる。 ときどき千春はこうやって、私の頭を撫でてくる。理由を聞いても「なんとなく」と言うだけで、ちゃんと答えてくれない。 けれどそういうときは大概私が落ち込んだり、疲れたりしているときだから、千春なりに私を気遣ってくれているのだろう。 「ありがとう、もう、大丈夫だよ」 大分落ち着いた呼吸と心臓に、再度千春に笑って見せた。 そんな私をじっとみて、千春もちょっと笑うと私の頭から手を離す。 「ねぇちゃん、文化祭の準備で張り切りすぎて疲れてるんじゃない? 今日はもうご飯食べて寝たら? 明日の本番に倒れたら意味ないよ?」 「え?」 千春に言われて時計を見ると、すでに19時近くなっていた。 お昼から6時間以上も寝ていた事になる。 「わ、もうこんな時間?」 「そう、もうこんな時間。そろそろ晩御飯出来ると思うし、下に行こう?」 千春に促されて、立ち上がる。 リビングに入ると、丁度お母さんもキッチンから顔をのぞかせた。 「あら、やっと起きたの? 良く寝てたわね。 お昼抜いてお腹空いてるでしょ、丁度出来たから食べなさい」 「はーい……、あ、お父さんお帰りなさい」 「ただいま」 ゴルフから帰って来ていたお父さんも、すでにテーブルに着いていた。 「じゃあ、いただきましょう」 「いただきまーす」 いつものように、他愛無い会話をしながら皆でご飯を食べる。 千春が真っ先に食べ終わって、出て行った。 お昼を抜いたせいか、いつもより早く食べ終わって、私も席を立つ。 あの夢のせいだろうか、異様に疲れが残っている。 これからどうしよう ①もう寝る ②テレビを見る [[③香織ちゃんに今日の通し稽古の状況を聞いてみる>931~940]]

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