那限逢真@天領様のご依頼


 小さな誇り、小さな願い

 Qちゃんの服を作ろうと約束していたので、待ち合わせしていた場所に向かいました。
 最近は何かと物騒です。戦争が近いのでしょうか? 待ち合わせしていた喫茶店から見える軍港も、何かしらと物々しく見えます。
 喫茶店につくと、那限逢真さんと常世 知行が並んで座っていました。


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「お久しぶりです。月子嬢。遅ればせながら、以前約束したQの服の縫い方を教わりに来ました」
「お久しぶりです」
 お二人ともお元気そうで何よりです。
 お二人とは以前お会いした時に、Qちゃんの服を作ろうと約束していたのでした。
 Qちゃんは嬉しそうに飛び回っています。
「鎧!」
 Qちゃんは突然言いました。
「鎧は重くて飛べなくなるよ?」
 私がそう訊くと向かいの那限さんが少し慌てたような顔をしました。
「……鎧着たいのか? それならパテとかでも作れなくもないけど……」
「逢真さんも何言ってるんですか」
「いや、オレ、これでも闇星号の設計者だし」
「いや、そういう事じゃないんですけどね」
「しかし、何でまた急に鎧なんだ?」
 那限さんと常世さんが交互に言うのをQちゃんはじっと聞いていました。
 そして問いかけられたのをQちゃんは胸をはって答えました。
「戦争にいくの」
 那限さんはぶっ倒れそうな形相になりました。
 私達の席の後ろで今日子ちゃんがあぐらをかいていました。
 Qちゃんと今日子ちゃんは仲良しです。戦争に今日子ちゃんが行くと言うなら付いて行きたいのでしょう。
「仲良しなんだよね?」
 私が聞くとQちゃんは嬉しそうに頷きました。
 今日子ちゃんに挨拶する二人を尻目にQちゃんは楽しそうに話していました。
「剣もつかうんだ」
 その言葉に気付いたのか那限さんがこっちを向いてQちゃんの表情を見ました。
「Qの故郷には鎧や剣を作るような妖精はいるのか?」
 Qちゃんは嬉しそうに頷きました。
「うん」
「どうしても行くって言うなら、オレはQにちゃんとしたものを作ってあげたいんだが、それからじゃ駄目か?」
 那限さんが必死で言っています。
 ああ、そうか。
 那限さんはQちゃんが戦うのが嫌なんだろうなあ。Qちゃんは気付いていないみたいだけれど。
 私は二人の表情を伺っていました。
 Qちゃんは那限さんの言葉がよく分かっていないようです。
「Qの故郷に行ってQの装備一式を作ってあげたいなと思ったんだよ」
「素敵ですね」
 那限さんの言葉に私は頷きました。
「逢真さんらしいですね」
「……まぁ、その前にQの服の縫い方から教えてもらわないといけないけどね]
 那限さんが笑いながら言うと、Qちゃんはすとんとテーブルの上に下りました。
「武器や剣は、あんまり重要じゃないんだよ?」
 Qちゃんの言葉に、那限さんと常世さんが顔を見合わせました。
「重要ではない、ですか?」
「じゃぁ、どういうものが重要なんだ?」
 二人の問いにQちゃんは腕を組みながら答えました。
「重要なのは、仕事をやりのける意思と誇りだ」
 テーブルの上を歩きながら答える様は、どうも誰かの真似をしているようです。
 その言葉遣いに今日子ちゃんがむせたようです。
 ゲホゲホしているのを今日子ちゃんを撫でながら聞きました。
「誰の言葉かな?」
「屋根の上の友達。名前知らない」
 Qちゃんの言葉に、那限さんは頷きました。
「でも、まぁ、確かに重要だね。それは」
「体が小さいから、出来ないことはないんだ。私には誇りがある」
 Qちゃんは静かに言いました。
「なるほど」
「わかった。じゃぁ、オレはQの誇りを手助けしたい。それがオレの意思だ」
 Qちゃんの言葉に那限さんは言いました。
 Qちゃんはキョトンとした顔で「いいよ?」とだけ答えました。


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 私は二人のやりとりを聞きながら微笑ましいなと思いました。
 那限さんはきっとQちゃんの力になりたいんだろうなあと思い、Qちゃんは前よりずっと大人になったんだろうなと思ったのです。
 二人のために、Qちゃんの服を縫いました。
 Qちゃんが私が作った服を着て嬉しそうに飛び回るのを見ながら、どうかこの二人がいつまでも一緒でありますように、そう祈りました。


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最終更新:2008年06月05日 11:19