黒崎克那@海法よけ藩国様からのご依頼品

 静かな森にネコリスは住んでいました。
 ネコリスはお話を食んで生きています。
 時々森にやってくるお話を話してくれるおじいさんや、子供達のお話を食みます。
 時には一緒になって遊ぶ事もあります。
 ネコリスと人間は友達だったのです。少し昔は。


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 それは突然の出来事でした。
 森が、ネコリス達が住んでいる森が燃えてしまいました。
 友達が、人間が戦争をして、森を燃やしてしまったのです。
 ネコリスは小さい体を懸命に振るって逃げ惑いました。
 大勢の仲間が死にました。
 ネコリスは悲しみました。
 何でこんな事をするの? 何で僕達の森を壊すの?
 ネコリスは悲しくなって、人間から離れる事にしました。
 わずかに残った森の奥へ、奥へ。
 ネコリスは人間の前から姿を消してしまいました。


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 油で汚れたネコリスが、焼け残った森の中を彷徨っていました。
 燃えた森の中を逃げ回り、気づけば仲間の数が減っていました。
 何かお話の匂いを感じました。
 ネコリスは脅えた顔で匂いの方を向きました。
「にゃ…にゃんにゃんちゅー…」
 人間でした。
 ネコリスは脅えた顔で人間を見ました。
「に、にげないで、ごめんなさい…」
 人間は泣いていました。
 ネコリスはじっと人間を見ました。
「なにもしないから…」
 人間はじっとネコリスを見ました。
「腰を落とせ」
 もう一人の人間に諭され、一人の人間は腰を落としました。
 ネコリスの目線になりました。
「あう」
 人間は一生懸命言葉を紡ぎだそうとしました。
「ごめんなさい……家族とか仲間を奪ってしまってごめんなさい……」
 一生懸命に人間は謝りました。
「ここまでした自分達を許してくれとはいいません……」
 ネコリスは逃げました。
 何で謝るのに、何で森を燃やしたの?
 ネコリスは悲しみました。
 森の奥へ。奥へ。人間に見つからないよう遠くへ。遠くへ。
 ネコリスは絶望していたのです。


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 その日、ネコリスはお話の匂いを嗅ぎ取って空を仰ぎました。
 光がきらきら輝いて、雨が降り注いでいます。
 焼けた森に苔が生しました。
 草が高さがどんどん変わり、木々が伸び始めました。
 ネコリスは勇気を出して光の近くに集まりました。
 人間が並び、歌を歌っていました。
 歌を聞きながら、いつかに見た人間二人が苗を植えているのが見えました。
 ネコリスは歌に耳をすませました。
 歌は高く高く伸び、森がぐんぐんと蘇るのが分かりました。
「にゃんにゃんちゅー」
 ネコリスは久々に嗅ぐ森の緑の匂いを嗅ぎました。


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 ようやく元に戻った森に、ネコリスは少しずつ増え始めました。
 あちこちに散らばっていたネコリス達が、森に帰ってきたのです。
 その日、ネコリスはお話の匂いがし、鼻をヒクヒク動かしました。
 いつかに見た人間です。
「ねこー」
「にゃ、にゃんにゃんちゅーですよ、ソウイチローさん」
 ネコリスは様子を伺いました。
「にゃんにゃんちゅー」
 人間が言いました。
 ネコリスは耳をぴくぴくすませました。
 人間からは、何かお話の匂いがします。
 ネコリスは最初は怖がって逃げましたが、人間は諦めませんでした。
 人間は懸命に「にゃんにゃんちゅー」と呼んでネコリスを探しているようです。
 とうとう、一匹の勇気あるネコリスが、人間の元に近付きました。
 ネコリスは人間を見上げました。
 人間は腰を下げ、ネコリスの目線に立ちました。
 ネコリスは人間の匂いを嗅ぎ、指を舐めました。
 いつか遠い昔、友達だった人間にしたみたいに。
 ネコリスはそのまま人間の元から立ち去りました。


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 ネコリス達はこの森から離れない事を決めました。
 いつか人間からお話をもらって食んでいた頃のように、また人間と仲良くできるかもしれない、ネコリスはそう思ったのです。
 それからネコリスはまた森から姿を見せるようになりました。
 いつか親切にしてくれた老人のように、いつか一緒に遊んだ子供達のように。
 人間とまた友達になる為に、ネコリスは森に残る事を決めたのでした。



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最終更新:2008年05月13日 00:34