船橋鷹大@キノウツン藩国様からのご依頼品


お料理しましょう


 空歌は鼻歌を歌いながら店の前に立っていた。
 店先にはたくさんのエプロンが並んでいた。

「うちに来て一緒に料理をしないか?」
 鷹大からのお呼ばれだった。
 空歌は嬉しくって二つ返事でオーケーを出したのはいいが。
 エプロンを持っていない事に返事をした10分後に気が付いた。
 空歌は思い立ったが吉日。早速買いに出かける事にした。

 店先には色とりどりのエプロンが並んでいる。
 空歌はうきうきしながらエプロンの品定めをしていたその時。
 若いカップルの話が耳に飛び込んできた。

「そう言えばさ、この間料理下手な子がいてさ」
「料理?」
「ゆで卵。爆発させたりしたの。いや、ゆで卵爆発はありえないでしょ」
 …………。
 空歌はようやく、そう言えばあまり料理した事がないのに気が付いた。
 空歌は一番可愛らしいと思ったエプロンを買い、早速ゆで卵を作ろうと思い立った。


 しかし、ゆで卵は料理の基本中の基本ゆえに、料理の本に載っているケースは少ない。
 空歌は「料理の基本」の本を買ってきて読んで、目をぐるぐるにした。
「ゆで卵って本に書いてない料理なの? そんなに難しい料理だったの?」
 いや、あまりに初心者向け料理ゆえに載っていないのだと思うのだが。
 空歌は料理の本を読んでテンパった。
 とりあえず、卵を殻ごと使って作る事までは他のレシピを読んで分かったが、殻ごとどうやって固めるかが分からない。
 空歌は卵を持って首を傾げた。
 こんな事ならお料理の練習もっとしておけばよかった。
 後悔先に立たずだが、空歌はとりあえず、電子レンジを使うことに決めた。

「れっ、レンジだったら温めるだけで料理できるし、大丈夫だよね?」
 恐々とレンジに卵を置いて、すぐ扉を閉めた。
 何分温めればいいのかが分からない。
「えっと……10分、あっためたら大丈夫だよね? 多分」
 どうにかこうにかタイマーをセットして、調理開始……。
 空歌は恐々レンジの中を覗いていた。


 ボォォォォォォォン!!


 空歌は目を丸くした。
 5分と経たないうちに卵が木っ端微塵、粉砕したのである。
「なっ、何で……?」
 料理した事のある人間なら、卵には殻と薄皮が存在し、電子レンジにかける場合は薄皮を処理してから卵料理をしないといけないと分かるのだが、初心者の空歌にはそれが分からない。
 空歌はしばし電子レンジを呆然と見た後、慌ててとりあえず掃除しないとと布巾で拭き始めた。


 ゆで卵は何て難しい料理なんだろう。すごいなあ、料理できる人は。
 空歌は変な感心をした。
 とりあえず電子レンジでゆで卵は作れない事は学習した。
 空歌は、電話をいそいそかけ始めた。


/*/


「ゆで卵の作り方?」
『うん。どうやって作るのかなと』
 美姫は半眼になった。
 この子はいつもおっとりしているとは思うけど、物事には限度と言うものがある。
 まあそれはさておき。
「いい? まず鍋に水いれる」
『うん』
「そこに卵を入れて、ガス台に火をつける」
『うん』
「時々かき混ぜてね。あっ、卵を割るほど力入れなくていいわよ。黄身が真ん中にいくようになるから。沸騰……つまりお湯に泡が立ってきた時ね。火を消す」
『うん』
「あとはお湯が冷めるまで放っておく。あっ、一応言っておくけどお湯に間違っても手をつっこんじゃ駄目よ? 鍋を鍋つかみで触って確かめなさい」
『うん。美姫ちゃんありがとう』
「まあとりあえず頑張って」
『うんっ』
 電話を一応切った。
 美姫は溜め息をついた。
 あの子が料理なんて。多分好きな人でもできたのね。
 でも……。
 苦労するわね、きっと。
 美姫は、空歌の恋した誰かに、ひとまずのエールを送るのであった。


/*/


 とりあえずゆで卵を爆発させずに作るコツだけは何とか学んだ空歌。
「頑張ろう」
 のんびりおろしたてのエプロンを抱き締めて言った。
 明日はいよいよ約束の日。
 鷹大君が喜んでくれたらいいなあ。
 そう思いながら。




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最終更新:2008年04月12日 22:09