No.231アポロ@玄霧藩国さんからのご依頼品



はじめてのでぇと

作:1100230 玄霧弦耶


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夜、天領居住区の中でもACEたちに解放された通称「ACE村」のとある場所。
芝村英吏は己がパートナーであるクイーンの厩舎を訪れていた。

英吏は、渋い顔をしている。
いや、コレは照れていると言うべきか。時折髪をかき乱している。
厩舎にひらりと桜の花びらが落ちる。

「…どうやら、いつの間にかまぎれていたらしいな」

落ちた花びらを見て、また顔を赤らめる英吏。
クイーンがソレを見つめる。主に忠実で高貴なこの雷電は、主の命令を待っている。

「あぁ、すまぬなクイーン。許可する」

心なしか嬉しそうに頭を垂れるクイーン。
その足元には皿に乗ったクッキーが数枚乗せられている。アポロの手作りだった。
それをみながらチョコレートを口に入れる英吏。アポロから手渡された生チョコは、残り10個。
広島を思い出しながら味わう。戦争中で甘味は軒並み高級になり、とても手が出せるものではなかった。山の中で物資もまともに来ないところでは食糧にすら困ることも稀ではない。

英吏はふと、思い描く。
アポロはこれを高級品では無いと言っていた。
なるほど、住む世界が違う。やはり俺は・・・

そう、思った。
この男は何かに着けて好意を曲解する。好意を向けられるのに慣れてないためであると思われるが、それにしても行き過ぎである。
今回もなにやら面倒なことを思い浮かべていた。
が、しかし。今日のデートの情景を思い浮かべてしまったか、また顔をしかめて照れ始めた。
ごまかすようにチョコを口に含む。残り、9個。
甘い味が口に広がる。長いこと甘味を口にしていない体には些か過ぎた味である。

何かを察したクイーンが足元に置かれた皿を鼻先で押して英吏の元に寄せる。
4枚ほど乗せられていたクッキーの半分が残っていた。
「英吏さんが甘いものが嫌いだったときのために・・・」とアポロがチョコと同封した塩クッキーである。もちろん、塩クッキーの名前通りに甘くなく、塩味がする。

「いや、よい。そなたが食べよ」

おそらく自分を心配したのだろうと思いつつ、クイーンに答える英吏。
答えて、手元のチョコを見る。珍しく甘味を手に入れたので己がパートナーにも分けようと厩舎まで来てからチョコレートは危険ではないかと思い出し、付けられていた塩クッキーを分けたのであった。

※チョコレートはイヌ・ネコなど、ヒト科以外の生物がチョコを食べると中毒を起こす。参考までに、大型犬でおよそ400g程度のチョコレートで中毒を起こし、最悪の場合死に至る。

クイーンの思慮を組み、自分で食べるために残しておいたクッキーを少し齧る。
甘みはなく、ほのかなチーズの風味と塩味がする。善行あたりはこれでラムでも飲むだろう、と思った。

「…得意ではないと言いつつ、器用なものだ」

珍しく関心しながら呟く。
広島でも台所を握っている女性が最強であった。そういえば金城は元気だろうか。
そう思った瞬間に寒気を感じる英吏。よく判らないが、考えるのをよそうと思った。


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一方その頃、玄霧藩国。
アポロは幸せだった。クリスマスからこっち「きらわれたー」とか「もうあえないー」だのでおろおろしていたときとは大違いの様子である。
デートチケットを持ったまま一回転、二回転。三回転で仰向けにベットに倒れこむ。
バレンタインのお返し、ということで英吏がアポロに渡したものだ。

「『捨ててもいい』だって。えへへー」

(リアル)父親にも見せたことのない伸びきった笑みで顔を赤らめながら呟く。
まさしく『夢心地』と言わんばかりの状態だった。こちらは、思い出したら照れながらも喜ぶタイプだった。
帰ってきてからこっち、ずっとこの調子である。

「『前に、欲しそうにしていたろう』、だってー」

英吏人形に話しかけるように独り言を言う。
先ほどから『 』の中の発言は英吏の口調を真似ている。男がやると腹が立つが、女性がやるととたんに可愛くなるから不思議だ。世界の七不思議のひとつに数えても良いのではなかろうか。

閑話休題。
一通り真似をしおわって満足したか、チケットを直し、再びベットに倒れこむ。
人形を抱え、一日を思い出す。
どう見ても待ってたのに照れながら待ってないと言う英吏、デートに照れる英吏、手を繋いで照れる英吏、お返しを渡して照れる英吏、抱きつかれて湯気が出る英吏。
全てにおいて照れている英吏が珍しく、思い返せば少しやりすぎたかもしれない、と思った。

「・・・いいよね。デートだもん」

実はコレで二桁は考えている。
その都度、デートだからいいよね!で自分を納得させている。結構小心者である。小心とは少し違うが。
というかもっとやれと言いたい。発禁の一つくらいやっちゃっても良いとお父さん思います。悲しいけど。

ともあれ、コチラは幸せそのものであった。


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場所は戻る。
英吏は茹だっていた。限界だった。
残りのチョコは5個。既に半分以上摘まんでしまった。
其のことに気付いてさらに茹だった。既に厩舎に来てから2時間は立っている。夜は涼しいとはいえ、少しチョコが解けかけている。

「いかん・・・」

何がいかんのかは当人だけにしかわからないことだが、英吏は顔を赤らめながら厩舎を後にする。
背中を見るクイーンが、珍しくため息をついたような気がした。

寮への帰り道、半分を切ったチョコをつめた箱を見て思い出す。
去年は源とヤケ食いした後で盛大に殴りあった記憶がある。
あの時はどっちが勝ったんだったか。多分俺か。
だがまぁ・・・

「今回は俺の勝ちだな」

そう呟き、不適に笑う。手元にはチョコレート。残りは4個。

「まぁ、そうだな。せっかくだから分けてやってもいいだろう」

といいつつ、絶対誰にも渡さないといった感じに大事にチョコを抱える。
そのまま気分良く寮へ戻る。・・・何時の日か、このチョコレートが彼の命を救うことがあるかもしれない。
そんな日が来ないことを願いつつ、初デートの日は終わりを告げるのであった。



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引渡し日 2008/



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最終更新:2008年03月07日 02:43