VZA@キノウツン藩国さんからのご依頼品


 ヘリは5分で来た。
 教室の窓から運動場に砂煙を巻き上げて降下しているのが見える。
 ヘリが跳ね上げた小石がガラスに当たってピシピシと音を立てていた。

「行こう」

 VZAは椅子にへたり込んで震えている少女に声をかけた。
 少女――鈴木真央はサイズが大きめの制服を抱きしめ崩れるように座っていた。
 焦点の合わない瞳に、濡れそぼった髪の毛が見ていて寒々しい。
 トイレからふみこが着替えさせて、教室へと移動させて、ずっとこのままだった。

 カツ、とヒールがコンクリートをうがつ音。
 タイトなスカートに包まれた白く細い足が目の前に立つ。
 ふみこだった。鈴木に気遣うことに夢中で、目の前に来るまで気づかなかった。窓の方を向いて、その先のヘリと正対している。
 携帯電話を手に、矢継ぎ早に様々な命令を与えている。
――本当に誰かに指示を与えるのが似合う女性だな、
 と、なんとなく思っていると、ふみこは携帯を閉じてこちらを見下ろした。
 一瞬、震える鈴木を哀れむような表情で見たが、すぐに普段の表情に戻る。

「下着と元の制服はあとで送るわ、今はこれだけ持って行きなさい」
 と、出された手に、VZAは言われるまま触れようとした。
その手を掴まれる。目があった。
「優しくしてあげなさい」
 厳しい瞳だった。厳しくて、強くて、そして、
「この子の味方は、貴方だけよ」

 その響きの優しさに、彼女は鈴木と...そして自分のことを心配しているのだと感じて、VZAは頭を下げた。

「はい」

 俗に言うお姫様抱っこで、鈴木を持ち上げる。
 真央は相変わらずで、何も言うことはなかった。
 いつの間にか、同伴していたはずのアシタスナオとふみこは教室から消えていた。

 自分たち以外、誰もいなくなっていた。
 ヘリの降下する爆音だけが、教室の全てだった。
 VZAは微かに笑った。

「うん。俺は、ずっと鈴木さんの味方だ」

 聞かれることのない独り言で、呟く。

「いつか皆一緒に、行こうな……」

/*/

――鈴木真央は、
 トイレの個室で、上から水をかけられたらしい。
 VZAが見つけたときには、髪と制服とを濡らして、泣いていた。

 ヘリは物凄い勢いで高度を上げていく。
 激しいGを感じたが揺れの方は少ない。
よほど優秀な操縦士なのだろうが、VZAにそれを気にする余裕はなかった。

 VZAの座る真横では、真央が毛布を体に巻いて座っていた。
 ぶつぶつとなにか――言葉にならない言葉を呟いている。彼女の心は既に壊れていた。
 この身を縛るシートベルトが恨めしい。
 ベルトがなければ、今すぐにでも抱きついて「何も怖がることはない」 と言ってあげれるのに。

 VZAはロリコンだった。

 ロリコンという名の仮面紳士だった。

 ロリコンだから少女を愛し、それ故に怒っていた。
 彼女を虐めた相手に、虐めという現実に。

 何故、小笠原に来てまで彼女が酷い目に遭う必要があるのだ。
 何故、こんな酷いことが出来るのだ。
 こんな風にまでなった彼女を見て、何も思わないのか。

 女子トイレでの事件と言うことは、犯人は女生徒――おそらくは同級生だろう。
同級生の女子が、これほど陰湿なコトが出来るのだという事実に、寒気と同時に重たい殺意を覚える。
 わからせなければ。

拳を重ねあわせて握りしめる。

 思想の消毒など生ぬるい。
 キッチリ身をもって教えなければ。
――でなければ、どうにもならない。

重ねた左手の爪が右手の甲に食い込んだ。
皮膚を裂かんとする痛みが、走る。
が、今のVZAは容易にそれを無視してみせた。

 許さない。理解させてやる――自分が一体どういうことをやってきたのかと言うことを。
真央と、同じ報いを受けさせることで。

 眩暈にも似た怒りに叫び出しそうになるのを堪えながら、VZAは合わせた拳に自分の額を押しつけた。

「ん――?」

 右手に違和感。
 VZAの右手は、なにかを握り込んでいた。
 そう言えば、ふみこになにかを手渡されていたっけ、と、ようやく気づく。
 受け取った記憶はないが、無意識に握っていたようだ。

(なんだろう、妙にあたたかくて触り心地がいい――)

 布のようなハンカチのようなそれを広げる。

 鈴木のパンツだった。

 どーーんときた。
 硬直する。そういえば確かにパンツは脱いだままだった。
 着替えさせた、ふみこがそのまま穿かせるとも思えなかった。
 硬直というか混乱した。

「なななな...」

 言葉にならない言葉をあげて、けど視線はパンツを見たまま。
 白かった。まさに白の章とアホな思考をしつつ、うわあと感のいった悲鳴を上げる。
 しかし見ることを止められない。
 両手で広げたパンツが目の前にある。
 理性とかそういう物が一気に吹っ飛ぶ。
そのまま半ば無意識的に臭いをかごうとしている自分に気づいて
「あうあうああああ!!」悲鳴を上げた。
 ギリギリのところで両手を遠ざける。

「お、おおおおおおっ!!」

 なんとか思いとどまれた。
 ギリギリで理性がカムバックしていた。

「やばかった...もう少しで一線を越えるところだった」

 と、手遅れの自覚がない発言をしつつ、呼吸を整える。
 そして隣に真央がいたことにようやく思い至る。

 VZA、顔面真っ青。
 全てが終わったと、そのときVZAは思った。

 秒間1度で回頭して、横を伺う。
――真央は泣き疲れて寝ていた。
 VZAはそれを見て…それでも数秒は無言だった。
 更に数秒掛けて、ようやく気づかれてなかったと知って、緊張を解く。
 体中の力がどっと抜けた。
 上半身がシートベルトに食い込む。

「よかった――ほんとうによかった」

 背中に滝のような汗をかきながら、VZAは気の毒なほどに安堵していた。
 真央を見つめる。真央は寝ている時すらも苦しそうだった。
 嫌な夢を見ているのだろうか、細い眉を山のように寄せて瞼をきつく閉じている。
 額にうっすらと汗が浮かんでいた。

「...」

 半ば無意識に、VZAは自分の手のひらを翳していた。
 おでこの汗をぬぐう。
 先ほどのようなよこしまな感情は、不思議と湧かなかった。

「ん――」

 暖かさに触れて落ち着きを取り戻したのだろうか、真央は軽く息を吐いた。
すぅすうと落ちついた呼吸に切り替わる。

「鈴木さん――」

(俺が、守らないと…)

 知らない間に、怒りやら恨みやらは綺麗さっぱり消え失せていた。

(そうだ――誰かを怒るとか、世の中を恨むとか、今はそんなのはどうでもいい)

 ともかく、今は彼女の回復に努める。
 全てを考えるのはそこからだ。
 今はただ、傍についていよう。
 傍にいて...こうして触れられる距離で、彼女が立ち直るまで...

「...ずっと...ずっと鈴木さんの味方だから」

 今すぐにでも抱きしめてあげたかった。シートベルトが恨めしい。
 ヘリは最速で小笠原の上空を飛んでいる。
 それでも、病院へはもう少しかかりそうだった。


終わり
























「と、とりあえず、パンツ穿かせよう...」
VZAの戦いは続く。

































作品への一言コメント

感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)

名前:
コメント:




引渡し日:2007/

counter: -
yesterday: -

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年11月03日 02:05