『仮面の男と斉藤奈津子と藩王と…』

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“勇気が萎える前に”
“決意のくじけぬうちに”

           ~72907002の会話より抜粋~
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 仮面のお兄さんは、途方にくれていた。どうしてこの子はこうなんだろう?である。

目の前では倒れた斉藤奈津子を室賀が助け起こし、手際よく呼吸を落ち着かせている。随分と慣れているようだ。

大丈夫?と覗き込む室賀に奈津子は心臓が痛いデスと答えている。

本当にどうしたものだろうか。天井を見上げる仮面のお兄さん。

と、ちょっとよろしくお願いしますと室賀が奈津子を預けて何処かへ歩いていった。

どうしたものか?

胸を押さえて蹲る奈津子の頭にそっと手をのせて優しく撫でる。少しでも落ち着けるように、少しでも勇気が湧いてくるように。

あぁ、昔月子やコウにこうした事を思い浮かべる。

どうか、この子にほんの少しでいいから、勇気を決意を。

奈津子の呼吸が少し落ち着く。

それを見計らったように足音と一緒に室賀が戻ってきた。手には水の入ったコップを持っている。

「冷たくて、おいしいですよ。」

首を振る奈津子。

「そう?じゃあ、私が一息。」

持ってきた水を美味そうに飲む室賀。大分喋って咽喉が渇いたのだろう。

俯く奈津子を見た後で、室賀に声をかけるシン。少し奈津子を一人にさせておこうと言う事だった。

二人で部屋を出るシンと室賀。

「到着まで間がありますから、ごゆっくり。」

奈津子に声をかけて扉を閉める室賀。

どうしてだろう?

ため息をついて呟くシン。

「なんだろうね」

室賀に問いかけると言うよりは、自問しているように聞こえる。

「あの子は何でああも......」

「展開の速さに、ペースがついていってない、よう見えますね。」

横から室賀が答える。

答えが返ってきたのに驚いて、その内容が自分が考え付かなかった事なのに驚いて室賀を見ると、人それぞれ速度が違うなあと呟き頷いている。

「なるほど。それは考えていなかった。」

確かにそうだ。人それぞれ歩く早さは違う。自分はそれをよく知っているはずなのにな。心の中で自戒するシンに室賀が笑いかける。

「まあ、そこがあの子のいいところ、なんでしょう。」

中々見る事のない良い笑顔だ。

確かに、理解できたが同時に不安にもなる。

不安が口をついて出てきた。

「でも、あの子のペースにあわせていたら・・・」

そういう事だ。人とペースが違うのが当たり前。そして、それを合わせるのは少なからず労力を使う。それを続けれる人がいるだろうかと心配になる。

「あはは。まあ、ねじまき役としては気をもむところですけど」

そんな心配を笑い飛ばす明るい声。

「まあ巻きすぎでぶっ倒れちゃ何にもならないですし」

笑いかける室賀の顔があった。

「そうだね。僕の知ってる中でも特殊だから、ちょっと驚いていた。ごめん」

確かに特殊ではあるだろう。が、多少変わっているだけだ。

にんまりと笑う室賀。

「いえいえ。まあ、倒れない程度の速度で二人三脚できればいいんじゃないでしょうか。」

それに、と言葉を続ける。

「支える役としては、仕事が多いほうが楽しいですし」

そうでしょうと視線で語る室賀に、仮面の下で微笑みながらシンは答える。

「そうだね。」

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しばらく時間を潰して戻ってくる二人。

「……さて、どうかな。さすがにもう、着替えくらいは出来てると思うけど」

と仮面の所為で少しくぐもった声でシンが言うと、室賀もそれに同意する。

「……そうですね。 まあ船の上で、そうそう逃げ場もないと思いますけども」

うんそうだね。と頷いた後で、あぁと気付く。

逃げる可能性もあったのだ。

良く見ているなぁと客室のドアをノックする室賀を見るシン。

奈津子さん?と掛けれれた声に、ドアの向こうから少し待ってください。と奈津子の泣いていたのだろうか、少し鼻声になった返事が聞こえる。

しばらくして中からどうぞと声がする。

髪を綺麗に梳いて花の髪飾りをつけ、紫の和服に空色の帯が映える奈津子の姿があった。

涙に濡れた瞳が揺れている。

室賀がハンカチを握らせると、奈津子は涙声で謝り始める。

「謝らなくても……えーと」

何とかして泣き止ませようとシンが困っている横で、室賀がそれを気にせずお腹がすいたら声をかけてください。と声を掛ける。

「船内食を用意させます。」

リワマヒの農業生産量はニャンニャンでもトップクラスである。勿論味も保証付だ。

奈津子は下を向いて肩を震わせていたが、しばらくすると震えも収まった。

室賀の手際のよさを見て、おー。という顔になるシン。見事なものである。

「デッキに出ませんか。うみねこ、かわいいですよ。」

室賀が奈津子を誘うが、もう少し考えたい事があるのだろう。断る奈津子。

何かあったら、船員にでも声を掛けてくださいねと部屋を出ようとする室賀に奈津子は小さく頷いた。

もうこの子は大丈夫だろう。

そんな室賀の視線を受けてシンも室賀に続いて船室を出て行った。

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デッキの上では羽織袴を着た男二人がうみねこを眺めている。

遠くに見える緑を見て、そろそろ陸地も近いですねと室賀の声にシンが答えたのは。

「すごいね。」

心の底から感心したような、呟きだった。

「え、風でよく聞こえませんでした。」

船はそれなりの速度が出ている。当然風の音も大きいのだろう。そう言う事にしておこう。

そんな室賀にシンはずっと心にあった疑問を投げかける。

「いや、なんというか、なんで泣くのかと」

風になびく裾を見ながら羽織袴は風の強い場所で着るもんじゃないですねと言っていた室賀がああと頷き答える。

「私にも姉がいまして。ナイーブな性格でしたから、よく、ああなってたんです」

そうか、と頷くシン。

「お見合いって、もっと気軽なものだと思っていました。」

シンの言葉に室賀が笑って答える。

「あはは、そうですね。わたしもそう、思ってました。」

でも、と言葉を続ける室賀。

「人によってそのテンポが違ったように、感じ方も、ひとそれぞれ違うのかもしれません。」

仮面の置くの瞳を閉じ、考えに沈むシン。

人を好きになるって何だろう?

シンと同じように袖に手を入れた室賀がああ、嫁さんほしいなあと呟いている。そろそろいい歳の漢、室賀兼一。探せばすぐに見つかりそうな気がするのは気のせいだろうか?

「そうですね。正直、分かりませんけど。」

それが、先ほどの室賀の言葉に対するシンの答えだった。

「まあ、わかりすぎたら逆に怖いというか、面白くないかも、ですね。 こういっちゃ女性の方に失礼ですけど。」

と室賀が笑いながら答える。

あの子もああなんだろうか?

知り合いの女性を思い浮かべるシンに室賀の言葉が届く。

「まあ、あせらず様子を眺めて、できれば一緒にいてやれば、いいんじゃないでしょうかねえ。」

近づいてくる陸地に目をやる室賀にシンが礼を言って手を差し出した。

「ありがとう。貴重な意見でした。」

握り返す室賀。

「僕も、色々修行がたりてないようです」

手を握りながら少し照れたように笑うシンに室賀はシンさんはと言いかけてやめた。

にっこりと笑いかける室賀。

そろそろ下船の準備の時間である。

準備をする為に立ち去る室賀の背中から空へと視線を移したシンは何かを想った。

それは………。

~Fin~



作品への一言コメント

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  • 流石!頼んでよかったです! 力作をありがとうございました! -- 室賀兼一 (2007-10-18 01:50:18)
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最終更新:2007年10月18日 01:50