NO.68 SOUさんからの依頼


 美春は兎を見送って潮風に吹かれながら海岸を歩いていた。
 風に吹かれる美晴は実年齢よりも子供のような表情だった。どこかずっと純粋な、それでいて大人の話もわかるような。そんな雰囲気だった。
「ペンギンさん、子供の心守れたといいなぁ」
 その瞳はどこかの子供のように輝いていた。
 兎が見えなくなる。代わりに、遠くにはペンギンが見えた。
「あれ?ペンギンさん?おーい!」
 美春はペンギンのところへ走って近づいた。
 ペンギンは襟を立てて、海を見ている。
 持っていた花束を海に投げ入れ、背を向けて歩き始めた。
 美春は心配そうに顔を覗き込んだ。
「あの……なんか悲しそうな顔してましたけど大丈夫ですか?」
「昔の話だ」
 今日のペンギンも良い渋さをかもしだしていた。
「そう……ならいいんですけど。でもきっといい事がありますよ。いつかきっと。今日、私がうさぎさんと話せたみたいに」
「そうか」
 美春はペンギンにあの話はきっとNGだと思った。
 ペンギンは、無愛想だ。
「子供の心を守ったペンギンさんの話を聞いたんです。かっこよかった」
 美春の顔は恍惚とした表情になっていた。どこか幸せそう。そんな表情に普通の人なら魅入られてしまっただろう。
しかしペンギンはそっけない反応をした。
「そいつはよかったな」
 ペンギンはスバル360に乗り帽子を被りなおした。
 美春への興味は最初から無いようだった。
「あ、そのペンギンさんにあったら伝えてください」
「どんな?」
「きっとあなたなら大丈夫ですって。諦めなければきっと大丈夫」
 美春は満面の笑みで言った。その姿はどこか清々しさを感じさせた。
「伝えておく」
 ペンギンは車のエンジンをかけた。
 そこで美春ははっと何かを気付いたかのようにびくんと体を震わせた。
「あ、ペンギンさん。兎さんのすんでる場所って、知ってますか?」
「奴は巣穴を掘らない。奴の住むところは奴の足がつくところだ」
「旅人なんですね。ありがとう」
 美春は笑って手を振った。
 美春の魅力はその笑顔だった。万人に向けられる笑顔は全てのものを魅了させる。そういった魅力が美春にはあった。
 これは天が与えた唯一の物だった。そしてそれはどこかの巫女のようでもあった。
「……俺は旅にでるところだ。だが、その最初に少しくらいは寄り道をしてもいい」
「あ、乗せてくれるんですか!」
 美春は目を輝かせた。
「兎に別れを言うまでだ」
「はい。わかりました」
 美春は笑顔だ。
 ペンギンはドアを開けた。
「急げ」
 美春はちょこんと座席に腰掛けてドアを閉めた。
 少し緊張気味の表情でペンギンに声をかける。
「準備OKです」
 行儀よく座ってシートベルトを締める。
 ペンギンは車を走らせ始めた。
「巫女は久しぶりに見る」
「……巫女?」
 きょろきょろあたりを見回す。
「どの色で目覚めるかは知らんが、幸せになれるといいな」
 美春は自分に向かっていっているのを見てよくわからなかったがはい!と元気に答えた。
「今度の黄金戦争は、あまりにオーマが覚醒しなさ過ぎる。それがいいことか悪いことかもわからん」
「よくわからないですけど、そんなに悪いことではないと思いますよ。みんな一生懸命やって、それでその結果なら」
「……そうかもしれんな」
 ペンギンはこの世界でないどこか遠くを眺めているようだった。
 美春はその横顔を見つめたがその顔からは感情を読み取る事が出来なかった。
 頭の中にかすかに疑問符が浮かぶ。ペンギンが何を思っているのかわからなかったが、とりあえず美春は微笑み周りを見渡した。
「さて、待ち合わせはこのあたりだが」
「ええ。うさぎさん、いませんね。そういえばペンギンさんはどちらに旅に行かれるのですか?」
「地の母の迷宮へ」
「迷宮……って!あの迷宮のこと!!」
 美春は、さも自分の身内に不幸が訪れたかのように驚いた。
「ああ。気づいているやつらもいる」
「駄目!危険ですよ!なんでそんなところに……」
 必死の表情の美春。体全体から拒絶の空気がにじみ出ている。
 目の表面には薄く涙の膜が張っていた。
「殺しあうためだ。世界は崩壊を望んでいる」
「ペンギンさん、誰かと殺しあうんですか?」
 美春はしかめっ面をした。
「恐らくは自分とな」
「私は世界が終わっちゃうのは絶対いや。どんな理屈があっても。殺し合いも嫌い」
 美春はさらに怒ったような顔になった。
「世界は滅びによって完成するという説もある」
「……昔、こんな話を聞いたことがあります。よき神々は自分達が滅びても彼女の愛した世界が残ることを誇りとしてそれがすばらしいことだと思って戦いを始めたって。
もしいい神様がいるなら世界が滅びないように戦いを始める。そういったお話の方が私は好き。」
「そうだな。だが実際はどうだ。戦いは激しくなるばかり、世界を変え、時代を変え、未来永劫、戦い続ける……」
「戦い続けることが不幸せですか?その『世界を愛した彼女』さんはそれでも戦い続けるんじゃないですか?」
 怒った顔を続けながらなおも問いかける。
「人族も、もはや疲れるものが多く居る。アイドレスは、賭けだったはずだ」
「でもまだ負けてない」
 美春の心には夜明けが訪れていた。どんなに暗い中にもいつかは出てくる明るいそれは、煌々と心を照らしていた。
「賭けには負けたがな」
「まだゲームオーバーは宣言されていない。諦めるのはいつでもできます。死んだ後にでも。
もしどうしても迷宮にいくというのなら、私も行きます。私は……諦めてませんから」
「……どうやるつもりだ。戦いを終わらせる方法でも、知っているつもりか?」
「知らないわ、そんなもの。でも何もしないよりはましでしょう?」
 何も知らないのに、ただ抵抗しようとする者がここに一人いた。そして歴戦の英雄のように決然とした表情を浮かべていた。
「ついたぞ」
 足元を旅する兎が信号前でとまっている。
「……送ってくれてありがとう。兎さんはこのことを知っているの?」
 車から降りながら、美春は声をかけた。
「さあな」
 兎は美春を見た。
 美春は泣きそうでいながらも、怒ったような顔のままストライダー兎を見かえす。
 そして車のドアを閉めると、ペンギンさん、死んだら駄目だよ。と言葉をかけた。
 更に小声で声をかける。
「王女様、悲しむよ」
 ペンギンは何も答えない。
「良く逢うな」
 ストライダー兎は軽く声をかけた。
「そうですね。ペンギンさん、迷宮にいくんだって……」
「そうだな。俺もだ」
「うさぎさんも殺し合いに行くの!」
 美春は驚いて泣きそうになった。
「時間を稼ぐ。まだ、なにか方法があるはずだ」
「うん。じゃあ私ももう一度あそこに行く。私も諦められないから」
 目の端に涙を浮かべた美春は決意を新たにし、涙を拭いた。
「そうだな」
 兎は少し面白そうに言った。
「ではいくか」
 美春は大きく頷きながらうん!と元気に返事をした。
「ペンギンの」
 遠くで停車中のペンギンは凄い嫌な顔をしている
 車が近づいてきた。
「この車は二人乗りだ。女はのせない」
「じゃあ私は荷物扱いでいいわ」
 美春は笑った。
「急げ」
「はい!」
 掛け声と共に車に乗り込む。
 兎は後ろの席によいしょと座った。
 車が走り始めた。
 ペンギンのハンドルさばきはどこか安心できた。長年の経験がそうさせるのか最適なコースを車は描いていた。
「頑張りましょうね」
 誰もが魅了される笑顔を美春は浮かべた。
 ペンギンは煮干をくわえている。
 ストライダー兎は憮然とした表情のままだ。
 これから一人と2匹の旅がはじまる。



作者コメント
期日より遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
完成したSSをあげさせてもらいます。

誤字脱字、要望などがありましたらmixiにて検索してメッセージを送ってください。
もしくはメッセンジャーで連絡してください。

それでは、ご利用ありがとうございました。
また、次の機会もよろしくお願いします。

作品への一言コメント

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  • 風理礼衣さんありがとうございます!ウサギもいいですが、ペンギン良いですよね、ペンギン!今回のゲームで一番好きな場面だったのでありがとうございます。(ぺこり -- SOU@ビギナーズ王国 (2007-10-18 01:31:56)
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最終更新:2007年10月18日 01:31