那限・ソーマ=キユウ・逢真@FEGさんからのご依頼品
小人は歌って仕事する
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別に彼らは乱獲を恐れて隠れていた訳ではない。
ただ、たまたま彼らが好み住んでいたのが地下であっただけであり、夜に行動する方が彼らにとって都合がよかったからたまたま昼夜が逆転した生活を送っていただけである。そして、本来地上に住んでいたのが国の発展と共に少々居辛くなったから住みやすい場所に移動した、それだけの事だった。
それが結果として彼らの存在を公にしなかった訳だから、何がどう物事に左右するか分からないものである。
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夜の帳が降りた頃。金物街は店仕舞いしたものの、工房はまだ明りが灯っていた。
その明りの下、金物屋の職人達は黙々と自身の作業に没頭していた。まあ、彼らは黙っていたが金物を鍛える音、火をくべる音でだいぶ賑やかではあったが。
ハイホー、ハイホー………
そんなまだまだ忙しい工房に、闇にまぎれて彼らがやって来た。歌を歌い、綺麗な燐光を辺りに少々散らしながら。
小さい、人。まさしく小人と呼ぶにふさわしいその集団は歌いながら、ぱっと散り散りに分かれて職人達の手伝いに加わった。職人達はその様子をちらりと目に入れてから、すぐ自身の作業に戻った。金物細工はちょっと目を離す事も命取りだからだ。
ハイホー、ハイホー
小人達は歌いながらもめいめい職人達の手伝いにいそしんだ。彼らの陽気な歌声が、金物を叩く音、火の燃える音と重なり1つのハーモニーを奏でているように感じられた。
歌いながら、小人の1人が黙々と働く職人達の様子をそっと盗み見た。
その小人は小人の集団の長であり、職人達の子供だった姿も見ている存在だった。鉄の打ち方、曲げ方など職人の業を人の職人に教えたのも彼だった。
汗水垂らしながら作業に没頭する、少々愛想のない顔付の者達の瞳をきらきらさせた幼い姿が小人の頭をよぎって消えた。
あの幼い子達がこんなに大きくなって。自分達が教えた技術をしっかりモノにして何かを作っている。
それが小人の長には、ひどく誇らしい事に思えた。
別に自分達の存在を大々的にアピールしたい訳ではない。自分達と似て違う種族がちょっとばかり特殊な力を持っていた為に人に捕まえられた事も知っているから。
ただ。
自分や、自分の父、祖父。曾祖父。代々受け継がれてきたよきものが後世に残るという事が重要なのである。
妖精とて、人より少々長生きなだけで別に永遠の命をもっている訳ではない。物とて、特殊な魔法が掛けられていない限り全く同じ状態を保ってはいられない。
要は。誰かに物を教え、教えた者が別の誰かに教えている限り。消えないものもあるのだ。
この国も、大きくなるのと同時に様々な問題も発生したが。誰かに何かを伝える事がずっと続けられればいい。
そう、しみじみ考えてから長も自身の作業に戻った。
金物を鍛える音と、金物を鍛える為の火が燃える音。そして職人達を手伝う小人達の楽しげな歌声は工房の明かりが灯っている間ずっと響いていた。
そこに、1人の青年と妖精が訪れるのはしばらくしてからである。
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最終更新:2010年12月20日 13:06