No.60 花陵・サク・蝶子さんからの依頼



蝶子とサクと花陵とヤガミの小笠原(ついでに白蛇)

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“みんながんばろう”
“はい。緊張。”
“はい”

ぶるぶる震えながら声を出す蝶子に応える花陵とサク。

~03802007 21:00の会話~

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 まぁ、世の中には幸せな人間が居る。数多の妖精に心配され続ける男ヤガミである。本人にそう言ったら、たぶん顔を顰めて違うと言うだろうが。

 お見合いから3週間ほどたってヤガミは小笠原に呼び出された。あの時の参加者のうちの三人が会いたいと連絡があったのだ。海岸のホテルのロビーで立派な椅子に腰をかけて三人を待ちながら、あの時の事を思い出すヤガミ。あの時は本当に信用されてないと思い随分と腹を立てたものだ。我ながら子供っぽかっなと苦笑い。

 「こんにちは、ヤガミ。」

 どうやら、小笠原に呼び出した当人達が到着したようだ。声をかけてきた蝶子に返事をしてそちらに視線を向けると、蝶子の後ろから花陵とサクがやってくるのが見える。大好きな人達に会えるのだ。

「えーと...今、いいかな?」
「ひ、久しぶりデス・・・」

おずおずと近づいてくるサクを見て少しだけ微笑むヤガミ。どうやら時間が空いたのは正解のようだ。あの時の怒りはもう、ない。

「この間は、ごめんなさい。乱暴を働きました。」

お見合いの席でヤガミに蹴りをくれた花陵が謝る。いやまぁ、気持ちはわかるがお見合いの席で蹴りは無いだろう。

「こ、この間は。すいませんでした。」
「この間のこと、あやまりにきました・・・ごめんなさい」

蝶子とサクも頭を下げる。

「勝手に不安になって、や、やきもち妬いたりして。」

矢継ぎ早に言葉を続ける蝶子を落ち着けるように頷くヤガミ。

「気にするな、とは言わないが、俺について謝る必要はどこにもない。」

やきもちを妬かれたのが嬉しいのは秘密だ。

「あなたが必要ない、と言っても。私はあなたが傷つくのは嫌だし。私が傷つけてしまったなら、謝りたいと。思います。」

上目遣いで気持ちを伝える蝶子に分かったと微笑むヤガミ。

「そういうことなら、問題ない」

蝶子に続いて花陵が手に持ったお弁当箱を差し出す。

「えーと。これを。お詫びです。作りました。」
「あ、あの、実は、私も。」

と蝶子も其れを見て、手に持った物を見せる。小さな弁当箱だ。

「(・・・問題ないって??」

ヤガミの言葉に首を傾げていたサク。それをよそに蝶子はヤガミを食事に誘う。

「もしよければ、お昼、一緒にいかがですか?この間のお詫びといっては、変なんですけど・・・。」

分かったと頷くヤガミ。表情や雰囲気から怒りは見えない。

そんなヤガミを見て耳まで赤くしてえへへと笑う蝶子。大抵の男はこの顔を見て幸せそうに笑うだろう。で、相手を見て、またヤガミかよ、と言うに違いない。

「みんな、ヤガミのために作ってきたんだよ。私もがんばってみた!」

と、弁当箱にしては小さい容器を見せるサク。聞いてみると中身はオレンジゼリーらしい。

「ありがとう。」

嬉しそうに笑うヤガミ。この人物も根は素直なのだがなぁ。

「わびてもらうのも変だが、普通にプレゼントだと思うことにする。」

良かったと笑う花陵。本当に嬉しそうだ。

何処で食べる?と嬉しそうに笑いながらサクが聞く。

「どこでも.......」

と言いかけて、辺りを見回し少し笑うヤガミ。視線の先には困ったような顔のホテルマン。

「流石に、ホテルのロビーで食べるのは悪いな。」

安堵するホテルマン。

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神社へと続く階段を登るヤガミ。

その後に続く蝶子が聞く。

「ヤガミ、体の調子、大丈夫ですか?疲れてないですか?暑いの大丈夫ですか?」

過保護もいいところだと普通なら言われるだろう。が、生憎ヤガミ妖精に関しては普通などと言う言葉は何の価値も無い。いや、悪い意味ではなく、皆それぞれ個性的で素敵だと思うと言う事だ。それに、絢爛舞踏祭を遊んでいれば、心配もするだろう。なにせ、毎日倒れる男だからなぁ。

「問題ない。俺を誰だと思っている。」

胸を張って応えるヤガミに、三人同時に返答が返ってくる。

花陵「お。強気だ。」サク「ヤガミはヤガミだと思ってるー」蝶子「誰って、ヤガミですよ。問題ないなら、いいんです。」

何か言いたげなヤガミ。首を左右に振った後、ぼそぼそと何か言った。飛行長をやればどうとか。

不機嫌そうに歩き出すヤガミ。フォローを入れる花陵。

「は、はは。そうだねー。飛行長は激務だもん。」

まぁ、そうだろう。普通は倒れる。

「心配して何が悪いんですか。もー。」

続く蝶子が優しい顔でそう呟いた。なんにせよ、心配されると言う事はいいことだ。

気持ちの良い風が吹き抜ける。

ヤガミの提案により、境内の日陰にレジャーシートをしいて、さっそくお昼ごはんである。

はずなのだが、ヤガミが地面を見つめて微笑んでいる。

サクが一緒に何見てるのと覗き込む。

どうやらあちこちに開いた小さな穴を見ているらしい。

セミの声が喧しい。

辺りを見回しながら蝶子が呟く。

「セミの声、すごいですね。夏って感じです。」

鳴いているのがヒグラシだったら色々怖いものがありそうではある。

ヤガミが覗いている穴を見て、花陵は気付いたようだ。

「あ。蝉が地面から出てきた所ね。」

頷いて応えるヤガミ。

「花陵の言う通りだな。」

辺りを見回しながら、感心したようにサクが頷く。

「へぇー蝉が出てきたとこかぁ。気にしてみたこと無かった。」

苦笑しながらヤガミが言う。

「まぁ、蝉の方も見て欲しくはないだろう。」

空を仰げば、燦々と降り注ぐ夏の太陽が眩しい。

ヤガミと彼女達の夏は、始まったばかりだ。

―了―

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 ここまで読んでくれた貴女に感謝を、ここまでは心暖まるヤガミと女性達との交流だ。

これで終わってしまっては、依頼主たる女性の依頼は果たせない。


本番はこれからだ。

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 それは、花陵の一言から始まった惨劇である。

「お財布に入れたりしたよね。抜け殻はー。」

おいまて、財布に入れるのは蛇の抜け殻だろう。

一瞬止まる時間。そりゃそうだ。ヤガミはこめかみを押さえて頭を振る。

「・・・それは蛇の抜け殻じゃないの?蝉のもお財布に入るの??」

へぇーと言った顔でサクが感心したように聞くが、次のヤガミの一言でえーと言う顔に変わる。

「そりゃ蛇だ。」

心根の優しい蝶子は黙っているが、本音を声にするとこんな感じだろう。

「お財布に入れるのは蛇の抜け殻では。」

もう、総突っ込みである。

花陵はえへへと笑った後、こう言った。

「うん。蛇の抜け殻は、見たことないもん。代わりだよ。」

代わりになるのか?いやまぁ、本人が其れを信じるのなら、そうなるのだろう。

でも、潰れてしまうような気もする。と思ったサクに笑顔で花陵が応える。

「子供が持つ、がま口は、無駄に大きいのよ。」

だそうだが、皆騙されてはいけない。硬貨を入れればやっぱり潰れると思う。


そんな三人を見たヤガミ。蛇の抜け殻ならといって何を思ったか茂みに入っていく。たまにはいいところを見せようと思ったのだろう。ほんのサービスのつもりなのだ。本人に悪気は決してない。



無いはずである。


「あったぞ。」とヤガミの声。

ナイスな三人の反応は以下。

「Σ」蝶子

「おおー。そんなに簡単に見つかるの!」

「っで、なんでそんなすぐに!」

茂みの中から、どれくらい欲しい?と声をかけるヤガミ。


ヤガミはトテモいい笑顔で蝶子に近づいた。ごめん、悪気は無いかもしれないが、茶目っ気たっぷりだったかもしれない。好きな女の子に悪戯したいとは、まるで小学生みたいだなヤガミ。

「や。では、一つください、な。」

嬉しそうに手を出す花陵に抜け殻を渡した。

びびる蝶子。

残念。本当の恐怖はこれからスタート。

ヤガミの腕に巻きついた蛇がチロチロと舌を出している。おいこら。

「ほら」とすげー嬉しそうなヤガミ。

予想通り固まる蝶子&サク。

へー、と覗き込む花陵。こっちは予想外。

「マムシじゃないから安心していい。」とずれた事をいうヤガミ。いや、そうじゃないだろ。

ぶるぶる震える蝶子。へびこわいよへびこわいよへびこわいよへびと見事に思考が一色に染まった。

一方サクは蛇をじーーーーーと凝視。目が合った。

ヤガミの言葉を聴いてどくがないならあんしんですねと死んだ魚のような目で応える蝶子。大丈夫かなこの子。

「小笠原には、蛇は居ないんだがな。」と言いながら、蛇の巻きついた手を蝶子に近づけるヤガミ。嬉しそうに蛇が蝶子に巻き付こうとしている。

わーと覗き込んでいた花陵は「私、平気。平気。」と言った後に。

「蛇じゃないの?」

サクもびびりながら聞いている。

「いや、蛇だな。珍しい。シロヘビだ。」

応えるヤガミ。

カパッと口をあけて舌を見せて愛嬌を振りまく蛇。いや、可愛いのだがわかってくれる女性は少ない気がする。

「し、しろへびは。かみさまなんです。だからにげたりしたら、しつれい。」

カタカタ震えながら棒読みのセリフを口から流す蝶子。そろそろ可哀想になってきた。

「蝶子さん、縁起がいいよ!!よかったね。」

あぁ、花陵さん。貴女は素晴らしいと思います。

蛇はくるくると蝶子に巻きついてサーヴィス。おぉ、実にサーヴィス精神旺盛なシロヘビだ。ヨカッタネ蝶子サン。

「シロヘビは、ご飯食べるかなぁ?」とヤガミの昼飯をシロヘビに近づけるサク。

カプッ

噛まれた。

ぎゃーと実に女の子らしい悲鳴を上げるサクと蝶子。

驚いた蛇は逃げていってしまった。

笑うヤガミ。酷い奴だ。

「噛まれたー。嫌われてしまったよ…」

がっかりサク、しっぽしおしおである。

あわてた蝶子がちょっと青くなりながら確認する。

「さ、サクさん!痛くないですか?!」

よく見ると穴が開いている。

「多分、大丈夫・・・」と手を押さえるサク。

「別に変化は、ない?」心配げな花陵が、サクの顔を確認する。

毒が無くいはずですが、冷やしましょうと蝶子がクーラーボックスの保冷剤を取り出すが。


パク

ヤガミがサクの手をとって、口に咥えた。

硬直するサク。みるみる赤くなっていく。

あ、吸われた。

「わーいv」と喜ぶ花陵。

「や、ヤガミ、毒無いって言ってたじゃん・・・!!」焦るサク。

「ひゃまかかし」咥えたまま喋るヤガミ。いや、吸うか喋るかどっちかにしようよ。微妙にやらしい。

其れを見た蝶子が一瞬姿を揺らめかせ消える。

「ヤマカガシである可能性がないわけじゃない」 吸い出した血を吐き出してヤガミが答える。

「ヤマカガ・・・シ??」林檎の様に赤いサク。思考がうまく回らない。

蛇の種類だよと、花陵が付け加える。

「花陵さんは物知りだねー そ、そのやまかがしは どくがあるのですか」 必死で咥えられていた事実を頭から追い出そうとするサク。

「毒が奥歯にある。用心だ。一応の。この島には血清がないから、万が一の時は……」

一瞬目を逸らしてヤガミは言った。

「指でも切るか」


言った直後に、再び姿を表す蝶子。戻ってきた。

「だめ、だめー。指は。」 花陵が慌てて止める。

「冗談だ。」冗談は時と場所を選ぶべきだと思うよヤガミ。

一瞬遠くを見るような目をするヤガミ。そして、何かを秘密にする事にした。

「うもー!ビックリするじゃん!!」

うーと唸りながらサクが抗議?……うん、多分抗議と思われることを言っている。

ヤガミが、血を吐いた。

心配そうに声をかける三人に、大丈夫だと手を振った。

「口の中がサクの血の味がする。なにか、飲みものはないか。」一人一人の血の味が分かるらしいヤガミ。

慌ててクーラーボックスからよく冷えた烏龍茶を渡すサク。

受け取って烏龍茶でうがいをするヤガミ。ちょっと口内炎に沁みる。

うがいをするヤガミを覗き込むサク。この人物の大丈夫と言う言葉は当てにならないのをよく知っているのだろう。

「大丈夫?どうしたの?ヤガミ?」 と花陵も覗き込む。

烏龍茶を吐き出して、なんでもないと応えるヤガミ。

「う・・・ごめんね、ヤガミ」と項垂れるサク。

「気にするな。こんな事でしなれても面白くない。」もう少し言葉を選べばいいのにね。

「サクさん、帰ったらすぐお医者さん行きましょうね。」と蝶子。こういう時はしっかりとしたものである。というか、ヤガミが絡まなければ、物凄くしっかりとした人物な気がする。

「具合悪い時は、隠さないでね。言ってね。」と花陵が続ける。

サクの様子を見ていた蝶子がヤガミの方を見た。あ、ヤガミも蝶子を見た。何か言いたそうな変な顔。

「ヤガミもちゃんと検査してくださいね。ね。」縋り付く蝶子。

「無理だぞ。」そうそう、そうやってたまには素直にちゃんと検査を・・・・え?ナンデスト?

「無理ってなにが!!ヤガミにまで何かあったら・・・。」青ざめるサク。やっぱり何か言いたそうなヤガミ。

「な、何が無理。ひーーー。」

無理な理由を聞こうとした花陵が蝶子を見て変な声を上げる。

蝶子の姿が一瞬ぶれて・・・消えた。

頭をかくヤガミ。

あ、蝶子が戻ってきた。

「無理だぞ。」

改めて無理だと言うヤガミ。

「小笠原には病院がないと、いったろう。」

そう言えばそうだった。

「血清はない。戻るとすれば本国でだ。」

蝶子は一つ頷くと落ち着いた声でえぇ、ですから、かえったら、と言うのだが、残りの二人の慌て方を見て顔を青くした。

「え、不味い感じですか。今すぐ行かないと駄目な感じですか。」

青い顔でヤガミに尋ねる蝶子。まずは深呼吸だ蝶子さん。

「輸送には時間が掛かる。」

だから、だと言葉を続けるヤガミ。

「一応、応急処置だ。まあ、万が一だから、余り気にしないでいい。」

うろたえるサクにヤガミが優しく聞く。

「帰るか?」

「一応、傍にはついててやる。俺も口内炎があるからな。ま、死ぬ時は一人と言う事はないだろう。」

相変わらず、優しく聞こえない優しさのヤガミ。だが、それがこの人らしいのだろう。

「か、帰りましょう。」と蝶子が言う。

「二人とも、死んではダメーー!」怒ったように花陵も同意する。

「死んだらイカンよ!!!」サクもヤガミに向かって叫ぶ。いやまて、貴女もだ。

泣きそうな顔の蝶子。ヤガミの裾をぎゅっと握る。

「ヤガミも、一緒に。早く、少しでも早くお医者さんに行きましょう。」

それを見てヤガミが笑った。嬉しそうな照れたような。そんな笑顔だった。

そして漸く自分も死ぬかもしれない事に気付くサク。中々いい感じである。どういい感じなのかは言わない事にする。

笑顔のヤガミ。

「だから、万が一だ。」


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結局、検査の結果は何ともなかったそうだ。

三人はふと思い出す。

そう言えば、あの時ヤガミは何が言いたかったんだろう?

まぁ、二人とも無事で何よりだ。

そう、思うことにした。

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一方その頃黄色いジャンパーの眼鏡ことヤガミが呟く。

「いや、毒の味がしなかったなんていえないだろ。」

指まで咥えてまるで俺が変態みたいじゃないか。

あぁ、サクの指はや

(唐突に中継が打ち切られる)



作品への一言コメント

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  • 大変遅くなりましたが、SSの受注&制作どうもありがとうございました。3人でキャッキャ&ぎゃー!と頑張った思い出が鮮やかに蘇るようです…(笑)。まさかでさすがの2部構成仕立てで、とても楽しく読ませていただきました。本当にありがとうございました! -- 蝶子 (2007-10-12 17:03:28)
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御依頼主:花陵さん サクさん 蝶子さん
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=500;id=


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最終更新:2007年10月12日 17:03