BALLS:
1. 絢爛世界に存在する自律行動し自己増殖する全長40cm、重量30kgの球形ロボット。

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「ココが船内なんですね」

声紋認証、登録在り

――ソーニャ・モウン艦氏族・デモストレータ――

うわあ、涼しい 空調が効いているのですね と一人呟いた。
通路の幅を確かめるように両手を広げて壁に触れている。

「厳密には違うわね。」

ID認証、アクセスコントロール通過、

「ここは第一船殻。卵の殻よ」

――スイトピー・アキメネス・シンフォリカルプス――

 振り返り、指でおおざっぱに空間をなぞった。
 所作は粛々と、一人だけ音声管制を受けているかのように静やかに。
 唇の動きだけでただいま、と呟いた。

「少し歩くわよ」
「はい」

認証登録無し2件、検索――再検索――再々検索

 スイトピーは狭い通路に窮屈することもなく歩く。
ソーニャとその他たちに向けて。
 自分の城を案内する姫君のように。
  傑作を自慢する博士のように。
   親馬鹿のように。
 それら4名の知類はしばらく歩いてから、辿り着いたドアを開いた。

「大きくなった………」

 そのままな感想を漏らしながらソーニャがドアをくぐった。 
 「大きく」なった天井と周囲を見渡して、最後に視線を下へと落とす。
 床がガラスになっていたことに気づいた様子で。

「ひょっとしてこのガラスの下はBALLS達が通る通路?」

 誰もその疑問には応えなかった。
 けれど、ゆったりと扉を抜けたスイトピーが微かに笑っていた。

「うわぁ、ほら、エミリオさんあれがBALLSです、」

 ソーニャが顔を近づけてガラスをのぞき込んだ。
 迫ってきた金色の瞳孔が瞼で数回隠れながら、BALLSを映す。
 青い髪がガラスにかかっていた。

網膜スキャン――中断――メディカルチェック――異常なし

「挨拶するととっても可愛い仕草を返してくれたりお茶を持ってきてくれたりするんですよ」

 振り向いて笑顔を見せつける。
 ソーニャの呼びかけで、後方にいた少年の顔がしゃがみ込んだ。

「へぇ」

データベースに一致在り、認証、声紋登録、

――エミリオ・スタンベルグ――

世界貴族。少年。あどけない顔でソーニャと同じ格好をしている。
 ガラスいっぱいにエミリオの不思議そうな顔。
その瞳にBALLSとガラスに映り込んだエミリオの不思議そうな顔。
 何かに気づいて、ソーニャが頬を赤らめてスカートの裾を正した。
 長めのスカートにほっとした様子のソーニャ。
取り繕うようにエミリオの横顔を見てから、今度は少し悔しそう――というより惜しそうな表情。
 エミリオはそのすべての表情に気づいていない。ガラスとその先を見ていた。

「一体いくらなんですか」

反転

「友達をお金で売買して?」

 スイトピーが意地悪げにエミリオを尋問。
 小馬鹿にした微笑。
 いつか期待していたやりとり。
 それが言えたことの喜び、友誼。

前転 後転 S字軌道

「幾らなのかしら………?」

 同じタイミングにソーニャが呟いたけど、それは誰の耳にも届かない。
 やばっ、と、舌をちろっと出しスイトピーから顔を背ける。

「え、いえ」

 エミリオ。たじろいでいる。援護を求めるようにソーニャを見ると後ろを向いていて、さらに焦る。
 してやったりのスイトピー。機嫌良さそう。

「そうね。」

 相づちのように頷くスイトピー。

「ロンリータイムズでも、それくらいは分かるわね」

 それから、エミリオとソーニャを交互に見た。
 スイトピー指で空間をなぞって無音の勝ち誇り。

転倒 点灯 赤 赤 オレンジ

「ともあれBALLSは、機械ですけれど人間の友達なんです」

 ソーニャ、ガラスを見つつもエミリオと顔を近づける。
 ほとんど頬がふれあう距離にまで近づいて説明している。

「なるほど」

「ええ、挨拶してあげると良いと思いますよ」

 手を叩いて、エミリオに笑いかける。
 振り向いたエミリオは予想以上に近い位置にソーニャの顔があったので、びっくりして目をぱちくり。

「ソーニャさんは自分が人間じゃないようなことをいいますね」

「あはは、ひょっとしたら私も宇宙人かもしれませんから、確証はないですけれど」

 あはは、と同じ笑い方。
 エミリオは面白い冗談と思ったようだった。
 笑って、その表情でBALLSに挨拶した。

足を振る

 エミリオ、また目をぱちくり。

「ふふ、こんにちは~」

回転 制動 ターン 右旋回...

 ソーニャがわあと喜んだ。
 エミリオもへぇと顔を輝かせた。
 座ってガラスを覗くソーニャとエミリオ。
 ソーニャとてもし合わせそう、ちょっとだけエミリオを見た。
見たのがバレないうちにとソーニャが視線を戻すと、今度はエミリオがソーニャの横顔をちらっと見ていた。

 スイトピー、ちょっと面白くなさそう。
 所在なさげに二人の後ろで指を揺らしていた。

「...しかしこうして床や天井を転がってるのみるとパチンコ玉みたいだな」

 と残りの男も呟いたが。
 それは誰も気づかないフリをした。



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最終更新:2007年10月09日 10:29