電池式チャッカマン(電子ライターorスパークライター)をコッククロフト・ウォルトン回路で製作

 2012年9月6日(木)電池式チャッカマン(電子ライターorスパークライター)を使い捨てカメラ基板とコッククロフト・ウォルトン回路で製作してみました。単3電池1本(1.5V)で4mmのスパークが発生し、ガスコンロの着火に便利なものができました。

 4月に電池式のチャッカマンをスパークユニットで作った。
 でかいのが良くないが、性能は文句なし。しかし、あと2つほどチャッカマンがあって、これも電池式にしたいと思っていた。ところが、スパークユニットなんて普通売ってない。ガスコンロの部品として売っているのかもしれないがそこまでするなら作った方が早いだろ。ネットで調べたら、フラッシュ付の使い捨てカメラ(レンズ付フィルムと言うらしい。)のストロボ発光の電源回路が使えそう。さらにコッククロフト・ウォルトン回路というのを組み合わせれば、スパークで着火できるほどの高電圧を作り出せる。YouTubeなんかにコッククロフト・ウォルトン回路でスタンガンみたいなのを作っているのがたくさんアップされていたので参考になった。逆に僕のこの製作記事もスタンガンを作るのに参考になるでしょうけど、僕はあくまでチャッカマン目的で作りましたです。念のため。感電は嫌いです。

 ストロボ回路付の使い捨てカメラの基板。何でこんなものあるの?あるんです。10年以上前だと思うけど、使い捨てカメラを使いおわったら、バラしてフィルムだけ写真屋さんに持って行った。あのカメラはね、新品状態でフィルムケースからフィルムが全部出ているんです。そして、1枚撮るごとにケースの中の巻き取っていく。だから全部撮り切ったらバラしても大丈夫なんです。そして、基板だけ何かの役に立つんじゃないかと思って残しておいたんだな。10枚ぐらいあった。これが今回日の目を見た。持っていない人も、yahoo!オークションなんかで期限切れのやつとかが結構安く出回っているからインバーター基板なんかを買うより安くできると思います。
ヤフオクで売ってなかったらamazonあたりで新品買うしかないかな。もったいない?トランス手で巻く?送料無料で500円ぐらいなら許せるんじゃないか。

 4種類ぐらい基板がありましたがどれも似たような感じで使われているトランジスタは2SD1960、2SD965、2SD2321でした。あまり高速ではないやつです。みんな同じようなもんでした。1960と965はコンパチ(互換)です。ピンはどれも左からエミッタ、コレクタ、ベース。中学校の頃、「えくぼ」で覚えた典型的なパターン。

 めぼしい基板をじっと見て、トランスのピン接続を確認しました。ピンは6本。片側2本。反対側4本。便宜上ICと同じように上から見て左回りに図のようにピン番号を付け、それぞれが何に繋がっているかをメモ。

 メモったところでトランスをはずした。ちっさいもんです。1cm角ほどのカスみたいなもんです。

 テスターで当たって、トランスの巻き方を推定しました。これは下から見た図です。

 それぞれのピンが何に繋がっているかということと、トランスの巻き方の推定からストロボ基板の高圧発生回路を起こしました。そんな大そうなものではありません。ブロッキング発振回路です。ブロッキング発振回路は出力をトランスでベースに戻してやるというつまり正帰還によって発振させます。ハウリングと同じ原理ですな。簡単確実だけど周波数や波形はどうなるかわからん。これは部品が3個でできます。すなわち①トランス、②トランジスタ、③抵抗。よほど下手なことしない限り発振する。これについては以前にも「ブロッキング発振回路により白色LEDを1.5V(電池1本)で点灯する」
http://www22.atwiki.jp/irukakiss/pages/20.html
で作ったことあります。お手軽です。ストロボ用の発振回路のトランスは1次側と2次側がありまして、2次側のちょこっとだけ巻いて出てくる信号をベースに戻しています。1次側のコイルが何回巻いてあるか分解していないので知りませんが、まあ10回とすれば、2次側全体は200倍近く巻いてあるようですので1500~2000回というところではないでしょうか。それによって高圧が出てきます。

 結局ブロッキング発振回路に必要な部品は実際にはこれだけ。超シンプル。1番ピンに赤色で印した。

 回路を組むと言ってもトランジスタと抵抗をはんだづけするのみ。黄色のクリップは出力、緑のクリップは電池のマイナス、あと1番ピンに電池のプラスをつなぐのみ。

 これだけで見事にネオンランプが激しく点灯。
このネオンランプは100V用。以前「検電ネオンランプ」
http://www22.atwiki.jp/irukakiss/pages/28.html
で紹介したもの。ものすごい明るく点いた。両端の電圧は200Vであった。基板にもネオンランプが付いているがこれはストロボ基板用にで丁度この高圧出力用の200Vだと思う。以前100Vで点くかどうか試して点かなかったので…。近頃はストロボ発光可能電圧に達した時のインジケーターはLEDだろうけど、昔は200Vぐらいで発光するネオンランプだった。そんな時代の基板なので近頃のものとは多少違うだろうがブロッキング発振回路で高圧を発生させるという基本的な原理は同じだろう。1.5Vの乾電池から高圧を作るならこれがいちばん簡単で確実だから。
 手前に電池が見えるが、1本だけ使って1.5Vで点灯している。因みに3Vで点灯したら、トランスの辺から煙が出てきたのでこれはいかんと思ってやめた。しかし、負荷を200V用のネオンランプにしたならいけたかも知れない。ただし、今回はチャッカマンの中に組み込むことを第1に考えていたので3Vという選択肢はなかった。あくまで単3電池1本でやる事が前提だったので電源電圧については深追いしていない。
 しかし、これが点いた時は思わず「おーー!」と感嘆したな。1.5Vでネオンランプが点いたので。しかもこんな簡単でちっちゃい回路でね。ブロッキング発振回路バンザイだ。

 ネオン管は点いても、ガスコンロを着火できるほどのスパークは発生しない。少なくとも2mmのスパークは欲しい。大雑把に言って、1mmあたり1000Vと言われているので2000Vは欲しいところ。それには電圧を10倍以上にしなければならない。そこで登場したのがコッククロフト・ウォルトン回路だ。
 コンデンサ2つとダイオード2つで構成されるユニットを1段とするならば、1段当たりもとの電圧の2倍の電圧になる。図は3段のコッククロフト・ウォルトン回路だ。まあ、多段倍電圧整流みたいな感じか。動作原理は真剣に考えていないが働きは簡単。1段で2倍、2段で4倍、3段で6倍、n段で2n倍の電圧になる。
 それさえわかってりゃいいさ。ネットで調べてみると、1段をコンデンサ1個ダイオード1個と考えて図の場合は6段なんて言っている人が居たけど、それは違うだろ。電圧についてはn段ならn倍になるとかn+1倍になるとか言っている人もあったけどそれも間違いでしょう。n段で2n倍です。奇数倍にはなりません。10倍にしたければ5段にすべし。

 ためしに3段のコッククロフト・ウォルトン回路を作ってみた。各コンデンサとダイオードの耐圧は元の電圧のP-P値でよろしい。その点でもこの回路は再現しやすいね。手持ちの部品で全部いけた。コンデンサは472(4700pF)250Vで、ダイオードはよくわからん不明のものだが多分いけるだろうという感じで使った。整流用と思しきダイオードで耐圧200V以下のというのは無いだろうと信じて使った。秋月電子の通販で耐圧1KVのコンデンサもダイオードも安く売っているので手持ちが無くても入手は簡単だろう。マルツでも売っていると思う。ただ、送料が意外と高い。
因みにヤフオクでもコンデンサ出品している。送料が安いのもあると思う。102(1000PF)以上103未満、例えば3300pFでいいと思う。
ヤフオク!の高耐圧セラミックコンデンサ
ダイオードは下の辺りの整流用1kV耐圧でいいかと。
ヤフオク!の整流用ダイオード
コンデンサの定格電圧と耐圧は違うようだ。手持ちのものは250Vと書いてあったがこれは定格電圧だと思う。その場合、耐圧は1KVぐらいだと思う。十分だ。十分すぎる。写真には撮っていないがスパークは1mmほどだった。つまり、3段で6倍の電圧となり、1200Vに昇圧された模様。

 最低でも2mmほどのスパークは欲しいので2000Vに昇圧したいからコッククロフト・ウォルトン回路は5段(10倍)以上にしたい。チャッカマンに組み込むことを考えて、6段(12倍)ぐらいかなと思ってなるべく高密度にはんだ付けしていった。これは完全なる3次元空中配線。最初に土台となる銅線にコンデンサを6個付け、その足にダイオードをつけていく。さらにダイオードの反対の足にダイオードを付け、そのダイオードの反対の足はコンデンサの次の足に付ける。これの繰り返し。たまらん細かい作業。

 ダイオード同士がついているところにコンデンサを初めに付けたのと上下反対向けにつけて、最後に土台の線を切る。高密度3次元空中配線の要(かなめ)は土台ということです。1箇所に何本も線をはんだ付けしなければならない時、追加してはんだ付けすることによってその部分のはんだが溶けて前にくっついていた線がばらばらになってしまうと一生かかっても出来上がらない。溶けても別のところで固定されていて動かない状態になっていなければならないのだ。そのために土台が必要なのだ。これで何とかチャカマンに収まるだろう。

コッククロフト・ウォルトン回路6段の完成。倍率は12倍で2400Vスパーク長約2.5mm。かなりきつい音。感動する。なんか簡単にできちゃうんだね。1.5Vの電池1本つないだら2400Vでスパークしてるなんてね。信じられない。

チャッカマンを分解する。これは使い捨てでなく充填できるやつ。圧電素子の火花で点くタイプだが何年か使っていると着火ミスばかりするのでイラついてきたのだ。中身は全部取る。出っ張りもペンチでむしり取る。ちょっとした出っ張りは彫刻刀で削る。

 チャッカマンに詰め込む。電池と回路の両方を詰め込むのはやはりぎりぎりだ。電池ボックスは秋月の基板取付型電池クリップ
http://akizukidenshi.com/catalog/g/gP-00222/
をガラスエポキシ基板にはんだ付けする。これは本当に便利。秋月で買い物をする時には必ず10個ぐらい買う。
 高圧の線は前にスパークユニットのジャンクを取り出したガスコンロから取っておいた。外皮がかなり分厚いやつ。

 かなりぶれているが、ホットボンドで固めた。ホットボンドは接着力については数ヶ月もすると全く当てにならないがこういう隙間の充填には便利。ただし、改良不可能になる。これで、完全に組み込めた。使い心地もいい。でもなんかもうちょっとスパークが大きいやつが欲しいな。

 結局もう1台作ることにした。同じようなトランス。トランジスタは965の後継タイプの1960。前と同じだが、このわずか1立方センチぐらいに収まる3点の部品で1.5Vから200Vが作れるんだからおもしろい。

 今度は10段にして20倍の電圧=4000Vにしたい。だからコンデンサは高密度に並べる。例によって土台となる線にとりあえず10本はんだ付けした。

 そいつにダイオードをくっつけていく。

 さらにコンデンサを10個付けて完成。バラックで試すとスパーク長は計算通り4mmだ。相当でかい音だね。

問題は実装。

ここは苦しい。

ホットボンドで固める。

おーーー!ギャップ長4mm。見事にスパークしよる。

しかし、若干収まりきらんのでくくりつけたよ。ちょっとかっこ悪いかな。
今後、電池の寿命などは追ってレポートしたいと思います。


例によって、もたもたした口調の動画の説明。3台の電池式チャッカマンの点火テストです。

2013年3月11日(火)
10段の方の電池を交換した。半年といったところか。もう少し持つと思っていたが、最近火花が飛びにくくなってきたので交換すると、見違えるようにビシバシ飛んだ。
交換した電池はコーナンで8本183円だったかのアルカリ電池で、1本23円ぐらい。安いね。コストとしては、全く問題なし。
ところで6段の方は、だめだ。確か、1~2ヶ月ぐらいで飛びにくくなってきたので100円ショップで図体の大きい使い捨てチャッカマンを買った。実は、10段以上(14段とか)にして、このチャッカマンがなくなったときに組み込んでやろうと思っているのだ。しかし、このチャッカマン、でかいだけあって、なかなか無くならないな。
また無くなったらレポートします。
僕が一生懸命作っているこの装置はアセチレンガスとかの点火用のライター
http://www.monotaro.com/g/00132985/
みたいなやつがあるらしいが、そういう用途にも使えるんじゃないかと思いますがどうでしょう。
どなたか、試された方がいらっしゃったら教えてください。

2013年5月16日(木)
6段の方はスパークが短いせいで点火ミスが多く、使い勝手が悪かったので12段に改良した。ホットボンドはドライヤーを当てたら何とか溶けた。ただし、電池は外に出さざるを得なかった。
外に出してビニールテープで巻いてある。見た目は悪いが、電池交換の工具が不要なので実用上その方がいいと思う。さすがに12段となると申しぶんなく一瞬にしてノーミスで着火できる。電池寿命は1日20回ぐらいの使用で半年から1年といったところだ。

2014年1月30日(木)
最初の頃、珍しいもんだからうれしがってパチパチやりすぎたので電池は半年くらいしか持たなかったが昨年の5月に替えた電池は未だに持っている。必要なだけ使えば1年ぐらい持つと思う。
youtubeに動画をUPしているが、
http://www.youtube.com/watch?v=IWPEKVRzhBQ
意味不明のコメントの投稿があった。

コッククロフト・ウォルトン回路は10段だと10倍ですよ。コンデンサの数ではないです。
コンデンサの数分だけ電圧が上がるのはマルクス発生器とか、
インパルスジェネレータと呼ばれる回路です。

言うまでもないが、
コッククロフト・ウォルトン回路は10段だと20倍である。 マルクス発生器とか、インパルスジェネレータと呼ばれる回路 と同じようにコンデンサの個数倍の電圧が得られる。
普通、コンデンサ2つとダイオード2つで構成されるユニットを1段と考える。このユニットは倍電圧整流回路と言われ、真空管時代にトランスレスのテレビやラジオで広く用いられていた。100V(140Vpp)の商用電源から簡単に280Vの直流を得られるからだ。コッククロフト・ウォルトン回路はこの倍電圧整流回路を直列に多段構成した形だ。例えば3段なら
2倍の電圧+2倍の電圧+2倍の電圧=6倍の電圧
となる。つまり、2×段数倍の電圧が得られる。奇数倍の電圧は得られない。1段当たりコンデンサは2個使っているので、コンデンサの個数倍の電圧が得られるとも言える。
10段の場合、コンデンサを20個使っているので、20倍の電圧が得られる。
下のページの説明が比較的わかりやすいと思う。
http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n139814
間違った内容を掲載しているページも散見されるで、注意が必要だ。

マルクス発生器は並列に直流電源で充電したコンデンサをギャップスイッチによって瞬間的に直列に接続し、インパルスを得る装置である。当然のことながらマルクス発生器でもコンデンサの個数倍の電圧が得られる。マルクス発生器の場合は1段当たりコンデンサは1つなので、奇数倍の電圧も得られる。

コッククロフト・ウォルトン回路もマルクス発生器も、簡単にパルス的な直流高電圧を得られる回路であるが、最も大きな違いはコッククロフト・ウォルトン回路の電源は交流であり、マルクス発生器の電源は直流であるということだと思う。どちらの回路も、コンデンサの個数倍の電圧が得られる。不思議なコメントを投稿する人が居るので気になって、

コッククロフト・ウォルトン回路の出力電圧の理論値について、どのくらい異論があるのか気になったので検索してみたが、どういうわけか、段数倍になるとか、段数+1倍になるといった記述をしているページがいくつか上位にヒットする。
同じように感じている人も居た。
http://okwave.jp/qa/q5961880.html

実際製作した回路では、入力電圧が200V(テスターで実測)だが、出力電圧は放電ギャップ長で推測すると、6段でおよそ2.5mm、10段でおよそ4mm、12段でおよそ5mmだった。
火花放電の距離をおよそ1mm/1kVとすれば実際に作ってみた結果は下のように損失等もほとんどなく、段数×2倍という理論値に一致している。

6段  → 2500V(ギャップ長からの推定値)・2400V(理論値)
10段 → 4000V(ギャップ長からの推定値)・4000V(理論値)
12段 → 5000V(ギャップ長からの推定値)・4800V(理論値)

シンプルな回路なので再現性は非常に良い。
間違った記述や誤解を生む記述がWEB上でよく見られるのは不思議でならない。
ほんのちょっとした手間で簡単に作れるから、
実際に作って自分の目で見てみれば、異論の余地など無いことがわかる。

最終更新:2015年02月02日 23:53