2SC1815 1石 MCカートリッジヘッドアンプの製作


図はFCZ#094のマイクのヘッドアンプをもとにしたものだが、MCカートリッジを受けるために入力のブリーダー抵抗220Ωを入れてある。根拠は定かでないが、この抵抗値はここにつながるものの内部抵抗の5~10倍で良いとされている。DENONのDL-103の内部抵抗は40Ω。メーカー推奨のDL-103の負荷抵抗は100Ω以上となっている。少ない方が雑音は少ないだろうけど、まあ、あまり少なくしても針の動きが硬くなりそうだし、高域が落ちるんじゃないかという気がするんで、適当なところで220Ωにした。
この回路の特徴はバイアスのかけ方である。エミッタ-アース間に接続された抵抗によって電流帰還バイアスがかかっていると同時に、B-C間の抵抗による自己バイアスがかかっている。いわば、2重にバイアスをかけているということ。
自己バイアスの抵抗は負帰還抵抗としてはたらく。入力と逆相のコレクタ出力電流の一部を100kΩを通してベースに戻しているからである。さらに注目すべきは、エミッタにパスコンを入れていないところである。これにより、エミッタの電位が信号とともに変化することになるが、それはすなわち相対的にベースやコレクタの電位が逆相で変化することになる。いわば、逆の下駄を履くような形になるのだ。エミッタの電位が上がれば、ベースやコレクタのエミッタに対する電位は下がるし、逆もまた然り。実際に大きく作用するのはベース電位の方で、これがすなわち負帰還となる。そして、その負帰還量は200Ωの可変抵抗でゲインを勘案しながら調整するようにしている。抵抗値が小さいほど負帰還量は少なく、ゲインは大きい。(コレクタの抵抗値)/(エミッタの抵抗値)が自己バイアスの負帰還量を考えない場合のゲインである。回路全体のゲインは自己バイアスの分も含めればその半分ぐらいになるように思う。
MCカートリッジの出力はミリボルト以下であり、ヘッドアンプの出力もその10倍程度のミリボルトオーダーであるから、動作点もくそもそんなものは適当に設定したとしても、よほどのボケでないかぎり普通に増幅できないとおかしい。およそ世の中のアンプと名の付く物の中で、MCカートリッジのヘッドアンプほどアホみたいなものはないだろう。増幅率は10倍程度、出力はミリボルト、入力インピーダンスは小さくていい。出力インピーダンスはそれほど小さくなくていい。本当にどうでもいいようなアンプだけど、なかったら音が小さいから困る。カスみたいなもんだけど無かったら困るトイレットペーパーみたいなちょっとした必需品のアンプだ。ところで、エミッタ抵抗による調整はゲインのこともあるがトランジスタの動作点も一応考慮して調整した方が良い。動作点があまりに端っこというのも不細工なので、動作点はどのあたりが妥当かということも考えておこう。結論を先に言えば、動作点すなわち無信号時のVceは 1.1V強で良いと思う。その根拠。2SC1815のVsat(飽和電圧とも言う。TrがON状態のVce 。つまり、ベースに十分な電流を流してIcが飽和した時のVce 。)は東芝のデータシートによれば、Icが数ミリアンペアのオーダーであれば多く見積もっても0.7Vほどである。(定格一杯の150mAでも1.1Vぐらい。誰だ?2Vなんて言ってたのは。それは、大電流のTrやダーリントンTrの話。)Vceの最低値はTrがONになる時とすれば0.7Vで、Vceの最大値はTrがほぼOFFになる時だとすれば、電源電圧の3V。動作点はその中間Vce=(3-0.7)/2=
1.15V付近にしておけば間違いない。だから、3Vの電源でも2VP-Pの出力程度まで直線性は出せると思う。極端に言えば、電源電圧1.5Vでも0.5VP-P程度まで使えるだろう。ヘッドアンプの出力はmVオーダー。問題の起こりようがない。これで電源電圧が小さいと言う人と話を噛み合わせようとしても不毛だ。オーディオの世界には妙な根拠のない神話を信じている人々がやたらと多い。MCのヘッドアンプの製作記事を見ても、電源に単1電池を10本も使ったり、20Vの電源回路をにしたりと、意味のわからないものがやたらと目に付く。信ずる者こそ救われるオーディオ教の信者としか思えない。信者でなければ20万円以上もするMCヘッドアンプやトランスを買うようなことはできない。
 考えて、作って、実験して、改良してそれでうまくいったなら何が悪い?部品の数も電源電圧も、減らせるものを減らしてしかも音質が良ければ何が悪い?1石単3電池2本総工費100円ぐらいで作って、20万のヘッドアンプやトランスと聞き比べたい。それを持っている人が居たら、ブラインド・リスニングで聞き比べてもらいたい。
 僕は信者であるとすれば、FCZの信者だ。彼のアイデアは物の無い時代の少年か、ロビンソン・クルーソーのように現実的に工夫され、洗練され、頭と手を使って実現されている。理にかなっているし、腑に落ちる。楽しい。お金がそれほどかからない。無駄な手間もかからない。頭は数式を解くために使われるのではなく、あくまでアイデアを出すために使われる。数式はせいぜい小学生レベルの計算。手間は、実験とカット・アンド・トライに使われる。そういうものだと思う。計算する暇があれば実際に作って、いじくって数値を決めていったほうが速い。回路の良否を語るものはあくまで現実の結果。どれほどお金をかけたかということではないし、どれほど難しい数式を解いたかということでもない。FCZの回路定数は理論的な根拠もあるだろうが、それよりも実証的根拠が歴然とあるので、一つひとつの抵抗やコンデンサの数値はそれを実際に作った時に物語を語り始める。なぜここにこの数値のこの部品があるのか、あるいは無いのか。そういうことの根拠を実際に形にしたときゆっくりと語り始めるのである。文章などでこのようにまくしたてることなく。
周波数特性を測定したところ、入力のコンデンサは1μFでは低域の落ち込みが観測された。
 MCヘッドアンプの場合、入力インピーダンスが低く、むしろ出力インピーダンスよりも低いので、コンデンサの値は入力のほうが大きく取らなければいけない。
 この辺が実験して初めてわかる落とし穴であった。マイクアンプの回路をそのまま流用してもだめで100μFにすれば問題なかった。
 0.3mVの入力で5mVの出力を目標にした場合、エミッタ抵抗は47Ωで良かった。利得は15倍である。
 無信号時の基本的数値は
電源電圧=3.0V Ve=0.08V Vc=1.3V Vce=1.2V
であった。動作点は問題ない。さすがFCZ。
 入出力特性は20万円のアンプに匹敵する直線性。
2.2Vまでクリップなし。



入出力、周波数特性測定中。左側にあるのは低周波発振器。

電源のケミコンと入力のケミコンは大げさだけど、470μFに増量。

ケースに収めることにした。単3電池2本で駆動する。後ろにあるトランスは、手巻きMCカートリッジトランスで、手前のロータリースイッチでアンプと切り替えられるようにしている。

2色LEDパイロットランプ周辺。普段は緑色。電池が減ると赤くなる。

ヘッドアンプは両面基板にランドと空中配線で左右のチャンネルを対称に作って立てた。

ロータリースイッチ周りはやはり混み入る。

トランスの固定も半田付け。いい加減。

後ろ側。

前面。


最終更新:2018年05月10日 13:43